プレゼントを買うだけの話
1.山岳都市ニャンダム
俺は落ちぶれた。
見るからに装備に金を掛けていて身なりのいい男性キャラクターにしがみついて慈悲を乞う。
だ、旦那。チョコを……義理チョコをどうか俺に……。
冷たい目で俺を見た男性がドンと俺を突き飛ばして早足で歩き去っていく。
俺はそのことについて何も思わない。今回もダメだった。それだけだ。次にお願いする相手を吟味していく。
しかし何度やってもダメだった。無言で突き飛ばされることが多く、しかし中には俺に優しくしてくれる人も居た。
「……義理チョコを持ってるヤツがそう都合良く現れることはないよ。金持ちが大量に貯蔵してるっていう噂はあるけど……それもどうかな。結局……チョコって食べ物だからさ、金とは違うんだよな。こんなことやっても無駄だって。さ、立って……」
俺は彼を殺して埋めた。俺に諦めるよう言うのは義理チョコを隠し持っているからだと決め付けた。でも彼は義理チョコを持っていなかった。優先ドロップの仕様。持っているなら殺せば落とす。
つまり彼は本当に善意から俺に優しくしてくれたのだ。
俺は彼を山に埋めてから、彼を疑ったことを恥じた。自分に言い聞かせるようにボソボソと独り言を口にする。
そ、そんなつもりじゃなかったんだ……。殺して奪おうだなんて、そんなつもりはなくて……。か、確認を。俺は確認をしようと思っただけなんだ……。
俺は目撃者が居ないことを確かめてから、逃げるようにその場をあとにした。
……俺は知っている。モグラ帝国の国庫には腐るほど大量の義理チョコが保管されていた。俺がスマイルくんに殺されて元鞘に収まったことでひと段落しテキトーにもぐらっ鼻は解散して……義理チョコの在り処は誰にも分からなくなった。
激しい後悔が俺を苛む。くそっ、あの時の俺はどうかしてた……! チョコは食べ物、金とは違う。その通りだ。奪われたらその場で食われてなくなるものを長期間保管して値が釣り上がるのを待つというのは無理がある。しかもその味は極上で、食べた数がステイタスになる。
元を正せば俺の手柄なのに……俺はョ%レ氏の義理チョコを一つも食えていなかった。
こ、こんな筈ではなかった……。
降りしきる雨の中、俺は人目を避けるように走った。
歴代最弱にして最悪の君主。戒律に呑まれて暴虐の限りを尽くし、システムに職を剥奪された男として俺は有名になってしまった。街中を歩いているだけで後ろ指を差される始末だ。
やり直したかった。もう十分に反省したのだからいいだろうと声高に叫びたかった。もっと俺に優しくして欲しかった。
2.クランハウス-居間
うあ〜ん! ポチョ子〜! ゴミどもが俺をいじめるんだよ〜!
「ママっ、ママっ」
ポチョ子が両手を差し出して俺に抱っこを要求してくる。俺は求められるがままに彼女を抱っこした。
ポチョ子が俺にぐりぐりと頬ずりしてくる。俺に元気を出してと言いたいらしい。
動物みたいな励まし方だが……服越しに伝わるポチョ子の体温と耳元をくすぐる息遣いに俺の涙がピタッと止まり、頬を濡らす涙が瞬時に蒸発した。
俺は元気になった。
洋モノのポチョ子はスタイルが良く、ウチの子たちの中では間違いなく金メダル。身体を密着させることで得られるセラピー効果は最強だ。
そう、チョコレートなどしょせんは女子供が喜ぶもの。他に美味い食い物など幾らでもある。むしろ俺は野郎の義理チョコを食わずに済んだ……そう考えるべき。女性の手作りチョコを食べて、暫定エイリアン手製などという卑劣な設定のチョコと味を比べることはない。それは俺というキャラクターの大きな強みになりうる。
余裕を取り戻した俺はポチョ子をナデナデしながらソファに座った。
俺とポチョは【ふれあい牧場】のクラマスとサブマス。今後はより密接な連携をしていく必要がある。
ポチョ子や。ウチの子たちはちゃんとチョコを食べれたのかい? 女キャラにも義理チョコは配布されたんだよな? それは知ってる。でもさ、ほら、コゴローとかは配布の対象外だろ? 心配でさ……。
「うん、みんな食べたよ。コゴローも。なんか戦争してたら普通に落っことす人多かったから。ポチョ子はね〜、十個くらい食べた」
そう、なんだ? どんな……味だった? 俺は……まだなんだけどさ。言うてもチョコじゃん? 期待しすぎるのも良くないのかなって。うん。
「美味しかった! 新しい味! なんて言えばいいのか分かんないから、ママも食べたほうがいいよ〜」
ほ、ほう……。新しい味ね。なるほど。十個くらい……。なるほど。
……でも俺は、チョコなんかよりポチョ子のほうがいいな。
「やだぁ。ママったらぁ」
俺の歯が浮いてふわふわと空中を漂う。頬を赤らめたポチョが甘ったるい声を上げて俺にぐいぐいと身体を押し付けてくる。
新しい味……。コゴローも……。
俺の頭は義理チョコでいっぱいだった。
3.人間の里-女神像
地下祭壇から這い出した俺は、歩きながら再就職について考えた。
君主を剥奪されて無職になってしまったのだ。
