アルド、使徒としての役割
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
まとめれば、アルドが倒れた本当の理由は力の反動(無水拍のデバフ)である。しかし、その弱点を脅威にすり替えた。その脅威を幼きミアが制御するか・・・。
確かに演説としては完璧だ。俺がユキナに伝えた村の結束を促した。そして偽情報によって、ドルフ村の防御壁をも築き上げた。
アルドは眉間のしわを深くする。ミアを矢面に立たせるのは早すぎるのではないかと。
『それに関しては・・・マスターもお気づきのように、ミア様を村の象徴、精神的な支柱とすることで、むしろ守ろうという意図なのでしょう。ロウ殿もいますし、ユキナ殿自身も最大限の注意を払うはずです。我々も目をかけていけば問題ないかと。村の結束を促す、という点においては、見事な演説でしたよ』
(確かにそうだが、大人の思惑に子どものミアを巻き込むのは・・・な。俺も外に出るとしよう。体が動くようにはなったんだ、多少の手伝いはできるだろう)
アルドは体の調子を再度確認する。手足は問題なく動く。ただ、多少の平衡感覚のズレとめまいがあるくらいだ。まあ、問題はないだろう。
よし、と気合を入れて、アルドは部屋を出て広場の方角へと歩き出した。
広場に着くと、ユキナの演説は終わっていて、村人たちは三々五々散会し始めていた。残っていたのは、ユキナと、彼女に何かを熱心に尋ねているブラッツ監査官。そして、少し離れた場所で不安そうに立つ商人親子。ミアとロウ執事の姿は見えない。(ココミが気を利かせて、別の場所に連れて行ってくれたのかもしれないな。難しい話より、村づくりの手伝いの方が、ミアにとっても気が紛れるだろう)
「アルド様!? もうお加減はよろしいのですか? 無理をなさっては・・・!」
いちはやくアルドに気づいたユキナが、一瞬だけ素の驚きを見せ、慌てて駆け寄ってきた。
「ああ、心配を掛けたな。もう大丈夫だ」
アルドが応えると、ユキナはアルドの顔色を窺うように見つめる。
「・・・聖霊様のお力添えがあったとはいえ、本当に回復がお早いようで、安心いたしましたわ」
いつもの冷静さを取り戻しているが、その声には確かな安堵の色が滲んでいた。(ん? いつもの探るような感じじゃないな。本気で心配してくれていたのか・・・? まあ、策謀家の彼女にもそういう一面があってもいいよな)
「皆のおかげだ」
アルドは簡潔に答え、ブラッツ監査官と商人親子の方へ視線を移した。彼らがくだんの避難民を連れてきた者たちか。年配の商人トレドと、その息子らしき若者ディル。父親は実直そうだが、息子のディルはどこか野心を秘めた目をしている。
アルドが彼らに近づくと、ちょん、とルルナが蒼綿毛としてアルドの頭の上に乗った。その瞬間、ブラッツ監査官が、まるで雷に打たれたかのようにその場に平伏してしまう。
「せ、聖霊様! こ、このように間近でお目にかかれるとはっ! きょ、恐悦至極にございますっ!!」
歳に似合わず、感極まった声だ。
(ルルナ、何か応えてやってくれないか)アルドが念じると、ルルナは心得たとばかりに、ふるふると優雅に蒼綿毛を震わせた。
「お、おおおおっ!! お応えくださった!!」
ブラッツは少年のようにはしゃいでいる。その隣で、商人トレドはただただ小さくなって頭を垂れるばかりだ。だが、息子のディルだけは違った。彼は父の背中をそっと押し、一歩前に出ると、商売人の顔で高らかに名乗りを上げた。
「御使徒アルド様、そして聖霊様! お初にお目にかかります! 私、行商人のカルグ商店が跡取り、ディルと申します! この度の聖霊様のお導き、誠に感謝の念に堪えません! つきましては、今後の情報収集や物資の調達など、いかなるご用命も我がカルグ商店にお任せください!」
「こら、ディル! 御使徒様の前で、なんという商魂を・・・!」
父のトレドが慌てて息子を諌めるが、ディルは意に介さない。アルドはその若者らしい無謀さと商魂に、内心で苦笑した。
アルドはひとまずディルを横に置き、ブラッツに尋ねた。
「貴方が、国境都市マジルからの避難民を率いてこられた、ブラッツ監査官殿で間違いないかな?」
その問いに、ブラッツははっと我に返り、慌てて姿勢を正すと、改めて深々と礼をした。額には冷や汗が滲んでいる。
「は、はいっ! その通りでございます、御使徒アルド様!」
「うむ。まずは、多くの人々を守り、ドルフ村に連れてきたこと、感謝する」
アルドは労いの言葉をかけ、商人親子にも視線を向けた。
「トレド殿、そして、その息子ディル。道中、さぞ大変だったろう」
「は、はいぃ! まさか、このような聖霊様のおられる地に辿り着けるとは・・・」
トレドが震える声で答える。
「それでまずは、なぜこのドルフ村を目指されたのか、聞かせてもらえるだろうか? この村は見ての通り辺境の小さな村だが」
アルドが尋ねると、トレドが恐縮した様子で答えた。
「は、はい。我々のような行商人は、昔からこのドルフ村が特別な『聖霊の地』であることを聞き及んでおりました。ですから、あの恐ろしい出来事が起こった時、人々が聖霊様の御力にすがり、この地を目指したのは、ある意味、自然な流れだったのかもしれませぬ。決して、ご迷惑をおかけしようと来たわけでは・・・」
「いや、迷惑などとは思っていない」
アルドはトレドの言葉を遮るように、穏やかに言った。
「むしろ、よくぞ辿り着かれた。それで・・・国境都市マジルで、一体何があったのだ?」
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