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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
981/981

アクティブ道祖神

 1.ライブ開催直前-舞台袖


 観客のざわめき声や緊張感、期待のこもった沈黙とでも言うのか……そういったものが伝わってくる。

 舞台袖は特別な空間だ。

 俺は演者ではないが、舞台袖で開幕の時を待つアイドル気取りどもの雰囲気に何か感じるものがある。おそらく逃げも隠れもできないことを悟るのと、……アイドルとしてのオリジンかな。それは俺にはない何かだから正確なことは言えない。

 しかし少なくともコイツらを駆け出しにした物語には何らかの起点があり、舞台袖というのはそれを想起させる空間なのだろう。


 ……俺がPに就任した頃、【目抜き梟】のクランメンバーはまさに「アイドル気取り」と呼ぶに相応しい集団だった。

 どいつもこいつも何かしらの問題を抱えていた。

 べつに本気でアイドル目指してねーしとか言うヤンキーみたいなヤツも居たし、真面目なフリしてメンバーの情報を外部に売ろうとしているカスみたいなヤツも居た。リリララの才能を妬むあまり無理心中を図るヤツ、収録をするスタジオに俺を人質に立て篭もるヤツ、そもそも別の目的で【目抜き梟】に潜入した政治犯、元殺し屋などなど……ちょっと信じられないレベルの問題児の集まりだった。事件を起こすたびに仕方なく俺が解決してやったものの、その後に脱退するでもなく、しれっと居残っているので、俺は劇場版・名探偵コナンで核心に迫った人物がうっかり生き残って本編に顔を出したような据わりの悪さを感じたものだ。劇場版最新作『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』大ヒット上映中だぜ。

 ただ、まぁ……そんなヤツらにも才能の片鱗らしきものはあった。というか、社会なんつぅ意味不明なファンタジー世界を十年、二十年と生きてきたなら異常な能力の一つや二つは身に付くのだろう。それをどう活用するかだ。例えるなら鰹節をかんなで削るように、ちょっと普通に考えたら思い付かない組み合わせというのはある。俺はそういうのをこじつけるのが得意だった。口が回るのでね。


 そして、今。

 アイドル気取りでしかなかった連中が、舞台袖で円陣を組んで声を掛け合っている。目端の利くメンバーがやりがちなミスに注意喚起しつつ、体調やメンタルをチェックするのだ。【目抜き梟】のボスはリリララだが、彼女にそういった細かい仕事は任せられない。俺はそれでいいと思っている。リリララは誰よりも金を稼ぐ女だ。実績No.1の女が頭を張る。そういう集団があってもいい。

 今回の声掛けは特に念入りだった。ガチガチに緊張している新入りが居るからだ。言いたいことは山ほどあるが、無理に詰め込むと逆効果かもしれない……。自然と声掛けが収束し、ライブメンバーの目線がネフィリアPに向く。

 ネフィリアPは壁にもたれ、腕組みなどして舞台袖の端から観客席を注視している。

 特別な目を待ち、頭脳明晰。勘所を自分で抑えずには居られない……鍋奉行に近い気質を備えた彼女は、どんな集団でも大抵は中心的な役割をこなす。

 頼りになる女。

 そんなネフィリアPがライブメンバーの視線に気が付いて、チラッと俺に目線を振る。お前が何か言えということ。

 この流れは毎回恒例だ。

 俺とネフィリアは似た考えを持つ。演者は完璧なライブを目指すが、一回や二回トチッてもフォローできる。なんならご愛嬌で済む。バズる契機にすらなり得る。アイドルは競技者ではない。大切なのは精いっぱいやって来たという過程なのだ。

 だからネフィリアは演者側よりも客を警戒している。看過できない問題が起きるとすればそっちだ。俺も本音を言えばそっち寄りだが、何事も肝心なのはバランスで、誰かがアイドル気取りに寄り添ってやったほうが良い。衆人環視の中、歌って踊るのは軽作業とは言い難い。これから重労働をやって貰うのだから、せめて気持ち良く送り出してあげたいじゃないか。

