路傍の聖剣 16.00
11.スピンドック平原
ネフィリア率いる【ギルド】の侵攻が合図だった。
【敗残兵】【目抜き梟】を始めとする大規模クランが一斉に寝返り、俺の側に付くと宣言した。
ネトゲー史に燦然と輝くユーザーイベントを起こす。その言葉の響きに彼らは抗えなかったのだ。
彼らは知りたかったのだ。
トッププレイヤーとは、どの程度の存在なのか? その他大勢のモブキャラと正面からぶつかって勝てるのか?
勝てない。
まず勝てない。
数は力だ。
それでも彼らは試してみたかった。
それはレイド戦やPvEをどんなに繰り返しても答えの出ない問いだったから。
かつてネフィリアはこう言った。
MMORPGというジャンルの先にある答えが見てみたいと。
遠からず、MMORPGは滅びる。
プレイヤーたちが、MMORPGとは誰もが主役になれるゲームではなく、誰も主役になれないゲームなのだと気が付いてしまったから。
ならば、MMORPGの全盛期を知る俺たちが死に水を取る。この役ばかりは次世代を担うチワワには譲れない。
ありとあらゆるマップでガチ連合とまったり連合が衝突した。
そもそもが水と油だ。
ガチ組はまったり派を見下している。ゲームがヘタクソだからだ。
まったり派もガチ組を見下している。ゲームばかりやってるからだ。
ガチ組も自覚している。ゲームばかりやっている自分はクズだと。
まったり派は嫌悪している。ゲームばかりやって生きていけるなら自分もそうしたかったから。
なのに彼らは同じ時代に生まれて似たような趣味を持ち、奇跡のように同じゲームで出会った同胞なのだ。
だから拗れる。
ギスギスオンラインの根底にあるのは、冷めた家族の関係だ。肩を組むには遠く、手を差し伸べるには近すぎる。人によってはそれを「愛」と呼ぶのかもしれない。
そうだ。これが見たかった。
俺は種族人間が殺し合うスピンドック平原を笑いながら歩いていく。
名だたる攻略組が俺に付いたから、まったり派を率いる将は居ない。
しかしガチ組の優勢は最初の内だけだろう。訳が分からずガチ組の味方をして勝ち馬に乗ろうとするモブキャラも居るだろうが、早晩気付く。これはガチ組とまったり派の戦争なのだと。
廃人は叫ぶ。働いてるのがそんなに偉いのかと。
社会人プレイヤーは叫ぶ。そりゃ偉いだろうよと。
ガチ組も一枚岩じゃない。仲良くしてるライト層の一人や二人は居るだろう。裏切り者が現れる。
まったり派も同じだ。ガチ組は俺に騙されているだけなのだと主張するだろう。
戦う理由は段々とあいまいになっていく。
悪いな。大した理由はないんだ。
俺は、ただクリスマスイブにゲームをやってる自分を肯定してやりたかった。
リア充を一人でも多くラブホから引き剥がしてやりたかった。
たったそれだけのことなんだよ……。
よう。ユウタ。
よくここが分かったな。先生か。先生はお前を随分と高く買ってるみたいだな。
ユウタは今にも泣きそうな顔で俺を見つめている。
「……先生は君の望みを叶えようとしてるんだよ。俺と戦いたいって言ってただろ」
それは予想外だったな。先生は干渉しないと読んでいたが……。やっぱり俺の限界がここらなのか。ボロが出てきた。
それで? ユウタ。お前は俺をどうしたい。幾ら俺が雑魚キャラでも、新規プレイヤーに負けるほど落ちぶれちゃいねえぜ。
「……分からないんだ」
なに?
