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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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目覚めた刃

 オンゲーにはキャラクリコンテストという企画がある。

 企画の名称はゲームによって様々だが、要するにキャラクリの腕前とセンスを競う大会である。

 俺とて女キャラを作ったことくらいはある。男が女キャラを作る時は自分の理想のタイプを作る。どこまで細部に拘ったかで程度は異なるだろうが、俺の女が一番だ!くらいの思い入れはあるかもしれない。


 リチェットの言うミスコンとは、つまりそうしたものだ。



 1.スピンドック平原-幕張コロシアム


 スピンドック平原の外縁部には幾つかのコロシアムがある。

 街中に置くには邪魔臭い規模で、建てたはいいものの普段は使い道がなく野晒しにされている。

 ティナンを雇って建設したコロシアム群だ。それぞれ微妙に設計思想が異なる。

 今となっては誰が呼んだか、東京コロシアム、幕張コロシアム、甲子園コロシアムなどと呼ばれる。おそらくはプレイヤーが各々で勝手に別の名前で呼んでいて、なんとなくそれっぽい呼び方に統一されていったのだろう。俺としては非常に気に食わない名称である。世界観を無視するのはどうかと思う。とはいえ定着してしまったものは仕方ない。

 今回のイベント会場は幕張コロシアムだ。


 実質的にはキャラクリコンテストとなる今回のイベント。他人のキャラクリなんかどうでもいいというプレイヤーは多いが、いつの時代も見目麗しい女というのは最強のコンテンツの一つである。入場料はタダということもあり、会場に押し寄せた暇人どもで観客席は埋まっていた。

 開会の挨拶を終えたリチェットに暇人どもがワーワーと歓声を上げる。イベント進行を担当しているリチェットにしたってリアルじゃそうそうお目に掛かれないレベルの美女だ。そりゃまぁ自分で自分の外見を選べるんだからそうなる訳だが。観客の期待は高まる。

 マイクを片手にパッと手を上げたリチェットがよそ行きの笑顔と声で高らかに選手入場を宣伝する。


「司会者入場!」


 俺は刃牙の選手入場よろしくガッツポーズして花道を歩いていく。ワッと歓声が上がった。降り注ぐ矢をスタッフが盾で防いで反撃の射撃でイベントのお邪魔虫を一人ずつ確実に排除していく。

 面白半分に俺を殺そうとする輩には退場して貰う。入場料を取らないのはお前らは客ではないということ。接客を期待するなと知らしめるための俺入場だ。この俺に対してゴミどもが溜め込んだヘイトは今更ケタが一つや二つ上がろうが何も変わらない。


「異常個体と言えばこの男だ! 自称正常個体! 魔族! ロスト魔ことコタタマの登場だ〜!」


 リチェットが失礼極まりない紹介をしてくるが、そんなことはどうでも良かった。

 俺は指をクイっとやってスタッフにマイクを要求した。放り投げられたマイクを掴んで本日の所感を述べる。八方美人のリチェットが言えないことも俺は言える。


「俺ぁ〜女なら誰でもいいがブサイクな女に興味はねえ! ただし美女に限るってヤツだ! 美少女も許す! あるいはそっちがメインかもしれねーよ! 今日は新しい俺を発見するために来た! オメェーらも手ブラで帰れるとは思うな! クソッタレな人生をクソッタレな性癖で飾りゃあ立派な人間様の一丁上がりだろうがよ! クソッタレ!」


 クソだクソだと連呼すればドン引きするお上品なプレイヤーも居る。俺はそいつらにリアクションする時間を与えなかった。握り拳を振り上げて吠える。


「小難しい審査なんぞやる気はねえ! 結果はオメェーらが決めろ! 猿じゃねんだ! 会場の盛り上がりやら何やらである程度は分かンだろ! 今から参加者を全員並べるからよー! 好みのタイプに目ぇ付けとけ! スタッフ! ドラ! 選手集合!」


