第195話 (ようやく)イベント開始ィィィ
魔皇たちが次々とステージから降りていく。
やばい、さらに緊張してきた。
……いや、落ち着け。
これから話す内容はリューナに何度も確認してもらったんだ。
その通りに話すだけの簡単なお仕事なんだ!
そう考えていると、リューナが最後に俺の挨拶を、というのが聞こえた。
……あ、やばい、頭が真っ白になってきた。
だ、大丈夫、喋る直前までに最初の言葉を思い出せば流れでいけるはず!
そう思い、魔皇やアキナたちに声をかけられつつステージに登り、台に設置されたマイク風の魔道具の前に立ったのだが、全く思い出せなかった。
……あかん。
い、いや、考えてみれば、そもそも校長先生の話なんて真剣に聞いている人なんてほとんどいなかったよな。
なら、今日のこのオープニングだって、俺の話なんかよりも出店に思いを馳せているはず。
つまり、俺の話を聞いているのはほぼ身内だろう。
それなら、アドリブで話しても大丈夫なはずだよな!
そう自分を騙しつつ、思いつくままに話し始めることにした。
もうどうにでもなれ、って感じだ。
「あー、ええと。……本イベントの主催者である、異世界親善大使のハクトです。その、肩書の最初に異世界、とあるのですが、実は俺、異世界から来ました。そんな特殊な立場が影響してか、様々な立場の人との出会いがありました。……俺がこの世界に迷い込んだのは、今から半年前のことです。そして、すぐにこの教会へと案内され、今でもお世話になっています。そして、この世界に来てすぐ、魔皇の一人と出会いました」
そう、俺がこの世界に来て、ソフィアからの説明を受けて、次の日はソフィアに街を案内してもらおう、ってタイミングでホムラに会ったんだよな。
そして何故か、名前を考えることになったと。
その後、話の流れで街の案内の後でホムラに魔法を教えてもらうことになり、昼食を食べ終わるとすぐに魔界に転移させられたな。
……今は俺の家にある転移門や転移の魔道具で移動しているけど、これがない時はいつも急に転移させられたっけなぁ。
「この時、彼女が魔族であることはわかったのですが、魔皇だと知ったのは何日か後のことでした。彼女からは、この世界の魔法についてや、魔族とはどういった存在なのかについて教えてもらいました。……ただ、その時に人間界での魔族の印象についても教えてもらったのですが、人間界での魔族の印象はあまり良いものではないのでは、と感じられました」
あの時は確か、魔族は弱者を無理やり従えている、といったイメージが人間界にあるような説明だったな。
……実際、昔の魔界はそんな状態だったみたいだし、五百年前に魔界に行った人間族の人がその光景を見てしまい、それが人間界に伝わった、って可能性はあるだろう。
けど、今の人間界にある印象は全く違うものだった。
少なくとも、俺の知っている範囲では。
「その出会いが切っ掛けとなってか、何人もの魔族と知り合うことになりました。それとは別に、この街で生活をしていく中でも、様々な種族や立場の人とも知り合いました。……やはり、異世界から来た、という立場が多分に影響していたと思います。そしてその後、俺が出会った人たちで集まる機会がありました。そこでは、種族や立場など関係なく、皆で楽しい時間を過ごすことができました」
皆でおいしい料理を食べたり、ボードゲームで遊んだりと、ただ親しい友人同士が集まって楽しむ、という感じだった。
そこではドワーフとかエルフとか、王族とか魔皇とか、そういったものは仲良くなる障害にはならなかったな。
……まあ、顔を合わせた直後は緊張している、ってことはあったけど。
「その内の一人に、魔族について周囲の人がどんな印象を持っていそうかを聞く機会がありました。……その答えは、わからない、というものでした。そもそも、魔族というものに触れる機会がパレードや本など、魔族の人と出会う機会がほぼない状態では、あまり明確な印象を抱けないということでした」
それに、話題に上がることもほとんどないとも聞いたな。
個人では何かしらの印象を持っている人はいるだろうけど、話題に上がらない以上は人間界全体での魔族の印象はこれ、というのはないだろうな。
