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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
533/990

闇と魔を継ぐ者

 1.ちびナイ劇場


 浴衣姿のプフちんが両手を突き上げて元気に叫んだ。


【夏祭りイベントを実施しまーすっ!】


 ちびナイとちびマレは「ほえ〜」と腑抜けた顔で一人ハシャいでいるプフちんを見つめている。

 ダメ姉妹を振り返ったプフちんがニコッと微笑む。


【お二人にもお仕事を用意してますからね! 楽しみだな〜!】


 ちびナイはプフちんの言葉を無視した。ソファに寝転がったままパイの実を摘んで口に放り込む。ふんふんと相槌らしきものを入れて、


【浴衣似合ってんじゃ〜ん】


 ゲームよりもファッションに興味を引かれている様子のチュートリアルナビゲーターに、プフちんは辛抱強く今が仕事中でプライベートな時間ではないことを教えねばならなかった。


【ほら、お菓子食べてないで。ちゃんと座ろ? プレイヤーのみんなが見てるよ? あ、ほら、マレはちゃんと座ってるよ。ナイはお姉ちゃんだよね? 負けちゃってるよ〜?】


【今、夏休みだから】


【ナイは休もうと思えばいつでも休めるでしょ? 本当は凄く仕事がデキる子なの知ってるよ? 天使だもんね〜。偉い偉い】


 そう言って夏休みを主張するちびナイの頭をヨシヨシと撫でるが、当の天使はパイの実に夢中だった。

 チュートリアルナビゲーターのNAiは常日頃からプレイヤーを監視しており、おそらくはチャンネル操作の応用で分身に近いことができる。それは過去の発言から俺の心を読んでいたこと、また該当する場面でたまたま俺だけを監視していたとは考えにくいことから、まず間違いないだろう。

 話の流れで天使の能力に言及したプフちんがハッとして、異世界でガチめの喧嘩をしていたらしいタコさんウィンナーの末裔に気遣いを見せる。


【あ、もちろんプッチョムッチョも協力してね!】


 プッチョムッチョは部屋でクーラーの風が当たる一番涼しいところを陣取っている。フローリングの床に寝そべってスマホをいじっている双子に、プフちんは彼らが自立した大人であることを強く期待している旨を述べた。


【イョにウチのプッチョムッチョは普段からこんなにがんばってますよって見せるチャンスだもん! 私、張り切っちゃう!】


 しかしプッチョムッチョは労働に対して懐疑的だ。

 スッと立ち上がってプフちんに歩み寄る。その所作に隙はない。わざわざ訓練などしなくとも、そう歩くべきと彼らは知っている。

 ……強い。プッチョムッチョは強いのだ。

 以前、サトゥ氏とヤり合った時は互角だった。しかし今となってはサトゥ氏の手には負えないだろう。彼らはスマホをいじっているだけで強くなる。仮にジョジョ立ちを試みたなら、たとえ肉体構造上それが不可能なものだったとしても、それっぽく見える最適解を一発で導き出せる。そういう生き物なのだ。

 プッチョムッチョの声には隠しきれない怒りがある。


【俺らは兄貴みてーに賢くねえからよ。プレイヤーだ、運営側だっつってバラける理由もよく分かんねえ。気が合ったプレイヤーとは一緒に遊んだりもしてる。公私混同だってよく言われるけどよぉ、才能あるヤツが活躍できるイベントを用意するのと一体ナニが違うんだ? そりゃ運営側の都合じゃねーのかよ? 強くなりたくても強くなれねーヤツはどうしたらいいんだよ? そいつらにゲームを楽しむ資格はねーのか?】


【プッチョ、ムッチョ……】


 プフちんは聞き入った。感動すらしているようだった。

 劣等生の烙印を押された双子が、あるいはそれゆえに血族の誰よりもプレイヤーに寄り添った考えを持っている。


【なぁ、プフさんよ。あんたは公式イベントだと言うが、いつもろくなことにならねえじゃねえか……。いつもいつも、そうやって苦しむのはプレイヤーなんだぜ。しかもよ……あんたなら知ってるだろ。今こっちに俺らの母ちゃんが来てるんだよ。あんたは母ちゃんのこと知ってるだろ……】

