西へ
1.クランハウス-居間
チワワどもはチワワの楽園を求めて亡命しようとしているようだが、なにぶん初心者なのでエンフレ航空機の手配もひと苦労だ。俺ならすぐにでも手配できるのだが、ここはお手並み拝見と行こう。
その間、俺はピエッタさんのイベントCGでも集めておくか。
ピエッタは抜け目のない詐欺師ではあるが、プライベートでは一介のエンジョイ勢と化すので御しやすくなる。
俺が西側のサーバーとやらについて尋ねると、ピエッタさんは嬉しそうにマウンティングを始めた。
「なんだよ。お前、何も知らないのか? ああ、掲示板は見ない派なんだっけ? 変な意地張ってねーで見ちゃえよ〜」
赤っ恥搔かされたからね。いいんだよ、掲示板やってると時間吸われるし分からないことはこうやって聞けばいい。だろ?
ピエッタさんはニヤニヤしている。
「仕方ねーなぁ。このピエッタさんが無知なお前に色々と教えてやんよ〜」
要約すると、だいぶ前から砂漠マップの開放により都市間の交流が始まったらしい。
エンフレでテキトーに飛び回れば他国の都市の一つや二つは見つかりそうなもんだが、未開放のマップには侵入できないため難しいのだとか。
しかし俺たちが中国サーバーと韓国サーバーに気軽に飛んで行けるように、ルートさえ分かれば問題ない。
例えばイギリス旅行したいなら砂漠マップでイギリス人を捕まえてルートを吐かせればいいという寸法だ。
そんな具合に俺の知らないところで知らないモブキャラたちが勝手にストーリーを進めており、日本と中国とアメリカは変な国であることが判明した。ドイツとロシアも同カテゴリーということになる。
具体的には戦うことでしか己の存在意義を見出せない変な人たちというレッテルを貼られてしまったのだ。
しかし俺はイマイチぴんと来なかった。
え? どういうこと?
ピエッタさんはドヤ顔をしている。偉そうに腕組みなどしてフフンと鼻を鳴らし、
「テメーみてーな血の気の多いやつはロストがどうたらと騒いでるけどな、そんなのは世界全体で見たら少数派なんだよ」
……いや、でもさ。戦争で負けたらおしまいじゃん。俺らのロスト上等エンフレ大量投下に対抗できんの、そいつらは? 街ごとブッ潰されたら芸術とか関係なくない?
「ホントにテメーらはそればっかな。サイヤ人かよ。私も戦争のことは分かんねーけど、いくら何でもティナンを皆殺しにしてやろうってヤツは居ないらしいぜ」
んん……。しようと思ってもできないしな。マジュンくんですら、あれだけ大規模な戦争を仕掛けてジョゼット爺さん一人を追い詰めるのがやっとだ。しかも同じ手はもう通用しない。
つまり? ああ、そうか。この星で楽しくやってるぶんには、プレイヤーは別に強くなる必要がないのか。
それどころか、むしろ……。
このゲームの仕様上、ゲームの中でどんなに強くなってもリアルで喧嘩が強くなることはない。キャラクターの身体を動かしているのは「キャラクターの脳」だからだ。
しかし絵や曲ならばスクショするなり動画にするなりして持ち出せる。スマホに角を生やせば。
俺は目から鱗がボロンと剥げて落ちた。
このゲームの本質はどうぶつの森であり、お絵かきの森だったのか……。
俺たちは知っていた。知っていたんだ。何しろ【目抜き梟】という実例があるのだから。暴力はリアルマネーに結び付かないと俺たちはとうに知っていたんだ。なのに何故……。
俺たちはどこで道を間違えたんだ?
物思いに耽る俺をよそにピエッタさんは楽しそうにしている。
「外国にゃ学園都市なんてのもあるんだぜ〜」
へえ。面白そうじゃーん。
「だろぉ? へへへー」
俺は素早く計算した。
……AI娘どもの安住の地を探すという計画はまだ生きている。面倒臭いことが次から次へと舞い込んでなかなか進まなかったが、ここに来て進展の兆しが見えた。
ましてAI娘二号のマグちゃんは異常個体だ。意識的にエンフレに変身できる。ゴミどもが軽い気持ちでエンフレを出して自動的にロストしていく今の環境は彼女の教育に非常によろしくない。人間の里に至ってはエンフレが暮らす街になってしまった……。
チワワどもが安心して暮らせる国があるというなら、俺も内見しておきたい。
俺はパンと手を打って立ち上がった。
ピエッタ。行くぞ。チワワなんぞに任せてたら話が進まねえ。エンフレ航空機は俺が手配する。お前はクソ廃人の動きを探ってくれ。セブンはともかく、サトゥ氏が気になる……。邪魔をされたら面倒だ。成り済ましに用心してくれ。あるいは、すでにチワワどもの中に潜んでいるかもしれない。疑って掛かることにしよう。
……整形チケットと名札を使えば潜入するのは難しくない。普通は課金アイテムの消費を躊躇うのだが、【敗残兵】には廃課金のネカマ六人衆が居る。俺が遊びに行くとお駄賃とばかりに整形チケットをポンと束でくれる最強の金づるユニットだ。ヤツらにとって課金アイテムは露店バザーで叩き売りされているクズ装備よりも入手難易度が低いのだ。
ピエッタがぴょんとソファから飛び降りてニヤッと笑った。
「任せな。サトゥもズブの素人って訳じゃねーが、放っとくと変な人形が出てくるからな」
油断せずに行こう。サトゥ氏はスマイルのアビリティもストックしてるハズ。内部完結型のアビリティだ。条件を満たされたらハマる。
「いや、アレはスマイルにしか使いこなせない」
それはそれでイヤだが、まぁいい。そっちは頼む。芸術の国に行くぞー!
そういうことになった。
2.機工都市ニャンダム
エンフレ渡航して新しい街に着いた。
ピエッタ、チワワたちも一緒だ。
さっそく街に入ろうとすると、門番のギルド憑きみたいなのに呼び止められた。
「待って。日本人? 異常個体?」
正常個体ですよ。見ての通り彼らは初心者でね。その引率ってワケさ。
「ちょっと待ってね。手配書に載っていたような。ええと、日本人のリストは……」
よくある顔だからね。不安ならフレンド登録するかい? ああ、あなたが嫌でなければだけどね。
観光客にいちいちそこまではやってられないらしく、二、三の質疑応答を終えて解放される。
ピエッタ、チワワたちと合流。
俺は課金アイテムの名札を使ってキャラネを戻した。
よし。じゃあ行くか。
これは、とあるVRMMOの物語
異常個体、侵入……!
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