 俺はフンと鼻を鳴らした。ネフィリアから俺にパスが渡るのはいつもの流れなので、アイドル気取りどもの視線は俺に向いている。

 俺はニヤッと皮肉げに笑った。言う。


「ま、どッてことねーよ。行ってきな」


 スタッフぅ〜と声を掛けて恒例の花道を作る。

 ライブは演者だけでは作れない。裏方とのキズナだの思いだったりが演者の熱意に結び付く。ここで大切なのは次に繋げることだ。やる気、モチベーションは「成果」とセット。今ここで蓄えておくのが一番効率が良い。成功体験を植え付けておく。

 花道を作るスタッフと手を打ち鳴らしてメンバーがステージに出ていく。

 俺は最後の一人とハイタッチして、そいつの手をギュッと握った。

 ノブヲだ。彼女は緊張のあまり血の気が引いて青褪めていた。正直、今のコイツに何を言っても無駄だろう。仮に先生ならどういう言葉を掛けるか……。

 俺は尊敬する人物にあやかろうとしたが、うまく想像できなかった。仕方なく嘘を吐くことにする。


「ノブオ。二つ目の音を外すな。俺はお前みたいなトーシロに毎回そう言ってる。うまくやるコツだよ。忘れるな」


 それっぽいことを言う俺に、ノブヲは藁にも縋るように俺の手を両手でギュッと握ってコクコクと頷いた。

 俺の手を離そうとしないノブヲを引きずってステージに放り出す。おらイケっ。

 コツなどというものはない。どれほど身に付いていて、流れに乗れるかどうかだ。

 傍らに立つネフィリアに俺は尋ねる。

 大丈夫か、あれ?

 ネフィリアは微かに笑った。


「ふっ、心配するな。アレはモノが違う。私にこうまで言わせるのは、ヤツで二人目だよ」


 スポットライトと共に大歓声が降り注ぎ、光で満ちるステージで、浮き足立っているノブヲにヌッと手が伸びる。

 予定にはない行動。リハーサルを完全に無視しやがった……。

 手を差し伸べたリリララが挑戦的な眼差しでノブヲを見る。


 リリララはノブヲをライバル視していた。

 ネフィリアPを除き、ノブヲの才覚に逸早く気付いた人物だ。


 舞台袖でネフィリアPがニヤッと笑う。


「天才にしか分からん。そういう領域はある」



 2.ライブスタート


 何を考えているのか、ひどく分かりにくい。

 リリララはそういう女だ。

 ノブヲが十三氏族で、【目抜き梟】に所属していないことは知っているハズだ。最初、ダンスホールにノブヲを連れていった時、あの場にリリララは居た。発言こそしなかったものの、お地蔵様みたいにボーッと突っ立っていた。

 ……居ただけで、話は聞いていなかったのかもしれないが。そういうところがリリララにはある。

 いつもぼんやりしていて何を考えているのかイマイチよく分からない電波系女子だが、そんな彼女が今回は珍しくアクティブに動き回っていた。先輩風をビュービュー吹かしてノブヲにダル絡みしていたのだ。

 ダンスレッスンしているノブヲに「そんな簡単なこともできないの?」とか言って自分ができなかったり(ノブヲはできた)、レッスン場の床掃除をノブヲ一人に押し付けようとして結局二人でやったり、自慢の歌唱力を見せつけようとしたのか急にアカペラで歌い出す通りすがりの変なシンガーソングライターになったり……。

 それはハタ目から見るとダルくてウザい芸能界の先輩だったが、ノブヲからするとちょっと変だけど構ってくれるイイ先輩だったらしい。

 一方的にノブヲをライバル視しているリリララにしたって根っこはお地蔵様だ。神仏の類いが思い付きで意地悪をしようとしてうまく行くハズもなく、ただし本人的にはそれなりにがんばったことで満足したようだ。