【……フリオの叔父貴は元気そうにしてたな】


【……あのことを言っているのですか?】


 プフさんの声音は優しい。


【プッチョ、ムッチョ。それは違うのですよ。あなた方のご両親は……】


【いや、それはいい。やめろ、やめてくれ。親の馴れ初めの話なんか聞きたくねえ。ナニ考えてんだ。プレイヤーが見てんだぞ】

【そっちじゃねえよ、プフさん。言わせんな。分かるだろ? 人前で母ちゃんを褒めろってのか。どんな拷問だよ。頼むから察してくれ】


 プフちんは真剣な顔をした。神妙な様子でぺこりと頭を下げて、


【ムッチョ、プッチョ。許してください。私はあなたたちを過小評価していました。今回のイベント、是非ともあなたたちの力を貸して頂きたい。これからもご意見を仰いでもよろしいですか?】


 するとプッチョムッチョは急にネタバレを始めた。


【……俺らみてーな人工英雄は、ヨソの星でも英雄だの、傾国の美姫だの、賢者だの呼ばれてた……。誰も逆らえなかったからだよ。DBのサイヤ人みてーなもんでな。他の星に送り込まれた人工英雄は、その星の誰よりも偉大な政治家や革命家になる。俺らの兄貴が地球で自然と溶け込んでるようにな。そういうことができるんだよ】

【……プフさんよ。究極の権力が行き着く先ってのが何か分かるか?】


【……いえ。何でしょう?】


 不穏な雲行きを察したプフさんは慎重に受け答えした。

 プッチョムッチョが声を揃えて続ける。


【それはな、働かねーことだよ】


 プフちんの顔面から表情と呼ばれるものが消し飛んだ。

 しばしの沈黙。

 言うだけ言ったバカ双子がフッと微笑を漏らし、そそくさと自分たちの寝床に戻って寝そべった。

 チッと舌打ちしたプフちんが一転して二パッと笑って観客席の俺たちに語り掛けてくる。


【忙しいところ呼び出しちゃってゴメンね! 夏祭りイベントの詳細は公式サイトをチェックして! 今回は物騒なことナシにしようね! お友達も誘ってVRの世界を楽しんじゃおう!】


 パッと舞台袖にスポットライトが灯った。

 のそりとステージに這い上がってきたタコさんウィンナーにプフちんがハッとして言う。


【あ、あなたはもしや運営ディレクターのョ%レ氏!?】


【そうとも。私が運営ディレクターのョ%レ氏だ】


 恒例の遣り取りを済ませたョ%レ氏がステージの中央に移動する。言った。


【聞かせて貰ったよ。とても……楽しそうな話をしているね。夏祭りか。だが】


 そこで言葉を一度区切り、タコ野郎はうにょるとタコ足を掲げた。


【プフ。君が勘違いをしていなければいいが。それだけが心配だ】


【……勘違いとは?】


【このョ%レ氏はな、ヒューマンがモチベーションと呼ぶもの、それが本当に信用に値するものなのかと疑っているのだよ。明日の鋭気を養うと言えば聞こえは良いが……結局はやるかやらないか、その二択ではないのか、とね。さて、プフ。君は随分とヒューマンに肩入れしているようだが、果たして君はどちら側の人間なのかな? 今回のイベントで、その答えが出るだろう。楽しみにしている】


 プフちんとョ%レ氏の視線が交錯し、互いの主張が正面からぶつかり合う。


【MMORPGとは運営とプレイヤーが協力して作り上げるものです。何から何まで思い通りに行くことなどない。あなた自身の言葉です。であるならば、プレイヤーと共に歩むこともできるハズだ】


【いいや、違う。MMORPGとはプレイヤーの箱庭だ。水槽の中を泳ぐ金魚……と言えるほど上等ではないかもしれないが……彼らにエサを与え、見苦しくないよう生育環境を整えるのが運営だ】


 ちびマレがソファに寝そべるちびナイをゆさゆさと揺すっている。不服そうにしながらも上体を起こしたちびナイが、ちびマレに手を引かれて不承ぶしょう立ち上がる。二人は手を繋いで万歳した。