細工師に戻るにはイケ好かないクソ運営の偶像に頭を下げてお願いすることになる。判定そのものはさほど厳しくないのだが、俺の場合は心にもない美辞麗句を並べ立てることになるため精神衛生上あまり良くない。またメガロッパ辺りにでも原稿を作って貰うか。
そのことである。
結局は俺が読み上げるので一緒なのだが、メガロッパが作ってくれた原稿なら俺はかなりの部分まで納得できる。俺の心情にある程度は寄せてくれるし、クソ運営の自尊心をくすぐるのが巧い。俺が原稿を書くと、どうしてもおフザけを入れてしまうと言うか……就職するために仕方なく道化を演じてますよという感じを前面に出してしまう。こんな俺にもプライドはあるのだ。その点、メガロッパが書いた原稿だからという言い訳は俺にとって良い作用を齎してくれる。
とはいえ毎度のことなのでタダで書かせるのも忍びない。何かイイ感じの手土産を持っていくとしよう。何がいいかな〜。
俺はなんだか楽しくなってきた。
プレゼントを考えるのは楽しい。ちょっとした大喜利気分だ。
ウチの丸太小屋に戻ろうとしていたのだが、露店バザーに向かうこととする。ポチョ子が俺の帰りを待ってるかもしれないので、ささやきで『良かったよ』と言って就職活動のために露店バザーに寄る旨を告げた。その足でクソ廃人の巣窟に顔を出すので帰りは遅くなるかもしれない。
ポチョはダンス勝負に備えて【目抜き梟】のレッスンに参加してくるらしい。どういうこと?と思ったが、ポチョにはポチョなりの人付き合いというものがある。俺以外の男と会うんじゃないなら別にいいかと軽く流した。
たぶんインド絡みだろう。インドサーバーのプレイヤーは世界各国で活動しており、たまにフラッシュモブみたいなことをしてくるのだ。フィールドでモンスターとダンス勝負して負けてるのも見掛けるし、同じ世界を生きてるのにゲームジャンルからして俺たちとは違うらしい。
まぁMMOだからな。戦闘ばっかりしてる俺らのほうが変なのかもしれない。VRMMOというジャンルの特性を生かそうとしたら、このゲームは配信を前提としたマインクラフトのような遊び方のほうが理屈としては正しいのだ。【強制収容】眷属の家を全員分建ててみた【もぐらチャレンジ】みたいなね。
ささやきを終え、俺は自分の首を手刀で軽くトントンと叩く。頭がポロッと外れた。さくっとワープして山岳都市に向かう。
露店バザーに到着。露店を見て回り、俺の就活をサポートしてくれるメガロッパに贈る手土産を探す。
やっぱ武器かな。あいつ血に飢えてるしな。でも武器プレゼントしたら、これで俺のこと殺してねみたいな変な意味にならん? それちょっとキショくない? 大丈夫? 俺を殺したがる感覚が全然分からんからセンシティブのラインがどこにあるのかも全然分からんのよ。しかも無理に聞き出そうとすると俺が無知なフリして女に卑猥なこと言わせようとしてるみたいな感じになるからな。それ言うならすぐにソッチのことだと思うのもそれはそれでどうなん? エッチなことに興味津々じゃんねっていう。俺は全然アリだと思います。エッチなこと大好きな女の子は全然アリです。じゃあ武器にしようかな。でもアイツらクラン専属の鍛冶屋抱えてるし、そこら辺の露店で売ってるのよりイイ武器持ってるんだよな。なんか、こう、俺の性癖に刺さるようなド派手に殺せる武器ないかなぁ。微妙に実用性があって、ちょっと変態的な感じの……。
俺は露店で売りに出されている商品を眺めているフリをしてゴミどもの視線が切れた一瞬の隙を付いてするりと路地裏に入った。尾行者が居ないことを確認しながら路地裏を抜けて怪しい倉庫に入っていく。
アナゴっち〜。居る〜?
以前にマゴットの鎖鎌を求めて訪ねたらガマコートを売りつけてきた鍛冶屋である。
相変わらず不健康そうなネカマはぱっぱとエーテルを吸ってトリップしていた。
「あへ〜」
ヤメロヤメロヤメロぉ! 俺はアナゴが吸っているエーテルをパッと取り上げた。
オイッ! これエリクサーじゃねえだろな? 見た目が一緒だから区別が付かねんだよなぁ。
アナゴが地獄の亡者のように俺にしがみ付いてきた。俺が取り上げたエーテル(?)にちゅっちゅと吸い付いて落ち着きを取り戻す。
「エーテルに決まってるじゃないスかぁ」
……分かったよ。返すから。くっ付くな。
酔っ払いみたいに脱力しているアナゴを椅子に座らせてやる。ほら、ちゃんと咥えて。だらしねえなぁ。エーテルをちゃんと咥えさせてやる。
アナゴは美味そうにぱっぱと紫煙を吐いて、
「あ〜……これ最高っスわ。キマるぅ」
お前、人前でそれ言ったら承知せんからな。俺のモットーはクリーンな仕事でキレーなお金なんだから。お前みたいなのが俺の評判を下げるんだ。アヘ顔ヤメロ。
じっと俺を見つめるアナゴの目の焦点が徐々に合ってくる。
「……あれ? パイセンじゃないスか。珍しいスね。どうしたんスか急に」
変態女が変態的な武器を欲しがっててな。
俺は細かい経緯を省いて必要なことだけを伝えた。
「エロいっスねぇ。体格はどんな感じスか?」
普通かな。おっきくもなければ小さくもない。形はいいと思う。
「拷問に使うとか?」
いや? なんて言うか、微妙に実用性があったほうがいいらしい。街中で持って歩いても「あれ?」で済むような。分かる?
