パフワくんの事情
1.クランハウス-居間
マグちゃんがモグラさんぬいぐるみと一緒に経験値稼ぎをしている。
俺はマグちゃんを指導中。違うって、ほらココ。少しほつれてる。
「……なんで私が藁人形編んでるの?」
マグちゃん。藁人形は消耗品なんだよ。ウチの専属鍛冶屋になった以上、藁人形だけは切らさないようにしてくれないと。
なお、俺は今クラフト技能を使えない。諸事情あって、というかカーディナルの転職条件には普通にレベル制限があったらしく、コンフレに戻った途端に俺は職を剥奪されて無職へと華麗なる転身を遂げた。
要するにエンフレ時はレベルが上乗せになるのでレベル制限をクリアできるのだが、ヘタに生き残ると確定無職というクソ仕様であった。例えるならヒラの社員が勝手に社命を下したみたいな……。越権行為かよ。なんで俺がゴミどもにガッカリした目で見られにゃならんのだ。くそっ、納得行かねえ。
かくして懲戒免職を食らった俺はマグちゃんに藁人形の作り方を丁寧にレクチャーしていた。
ソファの背もたれに腕を引っ掛けたパフワが何か言ってる。
「クァレュュと約束してた。お前らヒューマンを支配すれば俺を光の使徒にするんだとよ」
「クロに? 彼にそんな権限が?」
と言ったのはジョンだ。コイツはたまに急に日本語が上手くなる。
パフワくんはチラリとジョンを見て軽く首を傾げた。
「GGO社のトップはクァレュュだ。何故できないと思う?」
「ああ、つまり……誤解しないで欲しいんだが……」
ジョンは身振り手振りを交えて説明した。
「基礎的な問題なんだ。君にとっては当たり前のことが、我々にとってはそうではない。しかし重要なことだ。我々は光の使徒が誕生する経緯がどういったものなのか知らない。Boyの特権だとばかり思っていたが……その様子だと違うようだね?」
パフワくんはなるほどと頷いた。
「クァトロさんの特権か。確かにな。その解釈は正しい。光の使徒はゲートの応用だ。召喚者のエネルギーを変換している。つまり光の使徒を運用する権限を持つものは他にも居るが、実際に召喚したらエネルギーが枯渇するかもしれない。クァトロさんはズバ抜けてるんだ。いざバトルフェーズとなれば彼は誰よりも多くの戦果を挙げる。強いからだ。そうして、誰よりも多くの経験値を稼ぐ。効率もいい。彼はエンドフレームを持たないからな」
マジュンくんが「一ついいかな?」と軽く挙手した。なお、マジュンくんはジョゼット爺さん殺害未遂の罪を問われてロリキャラの刑を食らっている。てっきり刑期は明けたものと思いきや、そんなことはまったくなかったようだ。
細かい経緯を知らないパフワくんは「何故幼女?」という顔をしながらもかろうじて頷いた。
マジュンくんがコクリと頷いて言う。
「パフワ。ここでの会話は君にとって不利益にならないか? 立場をハッキリさせよう。君は七土種族でも屈指のプレイヤーなのだろう? 私は君と関わり合いを持てたこと、それを幸運だと思っている。言い方は悪いが、この場で情報源として使い潰すつもりはないんだ」
マジュンくんは監視の目を気にしているようだ。無理もない。クロ社長が従えている最高指揮官はプレイヤーの母体のオリジナルだ。内緒話が通用する相手ではないと考えるのは当然のことだった。
パフワくんは自嘲らしきものを口元に浮かべた。
「あいつ、クァレュュな。嘘を吐いてた。お前らのことを虫けらと同じだってよ。人間らしい感情なんか持ってねえって。ハナから俺を騙してた。そんなヤツの下には付けねえ。だから……もういい」
先生が耳をぴこぴこと動かした。
「……プフさんには頼れないのかな? どうだろう?」
先生は会ったこともない「巫女」とやらを気遣っている。
パフワくんがこの星に攻め込んできたのは巫女さんの身に何らかの危機が迫っているからだろう。
エンジニアガードという職業。命を預けよ、肩を並べよという【戒律】。おそらくパフワくんにとってそれらの【戒律】は足枷にならないのだ。プレイスタイルと合致しているからエンジニアガードというクラスを選んだと見るべきだった。
腹黒社長の監視の目を気にしているから、どうしても質疑応答は端的なものになる。
パフワくんは「あ〜……」と言葉を濁してから先生の質問を意図的にはぐらかした。
「……異常個体は光の使徒に選ばれねんだよ。もしも俺が光の使徒になれたら史上初ってコトになる。名誉なことだからな。口うるさい上の連中も黙るだろ。……ポポロンの戦闘記憶を俺が継ぐにはそれしかなかった」
サトゥ氏はスキルくれよお化けになっている。「スキルくれよ」と口癖みたいに言ってから興味深そうに「継げるのか?」と問うた。
……角の民と緒の民は遺伝的に別種の生物だという話だった。記憶を他者に継ぐという性質が「緒」の民の生態なのだと考えるなら、角の民はそうした形質を持たないと考えるのが自然だ。
パフワくんはあっけらかんと答えた。
「スキルはやらん。記憶継承は手術すればできる。金は持ってるし、俺はガキの頃から緒の民になりたいと思ってた」
先生がチラリと俺を見る。あーハイハイ。認めたくはないが、この中で一番クロ社長と親しいのは俺だろう。監視されている前提で話すなら俺が聞くのが一番リスクが低い。そして、この問題を放置したままでは話が先に進まない。この問題というのは、つまり「巫女」って何なの?ってことだ。
俺はマグちゃんの手ほどきをしながらパフワくんに喧嘩を売った。
散々ゴミどもをブッ殺しといて今更味方ヅラされてもな〜。つまるところテメェーは巫女とやらにホの字なんだろ? こう言っちゃ何だけどよ〜、テメェーじゃプフさんにゃ勝てねえよ。散々っぱら暴れてくれたが、プフさんの強さはあんなもんじゃなかった。ハッキリ言って俺にゃ〜テメェーがプフさんに勝てるビジョンが思い浮かばねんだよ。勝算があって仕掛けたとは思えねんだよな〜。……今から嫌なこと言うぜ。お前、最初からこうなることは分かってたんじゃねえか? 全部計画通りなんじゃねえか? お前が嘘を吐いてないってどうやって証明する? ええ、おい。俺は納得してねーぞ! 俺を納得させてみろよ!
