第84話 君がメイドで主が俺で
「ちょ、ちょっと待って欲しい。聞き間違いじゃなければ、俺に仕えたいって言ったよな?」
「ええ、そうです。……光魔皇様に憧れ、力をつけ、様々な技術を身につけてきました。そして、少しでも光魔皇様の助けとなるよう、魔族間で発生した問題を解決しようとしたのです。光魔皇様と違い、ほとんどの魔族に知られていない私は、まずは魔族に力を見せつけることにしたのですが……」
そこまで言うと、彼女は黙ってしまった。
何と言えばいいか悩んでいる、って感じに見えるけど、どうしたんだろうか?
「……あー、まあ、簡単に言うとな。こいつは強力な魔法を使うと、ちょっと性格が変わっちまうんだ。んで、ちょっとやりすぎちまうというか、なんというか……」
……もしかして、戦闘狂ってやつなのか?
こんなに丁寧で、知的な感じなのに。
「その、ですね。魔法を使おうとしますと、どうしても気分が高揚してしまうのです。それで、つい派手な魔法を使ってしまい、物を壊してしまったり、地面を凸凹にしてしまったりと、周辺に被害を与えてしまったのです」
「それと、変わった名前を言いながら魔法を使ったりな。……そういや、この前オレと一緒に魔法を使ってたハクトも、似たような感じだったか?」
それっていわゆる、中二病ってやつじゃ……。
あと、魔法の件は、うん。
あの時はテンションが上がっちゃって、漫画とかゲームとかの魔法を色々再現した気がするな。
……調子に乗って、詠唱的なやつもした気がする。
「本当ですか! ……いえ、すみません。ですが、もし私のこの特性を理解していただけるのでしたら、ますますハクト様にお仕えしたく思います。どうでしょうか?」
「そ、その前に、話の続きを聞かせてほしいかな。ヒカリのようにできなかったのはわかったけど、どうして仕える、って考えになったかを教えて欲しい」
それに、ヒカリには断られてしまったとはいえ、他の魔皇にも仕えてないっていうのは気になる。
「……失念していました。それでですね、その後で以前光魔皇様のお手伝いをしていた頃を思い出したのです。その時も、自分よりも強い者に従っているという別の高揚感はありました。ですが、むしろそのおかげで、冷静かつ的確な動作ができていたように思えます」
「多分なんだがな、それはこいつが元魔物だったのも関係していると思うぜ。魔物って言うのは群れで行動する種類も多くいて、年を重ねたドラゴンもそれは例外じゃなかったぜ。……知性がつき始めた頃は、むしろ単独で行動したがるようだがな」
「そう、ですね。その時期は、自分の力を過信したり、何かに縛られるのを嫌う傾向がよく見られます。……その、私もそのような時期がありました。そして、ちょうどその時期に魔族に襲われてしまったのです」
……なんというか、やっぱり中二病っぽいというか。
いや、ドラゴンの思春期ってやつなんだろうな、うん。
「話を戻しますね。……そのような理由から、誰かにお仕えしたいと考えました。もちろんどなたでも良い、というわけではないです。その方にお仕えすることで、間接的にでも光魔皇様のお役に立てる事、私よりも力が強い事、が最低条件でした。それに、ハクト様は他の魔皇の方々の悩みも解決していますので、かなりの好条件だと思いました」
「その条件に合致するってことで、最初はオレらに提案されたんだけどな。けどこいつは、オレらの中で妹分的な感じになっていてな。すまんが断らせてもらったんだ」
なるほどな。
魔皇の誰かにも一度打診たけど、既に断られてるってことか。
でも……、
「確かに、俺もその条件に合致するかもしれない。実際、ヒカリの件は何とかしたいと思ってるからな。ただ、俺の持っている力、というか魔力は、元々俺が持っていたわけじゃない。努力して身につけたわけでもなくて、偶発的に与えられた力なんだ」
この魔力は俺のもの、っていう感覚は持てないんだよな。
まあ、ありがたく使わせてもらっているけどさ。
「……光魔皇様も、似たようなことをおっしゃっていました。自分の力は生まれた時からのもので、頑張って身につけた物ではない、と。だから、その力は自分のためだけでなく魔界のためにも使いたい、とも」