 ドラがどーんと叩かれ、選手が戸惑いながらもわらわらと花道を歩いてくる。

 リチェットが俺の肩を揺さぶってくる。


「お、おい。待て。脚本と違うぞ。何を勝手に……!」


 俺はニカッと笑った。


「性癖に順位はねえ。俺の遣り方が正しい。引っ込んでな」


 リチェットは優勝賞金だの何だの用意していたようだが、俺は最初からこのイベントをブッ壊すつもりで居た。

 ミスコンに参加するくらいだ。選手の顔面偏差値はどいつもこいつも最高点に近いだろう。優劣を判定してふるい落としに掛ける必要などない。ブサイクが混ざるようなら俺が排除してやるさ。リアルとは違うのだ。リアルじゃ顔面の造作を選んで生まれることはできない。キャラクリがヘタクソなのは技術の問題で、しかも整形チケット一枚でやり直しが効く。ブサイクをブサイクと言って何が悪い。

 もっとも、その必要はなかったようだ。事前にスタッフが書類審査でもしたのか、綺麗どころを集めてきた。イイね! 

 無論、選手に俺の知り合いは居ない。俺は身内を特別扱いするから、俺の身内が参加していたなら俺の中で優勝はそいつに決まる。内面的なものを無視した性癖に意味などないのだ。

 ずらっと並んだキレーなチャンネーに観客席のゴミどもが下品な喝采を上げる。教室に持ち込んだグラビア雑誌のアイドル品評会さながらである。


「俺は断然3番だね。女はケツだよ」

「いいや7番だね。気の強そうな女だ。ああいうのがイイんだよ」

「くそっ、堪んねえ。おい、お前ちょっと乱入して来いよ。俺もあとに続くから」

「この日のために残機を満タンにしてきた。俺のエンフレを見せてやるよ。あとでこっそりな」

「お前のエンフレは使う機会がねーから仕舞っとけ」


 勢いに流されてうっかり解放してしまった【八ツ墓】の青い波が寄せては返し、実質的にスキルは使い物にならない状況下にある。

 よーし、並んだな! 俺はリチェットの腕をぐいっと引っ張って選手たちのほうに放り込んだ。進行担当は要らん。全部俺がやる。お前も参加しろ。

 しょせん女に男の気持ちは分からない。分かったつもりにはなれても、分別というものがあるから男女は分かれて行動する。別々に生きてきた人間を理解できるというのは自惚れだ。だから事あるごとに「尊重」という言葉が出てくる。

 俺はマイクを手元でくるりと回して口元に寄せた。

 話が違うって顔だナ? 分かるよ。悪いが、俺は最初からこうするつもりだったんだ。こん中にゃー賞金目当てで参加したやつも居るかもな。その辺はあとでリチェットと話し合ってくれや。ただ、まぁ周りを見てみな。どいつもこいつもキレーな顔してるだろ。俺の見立てじゃあフツーにミスコンやったとしても優勝者は審査員の気分で決まる。山分けが妥当だと思うぜ? 俺らは運営じゃねーからな。どんだけ手の込んだキャラクリしてんのかなんて分かんねえ。拘ったポイントなんて言われてもそんなのは自己申告でしかねえよな。国語の授業じゃねーんだ。文章力を競うのは別の機会にしてくれや。

 立ちっぱってのも何だな。スタッフ〜。椅子。あとマイクね。

 スタッフが椅子を持ってきて並べる。マイクを手渡された選手たちが着席した。リチェットも着席した。リチェットは俺の無茶ぶりに慣れている。俺の暴走については特に怒っていないようだ。むしろある程度は想定内だったのかもしれない。選手たちの幾ばくかはリチェットを気にしていて、リチェットは愛想良くメンゴと片手を立てて表向きは申し訳なさそうにしている。

