村を整備発展していこう①
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
今週の投稿時間は不定期(夕or夜?)になります。
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陽も昇り始め、村に吹き込む風が暖かさをもって頬にあたる。襲撃を受けた村も徐々にではあるが以前の姿に戻ろうとしていた。まだ惨劇から立ち直れずにいる者もいるが、朝食の準備が進められていた。
目の前に並んでいるのは村人たちが日々食べている食事だ。以前までは、カチカチに乾いた黒パンと、塩辛いだけの干し肉、そして薄い豆のスープ。子どもはパンが硬くて食べられないとぐずって大人を困らせている。老人は自分の食事を働き頭の男に譲り、自分は濁った水をすすっていた。そんな粗末な食事が日常だったのだが、今朝の朝食はココミが腕によりをかけて料理を振る舞うという。その食欲をそそる香ばしい匂いが満ち始め、彼らの強張った表情を解かしてしまうのも当然だろう。
アルドも村人たちと共に車座に加わり、配られた木の皿を受け取る。そこには、見たこともないほど分厚い、豪快なサンドイッチが鎮座していたのだった。
「うまっ!?」
こんがり焼かれたパンは手に持つと驚くほど柔らかく、その間には美しい霜降り肉がこれでもかと挟まっている。噛みしめると、上質な肉の旨味と甘い脂が口の中にじゅわっと広がり、添えられた鮮やかな緑のソースが、鼻に抜ける爽やかな香草の香りと薬草独特の風味で後味を引き締める。これは‥‥‥途轍もなく美味い。
「えーと、ですね。パンはたくさん焼いていたので、それとタンスイ君が獲ってきてくれた葉王牛のサーロインを合わせてみました。ソースは、この村で採れた香草と薬草を合わせた特製です。食欲が湧いて、いっぱい食べられるように、ちょっと濃いめです。あっ、それと、脂が重いっていう方は、代わりにローストビーフを作っていますから、遠慮なく言ってくださいね」
ココミが少し早口で説明している。顔を赤らめているのは緊張しているのだろうか。確かに大勢の前で話すのは慣れが必要かもしれないが、そこが可愛いとアルドは自然とそう思った。そして葉王牛。タンスイが仕留めたそれは、この世界でも滅多にお目にかかれない高級食材らしい。調理するのも難しいというが、それをこんな短時間で、これだけの一品に仕上げてしまうなんて――彼女の生活魔法とその腕前は想像以上のものといえた。
アルドが内心で感嘆しているすぐ隣で、タンスイが「うめええ! やっぱ姉ちゃんの飯は最高だぜ!」と叫びながら、すでに二つ目のサンドイッチを野生児のように頬張っていた。 美味しいっていうのは万国共通だからな。それもその通りで、アルドの向かいに座る村の老人や、その隣の獣人の女性も、一口食べるなり目を見開き、「こ、こんな美味いものは‥‥‥」「聖霊様、ありがとうございます!」と言わずにはいられないようだ。子供たちも口の周りをソースで汚しながら、夢中でサンドイッチにかぶりついていた。
皆が笑顔で食事をする光景を、ココミは幸せそうに眺めていた。ふと、彼女は自分の手を見つめる。この世界では自由に動き、美味しいものを作り出せる自分の体に感謝しつつも、その脳裏に元の世界で病床にいるであろう本来の自分と、心配しているであろう両親の顔が浮かび、一瞬だけ表情を曇らせた。 そのココミの僅かな変化に、大口を開けていたタンスイだけが気づく。バツが悪そうに、彼はそっと目をそらした。日に日に悪化していく姉から逃げるように家を出た、過去の罪悪感がちくりと彼の胸を刺したから。無言のやり取りは、誰にも気づかれることなく、朝の喧騒に溶けていった。
(しかし、朝からサーロインは胃に重い気もしたが)
アルドは二口目をゆっくりと味わいながら思う。だが、この美味さでは脂も気にならない。それに香草と薬草のソースで、脂の消化とかも考えているんだろうな。それに、これから始まる村の復興には力がいる。こういう時にしっかり食って力をつけるのは、大事だ。
最後の一口を口にしながら――、
タンスイから村に帰る道すがらに大まかな調査結果は聞いている。それから、ユキナが村の記録から確認できたことも加えて聞いていた。それらを踏まえれば、復興の目的が見えてくる。
このドルフ村がこれから進むべき道は、
「やはり、当面は村の防御面の強化を考えた方がよさそうだな」
アルドがぽつりと呟くと、隣で静かにローストビーフを口に運んでいたユキナが、その動きを止めて顔を上げた。
