バスケ
1.エッダ水道-【提灯あんこう】秘密基地
リチェットとの特訓の成果を試したい。
俺はネフィリアんちに身を潜め、我が終生のライバル、犬コロのペスが一頭になるタイミングを窺う。
チャンスはあるハズだ。
飼い主のマゴットとて、家の中でもずっと一緒ということはあるまい。しかし小娘どもがなかなか隙を見せない。居間で横になっているペスの周りにいつも誰かしら居る。
ならばペスに動いて貰うまで。
ヤツもまた俺との決着を心待ちにしているハズ。
俺はギンと目に力に込め、ペスのたくましい身体を隅々まで舐めるように凝視した。
ハッとしたペスがこちらを見る。俺と目が合う。
分かるな? 一対一だ。邪魔されたくない。
こっちだ。
俺は廊下の曲がり角からサッと頭を引っ込めて小娘どもの寝室に向かう。
場所はどこでも良かった。邪魔さえ入らなければ。今はたまたまそっちのルートが空いていたというだけだ。
ペスの足音がチャッチャと俺のあとを付いてくる。
嬉しいぜ。ペス。やはりお前も俺と同じ気持ちでいてくれたんだな。
ネフィリアのヤサは、かつてティナンたちが放浪時代に居住区にしていた場所に建っている。とはいえ、身体が小さく、どこでも眠れるティナンのこと。さほど広くはない。つまり小娘ども一人ずつに個人部屋を与えてやるほどの敷地面積は確保できなかったし、その必要もなかった。
要するにプライベートな時間を過ごしたいならリアルの家でやれば済む話なのである。
小娘どもの寝室は三つあり、大体五人ずつ横になって眠れるようになっている。俺がペスを誘ったのはその内の一つだ。
室内にはベッドが仲良く三つ並んでおり、食べ残した菓子や飲みかけのペットボトルなどが床に散乱している。小娘どものだらしない生活が目に見えるかのようだ。
俺は床に落ちている服をササッと畳んでベッドの上に置いた。バッと振り返ってペスと相対する。
今こそ特訓の成果を見せよう。
俺は素早く四つん這いになって突進した。ガッとペスに正面から抱きつく。むんっ。ペスを抱え上げて身体ごとベッドに叩き込む。
以前の俺とは違う。俺はリチェットにボコられたことでレベル7の身体の使い方を学んだのだ。
ベッドの上でジタバタと暴れるペスを強く抱きしめて、ごろごろと寝返りを打つ。超大型犬のペスは膂力で種族人間を大きく上回る。マトモにヤり合ったら勝てない。が、しょせんは犬コロよ。足の構造が寝技に適していない。屈服させてやる……!
ペスがブンブンと頭を振り、俺の肩を前足で突っ張るや、俺の拘束を逃れようともがく。そうはさせじと俺はベッドの真ん中のほうにペスを引きずり込んでいく。
スタミナ勝負だ。
ギシギシとベッドが軋み、何事かと小娘どもが一人、また一人と部屋に入ってきて見学を始めるが構っていられない。コオロギ女が部屋を飛び出していく。
「マゴっちー! タマっちがー!」
くそっ、このパワー! ペスがベッドの端に後ろ足を引っ掛けてぐいと身体をねじった。俺の拘束を脱してベッドから落ちる。くそったらぁ! 俺はバッと服を脱いで放り投げた。上半身裸になってペスに覆い被さる。俺の腕をすり抜けたペスが跳ぶ。俺はとっさに半身をねじった。ペスの牙が俺の首の肉を削ぐ。まだだ!
「ウチの子にナニしてるヤメロ!」
マゴットの強襲。フルスイングされた杖を俺は腕で跳ね除けて前に出る。邪魔なマゴットの腹にしがみ付いてベッドに押し倒した。掛け布団を掴んで目くらましに投げ付ける。掛け布団を飛び越えたペスが俺の頭上をとる。
スチャッと着地したペスを振り返って見る。
俺のペス……。俺だけの……。
俺の首からバッと鮮血が散る。
まだ、だ……。
よろよろと歩いていくが、フッと力が抜けてペスに抱きつく。
へっ、あったけぇや……。
それだけ言い残して俺は事切れた。
2.エッダ水道-【提灯あんこう】秘密基地
っぱスラムダンクなんだよな。
ネタバレはせんけど、結局んトコはスラムダンクよ!