 そう、こいつらは俺の性癖を暴くために用意された刺客だ。一言にキレーなチャンネーと言っても色々なタイプがある。スタンダードに色っぽいネーチャンも居れば、逆にロリ系も居る。コスプレ審査も予定に入っていたので、楽屋には制服やら何やらも取り揃えてある。楽しい一日になりそうだ。

 ひとまず俺はフリートークの時間を取ることにした。こいつらは衆人環視の中で自己アピールしていくことになるのだ。緊張するなと言うほうが無茶だ。俺だって最初の生放送は緊張した。今では観客が生ゴミにしか見えないし、実際人間と生ゴミに大差はないと知っている。何なら生ゴミのほうが幾らか上等かもしれない。俺とて種族人間の一員なので、自分たちを過大評価してしまうのは仕方のないことだった。

 俺は選手たちの中で大人しそうなメガネっ娘に第一声を担って貰うことにした。

 6番の子さ。なんでメガネ掛けてんの? 視力悪いとかあり得ないよね? ファッションメガネ?

 6番のメガネっ娘がマイクのスイッチをONにする。事前にスタッフにマイクの使い方をレクチャーされているのもあるが、遊び場所の候補にカラオケが挙がる世代はマイクの使い方でいちいち戸惑ったりはしない。ピンマイクを採用しなかったのは誰が話しているのか観客にも分かりやすくするためだ。

 メガネっ娘が両手でマイクを持って少し恥ずかしそうに答える。


「……ファッションと言うか。私、リアルでもメガネなので、メガネを掛けてると落ち着くんです。コンタクトはちょっと苦手かな」


 リアルでメガネだからゲームでもメガネを掛けると落ち着くなんて話は聞いたことがないが……。まぁいい。リアルの姿を観客に想像させるというのはウマい手だ。リアル女であることをそれとなく匂わせることができたなら、そいつはおそらく優勝しただろう。元々そういう戦略だったのかもしれない。ネカマがよくやる手口だ。ゲームに出会いを求める直結厨もピンキリだからな。最初は単に見た目が可愛いからと女キャラを選んだやつが、猛スピードで騙される直結厨に段々と引っ込みが付かなくなって化粧品のブランドを調べたりボイスチェンジャーを用意したりするケースもある。

 メガネっ娘については俺も一家言ある。

 俺は11月6日に最新刊の12巻が発売した喧嘩稼業ふうのアナウンスを交えて力説した。


 最強の萌え属性は何か!?


「俺はこう思う。メガネ萌えは未だに解明されていないジャンルだ」


 多種ある萌え属性の信者がガチで議論した時……。


「知性を感じる。メガネを外した時のギャップ。メガネをいじる仕草……。人によって言っていることがまちまちで、これだという結論がない。かく言う俺もメガネ萌えについては明確な答えを出せていない」


 レスバではなく煽り・揚げ足とりナシの「討論ディベート」で戦った時……。


「実際、扱いにくいんだろうな。メガネっ娘のヒロインは少ない。十人ヒロインが居たとしても精々一人。その一人も途中でコンタクトに替えて実は美少女だったと脚光を浴びる始末……」


 最強の萌え属性は何か!?


「俺はそうじゃないと思っている。制服モノを謳っておきながら全部脱ぐAVのようにな」


 その答えの一端がこのミスコンで示される。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 講談社の回し者なの?



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[良い点] 割とガチめに、眼鏡っ娘系の属性は細分化すべきジャンルだと思われる。 [気になる点] •眼鏡っ娘萌え:眼鏡を付けた「女子」が好き。外しても好き。 •眼鏡フェチ:「眼鏡」with異性が好き。眼…
[一言] 次の話でミスコン終わってタマ氏が殺されてるところから始まりそう……
[一言] 眼鏡フェチは身体的弱者萌えに通じるものがあると思う。目が悪いということは行き着く先は障碍者だ。弱点があるからかわいく見える。上位に立てる。そういった面もあると思う。
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