 一方、珍しくムキになるリリララにネフィリアもご満悦。何気にβ組に対する仲間意識というかブランド価値に敏感で、普段より歩数が多いリリララを見れて嬉しかったようだ。気持ちは分かる。リリララってお供えとかするとご利益ありそうなんだよな。


 そんなお地蔵様が、いつになく俊敏だ。


 観客がワッと沸く。

 彼らは分かっている。【目抜き梟】というクランの主役はやはりリリララなのだ。

 彼女が動く時、【目抜き梟】も大きく動く。

 リリララがノブヲの手を掴んでセンターに引っ張り出した。

 おいおい……!

 舞台袖でスタッフがザワつく。

 多少のミスはカバーできる。会議でマネたちも言っていたが、そもそもオーディエンスは完璧なパフォーマンスをアイドルに求めない。だが、何事にも許容範囲はある。

 止めるか? 機材トラブルを装うことはできる。

 俺はチラッとネフィリアを見た。

 ネフィリアは……。

 逡巡は一瞬。爪を噛み、後方で身構えるスタッフに手のひらを突き出した。続行するということだ。

 ネフィリアが独りごちる。


「リリララめぇ……! お前は昔からそうだ。私の予想を平然と超えていく……! 可愛いヤツ……!」


 ネフィリア、ノブオならやれるッてことなのか……!?

 俺は気が気じゃない。一つや二つのミスなら笑い話で済む。しかしライブをブチ壊しにするのはマズい。トラウマになりかねない。ヘタしたら引退案件だ。

 俺はネフィリアの返事を待たず、肩越しに振り返ってスタッフに目配せした。

 いざとなったら俺がライブを止める。場合によっては……コイツの出番かもな。俺は喉とムネの中間を指でトントンと軽く叩いた。

 スタッフがヒッと息を呑む。

 服で隠れて見えないが、そこには魔石と似た黒い宝玉が肉に埋没している。

 Gum's Gems。

 闇(笑)の使徒を封じた力の結晶だ。


 このゲーム。Gun's Guilds Onlineは、ギルドとの決戦に向けて優秀な兵士を育成するゲームで、弱い種族にはギルドを弱体化させるという役割があった。過剰な力はギルドにコピーされ、取り返しの付かない事態を招く。


 オープニングはリリララのソロパートだ。マイクを口元に寄せてノブヲをジッと見る。

 歌えるでしょ。そう言いたいのか? リリララ。なんだお前は? 何か確信めいたものがあるのか? せめて事前に俺らに言えよ……!

 ……いや、そうじゃないのか。本番だから俺らは手出しできない……ワガママを通せる。そういう考え方なのか。イカれてやがる。

 リリララの歌声が会場に響く。

 リリララの視線がまっすぐノブヲを射抜く。

 ノブヲは魅入られたかのようにリリララから目を離せない。まるで最初からそうすることが決まっていたようにリリララに身を寄せた。

 二人の歌声にオーディエンスが聞き入る。

 ……俺たちは、もちろん知っていた。ノブヲが歌えることを。この短い期間で随分と伸びた。ダンスに至っては教えずともある程度はサマになっていた。自分の身体を想像通りに動かせるのだろう。サトゥ氏もそんな感じだから分かる。想定通りに動けるから不恰好にならないし、真似がうまくて、アレンジ能力が高い。

 だからって……!

 ネフィリアが出し抜けに言う。


「コタタマ。どう見る?」


 止めるべきだ。

 俺は即答した。

 リリララ、あいつ。止まる気ィねーぞ。これじゃチキンレースだ。ノブオが潰れちまう。


「潰れるかな?」


 知ってるよ! アイツが凄いのは……! 課題はプレッシャーをどう跳ね除けるか。ンなのやってみなくちゃ分かんねーからな。でも歌えてるし、本番に強いタイプなのかな。リリララが引っ張ってるようにも見える。アイツは自分の世界に入れるタイプだからな。調子はイイ。かなり。相互作用か。じゃあ問題ないな。このまま続けよう。イヤ、それどころか、むしろ……?

