聖霊の使者と従者①
平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
7月は不定期投稿となります。
「だからこそ良い。大いに目立ってやろうじゃないか。状況が動くのを待つのではなく、俺たちが局面を動かす側に立つ。攻撃は最大の防御、とも言うだろう?」
アルドは一同、特にブリッツとユキナを見据えて続ける。
「それに、忘れたか? 俺は『聖霊の使徒』、ココミさんたちはその『従者』だ。我々が事を起こせば、世間の注目は必然的に使徒である俺に集まる。俺が矢面に立って、その影で皆が動きやすくなれば良いと考えている」
(聖霊教会には、聖霊の召喚者や使者、従者に関する詳細な文献は少ないというからなあ。なら、俺たちが新しい『物語』を作ればいいんじゃないか? 使者である俺が中心となり、俺を倒せば従者も力を失う。そういう筋書きだ。多少の荒唐無稽さは、聖霊の神秘性で誤魔化せるかもしれないし)
アルドの意図を察したのか、ブリッツが確かめるように尋ねる。
「アルド様は‥‥‥『物語』をお作りになると? た、確かに教会の重要文献は秘匿されておりますが、過去の記録が全く無いわけでは‥‥‥いずれ作り話であると露見する可能性も」
「その文献とやらは、教会の奥深くにあるのだろう?」
アルドの核心を突いた問いに、ブリッツははっと息を呑んだ。(なるほど! 作り話で欺くのは、教会の外にいる者たち! 聖霊と使徒に関する記録は、確かに秘匿性が高い。教皇猊下自らが封印されているとも聞く。これならば‥‥‥あるいは!)
ブリッツの表情の変化を見て、アルドは内心で汗をぬぐう。(よし、ルルナとの勉強が功を奏して、皆との話を円滑に進めることが出来たよ)と、安堵の息をついた。ちらりと横を見ると、アルドの肩に乗っていたルルナの蒼綿毛が、ぷるぷると小刻みに震えていた。
(まあ、俺の本音としては、ただ村のために、皆のために危険を引き受けたい、というだけなんだけどな)
アルドは咳払いをして、話をまとめる。
「――というわけで、方針は決まった。次は具体的なチーム編成だ」
即座に編成案を提示する。
「まず、ドワッフ王国へは俺とココミさんが行く。現地の状況確認と出稼ぎ人の救出が目的だ」
「はいっ! お任せください!」
ココミが元気よく頷く。
「国境都市マジルには、ユキナとタンスイ。それから、土地勘と人脈のあるブリッツ監査官にも同行をお願いしたい。目的は情報収集、そして可能ならば都市機能の一部回復と、希望する避難民の安全確保だ」
「御意」「おう、任せとけ!」
ユキナとタンスイが応じる。ブリッツも「お任せください」と力強く頷いた。
「そして、このドルフ村の守りは、ミア様とロウ、そして村の皆にお願いする。もちろん、ルルナにはここに残ってもらい、ミア様を補佐してもらう」
ミアがこくりと頷き、アルドの肩の蒼綿毛が了解を示すように揺れた。
しかし、ここで異論が上がった。
「待ってくれよ、アルドのおっさん!」
タンスイが声を上げる。
「やっぱりドワッフ王国に姉ちゃんを一人で行かせるのは、さすがに心配だぜ! アルドのおっさんは強いけど、姉ちゃんを守りながらじゃ大変だろ? 俺も一緒に行くぜ」
「だーいじょうぶだよ、タンスイ君」
ココミがタンスイの心配を笑顔で受け流す。
「私はギルドマスターだよ? いざとなったら、ちゃんと『とっておき』があるんだから。ね?」
とっておき? アルドは首を傾げる。ココミが言う「とっておき」が何なのか、アルドには見当もつかない。MMO由来のスキルか何かだろうか? 分からないが、ココミが大丈夫だと言うなら信じよう。
これでよし、とアルドが頷いたところで、ブリッツ監査官が口をはさむ。
「恐れながら、御使徒様。それぞれの隊に商人を同行させてはいかがでしょう。彼らの持つ人脈と情報網が、きっとお役に立つかと存じます」
(そうか、商人であれば人脈の活用も期待できるし、何より道すがらドルフ村やドワッフ王国、そして国境都市マジルの歴史や商人として培った経験なんかの話を、じっくり聞いてみたいな)
