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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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GunS Guilds Online

 1.マールマール鉱山-山中


 マールマール鉱山はモンスター有利の地形だ。

 いわゆる「戦えるプレイヤー」とそうでないプレイヤーを分けるのが、ここマールマール鉱山に出没するモグラさんだと言われている。

 いわく、己の才覚を知るにはマールマール鉱山へ行けという言葉もあるくらいだ。

 そして、ごくまれではあるが、スピンドック平原で運良くウサギさんの洗礼を免れたチワワがマールマール鉱山に辿り着くことがある。

 そうとも。今時、出現したエンドフレームを目にして腰を抜かすのはゲームを始めて間もない新規ユーザーくらいだろう。

 地べたに尻もちをついて唖然とこちらを見上げているチワワを俺は触手で握り潰した。

 特に生かしておく必要性を感じなかった。


 エンドフレームの形状は千差万別。プレイヤーが選ぶことはできないが、当たり外れはある。

 俺のエンフレは当たりの部類だ。

 地を這って忍び寄る触手に気付いたサトゥ氏が俺を蹴飛ばした。地響きを立てて転がった俺は四方八方に触手を広げる。それらの先端には大ぶりの斧が具わっており、エンフレ戦ともなれば20レベルや30レベルの違いは誤差でしかない。

 俺の機体は種族人間で随一の手数を誇る。慣れない内は大雑把にまとめて動かすことしかできなかったが、以前に量産型の俺を並行して操作したことでコツを掴んでいた。

 対するサトゥ氏の機体は左右で異なる長さの腕が特徴的な人型だ。フレームが剥き出しになっている半身が痛々しい。その身に備わるスキルチェインのアビリティは自動発動という特性を持つ。狙って発動することはできない。

 長期戦に付き合うつもりはない。

 サトゥ氏に勝つためにはエンフレ戦に引きずり込むしかないと思っていた。

 狙い通りの展開なのに、喉が詰まったように言葉が出て来なかった。

 どうしてこんなことになったんだと、そればかりが頭の中をぐるぐると回っている。

 訳もなく胸が締め付けられたように痛む。

 それらを冷たい論理と戦意で意識的に押し流して咆哮を上げる。


 Pyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa


 この場でサトゥ氏さえ潰せれば、国内サーバーの頭を張るのはリチェットだ。リチェットはリュウリュウに対して冷酷にはなれない。

 上下左右から迫る触手にサトゥ氏は一歩だけ下がって左右の剣を投てきした。鉤爪の生えた手で俺の触手を掴んで引っ張るや反動を利用して飛び上がる。空中で上下反転して空を蹴って俺の脇に地を削りながら着地した。

