次期村長②
平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
6月は不定期投稿となります。
そう言い残して、ルルナはアルドの返事を待たずに、窓からふわりと飛び立っていった。そんなルルナの後姿を追いながら、
(ルルナが率先してココミさんと連絡を取りに行くと言い出すなんてな。俺が知らない間に、ルルナはココミさんと随分と打ち解けていたのだなあ。まあ、MMO組との信頼関係ができたのは良いことだ。いずれ、もっと深い話もできるかもしれないな)
アルドは机の上に残された報告書類に目を落とす。村の復興計画、避難民の受け入れ‥‥‥やるべきことは山積みだ。だが、気がかりなのはブリッツ監査官の話にあった「アームシュバルツ公爵」の存在。
(この地域が、公爵の直轄領だったなんてな。政治が絡むと、途端に厄介になる。利害、権力、陰謀‥‥‥結局は千年前も今も、変わらないか)
アルドはこめかみを押さえる。まあ、俺一人で悩んでも仕方ない。こういう時は、三人寄れば文殊の知恵、だったか。ココミさん達の意見も聞いてみるいい機会になるかもしれない。
ルルナは村の上空を飛翔する。
ルルナの胸中には、アルドには告げられない危惧があった。それは律龍の思惑。全ての事象がマスターを歴史の表舞台に立たせようとしている。マスターが望むのは、刀修行をしながらの世界の旅のはずだ。表舞台に立ってしまえば、それも叶わなくなる。大きな力を手に入れ、人々の期待を背負えば‥‥‥条件が整ってしまう。それだけは避けなければ。
ルルナは決意を固めた。
早急にリヴィア様と交信を。そのためには、律龍の耳目から逃れ得る場所が要る。そうだ、聖霊の地の泉だ。あの泉の深度をさらに深めれば、蒼泉の力が強まる‥‥‥良い案だ。そのためには、ココミさんの力が要る。
ルルナはココミに接触するため、ひとつの聖霊魔法を練り上げる。
(マスターに真意を悟られるわけにはいかない。だから、私一人で伝えに行くと申し出たのですから)
そして、制御式の稼働と共に、ココミとの通話回路が拓かれる。
『ココミさん、今よろしいでしょうか?』
ルルナは、アルド以外との初めての直接交信を開始したのだった。
◇
アルドは一人、書類に埋もれた部屋にいた。ミアは「少し外に‥‥‥いえ、村の様子を見てきたいと思います」と、ロウ執事と一緒に出かけていった。子供らしく外で遊びたい気持ちと、村長としての責任感の間で揺れているのだろう。無理もない。
アルドは、乱雑に置かれた書類の山から一枚の紙を取り出し、そこに書かれた文字を睨む。それは、村の拡充計画に関するものだった。計画自体は、ミアの提案もあって、ひとまず方向性が定まってはいる。しかし、問題は山積みだった。特にドワッフ国にいる出稼ぎ人の救出は、一刻の猶予も許されない状況にある。彼らの家族は、この村で不安な日々を送っているのだから。
「一体、どのような方法で救出に向かうべきなのか。そして、誰を向かわせるべきなのか」
それに、とアルドは思考を深める。(心苦しいことだが、まだ村の人たちには本当のことを伝えてはいない。「国境付近での亜獣の突発的な発生」ということにしているが、ドワッフ国での『忌の大影』――十中八九、天幻のことだろう――の話を知れば、家族の安否で気が気でなくなり、村が混乱に陥るのは必至だ)
アルドは自身が真実を隠していることに、自嘲気味に吐き捨てた。
「結局、俺も為政者側に立っちまった、ということか」
千年前の、ただ流されるだけだった自分とは違う。だが、この重責は想像以上に過酷な道だと知った。人はみな平等なはずなのに、全体の利益のために個人の価値を測り優先順位をつける。俺のような人間がそれをやるのは、なんとも居心地が悪い。ただ刀を振るっているだけなら、どれだけ気が楽だったか。
だが、――とアルドは顔を上げる。
(この立場を選んだのは、俺自身だ。弱音を吐くつもりはない)
◇
その頃。村の住宅予定区画では、ココミが地面に大きく広げられた羊皮紙に描かれた設計図と格闘していた。ルルナからアルドの決定(永住許可と職能別区画分け)を伝えられ、以前にユキナから受け取っていた詳細な住民リストとにらめっこしながら、頭を悩ませている。
「うーん。職人さんたちの工房と住居は、やっぱりある程度まとめて配置した方が効率いいよね。そうなると、商業区画との連携を考えると‥‥‥あ、でも、こっちに新しい道を通せば、動線は確保できるかな?」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、ココミは地面に直接、生活魔法で新たな設計ラインを引いては消し、また引いていく。その小さな背中からは、MMOギルドマスターとしての責任感と、村づくりへの真剣な想いが伝わってくるようだった。
その傍らでは蒼綿毛のルルナが、ココミの作業を応援するようにして、ふわふわと近づいてが揺れている。
ココミがちょうど区画の一角の配置に唸っていた、その時だった。
『ココミさん。先ほどの件、よろしかったでしょうか?』
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