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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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コタタマの成長

 1.ポポロンの森



 うああああああッ!


 俺は地べたに這いつくばって嗚咽を漏らした。頬を伝った涙がポタポタと地に落ちる。

 マタンゴちゃんが絶滅してしまった。

 最後の一体を粛々と解体したクソ廃人どもがもるもると鳴いて情報を共有していく。

 俺はダンと地べたを叩いた。

 なんで殺したッ!


「もるぅっ……」


 嘆き悲しむ俺に、トコトコと歩み寄ってきたサトゥ氏がしゃがみ込んでポンと肩を叩いてくる。


「もるあっ」


 第二言語に脳を侵された連中は文化レベルすら後退するようで、狩りを終えた原始人のように輪になって踊り始めた。

 もるもると鳴きながら腰をふりふりしているリチェット隊長の派手なスリットから覗く生足が眩しい。

 ……綺麗事だけでは生きていけない。マタンゴちゃんたちは生存競争に敗れたのだ。絶滅寸前の動物を保護するのは、きっと尊い。尊いが、しかし傲慢な行いで、たぶん罪滅ぼしの側面を持つ。

 普段は生真面目でお堅いメガロッパも一緒になって踊っている。お尻を強調するように腰をふりふりして、くるりと回ってぴょんと飛び跳ねた。

 ……赦されざる罪を犯した廃人どもを、俺は赦そうと思う。いや、共に罪を背負って生きていくのだ。



 2.クランハウス-居間


 まぁ絶滅してしまったものは仕方ない。そこそこ稼げたしな。

 レベルも7まで上がったぞ。あれだけ狩って、まだ7かよと思わなくもないが、いよいよ俺も全俺未到のレベル10に到達する日が近いかもしれない。

 上機嫌でマグちゃん手製の藁人形に戒律を刻んでいると、ショート動画に投稿された廃人ダンスをニヤニヤしながら閲覧していた知らないゴミが急にスンッとした。口元を手で覆ってボソリと呟く。


「……妙だな」


 お前も気が付いたか。くるっと回ってジャンプする14秒のトコだろ? パンツが見えたと思ってピンチアウトして拡大するんだが……どうもパンツじゃなくスカートの柄らしい。タイミングもあって、たまたまパンツっぽく見えるんだ。ヤラシイ奇跡はそうと分かっても得した気分になれて嬉しいんだよな。それが悔しい……この程度で俺が満足すると思うな……しかし憎めない……そうだな?


「おおむね同意するが……誰もそんな話はしてねぇ。崖っぷち。天使隊ってのは……ありゃなんだ? お前、なんだってNAiのために働いてる?」


 チッ……。俺は内心で舌打ちした。

 仕掛けてきやがったな、モブが……!

 天使隊の活動そのものに不自然な点はない。ガムジェムを使いこなせない正常個体にマトを絞るのはごく自然な行いだ。

 だからコイツが不審に思ったのは別のこと。ジュエルキュリの件だろう。直接的にそう問えば俺がはぐらかすと踏んでボロが出そうな箇所を突付いた。俺とNAiの不仲は割と知られた話だからな。俺の感情を逆撫でして口を割らせる。そんなところか。

 ……だからイヤなんだよ。パンチラショットを探るという高い集中力を要する作業が知らないゴミの脳を刺激し、一時的に知性が向上したんだ。

 ここはひとまず……。

 俺はマレの一号さんとの間に何かあったように憮然として言う。

 あ? 天使隊だ? それをお前に言って何になる? 金でもくれんのかよ?

 知らないゴミは俺を観察している。


「……お犬様の娘……メノウだったな。彼女のことを調べてもいいか?」


 ……やめとけよ。お犬様に迷惑が掛かるだろ。


「崖っぷち。俺の予想が正しければ……彼女たちにはフォローが必要だ。それは……ハッキリ言う。プレイヤーの大多数を占める俺たちモブにしかできない。そして俺たちはお前が頭を下げれば気分良く働ける。優先順位を取り違えてやしないか……?」


 違うね。俺は内心で呟いた。天使隊の結成とメノウの登場をヒモ付けして考えたという時点でお前は危険分子なんだ。モブを味方に付けろって? それも違う。俺がどういう態度を取ろうが、お前らはAI娘たちを守るさ。アイツらをドラゴンボール扱いするクズも中には居るってだけの話だ。そいつらを説得することはできない。コケにされたフリーザ様に何を言ったところで無駄なようにな。

 つまり俺は今からコイツを殺そうと思う……。殺して埋めれば大抵のことは解決するんだ。


「レベルが」


 知らないゴミがボソリと言った。


「上がったようだな……。5は越えたか。6か7……」


 オンドレぁ!

 俺はインベントリから取り出した斧でゴミの首を刎ねた。ヨシ!

 うっ……! 知らないゴミが俺の喉に斧の刃をぴたりと当てた。ズリ落ちそうな首を手で押さえて……い、生きてる? ブーステッドマンの強制執行か? いや、それにしては……。


「俺はボランティアだ。こういう強制執行の使い方もある」


 ぬぬぬっ、モブキャラめぇ……!


