第59話 ケーキが契機
ユズに断ってからリンフォンを確認してみると、送信相手はクレアだった。
しかも、二回分受信しているみたいだ。
……なんだろう?
『ハクトさん、こんにちはですわ! 先日教会で行われた食事会では、美味しいお食事をいただくことができ、とても嬉しかったのですわ。ハクトさんを始め、お食事を作っていただいた方には、とっても感謝なのですわ。それに、ご一緒にお食事をした皆さんも……』
な、なんだか前置きがすごく長そうだ。
と思っていたら、
『あら? メアリ、どうしたんですの? それよりも早く本題に入りましょう、ですの? ど、どうして私がリンフォンで送信しようとした内容がわかるのですわ!? え? 声に出していた、ですわ? ……あ、今喋っていることも送信されてしまうのですわ! 一度取り消し……』
……クレア、多分リンフォンを使い慣れてないんだろうな。
それで、取り消すのを間違えて送信しちゃった、っていうパターンだろう。
……さて、次のを見てみるか。
『こほん。申し訳ないのですわ。先ほどは、途中でメッセージを送ってしまったのですわ。……では、さっそく本題に入りますわ! この前ハクトさんに考えていただいた魔道具なのですが、ベイラさんから無事献上していただいたのですわ!』
お、ついにミキサーが完成したのか!
それと、魔道具を献上する、みたいなことがあるんだな。
……王室献上品、とか言われるのだろうか?
『それで、魔道具に関わった方たちで、お祝いのパーティを開催しようかと思うのですわ! パーティではもちろん、魔道具を使ったショートケーキを出す予定なのですわ! そのために、今回は皆さんの予定を伺っているのですわ。皆さんの予定が合えば、数日後にでも開催したいのですわ! それに、関係者だけのパーティですので、お友達の参加も歓迎するのですわ!』
準備ができたら招待するって言っていたけど、魔道具が献上されてすぐに計画するとは。
……いや、作るのがあのパティオさんって考えたら、むしろ早い方がいいかも。
張り切りすぎて、変な方向に行きそうだしな。
『それと、申し訳ないのですが、ソフィアさんとモニカさんにも、予定を聞いてほしいのですわ。他の方には、ベイラさんを経由して連絡をお願いしているのですわ。……それにしても、パーティが楽しみなのですわ! この前皆さんと頂いたパンケーキ、もちろんパンケーキ自体も美味しかったのですが、皆さんと食べるというのがとても良かったのですわ! それに…… あら? メアリ? どうしたんですの? あっ、ちょっと、ま……』
……メアリさんに強制終了させられたな。
あ、ということはアキナの方も同じような内容かな? と思いアキナを見ると、アキナと目が合った。
そして、ユズの方を見て、リンフォンを見て、またユズを見て……。
……もしかして、そういうことか?
なんて思っていると、ユズが話しかけてきた。
「あっ! 二人とも終わったー?」
「ああ。俺の持っていた異世界の知識を元に魔道具の製作をお願いしてな。それが完成したみたいなんだ。アキナもおそらく、それについての連絡だと思うんだ」
「そうよ。それでね、その完成をお祝いして、関係者だけのパーティをすることになったのよ! それでね、その魔道具を使ったスイーツ、ショートケーキというものが出されるのよ! ショートケーキについては、ハクトに説明をお願いするわ」
アキナから、わかっているわね? というような視線とともに、こちらに説明をふられた。
俺はわかっている、という感じでうなずくと、ユズにショートケーキについて説明することにした。
「まず、パンケーキっていうのは知っているか?」
「もちろん知ってるよ! ……でも、そこそのお値段がするし、予約が必要だったりで、前に一度しか食べる機会がなかったなー。……あの時はすっごくおいしくて、またいつか絶対来たい、って思ったんだ!」
お、食べたことがあるなら好都合だな。
「それでな。そのショートケーキっていうのは、俺の世界にある食べ物なんだ。まずホイップクリームっていうのが……」
と、俺はショートケーキについてユズに簡単に説明した。
説明を聞いていくうちに、ユズは目を段々と輝かせていった。
「すごい! とってもおいしそう! いいなー、私も食べてみたいなー」
……来た! フィーッシュ!
「実はな、そのパーティは友達を誘っても大丈夫なやつなんだ。まあ、関係者だけでやるものだしな。それに、ハヤテも来ると思うよ」
「ハヤテちゃんも? それなら安心かな? うん、私も行ってみたい!」
「それじゃ、行けなさそうな日とかはあるか? すぐにでも開催したい、って感じだったけど」
「うーん。今は手伝いをするくらいだし、いつでも大丈夫かな?」
「わかった。それじゃ、日付が決まったらすぐに教えるな」
「よろしく! ……ふふふ、ケーキ、ケーキ、楽しみだなー」
よし、ミッションコンプリート!
