GunS Guilds Online!
1.S級ダンジョン【七転八倒】
タコ野郎の様子がおかしい。
どうした? お得意の前口上がなかったじゃないか。
俺は訳も分からずイラついた。エンドフレームに化けると感情のタガが外れるという説がある。俺にもそれは当て嵌まるのか? 分からない。分からないが……。
コイツとは今まで色々とあった。
赤カブトのこと、プッチョムッチョのこと……本当に色々とあったが、俺がコイツを見てると胸がザワつくのは、あの目が理由なのかもしれない。俺なんぞ通過点に過ぎないと言わんばかりに遥か遠くを見据えるあの目だ。いや、事実そうなんだろう。俺だって本気で暫定エイリアンのライバルになれるとは考えてない。
だが、イヤだからこそか。分からない。自分の本心がドコにあるのか。ただ、俺は多分このタコ野郎に何かを期待しているのだ。その「何か」の正体が分かった時こそが俺のゴールなのかもしれない。
とにかく今はムカついて仕方なかった。
胸のザワつきを吐き出したら少しはマシになるような気がして俺は吠える。
テメェーはこんなトコでナニやってんだよ!?
プフさんのダンジョンはエンドフレームが暴れ回るには少し狭い。エンフレ戦を想定した造りにはなっているらしいが、最初から最後まで広大なスペースを用意する意味はないだろう。この狭さではエンフレでタコ野郎を囲んでボコるのは無理だ。
とにかく先生を巻き込まないようにしないと……。
チラリと後ろを見ると、胴上げされている先生がひづめを俺へと突き出して叫んだ。
「コタタマ!」
俺は思わず触手を差し伸べてしまった。触手を素早く掴んだ先生がよじ登ってきて俺の頭に乗っかる。俺は何をしてるんだ……。
先生が俺の頭にひづめで触れて、キッと顔を上げた。
「今度は一緒だ」
その言葉でハラが決まった。
ゴミどもが悲鳴を上げる。
「退け! 崖っぷち! 勝てる相手じゃねえ!」
何が正しいとか、何が間違ってるとか。
どっちが強くて、どっちが弱いとか。
地球人とか、宇宙人とか。
そんなのはどうでもいい。
俺は、ただ……。
俺たちは、ただ、もう逃げたくないだけだ。
俺の身体の機械化が一気に進行する。触手には返しが備わり、背中を突き破ってドス黒い血に濡れた翅が生える。
【限界突破!】
【???】【コタタマAr】【Level-1351】
ギルド化の進行はロスト回数が全てじゃない。圧倒的な危機的状況と絶望的な戦況下にあってプレイヤーは覚醒し進化する。それは人間の、と言うより無限に成長し続ける【ギルド】に備わった習性だった。
ご丁寧にも付け焼き刃ではどうにもならないことをアナウンスが教えてくれる。
【GunS Guilds Online】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【♯%】【ョレ】【Level-4863】
俺は前に出る。触手を突き出し、周囲に出現した黒い金属片をいつでも射出できるよう前方に浮かべる。
【…………】
ョ%レ氏は無言。緩慢な動作でのそりと巨体を揺すってこちらを振り向く。
俺の頭に乗っている先生がエリアチャットを使った。
『プフ! パフワ! 君たちが何かを変えたいならば! それを為し得るのは君たちなんだ! たとえ、それがどんなに長く困難な道のりだろうと! 道は繋がる! いつかは花咲く時が来る!』
アナウンスが立て続けに走る。
【Extra-Skill発動!】
【Promotion】
【囚われの姫はもう居ない】
【三級及び二級権限の限定解除】
【制限時間:00.33.32…31…30……】
【条件を満たしました】
【バトルフェーズに移行します】
【戦列を組んでください!】
俺はアナウンスが晴れるのを待たずに突進した。触手の先端からレーザーメスを伸ばし、それらを束ねる。手数は減るが、そうでもしないとョ%レ氏には通用しないと見てのことだ。さらに黒い金属片で照射角度を絞る。ホースの先を摘んで水圧を高める要領だ。
ョ%レ氏が魔石を取り出した。しかし、やはり様子がおかしい。黒い金属片が降り注ぎ、魔石を持つタコ足にドカドカと刺さる。【ギルド】の力を制御できてない?