「リリララさんと一緒に逃げた時、キリンが俺を庇って死んだ。俺はカッとなって……MPK事件の犯人を許せないと思った。でもゲームだし、キリンはすぐに戻って来たし……俺は訳が分からなくなった。コタタマと戦って、それでどうなるんだろうって今は思ってる。どうしたらいいと思う?」
正直な、俺は誰でも良かったんだよ。お前でなくとも。ただ、新鮮さはあったほうがいいと思ったから新規プレイヤーに声を掛けた。それがお前だった。
ストーリーを作ったのはお前なんだ。お前が強くなりたいと言ったから戦う舞台を用意した。お前が武闘会に出たいと言ったから俺も一緒に参加することにした。キリンコについてはほとんどアドリブだ。いくら仲が冷めてるからって家族の情はあるだろう。それは正解だった。
だから、まぁ……妹のカタキを取ってみちゃどうだい?としか俺には言えないな。
「普通に生きてるんだけどな……」
いずれにせよ、俺の言葉でようやくユウタの心は定まったようだ。
ぎこちない手付きで剣を抜いて構える。
俺も斧を構えてユウタと対峙する。
負けてやってもいいかな、と一瞬だけ思った。俺の下らない遊びにずっと付き合わせちまったから。
だが、そんな思いはいざとなったら消し飛んだ。
ぱっと踏み込んだユウタが剣を打ち込んでくる。飛び込み面……! なるほど、これは確かに必殺というだけのことはある。
俺は首をねじってユウタの一撃を肩で受けた。威力よりも速度重視の剣だ。ダメージは負ったが致命傷と言うほどじゃない。
肩の傷から生じた熱が俺の怒りを呼び起こした。斧の刃で剣を押し返しながら叫ぶ。
ユウタぁ! 新規プレイヤーごときが俺に勝てるとでも思ってんのかぁ!?
……勝てる。勝てるのだ。新規プレイヤーは俺に勝てる。焦げるような危機感が俺の胸に湧き上がってくる。こ、コイツ、俺よりもレベルが高い。レベル上げを、していたのか……! 俺に、黙って、一人で……! ズリィーぞ!
闘争心に火が付いたか、ユウタも吠えた。
「だって君、全然レベルが上がらないじゃないか!」
だったら言えよ! レベルが上がったって! そしたら盛大に祝ってやったっつーの!
「俺だけ悪いなって思ったんだよ!」
くそっ、誤算だ。
ここに来ての大誤算。この感じだとレベル3か4はある。押し負ける……!?
嫌だ。負けたくない。こんなチワワ野郎に負けたら俺はどうなってしまうんだ!?
うおおおおおおおおおおっ!
俺は雄叫びを上げてギルド化した。
プレーリードッグ型の鋼鉄の鎧に身を包んだ俺は余裕を取り戻した。
俺の勝ちだ。もはやキサマに勝ち目はない。
俺たちの一進一退の攻防を見ていたゴミがボソッと言う。
「なんて低レベルな争いだ……」
黙れモブが! お前に何が分かる! こっちは必死なんだよ!
俺は両腕に力を込めてユウタを押し込んでいく。ふはははは……どうした。その程度か?
しかし……薄々は勘付いていたが、顔面が逆さまになると恐ろしく見にくい。見にくいぞ。ユウタの胸から下しか見えん。これはいけないと俺は顔面をぐるぐると回した。あまり解決しなかった。ゴムで引っ張られるみたいに顔面が逆さまに収まる。何故、俺の顔面は逆さまなんだ。哲学的な思考が割り込んでくる始末だった。
「ユウタぁー!」
むっ、誰だ?
ユウタの後ろから誰か近付いてくる。しかしプレーリードッグ化した俺の顔面は胸部に埋まっており、首をねじったりできない。欠陥だらけだ。人間の首とは必要なものだったのか……。新鮮な驚きを感じた。
首をねじって後ろを見たユウタが今はこんなにも羨ましい。
「キリン……! 来るなっ!」
ヒロインに言ってみたい台詞が出た! 大して仲の良くない妹に出た!
俺はぐいぐいとユウタを押し込む。膂力では俺のほうが上だ。死ねぇーい!
おっとキリンコさんが奮闘する兄貴に見覚えのある脇差しみたいなのを投げた。
それはまさかの魔剣ウィード!
よそさまの倉庫にあったものをっ……! 俺はギリッと歯噛みした。黙って持ち出しやがったのかァー!
俺は両目からビッと怪光線を放った。が、この怪光線の弱点は目から放つので俺の唯一の取り柄と言っていい目の良さが一瞬だけ封じられることにある。くそっ、さっきから「だが」だの「しかし」だのケチばっかり付きやがる。何なんだよこの身体ァー!
でも、ちゃんと狙ったからちゃんと命中したぞ。やったぁ。
俺の怪光線はキリンコの胸を貫通した。こぷっと血を吐いて倒れ込むキリンコをユウタが抱きとめる。
「キリン……!」
だから甘いと言うのだよ!
