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聖霊の使者と従者②

注意!!

ep1からep51まで(このエピソードの前まで)を『加筆修正』しています。ストーリーラインはそのままですが、キャラクターの心象をより深めました。物語の印象が変わるように修正しています。御一読頂ければと思います。


また、8月は不定期投稿となります。よろしくお願いします。


「俺の記憶は‥‥‥正直、断片的な部分が多いんだが」


 アルドは前置きし、


「俺がいたのは、今からおよそ千年前の世界だ。科学が高度に発達した文明だった。俺自身は‥‥‥まあ、しがないコンビニの店員だったんだがな」


 自嘲気味に付け加える。そして―――、


「そこでは、『天幻』と呼ばれる不可思議な現象が起こっていてな。ある日、俺もその天幻――黒いドラゴンのような存在に巻き込まれて、一度死んだ。そして、この千年後の世界で聖霊ルルナによって蘇らせてもらった、というわけだ」


 出来るだけ簡潔に、しかし核心となる部分だけを簡潔に伝える。医療用AIであったルルナのこと等は、今は伏せておく。


「‥‥‥天幻、ですか」


 ユキナが、その言葉を吟味するように反芻する。そして静かに首を振った。


「聞いたことのない言葉ですわね。私たちの国では、そのような現象は見られませんでした」

「へえ? 天幻ねえ‥‥‥そうか!」


 腕を組んで唸っていたタンスイが、指を鳴らす。


「なるほどな、ファンタジーMMOだと思ってた『ストラクト・フォンズ』だけどよ。運営の奴ら、やっぱりSFネタもぶち込んできたってわけか。つーか、アルドのおっさんの世界って、俺たちの世界と似たような感じだったんだな?」


「ちょっと、弟くん」


 ユキナがすかさずタンスイを制し、アルドに向き直る。


「ええ、タンスイの言う通り、私たちの国でも、アルド様の世界と似たような文明があった、ということです。ですが、『天幻』という現象については初耳ですわ」


 あくまで「運営」や「MMO」という単語を避け、「別の国」の話として体裁を整えようとしている。アルドはその意図を汲み取り、従うことにした。


「なるほど。君たちの国では、千年前の古代文明の知識が、ある程度は残っているのかもしれないな。‥‥‥とすると、俺が元の時代に戻る(戻る気はないが)、あるいは元の国と連絡を取る方法を探る上で、その『天幻』が何かしらの手掛かりになるのかもしれん」


 アルドがそう言うと、それまで真剣に話を聞いていたココミが、はっとしたように顔を上げた。


「天幻‥‥‥! そうか、もしかしたら、その天幻っていうのが、私たちがこの世界に来ちゃった原因なのかも。それを調べれば、元の世界‥‥‥ううん、私達の国と連絡が取れる方法が見つかるかもしれない。ユキナちゃん、やっぱり『天幻』だよ! この言葉、前にどこかで聞いたことがあるような気がするけど」


「いいえ、ココミ。聞いたことがありませんわ」


 ユキナは首を振る。


「アルド様のお話では、天幻とは文明の利器が生物に変容する現象ということまでは分かりました。まるでファンタジーのような‥‥‥あるいはタンスイの言う、大いなる存在(運営)の意志が働いているかのような。確かに『天幻』が鍵となっているようですわね」


(そうか、彼女たちは『天幻』を知らないのか)


 アルドは確信した。MMOの世界から来たという彼らの言葉は、おそらく真実なのだろう。だが、腑に落ちない点があるのも確かだ 。


 アルドは、意を決してさらなる核心に触れる質問を投げかけた 。


「君たちの国にも、暦はあるのだろう? その暦では、何年になっていたんだ?」

「ん? ああ、西暦のことか」


 タンスイがこともなげに答える。


「西暦2057年だぜ」

「‥‥‥は?」


 アルドは思わず間の抜けた声を上げた。聞き間違いか?


「今、西暦何年と‥‥‥?」

「だから、西暦2057年だって。それがどうかしたのか? アルドのおっさん」

「‥‥‥俺が千年前に天幻に飲まれたのも、西暦2057年のはずだ」


 アルドの言葉に、今度はタンスイが得意げに言う。


「まあ、そりゃあ、そうだろうよ! だって、運営が発表した『ストラクト・フォンズ』の大規模アップデートの日付が、その西暦2057年だったんだからな。アルドのおっさんのキャラ設定も、それに合わせてあるに決まってんだろっ――」

「こらっ、タンスイ君!」


 ココミが慌ててタンスイの口を人差し指で塞ぐ。


「キャラ設定とか、運営とかって、そういう言い方はしないって、前にも言ったはずだよ。 それにNPCじゃなくて、現実世界と同じように人として接していくって決めたよね」


 いつもの姉弟喧嘩が始まりそうな気配を横目に、アルドは混乱していた 。


(西暦が同じ? 俺がいた千年前と彼らの時代が? どういうことだ‥‥‥?)


 その時、脳内にルルナの声が響いた。


『マスター。以前、コンビニの後輩の方が話していた「集団神隠し」の件を覚えていらっしゃいますか? 新型ゲームの展示会で起こったという‥‥‥彼らがその当事者である可能性も考えられます』


(ああ、そういえば、そんな話もあったな。忘れていた。だが、彼らは天幻を知らないと言っている。俺が生きていた世界とは違うのか? それとも、同じ世界だとしたら一体何が‥‥‥?)