テレサがガッと俺の胸をこねくり回してくる。
「妬いてンのか?」
そ、そんなことねーよ……。突然の介入に予定が全部狂って俺はどもった。売り言葉に買い言葉で話を先に進めるつもりだったのだが、テレサの主張が強すぎた。この怨霊、一瞬で存在感増してくる。さしもの七土種族さんも無視できなかった。
「……イベントキャラか? ケツ揉んでくるのは何なの?」
俺は十回以上揉まれてるぞ。俺は謎の主張をした。先生の期待に応えねばという焦りがあった。
突然何を言い出した?という目でジョンとマジュンくんが俺を見てくる。違うんだ。テレサが……あまりにもテレサがいいパスをくれるから。牙を剥き出しにするのを怠けていたのかもしれないな。ノンケの牙を。
スキルくれよお化けのサトゥ氏がパチンと指を鳴らして俺を指差した。
「ANGEL VOICE?」
正解。俺もパチンと指を鳴らしてサトゥ氏を指差した。
マグちゃんが俺の袖をくいくいと引っ張ってくる。
「続き。早く」
何コレ。末っ子ポジ可愛すぎない? もはや軽く孫じゃんね。
一瞬の間にねじ込むようにジョンが自己紹介した。パフワくんの手を取り、
「私はジョン・スミス。地球では私が一番だ」
「君とは」
マジュンくんもねじ込んできた。ジョンをチラリと見て、
「ジョン・スミス。君とは直接ヤり合ったことはなかったね。君たちの国はよく……自分たちだけで勝手に順位を決める。試しもせずに」
おっほ〜。俺は興奮した。
世界最強の国家はどこか。アメリカ、ロシア、中国のいずれかだろう。そしてアメリカの総人口は3億ちょっとだ。中国は13億超。無論、総人口=戦力ではないが、ユーラシア大陸のポテンシャルは凄まじいものがある。マジュンくんの挑戦的な物言いには裏付けがある。
異星人そっちのけで火花を散らす二人に、先生が気を遣ったのか何なのか、パフワくんにひづめを突き出して言った。
「手相を見てあげよう。もっとも私に手相などないがね」
ひづめジョーク……! ひづめジョークだ!
ジョンが割り込む。他の星の男の視線を独占したくて仕方ないようだ。
「下の名前は? いや、つまりスキルの名前だ」
マジュンくんが割り込む。スキルよりも男の身体に興味があるようだ。
「変身しなくとも角は伸ばせるのか? どういう仕組み?」
……トップクラスのプレイヤーが集まるとこうなるのか。もうメチャクチャである。なまじ頭が回るもんだから牽制し合って誰も幸せになれそうにない。
完全に他人事なのでわちゃわちゃやっているのをぼんやりと見つめていると、マグちゃんが顔を寄せて俺の視界に割り込んできた。
「ねえ、聞いてる? 続き!」
赤い瞳がまじまじと俺を見つめている。俺は不覚にもドキッとした。このゲームの女キャラはほぼ例外なく端正な容貌をしているので不意打ちは心臓に悪い。しょせん顔なんだなと己を物悲しく感じる瞬間でもある。
俺はマグちゃん手製の藁人形をまじまじと眺める。……うーん。なんか可愛く作ろうとしてない?
マグちゃんはニコニコしている。
「えー? なんかイメージが固まんないんだよね。私、漫画とかアニメ見ないし」
俺のピンクバージョンが廊下を横切って階段を登っていく姿が見えた。……デカいままなんだな。パタンとドアが閉まる音。俺の部屋で一体何を?
パフワくんが何か言っている。
「俺らの星じゃ、過去の偉人の記憶を保存する容れ物にされる人間を『巫女』っつーんだ。生贄ってのはチョット違うが、とにかくろくなもんじゃねえ」
俺は自力で藁人形を編んでいく。大雑把でも手本があれば大分違うだろう。マグちゃんが俺の手元をじっと覗き込む。ちょっ、近い。マグちゃんの後頭部しか見えない。俺はマグちゃんの腰に腕を回して乱暴にならないよう抱き起こした。
マグちゃんが俺の顔をじっと見つめてくる。自由気ままか。猫なの?
パフワくんが何か言っている。
「使えるんだよ、偉人の記憶ってのは。技術的には保管することも可能だが、遊ばせとく手はねえ。実際、お前らだったらどうする? 歴史の教科書に載ってるような人物だぜ。非人道的だから眠らせときましょうって話になるか?」
マグちゃんのピンク色の唇から吐息が漏れた。
「ペタタマセンセーさ。就職するよりもロストしたほうが早いんじゃない? 私がしてあげようか?」
えっ。
ドキリとする俺に、マグちゃんはパッと俺から離れた。猫みたいに振り返ってペロリと舌を出す。
「なんてね。ジョーダン、ジョーダン」
そう言ってマグちゃんは嬉しそうに笑った。
これは、とあるVRMMOの物語。
宇宙人の話が全然頭に入って来ない……。
GunS Guilds Online




