We.TV
1.パウンド放送開始
We.TVの放送が始まった。
もちろん、言うまでもなくだ……。俺は動画をタダで見ている視聴者にゴブさんたちの艶姿をお届けしてやるつもりは一切ない。
カメラマンにはボールホルダーを追うよう指導している。胸チラしたからといってズームする必要は一切ないし、胸踊るキャットファイトなど勝手にやらせておけばいい。精々得点を上げたチームメンバーの喜びに沸く様子をアップでお届けしてやるくらいだ。
つまり普通のスポーツ中継をやる。カメラマンに私情は要らない。男の目線に立つ必要などない。別に一回こっきりの番組じゃないんだ。お色気を前面に出さないぶん初動は鈍るだろうが、俺が撮っているのは素人モノだという認識だ。客の立場に立ってみる。エロがご所望ならばエロ動画を漁ればいい。女にスケベなことがしたいなら恋人を作ればいい。俺がWe.TVの客層に想定しているのは、言ってみればドルオタなのだ。
表向きは健全なスポーツ中継……。しかし気付くやつは気付くだろう。この番組は多発するエロハプニングが偶然にも映ってしまうものであり、腑抜けたカメラワークにご不満ならば、現場で何が起こっているのか自分の目で直接確かめに行くしかないのだ。
俺が真面目くさった顔で腕組みなどしてコートを見つめていると、放送の趣旨を勘違いした男キャラどもが寄ってくる。
「監督! 今のプレイはどうでしたか!?」
寄せが甘いな。
俺は野郎どもがドコで何をしようがまったく興味がないのだが、一応こいつらにも健全なスポーツ中継を装うダミーという役割がある。お色気路線を強調してしまっては嫌がる女キャラも出てくるだろう。ボイコットなどされては困るので、俺は男女公平の立場を崩さないようにしている。
試合を続ける内に何故かやたらと懐いてきたオスゴブリンどもに、俺は技術的な指導をしていく。
キックは良かったぞ。動ける味方が居ないなら誰にも渡さないという選択肢はアリだ。そうなるとコートはもっと広いほうがいいかもな。色々やってみよう。パウンドは新しいスポーツだ。俺たちで作り上げていくんだ。ただ、ルールは複雑にしたくないな。殴らない、コートの外に出ない。それら最低限のルールを軸に組み立てていく。
オスゴブリンどもは滴る汗をキラキラと輝かせて爽やかに笑った。
「監督! これ結構楽しいっスよ!」
「おお! 女子は枕投げみたいになってるけど、俺らはパワーとタフネスで勝負しようぜ!」
「ボールを渡さなければ勝ちます。理に適った選択ですよ」
最初は球遊びなんてバカらしいとか言ってたクールキャラが陥落していた。
正直、理解しかねる。こんな球遊びの一体ドコが楽しいんだ。本格的に球技やりたいならメジャースポーツやれよと思う。野球とかサッカーのほうが断然面白いだろ。なんちゃってラグビーで数字を取れるなら苦労はしない。
俺はホワイドボードで今のプレイを頭からおさらいしてやりながら内心でそんなことを思った。
さて、We.TVの評判は上々だった。
やはり薄着のキレーなチャンネーが組んずほぐれつしながらキャッキャと汗を流すというコンセプトは間違っていなかった。元よりネトゲーの女キャラは美形揃い。このゲームに至ってはテレビでしかお目に掛けないような美人女優や美少女アイドル級の女キャラがそこら中を歩いている。
まったく……。VRMMOってやつは最高だぜ。
俺は、視聴者のカメラワークに対する不満の高まりを慎重に見定め、スピンドック平原に専用のスタジアムを建設した。
屋内スポーツではあるのだが、コートを広くして人数を増やしてボールも増やしたりと色々と試してみたかったのだ。観客席はそれほどコートから離さなくてもいいだろう。ボールがクッション素材なので観客に当たっても怪我をすることはない。極論、別に死んでも構わない。ゲームだし。
これは正解だった。ライブ感というのか。パウンドガールがボールを追って観客席に飛び込むと大きな歓声が上がる。
雨天決行? そんなものはやる必要がない。天気が悪ければ屋内でチームを分けてリーグ戦をやればいい。コートと観客席が近くなるぶん新鮮さがあっていいだろう。
チケットの売れ行きは順調だ。
最初は疎らだった観客席が徐々に埋まるようになっていく。
試合を重ねる内に自然とパウンドガールにポジションの概念が生まれた。
点取り屋のエース。相手チームに組み付いて身動きを封じるガード。正確な投球技術で試合を組み立てるフィールダー。コートを跳ね回って味方に有利な環境を作るジャンパー。
何しろ揃いも揃ってキレーなチャンネーなので、プレイに魅了されたという言い訳を用意されたサポーターが好みのタイプを推しメン登録して熱烈に歓声を送ってくれる。
頃合い良しと見計らった俺は、当初の予定通りグッズの作成に着手した。ファンならば買って当然、買わなければファンとは言えないというアイドル路線を水面下で密かに進行していく。
濡れ手に粟とはこのことである。
【目抜き梟】の再来とも言われるアイドルユニット集団の登場にドルオタは熱狂し、スタジアムは連日連夜の満員御礼。
俺の自慢のパウンドガールは6sTVにもお呼ばれされるなどして、ますます知名度を高めていった。
正式にWe.TVの社長に就任した俺は、ドルオタどもから徴収した札束をべべべっと数えながら悦に浸る。
くくくっ、ふははは……ははははははは!