俺はユウタの剣を斧の刃で巻き上げた。ユウタの手を離れた剣が宙を舞う。
ユウタが地べたに転がった魔剣ウィードを掴んで振り上げた。俺の斧と魔剣が衝突する。魔剣の鞘が抜ける。俺は腕をねじって鍔迫り合いに持ち込んだ。
ユウタは意識を失ったキリンコの身体を落とすまいと片手で支えている。そりゃあ一体何の気遣いだァ? 大して仲の良くない妹が窮地に駆け付けてくれて勘違いしちゃったかァ? 今後は少し仲良くなれるかもしれないってか? そんなのはお前の勝手な思い込みだぜぇ!
ユウタはフッと笑った。
「コタタマ。君って結構ヤなやつだな」
魔剣に刻まれた【戒律】が浮き上がる。
ユウタの、キリンコの肩を掴む手に力がこもる。
魔剣ウィードは失敗作だ。耐久力に問題がある。しかしニジゲンが打った一振りであり、強い感情に応じて持ち主の筋力を増強する効果がある。……モンスターに対しては意味のない効果だ。多少筋力が増したところで力比べで敵う訳がない。それどころか刀身に余計な負荷が掛かってへし折れるだろう。
しかし、人間が相手ならば。
パキ、と俺の斧がへし折れた。
ユウタの鍔迫りが、俺の胸骨もろとも俺の顔面を瓜の如く両断した。
二度目の鍔迫りは脊柱に到達した。
俺の傷口から這い出したウッディが癒着を試みるが、重要な器官に分け入る魔剣が再生の邪魔だった。
俺は、体内を掻き分けていく魔剣を掴んだ。肺腑からせり上がってくるドス黒い血を口から垂らしながら言う。
ユウ、タ。あれは何だと、言っていたな……。教えて、やるよ。
ユウタが顔を上げて俺を見る。俺の傷は深い。どう見ても致命傷だ。刀身を伝った血に、魔剣の柄を握るユウタの手がゆるんだ。
俺は、指が千切れ掛けた手でユウタの頬を包むように触れる。未だ俺の瞳の奥底に何かを期待しているユウタが、俺の血でドス黒く汚れるのはとても良い気分だった。
エンド、フレーム……。プレイヤーの、最終形態だ。このゲームの運営会社……GGO社のトップは……【ギルド】のコピー体に、プレイヤーの記憶を、埋め込んだ……。それが、エンドフレームだ。ごく初期のプレイヤーには、記憶を結晶化できる種族、というのが居たらしい……。戦闘記憶……おそらくは俺たちとは別のアプローチで、子を成す機能だ。……蓄えた戦闘経験……経験値を……継承することができた。
だが、中にはその機能を使って他人の身体を乗っ取ろうとするヤツも居た……。
本能的な営みを拒否し、他人を拒絶し……肥大した自我で世界を呪って生きてるヤツらだ……。
そいつらを、異常個体と言う。
異常個体の戦闘記憶は、エンドフレームを蝕み、乗っ取り、支配し……やがて【ギルド】に近付いていく。
個人主義の異常個体にとって、不滅の【ギルド】は理想的な存在だからだ。
ユウタ。このゲームを最初に始めたのは【ギルド】だ。運営ですら手出しできない領域が存在する。
運営に開発は制御できない。
異常個体はエンドフレームを、【ギルド】と戦うための力を、自分のためだけに使える。
俺も異常個体だ。
赤い光が地表を伝う。
死出の門が咲く。
俺の頬が吊り上がり、ボロボロと皮膚が剥がれ落ちていく。
脱落した肌から金属製のフレームが覗く。
地獄の釜の蓋が開く。
死出の門から這い出した奈落の火が、巨大な怪物の輪郭を描いていく。
徹底的な個人主義により自分以外のものは排他される。
押しやられた大気に吹き飛ばされたユウタが、
「っ、コタタマ!」
差し伸べた手を、
「俺の勝ちだ」
俺は取らなかった。
俺とユウタを繋いでいた魔剣の刀身が砕け散った。宙を舞い、無残な姿を晒して地面に転がる。こうなっては単なる鉄クズだ。
俺は杭のような歯列の隙間から寒々しい呼気を漏らし、咆哮を上げた。
Pyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
12.決戦
円環状に編まれた【戒律】が俺の身体から放たれ、バチバチと黒い火花が上がる。
俺は地べたに転がった鉄クズをチラリと見てから勝ち誇って言った。
い〜い気分だ。ユウタぁ。いいことを教えてやるよ。
正常個体じゃ異常個体には勝てねえ。
お前らはエンフレに変身できねえからな。
お前のレベルは3か4といったところ……。
俺のレベルは1001だ。
俺は勝利を確信した。もはや負けるほうが難しいと言えるほどの隔絶したレベル差が俺たちにはあった。
しかし、おっと? モブキャラがしゃしゃり出てきたぞ……。
知らないゴミがバサッと脱いだ上着をユウタに預ける。
「持ってろ。異常個体の相手は異常個体で十分だろ……」
一緒くたにすんなや!