 シャッと幕が降りる。



 2.黒の洞窟


 闇ダンは攻略不能とまで言われる難所だ。

 ダンジョン攻略ゲーは数あれど、リアリティを追求するという名目でやってはいけないことというのがある。

 それをやってしまったのが闇ダンなのだ。

 まず、洞窟の中って日の光が届かないから真っ暗だよねと誰も得しないリアリティをゲームに持ち込んではいけない。まぁそれだけならスラリーの残像エフェクトで照らすなり遣りようもあったのだが、それじゃあつまらないからとガチめの対策を打たれても困る。

 闇ダンを根城にしているのはデカいコウモリだ。RPGの序盤に出てくる雑魚MOBの血吸いコウモリを100倍ほど強くした感じのヤツである。闇の中を自在に飛び回り、集団で狩りをする。そいつらが息を潜めて獲物を待ち構えている中、プレイヤーは全方位を警戒しながら螺旋階段を降りていくことになる。

 さしもの攻略組も闇ダンばかりはどうにもならない。俺も闇ダンに関しては放っておいても大丈夫だと思っていたのだが……。

 目を凝らしても何も見えない深い闇の中、ふわぁっと残像エフェクトをまとって淡く輝くサトゥ氏の姿が浮かび上がる。

 俺は胸中で悪態を吐いた。

 くそっ、コイツ何しに来た? 手下を引き連れる訳でもなく、野良パに紛れ込んで一体何を企んでる……! 偵察か? 何のために?

 ただの気まぐれかもしれない。その可能性は高い。闇ダンの攻略難易度は星5つの最高評価だ。リアリティを追求したと言うよりは試しに攻略不能なダンジョンを作ってみたと言われたほうが納得できる劣悪な環境だ。

 しかしサトゥ氏だけは放置できない。

 このクソのような廃人が闇ダンに潜る準備をしているという情報をキャッチした俺は、整形チケットでルリイエに化けて野良パに潜入した。

 ルリイエモードは俺の切り札だ。サトゥ氏はスマイルくんのアビリティを通じてルリイエの姿を見知っているだろうが、だからこそサトゥ氏も知らない別のカードをここで使い潰すことは躊躇われた。ピエッタじゃあるまいし、キャラを使い分けるというのは生半可なことではないのだ。中途半端なことをやればすぐにボロが出る。特にこのゲームのプレイヤーはその手の警戒意識が高い。女キャラにガチ恋した挙句にリアルで「素敵!抱いて!」ってなるのを期待しているからだ。そのために顔面偏差値を抑え気味にしてリアルとの落差を減らすという戦略的なキャラクリが流行りつつある。

 つまりゴミどもは自分の性格や人格に自信を持っており、そんな自分の優しいところに惚れた女キャラとオフコラボしたいと考えているのだ。ここまで来るといっそ壮絶ですらある。VRというだけでMMORPGはこうまで下心が支配する世界になるのかと戦慄すら覚えるぜ。

 何はともあれ、サトゥ氏は闇の中を手探りで進むのではなく、モンスターと戦って打倒し突き進むことを選択した。手筈通りではある、が……。

 サトゥ氏のパーティーチャットが飛ぶ。あまりにも使い勝手が悪いためプレイヤーの中で忘れ去られようとしていた古代技能だ。


『もるっ』


 進む? サトゥ氏、早く進みたいのか……? 走るほどじゃない……警戒を怠らず……そうか、コウモリを警戒してるんだな?

