村発展の雲行き
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難題が持ち上がっていた。
アルドたちは避難民を助けるため、オークとコボルドの指揮官を討ち取り、亜獣たちの軍勢を退けた。興奮冷めやらぬ彼らであったが、しかしドルフ村は新たな厳しい問題のなかに立たされていた。
それは、国境都市マジルや周辺村落から逃れてきた避難民たちの受け入れに係る諸問題である。
そもそもドルフ村の現在の住人は、先の襲撃で数を減らし60名程度しかいない。それに対して、ブリッツ監査官と共に辿り着いた避難民の総数は120名を超えていた。より詳しく言えば、国境都市からの住民が約50名、近隣の村から逃れてきた人々が70名余り。ドルフ村の人口の倍以上もの人々が、一夜にしてこの小さな村に流れ込んできたのだ。
村の中央広場では、タンスイを始めとして動ける村人たちが協力して、戦闘の後片付けや負傷者の手当をしている。そして、今なお避難民たちの誘導を行っていた。そんな喧騒の中で、アルドはココミ、ユキナ、そしてロウ執事と共に、今後の対策を協議していた。
「‥‥‥しかし、こんな短期間に、しかもこれほど急激に人口が増えてしまうとはな。元の村の倍以上の人間を、どうやって受け入れるべきか」
アルドは腕を組み、深刻な表情で呟く。避難民を受け入れること自体に異論はない。見捨てることなどできるはずもない。だが、現実問題として課題は山積みとなっている。単純な人口比だけでも、ドルフ村のこれまでの慣習や秩序は、新たに流入してくる圧倒的な数の異なる価値観によって容易く壊れかねない。軋轢や反発が起こる可能性も十分に考えられた。
「アルドさん‥‥‥。さしあたって、食糧と住居についてなんですが」
ココミがおずおずといった様子で口を開いた。彼女も状況の厳しさは理解しているのだろう。その表情は硬い。
「今の村の備蓄だけでは、とても全員分の食糧を賄いきれません。それに、住居を建てるための資材も圧倒的に不足しています。住居に関しては‥‥‥断腸の思いなんですけど、すぐに全員分の一戸建てを用意するのは難しいですので、ひとまずは皆さんに共同で住んでいただく形になるかと‥‥‥。30人で1棟として、大きな建物を4棟建てれば、なんとか‥‥‥。もちろん、資材は私たちで急いで調達しますから!」
ココミは必死に解決策を提示するが、その声には不安の色が隠せない。彼女の生活魔法ならば不可能ではないのかもしれない。だが、負担が大きいことは明らかだ。アルドは静かに首を横に振った。
「いや、ココミさんたちの負担が大きすぎる。資材調達については、道路などのインフラ整備に限定してほしい。住居などの建物は、ここにいる住民――元の村人も、避難してきた人々も、皆の手で協力して作ってもらいたいんだ」
「え? でも‥‥‥」
戸惑うココミに、アルドは続ける。
「一から十まで君たちに頼ってしまうのは簡単だ。だが、それでは本当の意味での村の復興にはならないと思う。この困難な状況を、皆で力を合わせて乗り越えてこそ、新しいドルフ村としての団結が生まれるはずだ。食糧を確保するための畑作り、家を建てるための資材運びや加工、皆で使う共同施設や、いずれ必要になるであろう行政施設‥‥‥それらを住民自身の手で作っていく。そのための道や基本的なインフラを君たちが整備してくれれば、作業効率も格段に上がるだろう?」
アルドはココミの目を見て、ゆっくりと言葉を続けた。
「それに、君たちには君たちの目的もあるはずだ。村の復興に尽力してくれるのは非常にありがたいが、君たちが『便利屋』になってしまっては、本来の目的を見失いかねない。ここの人々には、君たちが『生活を助けてくれる協力者』であり、同時に『共に困難に立ち向かう仲間』なのだと認識してもらいたいんだ。互いに助け合い、支え合う。それが理想だ。(‥‥‥まあ、それもこれも、ココミさんの村の設計プランがあってこそ、なんだがな)」
いずれは、住民たち自身が新しいアイデアを出し、村を発展させていく。そんな未来をアルドは思い描いていた。それにしても、なんだか妙に頭が痛むな。気のせいだろうか。
「そうですか。分かりました」
ココミは少し考え込んだ後、アルドの意図を理解したように頷いた。
「あ、いえ、不満があるわけではありません! アルドさんの考え、分かるつもりです。そうですね‥‥‥何でもかんでも私たちがやってしまうのは、確かに良くないのかもしれません。頼ってもらえるのは嬉しいですけど」
ココミは、避難民たちの疲弊しきった顔を思い浮かべた。(本当は、私の力で全部やってあげたい。だって、あんなに傷ついて、疲れているんだから。でも、アルドさんの言う通りかもしれない。人は、自分の力で立ち上がってこそ、本当に強くなれる。それに、これから村の中で起こるかもしれない諍いを考えたら‥‥‥うん、私ができるのは、皆が立ち上がるための手助けなんだ)
ココミは自分の中で納得すると、顔を上げた。そんなココミの心情が固まるのを待っていたユキナが静かに口を開く。
「アルド様の意図は分かりましたわ。住居や建物関連はその方針で進めるとしても。問題はやはり、当面の食糧調達ですわね。ココミの『収納袋』にも限界がありますし、狩猟で賄うにしてもこれだけの人数分となると‥‥‥」
「くくく。そんなこと悩むなんて、ないんだぜっ!」
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