ちゅー訳でバスケしようぜ!
俺は持参したバスケットボールをネフィリアんちの玄関先でダムダムして小娘どもをバスケに誘った。
バスケは身体の接触を前提としたスポーツだ。
つまり野郎と遊んでも俺は嬉しくない。そして5対5の団体競技なので、遊びに誘うなら女キャラの大所帯ということになる。
候補は二つ。【目抜き梟】と【提灯あんこう】だ。俺個人としては【目抜き梟】が良かったのだが、あいつらは仮にもアイドルなので、プライベートで俺とバスケしたなんて知れたらファンが発狂して大炎上する。燃えんほうがおかしい。なんなら俺は縁もゆかりもないキレーなチャンネーにカレシが居たら嫌だし、道行く女連れの男は全員デスノートで裁くべきだと思っている。見ず知らずの他人ですらそんな感じなのだから、多数のファンを抱えたアイドル気取りの連中とバスケはできない。よって消去法で【提灯あんこう】のガキンチョどもとバスケをすることになる。ガキンチョというのが気に食わないが……ワガママは言うまい。ゴツい野郎とバスケするくらいなら、いっそ俺はロリコンでありたい。ガキンチョとはいえ、おっぱいが当たって嬉しくないということはあるまい。大本命のネフィリアも居るしな。
家から出て来ようとしない小娘どもに俺は爽やかに笑った。
スポーツはいいぞ。人数分のユニフォームもちゃ〜んと用意してきた。ゴールポストはないが、イメージで何とかなるだろ。ほら、何してる。早く出ておいで。
しかし小娘どもは微動だにしなかった。
……こうまで警戒されると、それはそれでムカつくな。俺をロリコン扱いするんじゃねえ。
小娘どもを代表してノミ女ことフリエアが口を開く。
「通報しますよ?」
いいや、気が変わった。通報は困る。ヤメロ。
ネフィリア。来いよ。1on1だ。
寝起きのネフィリアが茶椀をチンチンと叩きながらやって来た。小娘どもが左右に分かれて道を開ける。
着ぐるみ……!
……小娘どもに貢がれる日々。ネフィリアはだんだんおかしくなっている。羊を模したもこもこのパジャマをネフィリアがどういった心境で着ているのかまったく分からない。
小娘どもが「カワイイっ」と連呼する。
マゴットが偉そうに胸を張った。
「私がプレゼントしたんだ〜。似合うっしょ?」
ネフィリアは寝ぼけている。身の回りの世話を小娘どもが勝手に焼いてくれるものだから、どんどん自堕落になっていくのだ。
チンチンしていた茶碗と箸をフリエアに押し付けて、堂々と俺の前に立った。偉そうに腕組みなどして言う。
「どうだ。なかなかのモノだろう。あの着ぐるみは私がこういう格好をすると嫌がるんだ」
先生にもその姿を見せたのか。正気の沙汰とは思えん。キサマ、一体どこまで堕ちれば気が済むんだ……。先生のお手を煩わせるんじゃない。魔女め。
「迷惑しているのは私も一緒だ。私の部屋に勝手に入ってきて部屋を片付けるんだぞ。なんだかウチに馴染みつつあるし……」
先生はネフィリアの生活態度を正すべく定期的にここを訪れているが、最近ではもうネフィリア本人をどうこうするよりも小娘どもの教育に力を入れているらしい。
話しているうちに幾分頭がしゃっきりしてきたようだ。ネフィリアが急に真面目な話を始める。
「……十二使徒など私は知らんぞ。どういうつもりだ」
世間では十二使徒を生み出したのはネフィリアということになっている。それはβ組のネフィリアに出し抜かれるのは仕方ないとゴミどもは考えるからで、俺の「手柄」を認めたくないからだ。
十二使徒は新たな脅威ではあるが、プレイヤーからしたら単なる追加要素。新コンテンツである。まして絶対服従の戒律で縛られる使徒は怖くない。危険度が高いのは神獣のほうだ。
しかしネフィリアが言っているのはもっと先のことだ。
「ダッドは使えるコマを欲していた。十二使徒が居れば十分と考えるかもしれない。だとしたら、いよいよ詰みだぞ」
俺はていんていんとボールを弾ませながら言う。
その前に、ハッキリさせておきたいことがある。
ネフィリア。お前は正常個体なのか?
