GunS Guilds Online!
1.ゲストルーム
黒い金属片は余剰パーツだ。
【ギルド】はレベルが上がると「自分」が広がる。しかし、ある一定以上の強化を終えると慣れ親しんだ形を変えることをしない。
彼らが時折り見せるスキルじみた機能の多くは「八人の子供たち」のそれを真似したものだ。単純に数え切れないほど敗北してきたから、それが正しいのだと学習した結果だった。
ゲストルームはプライベートルームと対を成す機能であり、七土種族のダンジョンマスターを真似たものである。
余剰パーツを使って自分に有利な環境を作る。八人の子供たちを隔離し連携を断ち切ることを目的としている。最高指揮官クラスのゲストルームに干渉できるのはクァトロくんの律理の羽くらいだ。
俺のゲストルームはそこまで強固なものではないが、一人の人間にどうにかできるほど脆くはない。
つまり勝つのは俺ってことさ。
ああ、ちなみに七土種族ってのは最古参のプレイヤーのことだ。天じゃなくて土。天という表現はどうしてもゲストを連想してしまうので避けたらしい。七大地人とか単純に七種族とか色々な呼び方がある。
サトゥ氏は強気だ。
【そうか。勉強になったよ。ところで、もういいか? 我慢するのは苦手なんだ】
ご静聴に感謝。
俺の全身にブッ刺さっている剣が端からボロボロと崩れていく。
俺の時間稼ぎにサトゥ氏は付き合ってくれた。……分かるよ。お前も俺と戦いたいんだな?
じゃあ始めようか。
俺は触手をアンカーのように地に突き刺して機体を固定した。大きく口を開けて吸引する。
サトゥ氏が吸い込まれまいと地に剣を突き立てて踏ん張る。チッと舌打ちして異様に長い腕を大きく振りかぶった。
【チャクラ・エクステンション〜!】
スパロボでお馴染みのブレンパワードの合体技だ。サトゥ氏は自分のエンフレがブレン寄りであると言って譲らない。
【シューッ!】
サトゥ氏は地に突き立てた剣を軸に半回転してもう一本の剣を全力でブン投げてきた。
人力チャクラ・エクステンションだ!
剣を投てきすると共に人力バイタルジャンプで俺に迫る。バイタルジャンプとは言うが、やってることは単なる【スライドリード(速い)】の慣性制御だ。意地でもブレンパワード一家に加わりたいらしい。
その理屈で言うなら俺はマジンガー一家かな。種族人間の限界を越えたレベルに物を言わせてサトゥ氏の剣を弾く。触手の先端から生えた銃口から細いレーザーを伸ばしてサトゥ氏を迎え撃つ。ベムトロンの旦那が使っていたレーザーメスだ。
レーザーメスの切れ味を警戒したサトゥ氏が大きく飛び退く。俺はサトゥ氏を追う。レーザーメスを上下左右に展開してこの場には居ないセミ野郎にイキる。
【セブン〜。お望み通りレベルを上げてやったぜ〜! お前のレベルは30かそこらか? 俺のレベルは1301だ! 一瞬でお前を追い抜いちまったな〜。チマチマとレベル上げしてたお前にゃ悪いけどよ! 無駄な努力だったな〜。ゴクローさん!】
きひっ。くくくくっ、ふははははははは!
サトゥ氏が矢継ぎ早に剣を投げつけてくる。それらを俺は独楽のように回って弾き散らした。
どうしたサトゥ氏! ちっとも効かねえよ。レベル上げが足りないんじゃねえか〜?
サトゥ氏も笑った。
【いいぞ。コタタマ氏。凄くイイ! お前とこんなふうに戦えるとは思ってなかった! そうか! お前はそっちに行くんだな! 前言撤回するぜ! 感謝する! ウッディ!】
俺が作ったゲストルームは黒いトンネルをイメージしている。黒いトンネルは俺の意のままに動く。壁面から伸びた触手がサトゥ氏に迫る。それらをサトゥ氏は気持ち悪い動きで躱していく。連続して飛び退きながら上下左右に細かく機体を振り回している。どういうワザなんだ、あれは?
