第82話 情けなくたっていいじゃないか
「ああ、それとな。ハクトに合わせたいやつがいるんだ」
「俺に合わせたい人?」
やっぱり、魔族だろうか?
いや、前にハヤテにそう言われてユズと会ったし、そうとも限らないかな?
「まあ、ハクトが大丈夫なら、だがな。さっき出かけた狩りの最中に、そいつを見かけてな。ちょいと前からハクトをそいつに合わせようと考えてて、丁度いいからと今日の予定を聞いてみたんだ。そしたら、今日は狩り以外にやることはないらしくてな」
狩りの最中に会ったってことは、かなり強い魔族なんだろうか。
ホムラが獲物にする魔物がいる場所、ってことだもんな。
「大丈夫、と言いたいけど……。一応、理由が知りたいかな」
まあ、話を持ち出したのがホムラだし、問題ないとは思うけどさ。
逆に、絶対に確認しないと駄目なのはハヤテ、よりもソフィアだな。
……急に、王城へ行きますので、なんて言われた前科があるしな。
「そうだな。前に、龍人族について話したのは覚えてるか? 今日会わせたいのは、その魔族なんだ」
確か、ドラゴンから進化した魔族って言ってたよな。
それと、人型にもなれるって言ってたと思う。
そういえば、あの時食べたワイバーンのステーキはおいしかったけど、今日のお肉はよりおいしかったな。
……今日はドラゴン肉を食べちゃったけど、大丈夫だよな?
「そんでな。そいつは昔ヒカリに助けられた魔族の一人なんだが、そのヒカリが魔界で忙しいのをかなり気にしていてな。んで、最近ヒカリの忙しさが少しマシになったのを知って、その理由を聞きに来たんだ。その時の流れで、理由の一端が異世界から来た人間、つまりはハクトにあるのを話したら、興味を示してな」
……それ、俺の恩人にちょっかいを出すのはどこのどいつだ! みたいにならない? 大丈夫?
「……興味を持った、ってのはどういった理由なんだ?」
「まずは、異世界の知識だな。それと、そん時はハヤテとかも一緒にいてな。ハヤテが、ハクトのおかげで大きな悩みが解決した、って話をしたんだ。それを聞いたあいつが、一度ハクトに会って色々と会話をしてみたい、って言ってな。んで、そいつは魔族の中でもかなりまともなやつだし、ハクトと合わせるのもいいかもな、って思ったんだ」
会話をしたいってことなら、大丈夫そうかな?
それに、かなりまとも、と言っていたし。
……まともじゃない魔族って、どんな感じなんだろう。
頭の中にトゲトゲの肩パットをつけて、ヒャッハー! と果実の汁を飛ばすイメージが浮かんだ。
いかん、何故か世紀末なやつと非公認なやつが混ざってしまった。
「それなら、俺も一度会ってみたいかな。魔族の知り合いが増えるっていうのも嬉しいし、ついでに試練のヒントになる何かが得られるかもだし」
「んじゃ決まりだな! アオイ、会議の後で何かやる予定とかはあるか?」
「うーん。魔道具の感想を聞きたかったけど、少し改良したい部分もあるし、それが終わってから改めて、ということでもいいかな。後は、ハクト君にいくつか魔法を教えようかと思っていたね。部屋に壁を作ったり、掃除をするための魔法が必要だからね」
「んじゃ、それはオレが教えてもいいな。ってことで、さっそく行くか!」
◇
……心の準備ができないまま、ホムラに転移させられてしまった。
まあ、転移されてしまったのは仕方ないと思い周りを見渡すと、鬱蒼と草木が生い茂っており、少しまばらに巨大な木々が立ち並んでいた。
巨大な木があちらこちらにある光景は流石は異世界、というか魔界って感じだな。
……異世界に転移する物語には、こんな感じの森から始まる、なんてものが結構あった気がするな。
そしてそこで魔物に襲われる、って展開もよくあったかな?