 ボランティアは弓職の三次職だ。俺は三次職と四次職についてあまり詳しくない。複雑すぎるのだ。

 だがボランティアは「志願兵」のこと。編成によって使えるスキルが変わるという特性は他に類を見ない。ブーステッドマンの単純な下位互換ではないということだ。

 ……少しでも動いたらヤられる。このゴミのハシャギっぷりは相当だ。得体の知れないワザで回避と防御を省略した。そのぶん俺より丸々一手先んじている。

 強くなったな。本当に強くなった。かつての俺は思い切りの良さでモブキャラを圧倒していた。それは、言ってしまえば本来であれば必要な手順を省略することで得られた速さだった。しかし今のモブにその手は通用しない。

 なら俺も以前とは違うってトコを見せてやらないとな。

 火器管制をウッディに託し、俺が斧で戦うというコンビプレイ。脳を酷使するらしく、思考が圧迫されて変な何かと接続しそうな怖さはあるが、疑似的に二対一の状況を作り出せる。

 勝敗は一瞬で決するだろう。

 知らないゴミとて、俺がこのまま屈さないことを理解している。

 活性化したアビリティが衝突、拮抗し、バチバチと黒い火花が上がる。

 一瞬の間。

 まばたき一つにも満たない刹那に、俺と知らないゴミの想いが交錯し……。

 俺の肌からギョンギョンと枝分かれした銃口が伸びる。知らないゴミの斧が俺の首に食い込む。俺は仰け反りながら斧を跳ね上げた。知らないゴミはレーザー光線を警戒。回避に意識を割かれたことで攻撃が甘くなる。それさえなければ俺の首を刎ねていただろう。肉を削がれて俺の首から血が吹く。致命傷ではあるが即死するほどじゃない。知らないゴミが目を剥く。俺から生えた銃口は正確に知らないゴミを追尾していく。おざなりではない。直感的な操作ではない。


「崖っ……!」


 ゴミが仰け反り、俺の斧が空を切る。ウッディのレーザー光線がピュンピュンと放たれる。ゴミがスラリーを使用。崩れた体勢を無理やり維持しながら跳んだ。側転しながら斧を振る。回避モーションに追い込んだ。ここだ。俺は踏み込む。ウッディが伸ばした銃口で俺をガードする。回避モーション中はスラリーを使えない。俺は雄叫びを上げて斧を振り上げる。イケる。決まる。だが、俺はあえて後退した。階段をトントンと降りてくる足音がしたからだ。ゴミの斧で断ち切られた銃口がバラバラと宙を舞う。残った銃口でピュンピュンとレーザー光線を放って牽制しながら素早くウチの丸太小屋を出ていく。ウチの丸太小屋は現在鬼太郎ハウスみたいになっていて、デカいキノコに土台ごと持ち上げられている。デカいキノコというかキノコが生えた変な木だ。ゴミの追撃を警戒しながら木の幹をするすると下っていく。ウチの丸太小屋からスズキが出てきた。ゴミは追ってこない。スズキは居間にいる知らない人が気になるようで、後ろを気にしながら、ぴょんぴょんと小刻みに跳ねて木の幹を下ってくる。顔をこちらに向けて、中腹で待ち受ける俺に気が付いて「あっ」と声を上げる。ひらめくスカートの端を慌てて押さえた。

 俺は紳士だ。スズキのパンチラに気が付かないフリをする。首の出血が止まらない。銃口をウチの丸太小屋に向けたまま、手に持つ斧を低く構えた。

 スズキは俺とゴミが交戦中であることを察したようだ。パンチラどころの騒ぎではないというような顔をしている俺にホッとしながら俺に手を振ってくる。


「買い物行ってくるね!」


 俺の膝がガクリと折れる。首から噴出する血が俺の半身を赤く染めていく。血が足りない。酸素の運搬が滞ったことで息が切れる。

 スズキがサッと頬を赤くして、ぜぇぜぇと息を荒げる俺の横を通り過ぎざまにボソッと言った。


「……見た?」


 俺は頷く代わりにズシャアッと顔面から木の幹に倒れ込んだ。寒い。急速に体温が失われていく。

 死にゆく俺を尻目に、スズキがぴょんぴょんと木の幹を下っていく。


「えっち」


 平坦な道を行くように、くるっと反転してこちらを向いて、後ろに跳ねながらそう言った。すぐに正面を向いて走り去っていく。

 俺は満足げにまぶたを閉ざし、そっと息を引き取った……。




 これは、とあるVRMMOの物語

 パンチラが分けた勝敗……。



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[良い点] コタタマの癖にまた格好いい戦してる [一言] モブ自分でモブ言うのか・・・
[良い点] 火器管制をウッディに任せる戦法、普通に強いんだよな。 [一言] パンチラを探す作業によって集中力が上がり突然知能指数があがるゴミ軽くホラーだろ。そりゃ崖っぷちも頭抱えるわ。
[良い点] 戦闘描写イイね! 最近いろんな描き方試してるように感じるけど、どれも甲乙つけがたい [一言] 冷静に考えて、家の前でPvPやってんのに「買い物行ってくるね!」はおかしくない? どんだけ殺し…
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