「そうですわね。タンスイの報告にもありましたが、ゴブリンの動きはまだ油断できません。それに‥‥‥このドルフ村は、ある意味で人を集めるには好都合な場所かもしれませんわ」
「というと?」
アルドの問いに対して、隣に控えていたロウ執事が静かに口を挟む。
「このドルフ村は古くから『聖霊の地』として、周辺の村々の調停役としての役目をはたしております。そして、代々の村の長が周辺村落に紛糾が起こりますと調停者として裁定を下します。またミア様も幼いながらも聖霊の巫女としての役割も担っておいででございます。‥‥‥もっとも、あの祠がいつの世からあるのかは、村のどの記録にもございません。皆、物心つく前から、ただあそこに在ったと申すのみでございます」
(確かに、あの祠があり、ルルナのような存在がいたのだ。聖霊の力が強く聖霊の地として、信仰の対象となるのは当然ってことか)
「なるほど。地域のまとめ役でもあった、というわけか」
アルドは頷く。「はい」ユキナがロウ執事の言葉を引き継いだ。
「タンスイの調査報告によれば、ゴブリンは南と西から来たようですわ。新しい道ができていて、ケモノを食い漁った形跡が散らばっていると。そうであれば、どれほどのゴブリンが来ていたのか‥‥‥ですので、近隣の村落にも今回のゴブリンによる被害が出ている可能性は大きいと思いますわ」
そこで言葉を区切る。
アルドはふむと頤に手を当てた。南と西からの襲撃か。南の方角はドワッフ王国との国境(山岳地帯ではあるが)だし、西は国境都市と周辺村落がある。常識的に考えれば周辺村落は国境都市に助けを求めるものだが、このドルフ村が聖霊の地であり、聖霊信仰を重んずる人達からすれば聖霊力の強い地に助けを求めに来ることは当然に考えられる。
アルドがユキナを見つめる。彼女はそれを受けて、
「生き残った人々は救いを求め、この『聖霊の地』を目指してくるのも一定人数おりましょう。もちろん国境都市に助けを求めるよりも、聖霊様のお膝元へ、と考える人々がいても不思議ではありませんわ」
ユキナは自分の話す内容がアルドの考えと合っているかどうか、伏目がちに窺う。
(避難民の受け皿となる。国境都市に全ての人員や資源を吸い上げられるよりは、良さそう‥‥‥か?)
アルドは俗物的に考えてしまう。なにせ千年前はリストラされた中年男だ。政治的な考え方なんてした試しはない。ただ単純に人が増えれば村の力にもなると思ったし、その人数を受け入れるだけの器が必要だとも思う。そのことを言おうとして――自分は聖霊の使者の立場だし、それなりに重々しい言葉で言ったほうがいいのかも‥‥‥しれない。アルドは咳ばらいを一つしてから、
「これからの目標としては、まずはドルフ村の人口を千人規模まで拡大させたい。それだけの規模になれば、単なる辺境の一村落ではなく、地域の中核として、国境都市からも無視できない存在になるだろう。そうなれば、帝国への支援要請をするにしても有利に進められるはずだ」
これは、かつてリストラされた会社での新規事業計画をプレゼンした時を思い出して、なるべく堅苦しく言ってみた。まー、これが今の自分にできる最大限の最善、それ以上はない。
(これで俺の引き出しは空っぽだ。ひんしゅくを買うかもしれんが、あとは勢いで乗り切るしかない‥‥‥)
しかし、アルドの内心の冷や汗の量とは裏腹に、周囲の反応はまたしても予想外のものだった。
「へえ、アルドのおっさんはそこまで計算してたのかよ! 難民受け入れて村を一大拠点にするってえのか、すげえな! わくわくするぜ。さすがは刀武家さまってかあ?‥‥‥まあ、でも力は俺の方が上だけどな!」
いつの間にかサンドイッチを三つ平らげていたタンスイが、尊敬なのか何なのか分からない眼差しを向けてくる。「タンスイくん、変なとこで競わないの!」とつっつきながらも、ココミが改めて唸る。
「せ、千人規模ですか‥‥‥。町の基本的な区画整理のイメージはありますけど、そうなると材料が全然足らないです。木材、石材、粘土に、金属も必要になっちゃう。うーん、どれもこれも、いまの100倍以上は必要かも」
ココミが小さな指を折りながら、真剣な顔で呟いている。
「村の廃材を再利用するにも限界がありますわね。資源の場所については、村の記録にいくつか記載がありましたが――」
ユキナが具体的な資源調達の話に移ろうとした、まさにその時だった。
「あ、あのっ、ユキナお姉さまっ」
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