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幕間 結節点②

注)ep19 ドルフ村④ におけるココミが「お花を飾る」発言部分に加筆修正しました。MMO組に対する違和感を低減させました。よりシリアスな基調を優先した修正となっています。


10月は不定期投稿となります。

訂正10/16:このエピソードの最後の部分。ルルナが理を歪めて、力を行使したことによる代償を表現追加しました。


 ミアは小さな両手を前に突き出し、練習を重ねてきた、二重円の光の軌跡を空中に表す。薄暗い森の中で、その描かれた基礎制御式は未来への祈りのようにきらきらと輝いていた。


「ええ、上出来です」


 ルルナは小さく頷くと、そっとミアの手を優しく握り、少女の制御式に、さらなる制御式を重ねていく。緻密な幾何学模様が何重にも連なる螺旋の光が、ミアの描いた円に合わさり、一つの複雑で美しい紋様を織りなした。


「では、適性を見てみましょう」


 ルルナの囁きに、ミアは思わず唇をきゅっと結んだ。


(土属性がいい)


 胸の中で、強く、強く願う。私はこの村の長として、皆の未来のために、村の発展に繋がる土の力が欲しい。そうすれば、ココミお姉さまが計画する畑づくりも、タンスイ様が教えてくれた村を守る壁だってもっと高くできるし、もっともっと役に立てるから。


 ミアは目の前の制御式が放つ光と、呼応するようにさざめく泉の水面を見つめて―――胸の奥底から、込み上げてくる本当の願いに気づいた。


(あ・・・そうだったんだ。村のため、皆のためって言ってたけど、本当は・・・私、お父様と同じ土属性がいいんだ)


 だから、お願いします。聖霊様。どうか―――!


 ミアの懸命な祈りを包みように、ルルナは少女の手を両手で優しく握りしめた。


 その瞬間、泉の水面が渦を巻き、水蛇を思わせる水柱が立ち上ってミアの制御式に絡みついた。水蛇は制御式を光の泡に変えて、そのままミアの両手でとぐろを巻く。やがて水蛇もまた光の泡となって消えた後、少女の両手には、一輪の黒い百合の花が握られていた。


「死属性、ですね」


 ルルナの静かな声が、森の静寂に響いた。

 その一言が、ミアの表情を凍りつかせる。


(そんな・・・死属性なんて、望んでない・・・! 私は、私は・・・どうして、土属性じゃないの・・・?)


 唇を固く噛みしめるミアに、ルルナは静かに語りかけた。


「死属性は、呪いや人の精神を操作する力。聖霊魔法の中でも稀有な適性です 。村長としては、得難い能力と言えるでしょう。・・・ですが、そんなことよりも、ミアは皆が喜んでくれる土属性がよかったのですね」


 ルルナはミアの潤む目尻から流れ落ちた涙を、そっと指で拭った。少女の亡き父もまた、土属性の使い手であったことを思い出した。だから、ルルナは言葉を失った少女の小さな体を、優しく抱きしめた。


「そうですね。ミアは、お父様と同じ土属性になりたかったのですね」


 その言葉がミアの感情の堰を切る。それまで、なんとか堪えていた感情が溢れ出してしまった。嗚咽が止まらない。必死に声を殺そうとするが、一度決壊した想いは、少女の小さな体からとめどなく漏れ出した。

 そんな彼女を抱きしめながら、ルルナは世界の理に反する可能性を思考していた。

本来であれば、三応儀式によって適性と同じ属性の加護を与えるのが道理である。だが、土属性の祝福を与えたら・・・? それは土の聖霊としての性が、この健気な少女の努力にほだされたからか。あるいは、天属性に目覚め、二つの属性を持つ者となる可能性に賭けたいと思ったからか。


(・・・複数属性持ちとなるには、天属性の適性が不可欠。この子をいびつな存在にしてしまうかもしれない。死を司る冥府の鬼神は、きっと笑うでしょう)


 それでも、とルルナは思う。


「ミア。土属性を欲しますか?」


 思いがけない言葉に、ミアが顔を上げる。涙に濡れた瞳の奥に、確かな期待の炎が灯るのが見えた。


「ミア、もう一度尋ねます。あなたは、土属性を欲しますか?」

「・・・はいっ」

「そうですか。ならば、祝福を与えましょう。しかし、この力があなたに根付くかどうかは、これからのあなた自身の努力次第です」

「はい! 頑張ります!」


 迷いのない力強い声だった。ルルナはゆっくりと頷く。この行いが未来にどのような結実をもたらすかは分からない。だが、これは土の聖霊である自分が、確かに望んだことなのだと理解した。


「―――幼き魂に大地の息吹を。我が系譜原典を開示し、女神と聖霊の原書契約によりて、祝福と芽吹きを与えん」


 淡い光の粒がミアを包み込む。ルルナは光の中にいるミアをそっと抱き寄せ、その額に唇を寄せた。


「頑張るのですよ、ミア」


 少女の未来が明るいものになるように優しく包み込むように囁いた。


 儀式を終えたルルナの人化した姿が、光の粒子となって掻き消える。ミアの腕の中にぽとんと落ちてきたのは、いつもより遥かに小さく、色も褪せたように見える蒼綿毛だった。


(・・・少し、力を使いすぎました。しばらくは、この姿を保つので精一杯ですね)


 と、ルルナは自らの状態を確認する。だが、ミアには悟られないようにフルフルと祝福するように震えた。


 この日、ルルナはミアに土属性の加護を与えた。

 これにて、ミアは死属性と土属性、二つの属性を持つ者となったのである。



ご一読下さいまして、ありがとうございます。

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