俺はビャッと触手を伸ばした。
俺の触手が地面に叩き付けられて戦塵が舞う。やったか?
赤い光が地表を伝う。
ちィ、くそがぁ……!
俺は触手を乱れ打ちした。
舞い上がった戦塵からぬっと突き出した手が俺の触手を掴む。は、離せ……! こ、この力……テメェー攻略組だな!? 俺を裏切るのか!? テメェーは薄汚い裏切りモンだぁ!
【目の前にあるものを、尊いと思った】
戦塵を掻き分けて巨人が姿を現わす。
【守りたいと思った】
瘦身長駆の巨人を、黒い金属片が取り巻いている。
俺は後ずさった。
……追加、装甲……。
変身を、瞬時に終わらせることができるほどのワザを持たないから……装甲を後回しに……。
……それは弱者の知恵。持たざるものの悪足掻き。
才覚に乏しく、小手先のワザに頼らざるを得ないから生まれた貧者の発想だった。
ジジジと大気を焦がす黒く細い稲妻が、剥き出しのフレームと追加装甲を結び、引き寄せる。
装甲を身に纏った巨人が、二の腕からせり出した大剣を掴んで引き抜く。
【なぁ、崖っぷち。ゲームでくらいカッコ付けさせろや。リアルじゃ、ちっとばかしキツいからよ】
これは、とあるVRMMOの物語だ。
トッププレイヤーでなくとも、廃人でなくとも、主人公になれる。初心者だってモブキャラだってヒーローになっていい。
それがMMORPG。それがオンラインゲームなのだから。
そして、年の一度のクリスマスに暇人どもに娯楽を提供してやった俺こそが真のヒーローなのだ。
そんな簡単なことがゴミには分からないらしい。ならば死ね!
俺はジュルジュルと触手をくねらせてレーザー光線を放った。回避は許さない。今や俺はエンフレの触手を手足のように扱うことができた。
大剣を盾にして粗大ゴミが突進してくる。バカめ。俺はあざ笑った。重装甲タイプのエンフレならともかく、攻めることしか能がない軽装甲型に俺のレーザー光線は防げない。俺が認めるのはタンクとヒーラーだけだ。火力なんざ誰にでもできる。敵に大ダメージを与えて気分は上々か? お前の代わりなんか幾らでも居るんだよ!
俺は触手をムチのようにしならせた。照射角度を変えたレーザー光線が粗大ゴミの装甲を貫き、大きく切り裂く。四肢を焼き切られた粗大ゴミの巨体が無様に宙を泳ぎ……。
粗大ゴミの双眸が鈍い音を立てて一際強く輝いた。命の火が激しく燃え上がる。稲妻のエフェクトが走る。【スライドリード】のオーバーフロー……! 無詠唱だと!?
残機を代償に不具を補った粗大ゴミが急加速した。大地を削り俺の側面に回り込んでくる。俺は触手を引き戻して攻防を両立した。触手と剣が衝突して激しい火花を散らす。切断された俺の触手が地響きを立てて地面に転がった。
粗大ゴミが咆哮を上げた。
俺も負けじと吠える。
エンドフレームの巨体が正面から衝突する。
つ、強い……!
押し負けた俺の身体がグラつく。
粗大ゴミの大剣がうなりを上げて俺へと迫る。
……こうまでお膳立てしておいて、ボウフラのように湧いて出たゴミにやられるのか? もしも設定資料集があったならたった1ページの雑なラフ画で書かれて必要ないからと人物紹介すら省かれるようなモブに……!?
絶対に嫌だ!
俺は触手を広げて粗大ゴミに掴み掛かる。ガバッと大きく口を開いて杭のような歯列で粗大ゴミを頭から噛み砕いた。触手が空を切り、粗大ゴミの身体が霧散した。残像……? 俺が最後の反撃に出ることを見越して……。
残像を突き破って肉薄した粗大ゴミが俺を飛び越し、慣性を無視した動きで空中に半月状の軌跡を描く。振り抜かれた大剣が負荷に耐えかねて半ばからへし折れた。くるくると宙を舞った剣先が轟音を立てて大地に突き刺さる。
俺は大きく仰け反った。
【かっ……!】
切り裂かれた胴体からドス黒い血しぶきが噴出する。
どうと倒れ伏した俺は、断ち切られた触手を上げて命乞いをした。
ま、待ってくれ。殺さないでくれ……!
