表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【web版】拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた。  作者: AteRa
第九章:獣人の国・ビーミト王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

186/190

第百八十六話「アルベルト公爵」

「グルルルァァァッ!!」


 地響きを立てて咆哮したのは、三体の異形の怪物たちだった。

 一体は全身が岩のような筋肉と装甲で覆われた巨体。

 一体は鎌のような鋭利な四肢を持つ多脚の異形。

 そして最後の一体は、背中から無数の触手を生やし、先端から魔法弾を放とうとしている浮遊体だ。


「散開しろ! 一か所に固まるな!」


 俺の号令と同時に、全員が左右に飛び退く。

 直後、浮遊体から放たれた極太の熱線が、俺たちが先ほどまで立っていた場所を焦がし、背後の床を溶岩のように溶かした。


「へっ、いい火力だ! だが、遅ぇ!」


 バランが不敵に笑い、真っ先に巨体の怪物へと突っ込んでいく。

 怪物が丸太のような腕を振り下ろすが、師匠はそれを正面から受け止めることなく、懐に潜り込んで強烈なボディブローを叩き込んだ。


 ドゴォッ! という鈍い音が響き、巨体がわずかに浮く。


「アカネ! あのでかいのは師匠とアカネで抑えてくれ!」

「任せてください!」


 アカネが大剣を構え、バランの作った隙に追撃を入れる。

 彼女の一撃は怪物の硬い装甲を粉砕し、体勢を大きく崩させた。


「ルルネ、ルイン! あの速そうな奴を頼む!」

「了解!」

「分かったよ、アリゼさん!」


 多脚の怪物がカサカサと不快な音を立てて壁を走り回り、死角から襲いかかろうとする。

 だが、ルルネの双剣とルインの聖剣が、その動きを完全に捉えていた。

 二人は互いに背中を守り合いながら、襲い来る鎌を弾き返し、確実に手足を削いでいく。


「残る一つ、あの魔法タイプは俺たちがやる!」

「援護するわ!」

「いっくよー!」


 俺はニーナ、ナナと共に浮遊体へと向かう。

 触手から放たれる無数の魔法弾を、ニーナが展開した防御障壁が防ぎ、その隙間を縫ってナナの高火力魔弾が敵本体へと突き刺さる。


「ギャアァァッ!」


 怪物が悲鳴を上げ、触手を振り回して暴れだす。

 俺はその暴れる触手を剣で斬り払いながら、本体への道を切り開いた。


「しぶといな……!」


 斬っても斬っても、怪物の傷口からは緑色の液体が泡立ち、瞬く間に再生してしまう。

 他の二体も同様だ。

 バランに殴り飛ばされても、ルルネに斬り刻まれても、すぐに立ち上がってくる。


「無駄だよ、無駄無駄ァ!」


 キャットウォークの上から、ガゼルの嘲笑が降ってくる。


「彼らはこの施設のエネルギー供給を受けている限り、不死身なのだよ! そこにある培養槽の生命力が尽きぬ限り、何度でも蘇る!」


 ガゼルが指差した先には、壁際に並ぶ無数のガラス管があった。

 そこから伸びるパイプが床下を通り、怪物たちへと繋がっているのが見える。

 管の中の人々が苦悶の表情を浮かべるたび、怪物たちの傷が癒えていく。

 他者の命を喰らって生き続ける、最悪のシステムだ。


「なんて……酷いことを!」


 ミアが悲痛な声を上げる。

 彼女は戦いながらも、ガラス管の中の人々に治癒の光を送ろうとしていたが、システムに阻まれて届かないようだった。


「あのパイプだ! あれを断てば!」


 俺が叫ぶが、パイプは魔法障壁で守られており、通常の攻撃では傷一つつかない。


「くそっ、どうすれば……」


 その時だった。

 エリスに支えられていたネシウスが、ふらりと前に出た。


「……分かります。あの障壁の構造……僕がいた独房と同じ……」


 ネシウスは青白い顔で、しかし確かな口調で言った。


「僕の魔力なら……干渉できます。あの中枢にある制御盤を操作すれば、供給を止められるはずです」

「だが、そんな体を晒して近づけば……!」


 俺が止めようとするが、ネシウスは首を振った。


「お願いします、アリゼさん。僕に道を……作ってください! これ以上、誰かが犠牲になるのは見たくないんです!」


 その瞳に宿る決死の光を見て、俺は覚悟を決めた。