「話は終わったみたいね。それじゃユズ、これ、プレゼントよ!」
と、俺がユズと話しているうちに何かをしていたアキナが、ユズにリンフォンを渡した。
「……え? これ、リンフォンだよね? ……え? プレゼントって、ええー!」
これには、店内なのも忘れて驚いているな。
そしてすぐに近くにいた店員さんに誤っていた。
「えっと、アキナ? これ、プレゼントって、どういうこと? 私、今日誕生日じゃないよ? あ、いや、もしそうでも、こんなに高級なもの貰えないよー」
「今日いいお店を教えてくれたお礼、それと、投資かしら? ユズのアイディアはすごいって思ったし、何よりわたしの感覚がピン! と来たのよね! それに、もっとお互い気軽に連絡し合えたらと思うの。だから、気にせず受け取ってちょうだい!」
「うーん。投資、とか言われてもピンとこないけど、私もアキナとはもっと仲良くなりたいかも! ……だから、ありがたく受け取るね!」
「遠慮なく連絡してね! リンフォンは、あそこにいる店員さんが使い方を教えてくれるわ。それと、前の魔道具で登録した相手の引き継ぎもしてくれるはずよ」
「そうなんだ! それじゃ、ちょっとやってくるー」
と、ユズはリンフォンの使い方を教わりに行った。
「ハクト、やったわね! これで、ユズを王城に連れていけるわ! ……でも、送迎とかはどうしようかしら」
「それならハヤテに頼んでみるよ。……絶対協力してくれるし、こういったことに長けているだろうからね」
「お願いするわね! ……ユズが驚く姿も見たいけど、それより皆と仲良くできるといいわね」
「そうだな。まあ、本人の性格的には大丈夫そうだと思うけど。……ただ、気絶しないかだけは心配だな」
魔皇だけで、ハヤテの時の5倍だからな。
「……確かにそうね」
なんてアキナと話していると、
「おまたせー、全部終わったよー! それにしても、このリンフォンって魔道具すっごいね! びっくりしちゃった!」
と、ユズが戻って来た。
◇
軽く店内を見て周った後外に出てみると、そろそろ日が暮れそうな様子だった。
名残惜しくはあるけど、ガレムのお店に帰ったら今日は解散することにした。
ユズは道中、リンフォンとショートケーキの影響で、すごくうきうきだった。
一度アキナとリンフォンでやりとりしたり、俺にはショートケーキ以外には異世界にはどんなケーキがあるの? と質問したりと、本当に楽しそうだったな。
……悪いことはしていないつもりだけど、ユズを騙しているのがちょっと心苦しくなってくる。
とまあ、そんな感じで歩いているうちに、ガレムのお店に着いた。
「あー、もう着いちゃった! ……それじゃ、アキナにハクト、今日はありがとね! また、皆でどこかに出かけたいな!」
「そうね! それじゃ、またね!」
「俺も楽しかった! じゃあな!」
「うん! せっかくリンフォンを買ってもらったし、ちょくちょく連絡するねー! じゃあ、ばいばーい」
と、ユズはお店に帰っていった。
少しして、
「おじいちゃん、ただいまー! あのね、さっき言ったお店でね!」
なんて、楽しそうな声が聞こえて来た。
◇
「それじゃ、俺たちも帰ろうか。今日はデートってことだし、途中まで送っていこうか?」
「あ、そういえばそうだったわね。すっかり忘れてたわ。……実は転移用の魔道具を持ってるんだけど、せっかくだし教会まで一緒に歩こうかしら。最後だけでもデートっぽく、ってね」
と、アキナはデートの事を忘れていたのを気にしつつ、ちょっと笑いながら言った。
あ、そうだよな。
ここは異世界だし、アキナならそういった魔道具も持ってるか。
「俺のいた世界では終わり良ければすべて良し、って諺があるんだ。最後に、ちょっとした気分でも味わえればいいんじゃないかな?」
「こっちでも、似たようなものがあるわね。……世界が違っても、人って考えることは同じなのかも」
「魔族と人間もそうだしな」
少なくとも、俺の会った魔族、魔皇たちはそうだと思う。
「……そうね、本当に。それにしてもハクトと一緒だと、色々な発見や出会いがあるわね」
「まあ、異世界から来たしな。あ、魔皇にはアキナも会ったことがあるから、それは俺は関係ないってことで」
「ふふふっ、それは無理があるんじゃないかしら? ……それにしても、今日デートしたのがハクトでよかったわ。もちろん、ハクトの持ってる異世界の知識っていうのも興味深いけど、それがなくても、一緒にいると楽しいって思えるのよね。そんなハクトだから、色んな人と仲良くなれるのかもね」
「うーん、そうかな? でも、仲良くできるなら仲良くしたほうがいいじゃないか?」
もちろん、気が合わない人とかはいるけど、ギスギスしているよりは笑い合っていたいからな。
「……そう考えられる人って、実は結構貴重なのよね。ともかく、これからもよろしくね!」
「ああ、もちろん!」
なんて会話をしながら、教会まで歩いてった。