「また、魔皇たちのサポートにより、魔界へ旅行に行く機会にも恵まれました。そこでは、魔界で局所的にある特殊な環境や、それぞれの魔族の特性を活かした街や料理など、様々な魔族の文化に触れることになり、とても楽しむことができました。それと、彼らとの会話を通じて、魔族の中には人間界に興味がある者も多い事を知りました。……あ、そうだ。魔界への旅行に行く前に、エルフの里へとも旅行に行ったのですが、そちらも楽しく過ごせました」
……思いつくままに話して行く内に、話そうとしていた内容を思い出してきた。
俺が異世界から来た、ってのは肩書でバレるかもだけど、本来は、異世界から来ましたー、なんて正直には言わず誤魔化すつもりだったのに……。
そしてその後は、人間界や魔界で旅行に行った事に触れ、どっちもいいところがいっぱいあるよ、このイベントではそんな魔界、人間界のいい所を体感したり、再発見してもらえると嬉しい、みたいな流れだったはずだ。
……思い出した瞬間につい、あ、そうだなんて言ってしまったけど、まあ色々と今更だな。
それよりも、そろそろ話のまとめに入らないと。
……思いつくままに喋った結果、言う予定でないことをいっぱい言ってしまったけど、どうまとめよう。
「それで、ええと。……異世界から来た俺からすると、魔界と人間界、どちらも興味深い物が多く存在しました。けれど、先ほど魔皇たちが言っていたように、魔族たちに人間界の良い面が知られています。一方で、人間族のほとんどには、魔界の良い面が知られていないようでした。そしてそれは、とってももったいないことだと、俺は思いました」
魔界への旅行は、俺が人間界で出会った人たちと一緒に、魔界の良い面をたくさん見ることができたんだ。
だから……。
「今回のイベントでは、そんな魔界の魅力の一部分でも、皆さんが体験できたらと思います。そして、よくわからない、という魔族の人たちから、どんな人たちなのか気になる存在に、そして、仲良くしてみたい存在になると、俺は嬉しいです。それと、魔族の人たちも、人間族の人たちも、交流することを恐れないでください。そうすればきっと、俺たちが体験したように、楽しい時間を過ごすことができると思うからです」
俺の試練という個人的な理由もあるけど、今回のイベントは皆が仲良くなれると嬉しいと思って開催するんだ。
だから、最初は探り探りでもいいから、交流をしようと思って欲しい。
「そしてそれが、人間界と魔界の交流が進む切っ掛けになれば、このイベントは大成功だと言えると思います。……ええと、話が長くなってしまいましたが、イベントの開始を宣言します! 皆さん、楽しみましょう!」
俺がそう宣言すると、あちらこちらから、拍手や歓声が巻き起こった。
……校長先生のお話並に長くなった自覚があるのだけど、皆さんちゃんと聞いていたのね。
まあ、ブーイングとかは起きてはいないし、大丈夫、だよな?
◇
ステージを降りると、司会を終えたリューナと目が合った。
……ちょっと気まずい。
とりあえず、何度も今日の為に付き合ってくれたリューナには謝らないとだな。
「あー、えっと。リューナにはあんなに確認してもらったのに、ステージに登ったら頭が真っ白になってしまって、アドリブで話す結果になっちゃったんだ。その、ごめんなさい」
「いえ、むしろ、ハクト様らしい素晴らしいスピーチだったと思います」
なんてリューナと話していると、それを聞きつけた魔皇たちが近づいてきた。
「まあ確かに、ハクトらしいっちゃハクトらしい内容だったな。……ただ、見てるこっちにまで緊張が伝わってきて、気が気じゃなかったけどな」
「ふふふっ、ほんとにね~。ハクトの弱点、見つけちゃったかも~?」
「……ハヤテちゃん?」
「な、何でもないよ~」
「けど、あんなに緊張しているハクトくんは初めて見たね。まあけど、今後何度もイベントを重ねていけば、きっと慣れると思うよ」
……え、今、何度も、って言った?
「そうね。今回参加出来なかった魔族もいっぱいいるし、すぐにでも開催してほしいわね」
「……ハクト、がんばれ」
「えーと。次回は他の適任者に任せたいなー、なんて……」
「その場合、異世界から来られた方以外は、適任者にはなれなさそうですね。イベント名が、三世界交流フェスティバルですので。そういえば、ハクトさんの世界の言葉ですと、第三回三世界フェスティバルとなると、少しややこしいですね」
次回以降も、俺以外にお任せ、とはいかないみたいですね、はい。
……せめて、一年間隔で勘弁してください。
今回はほぼオープニングセレモニーだけなのに、かなり書くのが難しかったです……。