エンフレの推進力は正面方向に強く働く。高速度戦闘を長時間維持するためだ。オートマ車の坂道発進が楽なのと同じ理屈だろう。穿った見方をしたならプレイヤーに後退を許さない仕組みだ。
俺の触手の動きに戸惑いを見たか、サトゥ氏が先ほどのお返しとばかりに超絶技巧の解説をしてくる。
【スライドリードの応用だよ。推進力をタイミング良く切ってねじってやれば、こういう動きもできるようになる。経験を積めばやれることがどんどん増えていく。目には目えない筋肉を鍛えているような感覚だ】
事もなげに言いやがる。廃人め。
俺にサトゥ氏の真似は無理だ。レベル差で押し潰してやる。
俺は触手を寄り集めて大口径の銃口を生やした。みゅんみゅんとチャージする。
壁に張り付いたサトゥ氏が俺へと飛び掛かる。俺はレーザーメスを振り回した。サトゥ氏が手のひらに生やした剣で俺の触手を断ち切る。まだだ。地面から突出した黒い金属片を足場にサトゥ氏が跳ぶ。メチャクチャな動きしやがる。速いと言うより緩急だ。多段ジャンプの精度が尋常じゃない。サトゥ氏が俺に肉薄する。俺は装甲を削られながらもサトゥ氏をカチ上げた。仰け反ったサトゥ氏を壁から生やした触手で追撃する。バラバラにしてやるぁ! 俺のレーザーメスが閃く。サトゥ氏の機体の輪郭がブレた。無詠唱の【スライドリード(速い)】。一瞬で俺の背後に回って全身でぶつかるように剣を突き立ててくる。そう来ると思ったぜ。俺はチャージを終えた銃口をぴたりとサトゥ氏の脇腹に当てた。吹っ飛べ! レーザー砲を発射。サトゥ氏が俺の真ん丸ボディに手を掛けて俺を飛び越えた。デタラメな反射神経してやがる。しかし片腕は貰った。レーザー砲を浴びたサトゥ氏の左腕が半ばから千切れ飛んだ。勝てる。俺はレーザーメスをサトゥ氏の機体に突き立てた。しかしバラバラにすることはできなかった。レーザー砲はエネルギーの消費が激しい。レーザーメスの強度が落ちている。サトゥ氏の連続攻撃。千切れ飛んだ左腕を口に咥え、激しくステップを刻みながら俺の真ん丸ボディに連打を浴びせてくる。俺も応戦した。サトゥ氏の残像が視界を埋めて邪魔臭いが、触手の先端を斧に換装して相打ち上等の乱打戦に持ち込む。距離が近すぎる。武器を振り回すスペースが足りない。斧と剣の激しい応酬をするが、エンフレの装甲を貫くほどの一撃を放てない。
俺は斧を収納して触手を束ねた。
ゲンコツを作ってサトゥ氏を殴り付ける。
サトゥ氏も剣を放り捨てて殴り掛かってくる。
足を止めての殴り合いだ。
俺の渾身の右アッパー。仰け反ったサトゥ氏が半回転して膝を叩き込んでくる。俺はサトゥ氏にしがみ付いて持ち上げた。地面に叩き付けて拳を振りおろす。壁や天井から触手を生やして操る余裕はなかった。イヤやれたとしてもやらなかったかもしれない。コイツに勝ちたいという原始的な欲求が俺を衝き動かしている。上体のバネで跳ね起きたサトゥ氏が首をねじって俺の拳を遣り過ごした。カウンターの右を俺は額で受ける。サトゥ氏が俺の触手を鷲掴みにした。ぐいと引っ張って流れた俺の身体に渾身の肘を叩き込んでくる。俺はサトゥ氏に体当たりをした。吹き飛んだサトゥ氏の装甲がボロボロと脱落していく。俺の装甲も限界近い。脱落した装甲が地響きを立てて地べたに転がる。
俺とサトゥ氏は咆哮を上げた。
メルメルメが障壁をコンコンと叩いている。壁の材質が気になるようだ。しかしすぐにどうでも良くなったようで踊り始めた。
「振り付け精彩予測です」
サトゥ氏が手のひらから剣を生やした。
俺は触手の先端に銃口を生やした。
ボロボロの身体を引きずって前に出る。
サトゥ氏の頭に小さなゴミが付いていた。
人間の形をしたゴミだ。
無尽とかいうゴミだ。
俺は銃口を無尽に向けた。死ね!
俺のレーザー光線を、無尽はバッと跳躍して回避した。空中で華麗に側転して着地する。その身に纏うスーツの裾が翻った。
サトゥ氏の剣が俺めがけて振り下ろされる。しかし俺の挙動を見て、ぴたりと剣を止めた。
無尽がニヤリと笑う。
「なんだ、アツい部分もあるじゃないか。口だけのつまらない男だと思っていたが……なかなかどうして……悪くない」
サトゥ氏がキレた。
【男と男の間に入るなッ!】
シャアみたいなことを言って無尽を乱暴に振り落とすと、手のひらを地面に叩き付けた。
プンッてなって高速移動した無尽がひらりとサトゥ氏の腕に飛び乗った。宥めるようにサトゥ氏の二の腕をゆっくりとさする。
「サービスだ。回復してあげよう」
命の火が燃える。
次の瞬間、俺とサトゥ氏は宇宙空間に放り出されていた。
俺とサトゥ氏は顔を見合わせた。
二人とも完全回復している。
俺たちは泣きそうになった。
新品同様の機体をわなわなと震わせて切に吠える。
なんだよもぉぉぉぉ! またかよぉぉぉぉ! じ、邪魔すんなよォ〜!
アナウンスが無情に響く。
【バトルフェーズに移行します】
【戦列を組んでください!】
これは、とあるVRMMOの物語。
あなたたちの意見などどうでもいいのです。
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