 俺はハッとした。ネフィリアが何を言いたいのか察したのだ。

 ネフィリアPがニヤッと笑う。言った。


「このライブ、あの二人を中心に組み替えるぞ。リリララのアドリブに合わせる。波に乗る。それだけだ。責任は私が取る」


 ……やれるか?

 俺は自問自答する。試しに金属片を宙に浮かべてみる。……動かせる。ギルドの力は使える。スタッフ……。

 俺はスタッフをチラ見した。それはスタッフの実力を疑っているからなのだが、俺の視線を別の意味に捉えたスタッフがネフィリアPに反論する。


「ネフィリアP! そんなの無茶ですよ! 責任を取るって……あの子たちは人生を懸けてるんです! どう責任を取るって言うんです!? イイ加減なコト言わないでください!」


 ネフィリアPは虚を突かれたような顔をした。すぐに気を取り直して、クスッと微笑む。


「ふふ、大袈裟な……。まぁいい」


 思いも掛けず漏れた微笑が驚くほど穏やかなもので、スタッフは赤面した。

 彼女の動揺に気付くことなく、ネフィリアPがずいと顔を寄せる。


「お前、私が欲しいんだろ?」


 完全無欠に思えるネフィリアPだが、そんな彼女にも弱点はある。

 他人の善意や好意に無頓着であることだ。

 つまり鈍い。

 間近に迫った美貌を直視できず、スタッフが顔を逸らした。


「……な、なんでも言うこと聞くってことですか?」


 ナニを言ってる。そうじゃないだろ。

 俺のツッコミはスルーされた。

 ネフィリアPがウンと頷く。


「ウチの連中もまとめてくれてやるよ。好きにしろ」


 ちょっ、ネフィリアさん。言葉が足りてない。【目抜き梟】に移籍するって意味ですよね? 変な口約束やめてください。コイツらチョット頭おかしいんで。俺がマゴッさんに怒られるんスよ。

 リアルJCにお説教されるのは悪い気分ではないが、相手がマゴットとなると俺には兄弟子としてのプライドがあるのだ。

 ネフィリアPに発言の訂正を求める俺をスタッフが凄いパワーで押しのける。


「私たちはナニをしたらいいんですか? 指示を。ネフィリアP。従います」


 おいコラ。小娘どもはダメだぞ。おい! 俺の話を聞け。でこぴんっ、でこぴんっ。

 背伸びしてデコピンを浴びせる俺に、スタッフがぐるっと振り向いてジッと見下ろしてくる。……あんだよ。


「バンシーP。あなたはネフィリアPのお弟子さんなんですよね。ではアナタで手を打ちます。私たちもヒマではない。これ以上の問答は無用。仕事をしましょう」


 俺ぇ? 俺をどーしよっての。俺、男だぜ。ご褒美をくれンのかい? きひひっ。そんな度胸ねーくせにイキんなよ。まぁいいや。小娘どもはダメだぞ。言質取ったかンな。

 よーしスタッフぅ! 半分は俺に付いてこい! アドリブったって今からヤれることには限りがあらーな! 元ある仕込みを利用するんだよゥー! ネフィリアぁ! 空気の読み合いなんて悠長なことはしねーぞ! 俺ぁ退かねー! お前も日和んなよ! 精々派手に事故ってこーぜ!

 ネフィリアPはすでに俺を見ていなかった。舞台袖から身を乗り出してステージを注視しながら、ハイハイとおざなりに手を振る。

 ったくよー! 面白くなってきたぜ!


 伝説のライブが幕を開ける。




 これは、とあるVRMMOの物語

 ふたりは仕切り魔。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
コタタマにプロデュースされたからやらかしても当たり前に居座る様になったのでは?(名推理)
マックスワーク!
この姉弟……お互いに自分が周りからどう見られているかに無自覚すぎて特別な所有権が無かったら薄い本案件ですよ
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