「……ホムラ。ここってどこかの森みたいだけど、その龍人族はここにいるのか? まだここで狩りをしてる、ってこと?」
見渡した限りすぐ近くに家とかはなさそうだし、ここに住んでいる、とかはおそらく無いだろう。
「ああ、おそらく。今日は、しばらく狩りをするって言ってたしな。ちょっと探知魔法で探ってみるか」
なんてホムラが魔法を使おうとしたその時、森の奥に巨大な影が見えた。
……いや、ここで異世界テンプレとかはいらないっす。
「……ねえ、ホムラ。あっちに巨大な生き物がいそうなんだけど。あ、もしかして、その龍人族がドラゴンの姿になってる、とか?」
「いんや。あいつは滅多にドラゴンの姿にはならないからな。あれは魔物だと思うぜ」
……そうかぁ、やっぱり魔物かぁ。
「そういえば俺、生きた魔物に会うのは初めてだったよ。……もしも襲ってきたらどうしよう。……すまんがホムラ、そうなったら助けてほしい」
うん。
全然心の準備とかできてないし。
いや、仮にできてたとしても普通に怖いな。
助けてホムえもん!
「あの程度の魔物、ハクトなら余裕だと思うぜ。この前オレと色々な魔法を使ったが、あれを使えば一発だぜ」
「……そうかもしれないけど、やっぱり生き物を狩るっていうのは無理かも」
異世界に転移した主人公みたいに、チートを使って魔物を撃退! みたいなのは無理です、はい。
「まあ、無理なもんは仕方ねぇけどな。それに、オレが倒す必要もなさそうだぜ」
ホムラのその言葉を聞いて魔物がいた方を見ると、その影が消えていた。
「どうやらあいつが倒して、収納したみたいだな。それと、こっちに気づいたみたいだぜ」
魔物のいた方向を見ていると、こちらに近いづいてくる人影が見えて来た。
俺たちの前まで来たその人物は、腰あたりまで伸びた黒髪の美女だった。
顔立ちはキリっとしており、身長も結構高めだ。
「おう、****。さっきぶりだな!」
「そうですね。……そちらの方はもしかして、異世界から来た、ハクト、という方でしょうか?」
「ああ、そうだぜ! 前に会いたいって言ってただろ?」
「えっと、異世界から来ました、ハクトといいます。よろしくお願いします」
相手は敬語を使ってるみたいだし、とりあえず丁寧に挨拶してみた。
……俺が勝手に持っている魔族のイメージと違って、知的で丁寧な雰囲気な話し方だったしな。
「私に敬語は不要ですよ。先ほどの会話が聞こえてきたのですが、魔皇の方とも普通に話していらっしゃるようですし」
え、さっきの会話を聞かれてたのか!?
……初対面の人に、情けない場面を聞かれてしまった。
というか、かなり遠くにいたのに声が聞こえるってのは、そういった魔法を使っているのだろうか。
さっきの魔物を倒したことといい、やっぱり強い魔族なんだろう。
「ああ。こいつが敬語を使う理由はな、ヒカリの影響なんだ」
「そうですね。かなり昔のことなのですが、光魔皇様に助けられたことがありまして……」
彼女の話によると、助けられた恩返しをするために、しばらくヒカリのそばで手伝いをしていたらしい。
その時にヒカリが様々な魔族を助けたり、頼られたりといった光景を見たことで、ヒカリに憧れを抱いたらしい。
そして、ヒカリのようになりたいと考え、まずは形からと敬語を練習したり、強くなるためにホムラに訓練をお願いしたようだ。
今では魔皇たちと仲良くなっていて、特にホムラとはよく模擬戦をするみたいだ。
「ヒカリに憧れただけじゃなくて、実際に行動を起こした結果、ホムラと模擬戦ができるまでになった、ってことだよな。……それは、すごいな」
前に、結構いい勝負ができるってホムラが言っていたけど、元々種族のおかげで強い、とかじゃなくて、本人が努力した結果だったんだな。
「こいつはそんなやつだからな。オレたち魔皇もそこを信頼して、色々と頼み事をしてるんだぜ」
「信頼していただけているのは、ありがたいです。……まだ遠くですが、魔物が近づいて来ています。場所を変えたほうが良いでしょうね」
「んじゃ、落ち着いて会話ができるとこに行くか。……んー、まあ、いつものとこでいっか。多分丁度いいだろうしな」
ということで再度、ホムラの転移で移動することになった。
いつものとこって、あの何もなくて広い土地のことかな?
……丁度いいっていうのは、どういうことだろうか。