『最初の疑問は、並列世界という可能性の指摘ですね。ですが、この世界の法則においては、可能性世界は一つの「元型」に従属します。観測者によってその序列が決まるため、完全に独立した別の世界とは考えにくいかと。それよりも、彼らの記憶に何らかの欠落、あるいは改竄がある可能性の方が高いかもしれません』


(記憶の欠落‥‥‥? ってことは、俺の記憶もあやふやな可能性がある?)


『いえ、マスターの記憶に関しては問題ありません。私がマスターの魂と肉体を、千年前の状態に基づいて「復活の制御式」で再構築いたしましたので。欠損や矛盾はないはずです』


(そうか。なら、安心した。‥‥‥それにしても、ルルナは本当に物知りだよな。世界の仕組みまで知っているなんてさ)


 アルドは、なぜルルナが世界の仕組みなんて知っているのか、という疑問もあることにはあったが‥‥‥聞けば答えてくれるだろう。だが聞かない、ルルナが言ってくれるまで待つ。

 ルルナが話したくはないのには理由があるんだろう。そもそも記憶なんて忘れていくものだし、それこそ記憶を疑い始めたらきりがない。


(記憶か。俺が忘れたとしても、ルルナが覚えていてくれる。そうだろう?)


『‥‥‥っ!』ルルナの声が、一瞬詰まったように感じた。『は、はい! もちろんです。マスターは、私を‥‥‥信頼してくださるのですね?』


(当たり前だろう? 心臓病を患っていた頃から、ずっと俺の生命線だったんだ。信頼以外の何があるって言うんだ)


『‥‥‥! 感激です、マスター! 疑われることを覚悟しておりましたのに‥‥‥。はい! これからも、マスターのために全力でサポートさせていただきます!』


 脳内で交わされた短いやり取り。それで、アルドとルルナの間の絆が、また少し深まったような気がした 。


 アルドはココミたちに向き直り、確信を込めて告げる 。


「おそらく『天幻』を探ること。これが、君たちが君たちの国と連絡を取る、あるいは帰るための鍵になる。俺はそう思う」


 アルドの言葉に、タンスイが「よっしゃあ! ついにイベントが進んだぜ!」と拳を突き上げた。「うん、そうだね。 天幻‥‥‥これを解明するのが、私たちの目標だよ!」ココミも力強く頷いている 。

 だが、ユキナだけは、まだ何か考え込んでいるようだった 。


「千年後の世界と私たちがいた国‥‥‥もしかしたら、ここは私たちのいた世界の千年後‥‥‥? 多元世界、あるいは異世界転移? もしくは、もっと別の‥‥‥」

「ユキナちゃん、今考えても分からないことだらけだよ」


 ココミが優しく声をかける。


「でも、『天幻』っていうキーワードが見つかったんだから。これを中心に、これから情報を集めていこうよ」

「‥‥‥ええ。そうですわね、ココミ、あなたの言う通りでしてよ」


 ユキナはようやく顔を上げ、同意した 。


「考えるための材料が足りなすぎますわね。まずは、この『天幻』について、徹底的に調べていきましょう」


 アルドは「うむ」と腕を組む 。


(ココミたちにとっては、元の世界への手がかり。俺にとっては、この世界の謎を解く鍵か。奇妙な縁だが、これで目的は一つになったな)


 脳内では、ルルナが感慨深げに呟いていた。


『マスターは意図せずして、彼らに対して根源的な問いに繋がる道筋を示されました。これで彼らのモチベーションも大きく変わるでしょう。これから始まるそれぞれの任務においても、チームワークはより深まるはずです。さすがですね、マスター』


(いや、だから俺はそんなつもりじゃ‥‥‥まあ、結果オーライか)


 それぞれの想いを胸に、彼らはこれから始まるであろう新たな局面に向けて、静かに準備を開始するのだった。



▢◆ユキナの報告書(一部抜粋)◆▢◇


報告者:ユキナ

報告先:御使徒アルド様

日付:聖帝歴853年5月13日

件名:ドルフ村 都市機能拡充計画


目標: 人口千人規模の自立可能な拠点への発展。

主要区画構成:

 行政区: 村の中央に配置。ミア様が村長として村の運営を担う拠点となる。

 大通り: 行政区から西へ向かって整備。村の主要な動線であり、商業区の中心となる。

 商業区: 大通りを挟む形で展開。交易および経済活動の活性化を図る。

 手工業区: 村の北側に配置。各種工房を集約し、生産性を向上させる。

 資材精製所: 村の南側に配置。木材加工や鉱石精錬など、資材の効率的な加工を行う。

 外部接続:

 西門: 大通りの西端に設置。外部との出入りのための門であり、防備の要となる。

 物資置き場: 西門の近傍に設置。輸出入のための物資が集積される広場となる。

 人口: 避難民の方々の永住を受け入れ、目標人口達成に向けた基盤が構築された。


課題: 人材の育成、資材の安定供給、治安維持。そしてゴブリン襲撃及びその他脅威となるべき存在の把握が喫緊の重要課題である。

備考:天幻についての情報収集。


◇▢◆報告 閉じる◆▢◇


お読み頂きまして、ありがとうございました。

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