強化型コタタマ、逢いたくて
1.クランハウス-居間
マグちゃんにラップを教えている。
Yo Yo
君はAI愛されキャラ
俺は警戒ナルトコラ
ナルトじゃねえ サスケじゃねえ
影分身の強要良くない
残機どうこうの話じゃない
「崖っぷち〜」
朝からウチの丸太小屋の居間で螺旋丸の練習をしていた知らないゴミが急に絡んできた。
「ンだそのナリぃ」
今?
俺は四本の武器腕をちょこっと突き出して前へならえした。
「マグナさんがツッコむと思ってたんだよ〜。なあ、マグナさんもよ、おかしいなと思ったら言いなよ? コイツは放っといたらドンドン狂ったほうに行く。俺は別に構わねえけどよ〜……」
「エンフレよりはマシじゃない? 私が回廊で起こされた時からペタタマはそんな感じだよ」
……回廊? プクリ遺跡のことか?
マグちゃん……。やっぱり何か思い出してるのか。赤カブトはめったにそんなことないのに何故……二人目だからか?
俺は余計なことを知った知らないゴミを始末することにした。バッとこちらを振り向いた知らないゴミがゆっくりと剣を引き抜いていく。
「崖っぷち。オメェーの、その過敏な危機感が嬉しいぜ。αテスターは宝モンだ。俺は吹聴して回るつもりはねえが、そんなのは信用する理由にならねえよな? だからって大人しく殺されてやる義理もねえ」
今この場でお前を殺したところでどうなるモンでもねえが……人間の記憶ってのはいい加減なモンだからな。
お前にとって今日という日は俺に殺されて復讐を誓った日になる。
俺はギョンッと跳躍した。さして力を込めたつもりはなかったが、天井スレスレまで飛び上がった。
金さえあれば人間には戻れる。元々プレイヤーは死に戻りすれば肉体がリセットされる仕様なのだから改造するよりも簡単らしい。しかし、このパワー!
武器腕を突き出して頭上から襲い掛かる俺に知らないゴミが目を見張る。
「ギルドの……イヤ武器精錬か……!」
嬌声を上げた知らないゴミが俺の武器腕を掻い潜って俺に肉薄する。だが残念だったな。今の俺は腕が四本ある。時間差で挟み込んでくる俺の武器腕に知らないゴミが舌打ちして半身をねじって剣で防いだ。知らないゴミは止まらない。噛み合った刃がギャリッと火花を散らす。武器で殺し合うには近すぎる至近にあって、知らないゴミが全身を駆使して殺傷圏をゆがめる。攻略組並みの凄ワザだ。以前の俺ならヤられていただろう。見えてはいたが身体が追い付かなかっただのと述懐の一つはしたかもしれない。
しかし今の俺はよく見える目に追随できる機械の身体を手にしていた。
八本ある脚の内一つを跳ね上げて知らないゴミの剣を受ける。すかさず武器腕を縦横無尽に振るって知らないゴミを八つ裂きにした。
「つ、強ぇ……!?」
俺は八脚の足をガシャガシャと鳴らして勝利のポーズを取った。
俺TUEEEEEeeeeeeeeeeee!
マグちゃん、見ててくれた!?
壁際に寄って見学していたマグちゃんは「ん〜……」と悩ましい声を上げた。
「それ、生体クラフトでしょ? エンフレの力を引きずり出した時と雰囲気が似てるけど……プライベートルームは閉じてるから……すぐ死んじゃったりするんじゃない?」
そうなんだよね……。俺は認めた。
武器精錬の課題は多い。肉体を武器化する高精錬ともなると生体パーツへの負担が大きくなるため、すぐにダメになる。触覚が失われる点も大きい。つまり武器腕でおっぱいを触っても何も嬉しくない。しかしその問題は種族人間の肉体上の欠陥をある程度残せば解決できるハズだ。今回の武器精錬はパワーを重視したからな。
再手術すればこのパワーは失われる……。
つまり俺というキャラクターのピークが今なのかもしれない。
そう考えると、俺は急にそわそわしてきた。
アットム。アットムはどこだ? ログインは? している。武家屋敷かな? 俺はささやきを送ろうとして……やめた。
少し考える。
……ポチョがそろそろログインしてくる時間帯だ。生体パーツの持久力に関してはヒーラーを連れ歩けば一時しのぎにはなる……。
俺はマグちゃんに背を向けて八脚の足を折り畳むと「ん」と背中に乗るよう促した。
「ん」と答えたマグちゃんが俺の背中に乗っかる。居間を出て、ギョンギョンと階段を駆け上がる。合鍵を使ってポチョの部屋に入った。
マグちゃんを床に降ろしてやり、八脚の足を折り畳んで待つことしばし。
どこからともなく赤い輝きが降り落ちてベッドの上に人の輪郭を描いていく。
ログイン時のエフェクトには男女差がある。いや、正確にはいつしか男女差が生じるようになった。
男キャラはとにかく効率を重視する。動ければいいとばかりに筋繊維が剥き出しの状態で動き出すのに対し、女キャラは筋繊維や骨格を見せるのを嫌がる。結果、身体の末端部から徐々に全身を再構築していくことになる。俺やセブンくらいになると眼球と脳から先にログインするのが常だ。