「業が深いっスねぇ」
メガロッパは業が深い女らしい。困ったものである。
でさ、色々あんなら見してよ。俺はそういうのに詳しくないんだけど、一応頼まれモンだしさ。実際に目で見て確認したいんだよね。
「うぃ。いいスよ」
アナゴっちはひと目で武器と分からないようなズルい武器を作ることに心血を注ぐ鍛冶屋だ。そんなニッチな商売が成り立つのかと思わんでもないが、開発費用が賄える程度には売れているらしい。分からんもんだね。
アナゴっちが棚をゴソゴソと漁りながら言う。
「意外とチラホラ居るんスよね。変態女さん。あと、言っとくけどどれも高いスよ。俺みたいなのは一点物しか作んないんで」
金に関しては心配すんな。俺は色々と手広くやってンだ。手持ちで足りなきゃ持ってくるよ。
アナゴっちは受け答えしながら用途すら分からんブツをポイポイと放り捨てていく。
雑だな。ちょっとは片付けろよ。俺は床に放り捨てられたブツを仕分けしていく。用途は分からんが、俺くらいになると手に取って眺めれば可能性を感じることはできる。これは可能性を感じる。これは感じない。
アナゴっちが目当てのブツを発見したらしい。武器と言うにはいびつな形状をしたものを机の上にゴトゴトと置いていく。幾らか棚のスペースに余裕が出来たらしく、邪魔なブツを空いたスペースに除けながら机の上に置いたブツの用途を解説してくる。
「右端の頭巾はバーサク状態に入れるヤツっスね。殺意増し増しっスよ。なかなかの自信作なんスけど、女の子の顔が見えるのがイイって言われて売れないんスよ」
そりゃな。顔は見えたほうがいいだろ。ああ、こんなに散らかして。おい、テキトーに置くな。いっぺん全部出して空にしちまったほうが早いんじゃねえか?
「どこにナニ置いてるか覚えてるからいいんスよ。真ん中の箱みたいなのはレ氏の玩具箱を真似しようとした失敗作っスね。戒律の打ち込みをマズったみたいで夜中にゴトゴト動いてキショいんスよ。できたらさっさと売っ払いたいスね」
そんなこと言われて誰が買うか。ちょっと足邪魔。股開け。下段の棚をいったん空けるぞ。俺はアナゴっちの股の下を潜って下段の棚を空けていく。この棚、仕切り板の高さ変えられないんか? イヤ……イケそうだな。高さを変えてデカブツを下段にまとめよう。
「パイセン。体勢がキツいっス。パイセンを椅子にしていいスか?」
椅子? ああ、肩車するってことね。好きにしろ。ちょっと動くからコケないよう棚に掴まっとけよ。
俺の首に尻を落としたアナゴの太ももが俺の頭を挟む。余計なブツをポイポイと俺に手渡しながら、
「左の三つはパーツ別になってて、組み合わせると、なんて言うんスかね。マッシュポテトをくり抜くヤツ。ああいう感じになるんスけど」
ディッシャーか?
「名前言われても分かんないスけど。とにかくああいう感じで骨ごとイケるっス。でも魔力がないとダメなんでパイセンには合わないっスね」
舐めんな。イケるわ。俺のメラを見たらお前びびるぞ。俺のメラゾーマはカイザーフェニックスとか呼ばれてるからな。ダイ大ね。まぁいったん保留で。なんか地味だし。
俺の首から尻をどけたアナゴが机の上に最後の一つをゴトリと置いて言う。
「で、これが俺のイチオシっスね。バールのようなものっス。魔力を流してこうやって広げると……」
バールのようなものの先端部が扇のように広がる。薄い刃を重ね合わせてあるのか。
「そう。振った勢いで広がるんで鎌みたいに使えるんスよ。重さが足りないんで切れ味は保証しないスけど、そのぶんエグいことになるっス」
ふうん……。じゃあソレと頭巾にしようかな。なんか猟奇的でイイ感じじゃね? ラッピングできる? リボンで可愛らしい感じに飾ってさ。
「あざす。できるっスよ。なんかマジに謎な需要があるんで」
じゃあそれで。
そういうことになった。
これは、とあるVRMMOの物語
花開く猟奇文化。
GunS Guilds Online