またボロい商売を見つけちまったなぁオイ!
俺の哄笑が社長室に響き渡った……。
2.スピンドック平原-パウンドスタジアム
だが俺の天下は長続きしなかった。
焼け付くような夏の日差しの下、熱い男たちの雄叫びが上がる。
「セーッ!」
「セーッ!」
「レディッ!」
がっちりとスクラムを組んだ男たちが、逞しい肉体を惜しげもなく晒し、肌と肌でぶつかっていく。
俺が考案したパウンドは不安定な足場でボールを奪い合う競技だ。選手同士の接触を禁じるルールはないため、チームメイトで密集してボールホルダーを死守することになる。
「ぬっ……! ふぅあッ……!」
野太い嬌声が上がり、大きく息を吸い込んでぶくっと頬を膨らませた男たちが膨張した筋肉を頼りにじりじりと敵チームを押し込んでいく。
スクラムが崩れたなら勝負は一瞬だ。
散開し、猟犬のように素早くコートを駆けるオフェンス部隊がタックルで相手に組み付いてマットに押し付ける。
零れ落ちたルーズボールを奪取したボールホルダーが慣性を無視した鋭い動きで自陣に戻り、ボールとボールをぶつけ合った。ゴール。
喜びに沸くチームメイトを主将が一喝する。
「次だッ!」
2点ビバインドの追う展開だ。得点だけ見れば接戦とも言えるが、試合内容を振り返ると地力で押し負けている場面が多い。
主将の一喝にチームメイトたちが素早くポジションに戻るが、ここで前半終了のホイッスル。
目の肥えた観客が前半の出来を批評する。
「7番がズレてる。エースの負傷退場は痛かったな。押しの展開だと途中参加はツラいんだ。疲労にもリズムってモンがあるからな」
そんなことは分かってるさ……。
俺は内心でそう呟き、前半を終えた選手たちをベンチで迎えた。ホワイドボードに書き込んだ陣形に修正を加え、給水している選手たちに後半の作戦を伝える。
ベンチに座り、頭にタオルをかぶって項垂れている男がバッと顔を上げて俺に懇願してくる。
「俺を! 俺を出してください! 行かせてください!」
ダメだ。今日のお前は試合に入りきれてない。
「俺は……。俺は……! 監督! ようやく分かったんです! 俺には仲間が居るって……! こいつらとなら、俺はどこまでだって行ける! そうでしょう!? 監督!」
…………。
本当に行けるのか? いや、いい。もしもの場合は俺を恨め。そういうことだ、エース。行ってこい!
「はい!」
破顔したエースの背中を、俺はバンと乱暴に叩いた。
俺は握り拳を地面に押し付けて、信じて送り出した選手たちをじっと見つめる。
お前らも信じろ。俺のどんなシゴキにも歯を食いしばって耐えてきた自分を。そして仲間たちを。
……どういう訳か男子チームの監督に就任してしまった。
男女公平に扱ってきて、男どもにもイイ顔をしていた所為だろうか。分からない。
俺の自慢のパウンドガールは、俺の手を離れて高く遠くに飛んで行ってしまった。
俺の手元に残されたのはパウンドガイズだけとなり、観客席にひしめくガチのスポーツマニアがむさ苦しい男と男のぶつかり合いに野太い歓声を上げる。
なんだろう。何なんだ。どうしてこんなことになってしまったんだ。パウンドって一体何なんだ。俺は一体何をどうすればいいんだ。どうすれば良かったんだ。疑問は尽きない。
大歓声にスタジアムが揺れた。
エースの活躍で劇的な逆転勝利を収めた選手たちが満面の笑顔で俺に抱きついてくる。
俺たちの熱い夏が始まる……。
これは、とあるVRMMOの物語。
この男は一体どこに向かっているのか……。
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