男キャラからしてみれば女キャラは非効率的だし、女キャラからしてみれば男キャラは効率、効率と言う癖にリアルを捨ててネトゲーをやってるアホという訳だ。
俺はそれでいいと思っている。
ベッドの上に降り注ぐ赤い輝きが少しずつキレーなチャンネーの像を結んでいくのは見ていて楽しい。身体を丸めたポチョの胸の膨らみや腰のくびれには感動すら覚える。
身じろぎしたポチョが気怠そうに上体を起こし、頬に掛かった長い髪を指先で払う。何気なく室内を見渡したポチョと俺の目が合った。
おはよう。
俺は朝の挨拶をした。
寝起きということもありポチョの口調はふにゃふにゃしている。
「おはよ〜……。テレビ、見たよぉ。コタタマ、がんばったね〜……」
俺はぴょこぴょこと素早く屈伸して感謝の意を表現した。この屈伸動作は場合によっては煽りと受け取られかねないので注意が必要だ。
俺は俺の生存をポチョに提案した。
ヒールをください。死にそうなので。
ポチョさんはチラッとマグちゃんを見た。
「……ダメ。マグちゃんが見てる」
いえ、変な意味ではなく、死にそうなのでヒールをください。
俺はリジェネ状態で何度も殺して欲しい訳ではないと主張した。続けて言う。
それと、これからアットムに会いに行くので付いてきてください。回復持ちが居ないと途中で死ぬので。
ポチョはキョトンとした。
「え? アットムに? なんで?」
俺のカッチョイイところを見せたいからです。
「……え? なんで?」
男の友情ってやつサ。
俺は断言した。
お前らだって可愛い服が手に入ったら着てる姿を友達に見せたいだろ。それと同じだよ。
「あ、そういうこと? うん、分かった」
ポチョは納得してくれた。
しかしマグちゃんは納得してくれなかった。
「……それ変じゃない? 私のパリメンにもオトコ居るけど、あいつらはそんなことしないよ?」
そりゃあ個人差はあるだろうけど、俺とアットムはそんな感じなんだよ。アットムだって自分が頼れる男であることを俺にアピールしてくるぞ。
マグちゃんは意外そうな顔をした。
「そうなの? へー。アットムくんってペタタマにはそんな感じなんだ。付き合い長いもんね」
そういうことだ。
そういうことになった。
2.山岳都市ニャンダム-ティナン姫の屋敷
さて、アットムくんの度肝を抜くためにはサプライズを仕掛けるのが一番だろう。
ポチョとマグちゃんを背に乗せた俺は、さっそく武家屋敷に忍び込もうとして門番ティナンに見つかった。
「あ! そこで何してるんですかー!? 門から入らないとダメですよー!」
くそっ、勘が良すぎる。わざわざ裏手に回ったのに、なんで門番ティナンがここに居るんだよ。良い子のティナンが寝静まる夜まで待つべきだったか……? いや、押し通る!
俺はモグラ越えを果たした男。つまり今の俺なら、いかなティナンといえどそう簡単には行くまい。
俺は八脚の足をたわめると、ギョーンッと高く跳躍して武家屋敷の塀を飛び越えた。門番ティナンが塀に飛び乗り、ぴょんと二度目のジャンプで俺に並ぶ。なんの! 俺は金属片を駆使して空中をジグザグに駆ける。どうだ! さすがに追いついて来れまい!
追いつかれた。小さな手で俺の足をガッと掴んだ門番ティナンが俺を叱り付けてくる。
「地面に降りなさーい!」
言われるまでもない。俺は地面に降りて神妙にお縄に付いた。
ティナンは種族人間の天敵だ。相性が悪すぎる。モグラさんほどのパワーはないが、それでもプレイヤーに力負けすることはないし、モグラさんにはない技術とスピードがある。
俺は縄に繋がれてトボトボと門番ティナンさんに連行された。
ポチョとマグちゃんは、俺の背できゃっきゃとお喋りしていた。
「マグちゃんは気になる男の子とか居ないの?」
「んー。居ないかな〜。永遠の命をくれー!とか言ってくるオトコはたまに居るけど。そいつ、この前リュウリュウにブン殴られてた。あ、リュウリュウは好きだよ。あの人、めちゃくちゃ強いんだもん。動きがヤバいよ〜」
俺は門番ティナンさんとお喋りしていた。
違うんですよ、刑事さん。俺は良かれと思って……。あの、知ってます? こう見えて王妃サマなんですけど……。顔パスとか適用されませんかね?
「いくら王妃様でもダメなものはダメです! 王妃様ご本人がそう言ったんですよー!」
うむ。俺の知り合いだからってろくに検査もせずに素通りはヤメロと言ったのは誰あろう俺である。その時ついでに俺を特別扱いするのも程々にするよう申し渡した。ティナンは他者の気配に敏感だが、知らない星の人たちの能力は未知数だからだ。
墓穴を掘ったか。
だが仕事熱心で何より。よかろう。物はついでだ。お前ら甘ちゃんの尋問がどの程度のモンか見てやんよォー!
俺はイキった。
これは、とあるVRMMOの物語
セキュリティの強化を指示した王妃、強化されたセキュリティの突破に失敗し捕縛、連行……!
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