……ヒカリが忙しく動き回っているのは、そんな理由もあるのか。
「やっぱり、ヒカリはすごいな。……それと悩みの解決っていうのも、俺一人の力でできたってわけでもないんだ。ヒカリはなんでも一人でこなしていると思うけど、俺は誰かに協力してもらったり、ちょっと背中を押した、くらいしかしてないしな」
今まで色々と努力してきた彼女の力を、俺が上の立場になって使わせてもらう、というのはかなり気が引ける。
ちょっと手伝ってもらうならともかく、その場合は彼女の能力を持て余してしまうだろう。
「そんなに難しく考えず、使用人として雇うみたいに考えたらどうだ? 今日、オレらの城にハクトの部屋を決めたが、そこの壁とかを作ってもらったり、定期的な掃除をお願いするとかな。それと、何か困ったことがあれば助けてもらえばいいんじゃねえか? 今までやってきた誰かに協力してもらう、みたいな感じでな」
……まあ確かに、これから試練達成に向けて色々なことをやることだろうからな。
協力してくれる人が増える、っていうのは助かる。
それと、まずはお試しで仕えたい、って言ってよな。
なら……、
「例えばなんだが、期限とか条件を決めて使用人として雇う、ってのでも大丈夫か? ちょっと形は違うけど、お試しでって感じにもなるかなって」
試練を達成するまでとか半年、とかの条件を決めて雇う感じなら、そこまで抵抗は感じないかも。
「まずは実際に行ってみる、というのが重要だと思います。ですので、そのような形でも問題ありません」
「それじゃ、そうさせてもらおうかな」
「はい。よろしくお願いいたします」
そう言った彼女は、どこか嬉しそうにしていた。
◇
まずは雇う条件を決める前に、簡単な自己紹介をすることにしたんだけど……、
「んで、ハクト。こいつの名前はどうするんだ? 魔族の名前だと聞き取りずらいだろ?」
魔族特有の名前問題にぶち当たった。
「あ、そうだった。えっと、人間界での名前を持っていたりは……」
「人間界での名前、ですか? あまり人間界に行くことがないので、そういったものはないのですが……」
そっかぁ。
……うーん。
それなら、申し訳ないけど彼女に名前を考えてもらおうかな?
「んじゃ、ハクトお得意の名づけといくか!」
「いやいや、別に得意とかじゃないんだけど……」
あの時も、他の魔皇から名前をお願いされそうだから、って一生懸命考えただけだしな。
というか今考えると、魔皇の皆はなぜ名前を欲しがったんだろうか。
「もしや、ハクト様から名前をいただけるのですか!? それは、大変ありがたいのですが、よろしいのでしょうか?」
「あー、いや、まあ。考えてと言われれば考えるけどさ。……どうしてそんなに名前を欲しがるのか、聞いてもいいか?」
「それはな、こいつも含め、オレたちが魔界で使っている名前は自分で適当につけた名前なんだ。魔族ってのは魔力が集まって生まれるやつとか、こいつみたいに魔物から魔族になるやつがいるからな。オレたち魔皇は全員前者だし、魔物は子供に名づけたりはしないからな」
なるほどな。
……あれ、でもそれって、
「つまり、ハクトがオレたちの名づけの親ってことだな!」
やっぱり、そういうことになるよな。
……衝撃の事実が判明してしまった。
え、なんというかそうなると、今までの名前で大丈夫だったのか心配になるんだけど。
「……えっと。なら、今までの名前はあれで、本当によかったのか?」
「オレたち全員が気に入った、みたいなことを言ってただろ? 実際、今は元の名前は使わずにハクトからもらった名前を名乗ってるしな」
……確かに、名前を言った時は喜んでもらえてたとは思う。
けど、人間界とか、魔族以外がいる時限定で使ってると思ってた。
だから、そっちの名前を正式に使ってるって事実が、ちょっとこそばゆく感じるかも。
「ということで、ハクト。こいつの名前、よろしくな!」
「どうか、よろしくお願いいたします」
あ、そうだった。
……さっきの話を聞いた後だから、すごくプレッシャーを感じてきた。