「分かった。……全員、聞け! ネシウスをあそこの制御盤まで護衛する! 一点突破だ!」


 俺の号令に、全員の動きが変わる。

 防御を捨て、攻撃に転じる陣形。


「どきなさいッ!」


 ルルネとルインが多脚の怪物の足を一斉に斬り飛ばし、道を作る。

 アカネとバランが巨体の怪物を力任せに押し込み、壁役となる。


「ニーナ、ナナ! 全力で弾幕を張れ! 一歩も近づかせるな!」

「了解!」

「任せて!」


 二人の魔術師が放つ極大の魔法が、浮遊体の触手を消し飛ばし、ネシウスへの道をこじ開けた。


「行け、ネシウス! エリス!」


 俺は二人の前に立ち、襲い来る余波を剣で弾き飛ばしながら走る。

 背後では仲間たちが必死に怪物たちを食い止めてくれている。


「小賢しい真似を!」


 ガゼルが焦ったように叫び、懐からリモコンのようなものを取り出した。

 施設の防衛システムを作動させ、天井から無数の魔導砲が出現する。


「させない!」


 アーシャが叫び、彼女の放った光の矢がガゼルの手元を正確に撃ち抜いた。

 リモコンが弾け飛び、ガゼルが情けない悲鳴を上げて手を押さえる。


「今だッ!」


 その隙に、俺たちは制御盤の前へとたどり着いた。

 ネシウスが震える手でパネルに触れ、自身の魔力を流し込む。


「拒絶……解除……システム、ダウン……ッ!」


 バシュゥゥゥン!!


 施設全体に蒸気が噴き出すような音が響き渡り、怪物たちへと繋がっていたパイプの光が消えた。

 同時に、培養槽の人々を縛っていた魔力の鎖も解かれ、ガラス管の中の水位が下がり始める。


「な、何だと!? 私の最高傑作への供給が……!」


 ガゼルが狼狽える。

 エネルギーの供給を断たれた怪物たちは、再生能力を失い、その動きが目に見えて鈍くなった。


「今だ! 畳み掛けろ!」


 俺の声に応え、仲間たちの必殺の一撃が炸裂する。


「《旋風剣・連》!」

「《エクスカリバー》ッ!」


 ルルネの神速の連撃と、ルインの光り輝く聖剣の一撃が、多脚の怪物をバラバラに解体する。


「オラァッ!!」

「砕けろッ!」


 バランの鉄拳とアカネの大剣が、巨体の怪物の装甲ごと中身を粉砕する。


「これで終わりよ!」

「バイバーイ!」


 ニーナの雷撃とナナの爆裂魔法が、浮遊体を塵一つ残さず消滅させた。

 三体の怪物は断末魔を上げることもなく崩れ落ち、ただの肉塊へと戻っていった。

 静寂が戻った工場に、ガゼルの荒い息遣いだけが響く。


「馬鹿な……ありえん……私の研究が……」


 ガゼルは震えながら後ずさりし、逃げ道を探すように視線を泳がせる。

 俺はゆっくりと剣を下げ、彼を見上げた。


「チェックメイトだ、ドクター」


 俺の声は冷たく響いた。

 だが、ガゼルは往生際悪く、歪んだ笑みを浮かべた。


「ふ、ふふふ……まだだ。まだ終わらんよ。アルベルト様がいらっしゃる限り、この計画は……!」


 彼は言い捨てると、キャットウォークの奥にある扉へと走り去ろうとした。

 だが、その扉が開くことはなかった。

 内側から凄まじい衝撃と共に扉が吹き飛び、ガゼルはその爆風に巻き込まれて吹き飛ばされたのだ。


「ぐあぁっ!?」


 地面に叩きつけられたガゼルの前に、悠然と歩み出てくる巨大な影があった。

 圧倒的な覇気。

 禍々しくも、どこか神々しさすら感じさせる金色のオーラを纏った、熊の獣人。


「騒がしいな。私の覚醒の儀を邪魔する鼠は、どこのどいつだ」


 アルベルト公爵。

 すべての元凶が、ついに俺たちの前に姿を現した。


「アルベルト様……! こ、こいつらが……!」


 ガゼルが這いつくばりながら縋りつこうとするが、アルベルトは無慈悲にその頭を踏みつけた。


「役立たずめ。時間稼ぎすらできんとはな」


 グシャリ、という嫌な音がして、ガゼルの声が途切れる。

 あまりにあっけない、そして冷酷な部下の処断に、俺たちは息を呑んだ。


 アルベルトは血に濡れた足を気にする素振りもなく、俺たちを見下ろした。

 その瞳は、すでに理性を超えた狂気と、絶対的な自信に満ち溢れていた。


「ようこそ、英雄たち。私の新たなる神殿へ。……貴様らの命を以て、私は真の神となる」


 彼の背後で、地下の最深部へと続く扉が開き、そこから血のように赤い光が漏れ出している。

 いよいよ、最後の戦いが始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