「ブリッツ殿、良い意見だ。そうだな、商人にも手伝ってもらおう。父親のトレドはドワッフ王国へ、息子のディルは国境都市マジルに、それぞれ随伴してもらうとしよう」
その言葉を聞いたブリッツとユキナは、一瞬だけ視線を交わし、即座にアルドの意図を計算する。ドワッフ王国において、アルドとココミは完全に無名の存在だ。出稼ぎ人を探し、協力を得るには「信頼」の構築が不可欠。その点、経験豊富で実直なトレドであれば、現地に顔と人脈があり、アルドたちを「聖霊の使徒様とそのお供」として紹介することで、無用な警戒を解くことができる 。
対して、息子ディルを権力の空白地帯と化したマジルへ。ここで必要なのは古い常識ではなく、混乱の中から機会を見出す嗅覚と行動力。若く商魂たくましい野心家であるディルならば、混乱した状況を「新たな商機」と捉え、隠された情報を探る糸口となる可能性が高い。
(な、なんだ、その尊敬の眼差しは!?)互いに満足そうに頷き合い、深い納得と賞賛の視線を送ってくるユキナとブリッツを前にして、アルドは反応に困る。(一体、何に対しての賞賛なのかは分からない。だが、無反応でいるわけにはいかない‥‥‥)とにかく威厳を保って頷き返した。
そんなアルドにブリッツは、深く一礼をする。
「では、アルド様。我々は早速、マジルへ向かう準備を始めます」
「うむ、頼む」
アルドはブリッツを見送る。それを見て、ミアとロウ執事も「私たちも、村の皆さんに指示を出してきます」と席を立った。
執務室に残ったのは、アルド、ココミ、ユキナ、タンスイの四人。そして、ココミの傍にいる蒼綿毛のみ。
アルドは改めて、目の前の三人の若者たちに向き直った。彼らの協力がなければ、現在のドルフ村はない。そして、これからの困難も乗り越えられないだろう。だからこそ、伝えるべきことがある。
「さて‥‥‥皆が席を外したところで、少し、俺自身の話をさせてもらってもいいだろうか?」
突然のアルドの申し出に、三人は少し驚いた顔を見せたが、すぐに真剣な表情で頷いてくれた。彼らとの間に横たわる、MMOプレイヤーと千年前の古代人の壁。それを少しでも取り払い、協力し合える仲間として歩むために――アルドは千年前の自分のこと、この世界に来た経緯、そしてルルナとの関係について腹を割って話す時が来たと感じていた。
(互いのことを知れば、もっと強い繋がりが生まれるはずだ。社会人時代の経験則ではあるが‥‥‥やってみる価値はあるんじゃないか)
アルドは一つ息を吸い込み、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「さて‥‥‥皆には、まず礼を言いたい」
アルドは、やや改まった口調で切り出した。
「『従者』という呈ではあったが、村の復興に尽力してくれたことに本当に感謝している。ココミさんたちにはココミさんたちの目的があったと思う。それでも俺の我儘に付き合ってくれた。改めて礼を言う。本当にありがとう」
アルドが深々と頭を下げると、ココミが慌てたように両手を左右に振った。
「う、ううん! そんな、アルドさんが頭を下げることじゃ‥‥‥! 私の方こそ、村の復興を手伝えて本当に良かったって思ってるんです。自分の力が、誰かの役に立つんだって、初めて実感できたから」
ココミは少し照れたように、しかしはっきりとした口調で言う。その言葉に、タンスイが小さく「‥‥‥姉ちゃん」と呟いたのが、アルドの耳にも届いた。(何か、事情があるのかもしれない)
「だから、お礼を言うのは私の方ですよ、アルドさん。本当にありがとう。おかげで、もっともっと生産について勉強しようって思えましたから!」
ココミの真っ直ぐな瞳に、アルドは穏やかな微笑みで応えた。そして、意を決して自らの過去について話し始める。
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