悠長に分析している暇はなかった。俺はもう止まれない。俺はレーザーメスを全力で振るった。叫ぶ。
【何やってんだよアンタはッ! 運営ディレクターだろ!】
レーザーメスがタコ足の強靭な筋肉に阻まれる。切れない。ここまでやってもダメなのか。イヤ関係ない。元より俺は別に勝算があって挑んでる訳じゃない。
俺は全身に力を込めてョ%レ氏を押し込んでいく。ョ%レ氏はクラフト技能を使うのを諦めたようだ。タコ足で俺の触手を訳もなく千切り取る。くそっ、バカげたパワーしてやがる。俺は身体ごと振り回されて岩壁に叩き付けられた。噴出したドス黒い血がョ%レ氏にビチャビチャと掛かる。
俺は岩壁に押し付けられながらも、なおも叫ぶ。
【生産職の分際でイキッてんじゃねえよ! 釣った魚にゃエサを与えるモンなんだ! 俺らはアンタに釣られたんだ! エサを寄越せよ!】
知らない粗大ゴミがタコ野郎の肩に手を掛ける。
【おい。雑魚と遊んでもつまらねえだろ? 俺らが相手をしてやるよ】
タコ野郎は無視した。俺の身体にタコ足を巻き付けてギリギリと力を込めてくる。バキバキと俺の装甲が砕け、フレームが歪んでいく。俺の身体は半ばまで岩壁に埋もれている。くそっ、これまでか……。
粗大ゴミたちがタコ野郎の背中に連打を浴びせるが、びくともしない。ノーダメージではないようでバラバラと魔石が散らばるが、まったく弱る様子がない。
先生がョ%レ氏のタコ足に飛び降りた。杖でポカポカとタコ足を殴る。
せ、先生……。
「どうした! そんなものか! レ氏!」
【…………】
ョ%レ氏の目が激しく明滅する。周囲に浮かび上がった黒い金属片が、まるで急かすようにタコ野郎へと切っ先を向ける。
項垂れたタコ野郎がぼそぼそと何か呟いている。
【……さ、サ……櫻井くン……デリヘルを、呼ばレテも……困るぞ。来るホウも、来るほうだ……。……違う。チェンジとか、そういう問題では、ない……】
目を見開いたョ%レ氏が大きく仰け反って咆哮を上げた。
無造作に拾い上げた魔石をタコ足で幾重にも包み込む。黒い金属片がタコ足に降り注ぐが、ョ%レ氏は意に介さなかった。
命の火が燃える。禍々しい光が立ち昇る。光と炎がョ%レ氏の表皮を伝い波打つ。
変化は劇的だった。
ョ%レ氏の半身を覆っていた黒い金属片がボロボロと剥がれ落ちて堆積していく。次の瞬間には粒子と化して渦を巻き始める。
ョ%レ氏の瞳は緑色に落ち着いていた。俺へと背を向けて言う。
【ヒューマン。私に協力しろ。この運営ディレクターのョ%レ氏にな。クァレュュを叩く】
正気に戻ったらしい。
どうでもいいが、俺はすでに虫の息だ。もう少し早く何とかならんかったのか。一人で勝手に盛り上がった挙句に重体に陥った俺に謝って欲しい。
あと、くたばり掛けている俺でお医者さんごっこを始めたゴミどもがうっとうしい。
タコ野郎の半身を蝕んでいた金属片はモョモ氏が植え付けたものだ。黒い粒子が凝固し、人の輪郭を描いていく。モョモ氏だ。その傍らに若社長が立つ。【輜重兵】によるワープで娘のあとを追ってきたらしい。
若社長は拍子抜けしたように言った。
「なんだ、元に戻っちゃったの? 勿体ない。せっかくパワーアップのチャンスだったのに」
モョモ氏は無言だ。若社長の斜め後ろに控えてョ%レ氏の巨体を見上げている。
ョ%レ氏がせせら笑った。
【よく言う】
いつもの調子を取り戻した俺たちの運営ディレクターが皮肉をぶつける。
【モョモの反抗期は終わったようだね。随分と急だ。ひょっとして彼女がギルドを連れていたことと何か関係が? そうそう、ギルドで思い出したのだが……。クァレュュ。君のスキルはギルドを支配するものだったね。ギルド使いとギルド憑きの親子。なんという運命の悪戯だろうか。奇跡的な巡り合わせに感動すら覚えるよ】
若社長も負けちゃいない。肩を竦めて少しも悪びれずに言う。
「根っからのブラック企業なもんでね。我が社が求める人材は社畜なのさ」
さらにョ%レ氏を指差して続ける。
「特に、ョレ。君らの【黄泉比良坂】は侮れないからなぁ。あ、ごめん。クラフト技能って呼んでるんだっけ? 言えないよねぇ。自分のスキルの正体が反魂の術だなんて。君らにとっては死すら平等じゃない。公平性のカケラもないよねぇ」
ョ%レ氏がタコ足を振り上げた。
【私の口癖はもう一つあってね。教えてあげよう。言葉遊びだ】
さっと撫でるようにタコ足を振ると、それだけで若社長の上半身が千切れ飛んだ。べしゃっと地べたに転がった若社長が「はて」と首を傾げる。
「……スキルが発動しない?……【黄泉比良坂】で相殺を? 驚いたな。こんな使い方があるとは……」
社長に牙を剥いたョ%レ氏に、黒い大剣を手にしたモョモ氏が進み出る。
「お父様。ここは私が」
若社長がひらひらと手を振って娘を制した。
「いや、いいよ。君はョレの上司って訳じゃないからね。社員の教育も社長の務めってワケ。それにさ、愛する娘の前で少しはカッコ付けたいじゃない?」
言下に若社長のスーツを突き破って触手が伸びた。若社長の肉体が膨張していく。
【パパ張り切っちゃうぞ〜】
これは、とあるVRMMOの物語。
GGO社社訓その一、ギルド憑きとも仲良く。
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