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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
704/990

コタタマの初心者講習会

 1.山岳都市ニャンダム


 集まったチワワは七人。

 ポチョ隊が三人、スズキ隊が四人をそれぞれ集めた。どうでも良さそうな情報だが一応頭に入れておく。

 ポチョとマグちゃんを組ませたのはマグちゃんが生産職だからだ。職業の相性だけで言うなら鍛冶師のマグちゃんは弓職のスズキと組ませたほうが良いのだが、魔法剣士の赤カブトは前衛も張れる。その点を加味すると、マグちゃんと組ませるのはポチョという結論になる。このゲームは魔法アタッカーの火力が桁外れに高い、が、前衛が居ないと戦隊として成立しない。敵が自分はここに居ますと宣言してから一定のスピードで接近してくることなどないからだ。スパロボ大戦で言うなら敵の増援はホワイトベースの真横に出現する。それがVRMMOというジャンルの基本仕様である。

 単純に比較するなら集客力に関してはスズキ・赤カブト組のほうが上だった。そういうことになる。それはロリ属性の強さを表したものかもしれないし、そうではないかもしれない。マイナー属性が取り沙汰される昨今、なんだかんだで強いのは王道キャラという考えを俺は持っている。明るくて元気な赤カブトがそうだ。しかしそれは言ってしまえば俺の贔屓目もあるかもしれない。赤カブトはポチョやスズキと違って目に見える武器を持たない女だ。だからそれを内心哀れに思っている俺が赤カブトの印象を上方修正しているだけのことかもしれない。

 俺はとんでもなく失礼なことを頭の中で素早く計算してから、改めてウチの子たちの色香に迷って集まったチワワどもを睥睨する。

 完全体の羊さんたる俺の登場にチワワどもがオオと感嘆の声を上げる。


「隊長機だ……隊長機が出てきた……」

「なんかぼったくられたような気分だな……」

「あんなカッコして暑くないのかな……?」

「あの人形は一体……」


 暑いさ。暑いが、そんなことは大事の前の小事。

 ……さて、どうするか。

 先生に倣うなら、この場はいったん解散して後日正式に講習会を開催するのが正しい。

 しかしこの人数。これだけの人数が集まったならこの場でやってしまうのも手だ。問題はウチの子たちに仕込みの期間を与えることができないこと。ならば……。

 俺は一言断って整形チケットを取り出した。少しばかり時間を貰ってバンシーモードを引っ張り出してくる。

 待たせたな。俺が【ふれあい牧場】のクランマスター、コタタマだ。

 チワワどもは「何故女キャラに……?」という目で俺を見ている。

 俺はその疑問に答えてやった。

 野郎に教わっても嬉しくないだろ。俺は礼儀を重んじるからな。マナーと呼ばれるものの根っこにあるのは他人を不快にさせないこと。それに尽きると思っている。

 ……女キャラに化けた理由はそれだけではないのだが。クランマスターの俺が一人だけ男というのは女を侍らしやがってという無用な妬みを買う。目の前で化けたので俺の正体が男キャラというのはバレているが、今の俺が女キャラという事実は記憶や想像を容易くねじ伏せる。

 もっともそれは現段階ではまだ教える必要のないこと。この場でそれを教えても、何人かのチワワはそんなことはないと反論してくるだろう。現代日本に生まれ育ったコイツらは男女平等などという下らないリアルの幻想に囚われているのだ。VRMMOにおいてそのような甘っちょろい理想論は通用しないという理屈をこの場で教え込むのは手間だ。

 俺は腰の後ろで手を組み、整列したチワワの前を行き来する。横目でチワワどもの反応を観察しながらレクチャーを始める。

 さて……まず最初に言っておく。俺はお前らがどんな人間で、何を思ってウチのメンバーに声を掛けたのか知らない。当たり前のことだ。俺たちを選んだのはお前らだからな……。

 チワワの一人が何か言いたそうに挙手したが、俺は無視して続ける。

 だが、お前らの用件は大体想像が付く。これから何をしたらいいのか分からない、メニュー項目の不備、宇宙人は居るのか居ないのか、魔法の使い方……そんなところだろう。

 俺はそう言って挙手したチワワを見た。チワワが挙げた手を引っ込めておずおずと言う。


「まぁ、ハイ。あの、武器について、なんですけど……たぶんリーダーの言う中に入ってます」


 いや、悪くない。お前らが持ってる武器はチュートリアル産だろう。ウチは攻略組と言うほどじゃないが、クラン専属の鍛冶屋が居る。装備は充実しているし、それに目を惹かれたというのもあるだろう。まぁその疑問についても今回の講習会で自ずと解決していくと思う。他に質問は?