し、知ってるだろ? エンフレが壊されたら、俺は……ロストしちまう……! お、俺が悪かった。謝るよ。この通りだ。な?
俺はぺこぺこと頭を下げながらパックリと裂けた胴体に触手を突っ込んでいく。
エンフレが壊されたらロストすると聞いてユウタが俺の助命を懇願してくれた。
「ま、待って! キャラクターロストはやり過ぎだ! コタタマは悪いやつかもしれないけど……友達なんだよ!」
へへっ。持つべきものは友達だぜ。
地べたに這いつくばる俺を庇うように両腕を広げるユウタに、粗大ゴミが逡巡してから、ゆっくりと大剣をおろしていく。
【……崖っぷち。お前は人間のクズだ。そんなお前をクズと知って、なお庇ってくれるヤツが居る。そいつを見てもお前は何も感じないのか……? だとしたら、お前は本当のクズだ……!】
クズでーす!
俺はガバッと口を開けた。銃身を束ねて作った砲身を晒す。大きく裂けた胴体から口内へと触手を通すのはさして難しくなかった。チャージは終えている。命乞いしてる間にな。俺の勝ちだ! クズだろうが何だろうが勝てばいいんだよォー!
吹っ飛べ! 俺はレーザー砲をブッ放した。
【バカヤローッ!】
粗大ゴミもレーザー砲をブッ放した。
……ええ? どういうこと? 俺と同じギルド憑きなの? しかもチャージを終えてるって最初から俺を生かして帰す気ないじゃんね。
最後にモノを言うのはレベル差だ。
俺は押し負けた。
【おごぉっ!】
レーザー砲を浴びてユウタ共々木っ端微塵に砕け散る。
俺はロストした。
【Game Over……】
13.エピローグ-ポポロンの森
森の中、とある兄妹が木の幹に背中を預けて座っている。
二人の名前はユウタとキリンコと言う。
ユウタとキリンコは特別仲の良い兄妹ではない。仲睦まじく隣に座ってお喋りするような間柄ではない。同じ木の幹に背を預けて角度を変えて座るくらいの距離感が息苦しくなくて適度だったし、お互いにとって良いことなのだ。
妹のキリンコが不満げに声を上げる。意地でも兄のことを尊称や名前で呼びたくないらしく、聞きようによっては独り言にも聞こえるような調子だった。
「こんなさ〜。待ってて何になるんだろ。あんなの全部悪いの本人だし、別に責任とかないと思うケドな〜。てか、会ってどうすんの?って感じ」
独り言を装っているが無視すると怒られそうなので兄のユウタは簡素に答える。
「別にいいだろ。……あいつが俺のこと覚えてなくても、俺は……。友達って、そんな単純なもんじゃないだろ」
キャラクターロストしたプレイヤーは記憶を失う。でも、もしかしたら……。彼はそのように考えているようだった。愛情や友情に奇跡的な力があると信じるのは幼稚かもしれないが、目には見えないだけで奇跡は世界に満ちあふれている。
と、兄妹がハッとした。
ここはプレイヤーが降り立つ最初の森だ。
初心者狩りを避けるためかスタート地点は多少バラけるが、チュートリアルを終えたプレイヤーは誰もが街を目指してここを通る。
兄妹が息を潜めて見守る中、今しがたチュートリアルを終えたと思しき集団が通り過ぎていく。
しかし目当ての人物は見つからなかったようだ。目に見えてガッカリしている兄に不甲斐ないものを感じてか、キリンコが小さな唇を尖らせて不満の声を上げる。
「大体こんなのいつ来るかも分かんないじゃん。ロストしてすぐチュートリアル始めるとも限んないし。無駄だよ、時間の無駄」
「そうかもしんないけどさぁ……」
思わず妹のほうを振り返ったユウタが目を見開いた。
木漏れ日の中、茂みを掻き分けて一人の男が歩み寄ってくる。
その男は何故か半裸で、兄妹を見つけると気安く声を掛けた。ひどく聞き慣れた声だった。
「よう。ネクタイ持ってないか?」
そう、俺である。
これは、とあるVRMMOの物語。
未来人がチュートリアルに混ざっていて未来のフシギな道具でテレパシーを送り勝ち筋を伝えることはなかった。
GunS Guilds Online




