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雲界の狩り手  作者: 大石次郎


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竜教の洞窟 1

霧の中、木立(こだち)と茂みを越えてゆく。

距離がある内は向かってくる脆弱な魔物に遭遇すれば速攻で倒していたが、目的地に近付くと死臭に他の魔物が寄って異変を相手に気付かれるリスクがあったので避けていった。

付いてくるヤッポの回避力を考慮して、やや大回りになっても避ける。

探知して、追ってくるような素振りを見せた個体にはヤッポが魔物除けの臭い袋を鼻先にお見舞いして追っ払う。

嗅覚の良い猪型の魔物、大牙(おおきば)シシ等はちょっと可哀想なことになっていた。

目的の山の岩肌までかなり近い所まで来た。

岩肌近くには魔物除けの石柱が一定間隔で設置され、向かって左手奥には洞窟の入り口があり、その前には覆面を被り武器を持った僧服の物達が見張りをしていた。


「・・いた」


私は岩肌近くのちょうど高台になった茂みの手前に潜む、私と同じ10代後半くらいの女の狩り手とその荷負い人(シェルパ)を見付けた。相手もこちらに気付いて合図してくる。

合流すると簡易な魔除けの魔方陣の中で、女の狩り手ノノイ・メウジンとノッカのシェルパで大柄な熊型獣人(ベアマン)のスーは、シナモンバニラバナナチップスを食べていてシナモンとバニラとバナナの匂いが凄かった。

ノノイの得物は伸縮構造の柄が縮められ、刃の部分が全て鱗のカバーで覆われた狩り手の斧(ブーストアクス)で、傍らに置いていた。


「キリヒコっ! お前、ほんとに辺境に来てたんだな」


「ああ、相変わらず甘い物食べてるね、ノノイ。スーも元気だったかい?」


「はい。お久し振りです、キリヒコ様。同業の方は初めまして、スーです」


「ヤッポだよ。デカいでやすね、あんた」


「はい、足場の弱い所では踏み抜いてしまうので、荷物をノノイ様に念力で持ち上げてもらってます・・」


「シェルパ、向いてないんじゃないでやすか?」


「はい・・面目無いです・・」


落ち込むスー。


「首尾は?」


スーには悪いが私は話を切り替えた。


「間違いなく竜教の根城の1つだね。結構規模がある。ただの行動拠点じゃないよ? これはさっ」


バナナチップスをモリモリ齧りながら洞窟を見るノノイ。


「マメは?」


「先に潜入してる。ほれ、同期させた物見の玉(ものみのたま)


ノノイは掌に乗るくらいの大きさの水晶玉を差し出してきた。岩の洞窟の中を進む映像が移っていた。

表面にメッセージも浮かぶ。


『キリヒコまだ? マジ、そろそろ死にそう。ショボい報酬でハイリスクっ! マジ最悪。マジ最悪っ!』


「・・荒れてるな、マメ」


マメ・モッチョは狩り手ではなく魔術師ギルドに属する魔術師だ。入ってる組織は違うがノノイとコンビで仕事を受けることが多い。


「変化の魔法と分身の魔法があるから大丈夫だろ? まぁ、あんまり待たせるとうるせーからそろそろ行くか? 応援は頼んでんだよな?」


「ああ、だがすぐ来れるのは7位以下の狩り手達だけだろうな」


竜と同じく狩り手にも階位がある。私やノノイやヨイチは4位だ。


「7位っ? それ、こっちで状況作っとかないとゾロゾロ死んじゃうパターンじゃん?!」


「仕事しようぜ? ノノイ」


「えーっ? おっ」


『( `д´)( `д´)( `д´)( `д´)』


「ヤバっ、マメの顔文字が分裂してきたっ。限界だな! スー、手筈通り頼むっ」


「心得ました」


「ヤッポ、スーに付いて手伝ってくれ」


「了解でやす!」


私とノノイはヤッポとスーと別れ、洞窟の入り口ではなく、ノノイが事前に調べを付けた別の侵入口を目指した。



・・洞窟の入り口から見て岩肌の真横辺りに来た。霧の向こうに大岩がある。

ノノイは襷掛(たすきが)けしたベルトの背中の留め具で携帯していたブーストアクスを抜いて展開させた。

刃に付いていた鱗がパリパリと取れ、光って消えてゆく。


ドクンッ!!


胎動し、刃が倍々に大きくなった。


「隠し扉は?」


「ここだよ」


ノノイは無造作に斧を振るって、大岩の下部を薙いだ。刃が一瞬、素通りするように岩に吸い込まれたが、すぐに内部でガンッ! と何かを砕いた。


「!」


幻だった大岩が消え、砕かれた石でできた何かの装置と、その先の岩肌の扉が(あらわ)となった。


「結構高度な幻術だったろ? マメがいなかったらあたしもわかんなかったよ」


「へぇ~」


やはり餅は餅屋、魔法は魔法使いだな。

感心しながらノノイと隠し扉の前までゆく。


「えーと、・・鍵の蛙ちゃんは、お~いっ、ノノイだよっ、御主人から聞いてんだろ? おーいっ」


扉の周りの岩肌や、近くの岩場に呼び掛けるノノイ。マメは蛙を使い魔にしていた。


「・・ゲッコぉーっ!!」


近くの小岩に擬態していた使い魔の蛙が中々の勢いで飛び出してきた。


「うおっ? 無駄にダイナミックに現れんなよっ」


「ははっ、ビクッ、てなってたな」


「っせぇなぁっ! 蛙ちゃん、マメに鍵、預かってんだろ?」


「ゲッコぉ・・んっゲコッ!」


鍵を吐き出す使い魔蛙。


「しまい方と出し方っ! うぇ~っ」


鍵を指先で摘まんで拾うノノイ。


「マメも心配だが、やはり内部が広過ぎるのも気になる。急ごう、ノノイ」


「ハイハイ」


ノノイは微妙な顔で隠し扉の鍵を解除し、扉を開けた。カビ臭い洞窟の臭いがした。


「ゲッコっ」


使い魔は付いてゆく気らしく、ノノイの頭の上に跳び乗った。


「キリヒコ、分かってると思うけどあたし、狭い所で周りを気を利かせて戦うの苦手だから、そっちで上手く立ち回ってくれよ?」


「わかってるけど、なんで屋内戦の仕事、君が受けたんだ?」


「あ~、それなぁ。おっ」


『( `д´)( `д´)( `д´)( `д´)(*ゝω・*)』


「ヤバいっ、マメのストレスが高まり過ぎて最後、変な顔混ざってきたっ!」


「急ぐか・・」


「ゲッコっ」


私達は竜教拠点内部へ駆け出した。

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