 チワワの一人が元気良く挙手した。


「あの! なんでこんなことやってくれるんですか? そういう、えっと、初心者向けの活動をしてるギルドなんですか?」


 ギルドじゃなくてクランな。プレイヤーズギルドはタイトルによって呼び名が様々だが、このゲームではクランと呼ぶ。ギルドと呼ばれるものが別に居るからな。混同を避けるための措置だろう。

 さて質問に答えよう。そのためには、まずこの世界に伝わる神話を理解する必要がある……。

 スズキが小声で言ってくる。


「サム8? コタタマっ、神話はまた今度にしよ?」


 アンちゃん可愛いよな。駆け足気味になっちまったが……もっとじっくり読みたかったぜ。サム8議論は長くなる……この話はまた今度な。

 やっぱり俺は先生みたいに上手くはできない。ウチの子たちのフォローが必要だ。

 続けよう。

 簡単に言えば……俺たちには尊敬する先生が居た。その先生が居たから今の俺たちが居る。俺たちは先生の真似をしてるだけだ。でも何もしないよりはマシだと思っている。別に新手のクランメンバー勧誘とかじゃないから安心していいぞ。というかウチは新メンバーを募集してないしな。まぁ俺はともかく、ウチのメンバーはそこそこ粒揃いだ。ベテランプレイヤーと知り合えてラッキーくらいの感覚でいいんじゃないか。

 ……今のところチワワどもに不審な点はない。これだけ居ればロスト帰りが一人や二人混ざってもおかしくないんだが……ボロは出さないということか。

 俺はニカッと笑った。

 話を聞くだけってのも退屈だろう。今から試しに狩りに出るぞ。闇ダンっていうイイところがあるんだ。

 赤カブトがギョッとして俺の腕をくいくいと引っ張ってくる。


「ペタさんっ、闇ダンはダメっ。なんで闇ダンなのっ?」


 鉄は熱いうちに打て、さ。俺には分かる。コイツらは打ちのめされたいんだ。平和ボケした日本に生まれて、自分はこのままでいいのかと不安で仕方がない。走り出そうにもドコに向かえばいいのか分からないし、ネットの民は訳知り顔で日本ほど恵まれた国はないと言う。でも、そうじゃないんだ。SNSが当たり前の世の中になって価値観はどんどん刷新されていく。それは進化だ。コイツらにとって「国」という枠組みは窮屈なものになりつつあるんだ。笑える話さ。俺たちは子供に無限の可能性があると言いながら……実のところソイツらの可能性を試そうとしない。だからコイツらは自分の限界がドコにあるのか知らない。自分の持ち物が何であるか正確には知らない。誰も教えてやらなかったからだ。

 なら俺が教えてやる。

 俺はザッときびすを返した。

 付いて来いッ! 闇ダンへ行くぞッッッ!

 

 コールドリーディング。誰にでも当て嵌まるようなことをもっともらしく言うごくありふれた手口だった。今時、大して珍しいことじゃない。占い師に診て貰おうとしたら斜に構えてそういう知識を自分は持っているという輩も多いだろう。が、俺は街角で分かりやすく占い師の看板を立ててやらないから……大抵のチワワはこの手に引っ掛かる。占い師にしたって本当にやりにくかったら別の皮を被るんだぜ。やってることは経営相談と同じだからな。

 チワワどもが「ハイ!」と元気良く返事をして俺を追い掛けてくる。

 彼らに背を向けて歩く俺の歯列が鮮烈な光を放った……。


 俺の初心者講習は始まったばかりだ。




 これは、とあるVRMMOの物語

 どこぞのセミくんも似たようなことをやっていたような……。



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[良い点] コタタマが署に連行されてたから真っ当な子だけ集まったんですね [気になる点] 闇ダンのトラウマで彼らの未来がどうなるか…
[一言] ロスト帰りの偽新人はチャンネルが違うから女の子の勧誘では遭遇しないんじゃないの
[良い点] もはや確定演出......
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