GunS Guilds Online
1.モョ%モ氏の影武者を倒せ!
プレイヤーたちの猛反撃が始まった。
俺は大したことはやってない。ゴミどもは本調子を取り戻したようだが、放っておいても気付くやつは気付いたろう。むしろ大きいのは影武者の性能を大体把握できたことにある。大剣を持っているが、あれは律理の羽じゃない。分解して形を変えるのが精々で、遠隔操作はできないようだ。それにスキルも使ってこない。【戒律】は適用されない……そういうことか。
俺の仕事は終わりだ。ポチョの元に戻ってゴミどもの戦いぶりを眺める。まぁひどい。どんなに真面目に戦っているように見えても女の肌が露出すればそちらに回り込もうとするし、地に足を付けて戦うと言えば聞こえはいいが実際にやってることはパンチラ待機だ。俺からオススメしておいてこう言うのは何だが、パンツ見る以外に他にやることないんか。
一方、女キャラは同じ女に対して一切容赦がない。幕末時代の剣心みたいだ。龍槌閃・惨みたいなことを平気でやる。人斬り抜刀斎かよ。
しかし影武者は倒れない。致命傷と思える一撃を食らっても分解・再構築して何度でも立ち上がってくる。おそらく本体のモモ氏を叩かないことにはダメなのだろう。再生には限りがあるかもしれないが、不確かな憶測に賭ける場面でもない。【四ツ落下】を制御できる上級者が影武者と邪魔なゴミを一緒にプレスして頭数を削っていく。影武者たちの陣形がやや乱れ、幾ばくかのゴミが堅陣を抜けた。モモ氏本体にダイレクトアタックを仕掛ける。
【敗残兵】の連中は全滅していた。相変わらずここぞという場面で使い物にならねえな。サトゥ氏の処刑は確定したが、さて? ラストステージに辿り着いた連中を、モモ氏が両手を広げて歓迎した。
【個々人の力量は把握した。次の段階に進もう】
2.決戦
モモ氏を中心に地面に複雑な紋様が刻まれている。律理の羽で削って描いたのだろう。半径10メートルほどの難解な式だ。
アナウンスが走る。
【GunS Guilds Online】
【テキスト】
【第三章】
【天使の降臨】
【とある星で】
【奇妙な金属片が出土した】
【思念に応じて形を変える】
【宙を浮く】
【調べても何も分からなかった】
【同時期に】
【上記の金属片と同じ性質の落とし物をしたという届け出があった】
【届け出をしたのは二十代の女性】
【詳細は不明】
【天使】
【新人類の天敵と称される謎の敵性体】
【彼らは人の裡から表れる】
【その症状は長らく天使憑きと呼ばれることになり、問題視されなかった】
【人類社会への潜伏と浸透】
【目的は、新人類を管理しうる立場だった】
地味な降臨だなぁ〜。
まぁ派手に降臨しといてあっさり退場するよりはマシか。誰とは言わねえけどよ。
モモ氏の足元に刻まれた紋様から光芒が上がる。ラスボス臭い演出にゴミどもが警戒を強めるが、影武者は依然として後方で暴れている。挟撃されたらどうにもならない。意を決して光芒に足を踏み入れる。……人間爆弾の射程は2メートル〜4メートル。爆弾役の体格は小さいほうがいい。しかし絵づらがヤバすぎるというリスクもある……。
近接職と思しきゴミが、チラッとロリ型の人間爆弾さんを見た。やる気だ。
……このゲームの仕様上、人間爆弾を上回るワザはない。あのサトゥ氏ですら街中でイキナリ人間爆弾を投げ付けられたら対処できないと認めるほどだ。効果は絶大。格ゲーで言うところの超必殺技……!
気になるのは、クァトロくんがバトルフェーズで見せた【全身強打】のすり抜けだ。【全身強打】は非生物を透過するという特性を持つ。おそらくはデータの改ざん。モモ氏も同じことができるかもしれない。かといって【重撃連打】に頼るのは……。ポケモンで例えるならばピカチュウが伝説ポケモンのサンダーに10万ボルトを撃つようなものではないのか。まぁ俺はどちらかと言えばマリルなので、10万ボルトは効果ばつぐんなのだが。コイキングをギャラドスに進化させてレギュラー入りは定石として……。やはりピカチュウは外せない、か。イーブイの席も開けとかないとな。見た目で選んでると思われるのも癪だからマタドガスとベトベトンは鍛えておきたい。見慣れれば可愛いやつらよ。ミミッキュは割とガチなやつだったから対策しておくとして、イーブイはニンフィアだろ? フェアリー特攻に毒……アリだな。物理受けは厚くしておきたいが……。
モモ氏が何か言ってる。
【スキルは戒律の恩恵だ。縛りが強いほどスキルも強力なものとなり、同じ自由意志でも強い個体と弱い個体では価値が異なる。これは裁量権の違いによるものだ。猛獣を牢に閉じ込めるにはそれ相応の堅牢さが要る、ということだな】
ポチョが俺の袖をくいくいと引っ張ってくる。何かな?
「ポケモン? どっちにした?」
ソードとシールドのどっちってこと? いやいや言わねーよ。俺は言わない。ガチで身の危険を感じてっからね。
モモ氏が何か言ってる。全体チャットだから脳に響く。やめて欲しい。
【スキルはシンプルなものほど古く、強い。複雑なスキルは初見殺しの性質を持つ場合があるものの、その緻密さゆえに特定の対処法で無力化されるケースも生じる。そして固有スキルを隠し通すのは困難だ。使わなければ伸びないからね】
ポチョはニコッと笑った。可愛い。
「私、シールド。スズキはソードだよ」
スズキはガチパっぽいよな。お前はそうでもなさそう。対戦して喧嘩しないようにね?
「抜きエース居ないけど大丈夫?とか言ってくる……」
喧嘩しないでね?
あっ、ゴミどもが全滅してる! この俺が見逃しただと……。い、一体何があったんだ?
【ポポロン、ワッフル、ニャンダム、スピンドック、エッダ、マールマール、プクリ、パピコ……。単純に強力なスキルを集めたならばこうはならない。古く強いスキル、新しくも複雑なスキル、特殊なスキル……様々なパターンがあるのだと諸君らに教えようとしているようにしか……。何故だ? ヒューマンの一体何がョレにそうまでさせる? まったく分からない】
ョ%レ氏の言葉が俺の脳裏を過る。
(人間では今の彼女には勝てない)
くっ……!
俺はギリッと奥歯を噛みしめた。
つるぎのまいを……積まれた。
これは、とあるVRMMOの物語。
ミミッキュ対策を怠りましたね。
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