 俺は投てきされた剣を躱すので精一杯で、他に何もできなかった。

 サトゥ氏が振り向きざまに左手を跳ね上げた。根元から断ち切られた俺の触手がゴトリと地面に落ちる。

 速すぎる。こんな……。

 引き絞られたサトゥ氏の右拳が俺の腹に刺さった。手のひらから生えた剣が俺の身体を貫く。

 俺は応戦した。応戦したんだ。

 俺は、自分が誰よりも多くエンフレ戦をこなしていると思っていた。トレーニングモードが何だと思っていた。実戦に勝るものじゃないと心のどこかで見下していた。

 そのツケを支払うことになった。俺の知らない技術を駆使して迫るサトゥ氏に、俺はろくに抵抗もできずに全身を剣で串刺しにされた。

 全ての触手を刈り取られ、ドス黒い血を全身から噴出しながら地に沈んだ俺に、両手に剣をぶら下げたサトゥ氏が叫んだ。


【どうして……。どうして俺が、お前を殺さなくちゃならないんだよ!】


 俺は……。

 俺は、俺に勝ったサトゥ氏に、喝采を上げさせることもできないのか。

 戦って、勝ったヤツが後悔するのか。

 俺は……何なんだ。サトゥ氏の敵にすらなれないのか。

 負けて当然なのか。勝てると本気で信じていたのは俺だけか。


 俺は、口腔に迫り上がってきたドス黒い血をブチ撒けた。

 ……違うんだ。俺はもっとやれるんだ。こんな筈じゃなかった。前の俺は、もっと……こんなもんじゃ……何かが……。

 意識が朦朧としてくる。俺は自分の血反吐にまみれ、地べたにブチ撒けたドス黒い血を見るともなしに見る。それ以外に何もできなかった。

 だから、ドス黒い血に何かが混ざっているのを見つけた。それは黒い金属片だった。一部の金属片は癒着していびつな形状をしていた。

 急に視界が開けた気がした。

 ……最初に身体の異変に気が付いたのはいつだったか。山岳都市にマジュンくんが攻め込んで来た時か。いや、もっと前から何かがおかしいとは思っていた。

 そうか。そういうことだったのか。

 俺は、変化の途上に居たんだ。

 勘違いなんかじゃない。

 俺は、もっと強くなれる。


 頭の片隅で、ウッディの声がした。


(シンイチ。私がお前に勝たせてやるからな)


 俺の全身からウッディが生えた。十や二十じゃない。優に百を越えるウッディが俺の傷口を塞いでいく。

 ふわりと浮遊した俺に、サトゥ氏が剣呑な視線をぶつけてくる。


【……工兵だな。コタタマ氏から出てけよ。お前が寄生してからだ。コタタマ氏は……弱くなった。本人は真剣なんだろうが……防御の意識が穴だらけだ。隙だらけなんだよ! アイツ自身がどう思おうと! 簡単に殺せたッ! コタタマ氏を返せよッ!】


 俺はへらっと笑った。

 何だよ、サトゥ氏。お前、まだそんなところに居たのか?


【なに……?】


 今の俺の身体を動かしているのはウッディなのか。それとも俺自身なのか。区別がつかなかった。いや、そんな区別に意味はないのだと思った。

 俺とウッディは一心同体なのだから。


 アナウンスが走る……。


【Phase-2】


 黒い金属片が結集して俺の触手を再生した。

 得体の知れない脅威を感じたサトゥ氏が剣を叩きつけてくる。

 その一撃を俺は触手であっさりと受け止めた。

 おいおい、さっきの威勢はどうした? 今の一撃……随分とぬるかったナ?


【マールマール鉱山に上位個体が出現しました】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:???の撃破】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【???】【コタタマブルー】【Level-1301】


 黒魔石を組み上げながら、ふと違和感を覚える。

 違う。この形じゃない。


(【工兵】の使い方には更に上のステージがある)


 そうだよな。当たり前のことを忘れていた。魔石は代償に捧げるためにあるんだ。

 何を作ろうか。

 黒魔石がバチバチと稲妻を発して遊離する。

 過去の戦闘が頭を過る。


(大伽藍だ)


 参考になるのは、やはり、どうしようもなく、ョ%レ氏だった。

 黒魔石が飛散した。

 黒い金属片が屹立し、俺とサトゥ氏を隔離していく。


【Guest Room】


 工兵の真骨頂は勝てる環境を作ることにある。

 矢継ぎ早にアナウンスが走る。


【障壁の展開…03…02…01….完了】

【警告】

【敵性体がバトルフィールドを展開しました】


【Time Attack!】


【制限時間内にバトルフィールドを脱出してください!】

【制限時間:07.89…88…87…】


 誰が敵性体だ。

 俺は、返しがついてグレードアップした触手をギチギチと鳴らしてサトゥ氏に迫る。

 おら、どうした。掛かって来いよ、デデデ大王。


 サトゥ氏がチラチラと黒い障壁を見ながら左右の剣を交差して構える。


【お前のようなカービィが居るか。まずピンクじゃないし……】


 俺はあんぐりと大きく口を開けた。

 杭のような歯列をガチンと打ち鳴らす。

 そして愛らしい真ん丸ボディを誇示するようにゴロリと地面を転がった。

 触手の先端に生えた銃口をサトゥ氏に突き付けて言う。


【お前をプププランドの住人と同じところに送ってやるよ】

 



 これは、とあるVRMMOの物語。

 カービィはそんなこと言わない……。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[一言] 吸い込むんですね、分かります。
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