「コタタマ。お前は未だに人の心などというあいまいなものがそれらを分けると信じているのか? 中間種が発見されたそうだな……。何故今になって発見、いや、生まれたのか。兵士として扱いやすいものが正常個体となり、システムで保護される……。随分と上にとって都合のいいルールじゃないか」
陰謀論かよ。今時、流行らねえぜ?
「そうだ。陰謀論だよ。正常個体と異常個体。それらの切り替えは外部で操作されている可能性がある。中間種の誕生は正常個体にガムジェムをコントロールさせるため、という説だな。私が正常個体かどうかなど今はどうでもいい」
いいや、今しかないのさ。
俺は懐から板ガムをパッケージごと取り出した。板ガムを一枚引き上げてネフィリアに突き出す。言った。
リチェットがガムジェム制御のヒントを見つけた。でも今ならまだ間に合う。お前が異常個体ならガムジェムを使えるハズだ。証明ができる。使って見せてくれ。今この場で。
「……何故そうまで拘る?」
許せんよなぁ……。
俺やアンパンを育てたお前が正常個体なのは。納得ができない。それは裏切りなんじゃないか?
俺は、なんとなく異常個体かそうでないかを見分けることができる。俺の感覚で言うなら、ネフィリアは……正常個体だ。ただ、認めたくなかった。否定して欲しかった。
十二使徒か。お前はそうやって、さも自分が被害者であるかのように言うが……。俺がエンフレを出した時、俺はずっとお前に助けて貰いたかった。お前の姿をずっと捜してた。が、さすがは魔女。俺と違ってボロを出さない。徹底してる。山岳都市がどうなろうと知ったことじゃない、平気で見捨てることができる。そんなお前を俺は誇りに思っていた。綺麗だと思ってたんだよ。冷徹、非情の魔女。でも、そうじゃないってんなら……。
俺の勘違いならいいんだが……近頃のお前を見ていると、どうもな……。
さぁ、証明してくれ。なに、大した手間じゃない。ほんの五秒で済む。
ネフィリアは……。
俺が差し出した板ガムに触れようとしなかった。
俺は……。
板ガムを一枚引き抜いて、包装紙を剥いだ。ハッカの味がするガムを歯で噛む。
言った。
ガムジェムの力はエンフレを作るだけじゃない。
通常、スキルの限界突破は同種のカードを重ね合わせる。まぁ相性の問題もあって……サトゥ氏のアビリティなんかも重ねることができた。
でも、手持ちのカードで、絶対にこれは無理というスキルもある。
レイド級のスキルだ。
しかし……ガムジェムの力を借りれば一時的にその限界を越えることができる。
俺は生産職だろ? 手持ちのカードにレ氏のクラフト技能がある。
ただ、サトゥ氏のアビリティもそうだったんだが……限界突破の材料にできるのは原型のスキルと決まってるらしくてな。
クラフト技能の場合は【黄泉比良坂】……反魂の術、蘇生魔法ってことになる。
俺のアビリティは負の感情の伝播。そいつを【黄泉比良坂】と重ねると、どうなるか……。
答えはとっくに出てる。
俺は四つの魔石を取り出して左右の指で挟んだ。
異種交配性のスキルってヤツさ。
【限界突破】
魔石がボロボロと崩れてドス黒い液体が漏れる。
地面に垂れ落ちた黒い液体がぐにぐにと形を変えて、厚みを帯びてゆっくりと立ち上がる。
四人の怨霊が季節外れの怨嗟の声を上げた。
「チョコくれよ」
これで五人。こっちはメンバーが揃ったな……。
ヤろうぜ。バスケ。
これは、とあるVRMMOの物語
意地でも女とバスケがしたい。
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