 俺含む野良パのメンバーはサトゥ氏の言いたいことを察した。もる語という第二言語は、もはやそうした段階に達していた。こと戦闘場面に用途を絞れば完全に日本語の情報量を上回っている。

 残像の尾を引いて進むサトゥ氏を光源に、俺たちは慎重に螺旋階段を降りていく。俺はチラリと後方を見た。天井にぶら下がって羽を休めているコウモリどもがじっと俺たちを見つめている。俺たちが空を飛べない生き物であることを理解しており、先へ進むのを待っているのだ。撤退を許すつもりはない、ということ。

 しかし。な、何か……。

 俺は不穏な気配を感じた。

 通常であれば、こうして光を焚くと血が詰まった歩く肉袋に我慢できなくなって飛び付いてくるコウモリが一体や二体は出てくる。そいつは群れにおいて鉄砲玉の役割も兼ねていて、元気な獲物に飛び掛かって手傷を負った個体は食後のデザートになる仕組みになっている。

 その動きがカケラも見受けられない。

 統制が取れすぎている。

 静寂に沈む闇の中、生臭く不快な大気がむわっと熱を帯び、膨れ上がった臭気が漂ってくる。

 脂汗が浮き出し、ぞわりと背筋に悪寒が走った。俺たちの背後に何か居る。こんなものは見なくとも分かる。


「じ、上位個体……」


 メンバーの一人が闇ダンではご法度とされる声を出した。コウモリは音に敏感だ。群れを刺激してしまったらその時点で生還の望みは絶たれる。

 しかし群れはぴくりとも動かなかった。

 上位個体が持つ下知の力だ。

 生温い風が俺たちの腰を撫でた。

 臭気を含んだ闇の中、俺たちの退路を阻むように階段に立つ巨大なコウモリの姿が浮かび上がる。

 ……デカい。こ、これは……ウサ吉やミシェルとは明らかに格が……。

 うう……。さ、サトゥ氏……。

 サトゥ氏は魅入られたように闇の先にそそり立つ巨躯を見つめている。

 巨大コウモリが皮膜と一体化した腕をゆっくりと動かし、スッとこちらを指差した。

 ……? 何を……。

 答えはいつも何の前触れもなく唐突に突き付けられる。


「げうっ……!」


 俺たちはうめき声を上げてキリキリと痛む胸を押さえた。絞られるような痛みが喉と胸を灼く。目と口、耳と鼻から血が垂れる。とても立っていられない。俺たちは片びざを屈してその場に跪いた。

 なんだ、これは。

 ……スキル?

 じ、上位個体が……固有スキルを持っているのか!?

 レイド級は……! ガムジェムは……!?


 混乱する俺たちをよそにアナウンスが走る。


【上位個体と遭遇しました】

【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:上位個体の殺害】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【モリー】【Level-1000】


 サトゥ氏が食いしばった歯列から血を吹いて笑った。顔面にびっしりと脂汗を浮かべて、闇の眷属の頂点に君臨する王を挑むように見上げる。言った。


「ようやくだ。レベル1000を達成した上位個体が、ようやく生まれたな……」


 げえっ……! 俺たちの口からボトボトと血が垂れる。な、内臓をやられた。

 俺たちはどうと地べたに倒れ伏した。サトゥ氏はかろうじて耐えている。致命傷は入っていそうだが、おそらくはレベルの高さによるものだろう。

 だ、ダメだ。意識が薄れていく……。


「アッー!」


 サトゥ氏の嬌声。

 俺は何もかもが億劫に思える気持ちをねじ伏せ、死ぬ前にせめて一目だけでもと顔を上げた。

 ねじ切られたサトゥ氏の四肢と鮮血が辺り一体に降り注ぐ。

 モリー……。こんなにも大きくなって。ママは嬉しい、ぞ……。

 クソのような廃人を歯牙にも掛けない圧倒的な強さ。我が子の勇姿を目に焼き付けて、俺はひっそりと息を引き取った。




 これは、とあるVRMMOの物語

 チェンソーマンの闇の悪魔かな?



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
たぶん7土出身でも最高レベル600ぐらいなのにコタタマが育成しただけでモンスターが1000いくのえぐくね? 地球産のティナンとモンスターだけプレイヤーに対してあまりに強すぎる気がする笑
[良い点] やはりお前の仕業か... [一言] コタタママに育て屋さんしてもらったらポ◯モンのレベル上限突破してそう
[一言] 運営の生み出したダンジョンはコタタマのようなプレイヤーが生み出した上位個体を隔離する為の施設として用意されたものなのか、それともダンジョンがあるからコタタマはそれを隠れ蓑として巣作りをして上…
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