絶交
1.スピンドック平原-【目抜き梟】クランハウス
アイドル気取りどもの巣窟にて。
道行くアイドル気取りに「あっバンシーP!」だのと声を掛けられた俺は「よう」と軽く手を上げてやって先を急ぐ。
悪いが個別レッスンはまた今度な。
かつて俺はアイドル気取りどもをプロデュースしてやったことがあるため、今でも暇そうなヤツらに声を掛けて合コンをセッティングできるくらいには親交がある。
ま、プロデュースと言っても大したことはしてないがね。プロデューサーってのはつまるところカメラを集めるのが仕事だ。アイドル気取りどもがどんなに素晴らしいパフォーマンスを披露しても客が100人ぽっちじゃどうにもならん。逆に言えば、あいつらがどんなにヘタクソでも客を10000人集めてやればどうとでもなる。
俺のバンシーモードはスズキベース。美少女敏腕プロデューサーという見出しはブン屋からしてみれば間違いのないもので、アイドル気取りどものライブが成功するのはいつものことだった。実に簡単な仕事だったぜ。
まぁセクハラ疑惑で追い出されてしまった訳だが。巨額の横領に手を染めたり人事権に食い込んで俺専用のキャバクラ帝国を築き上げる前に追放されたので俺のイメージはそれほど悪いものにはならなかった。
すれ違うアイドル気取りどもに適当に対応してやりながら俺はロリキャラの元へ向かう。
ツヅラをマジュンくんに会わせる。そのために俺はここに来た。
長らく待たせちまったな。俺は胸中でツヅラに語り掛ける。ツヅラ……。お前は俺自身の手でマジュンくんの元に送り届ける。俺とお前のコンビなら砂漠の海だろうと何だろうと乗り越えられる。
ツヅラはレッスン場でアイドル気取りどもに囲まれてチヤホヤされていた。
俺はレッスン場の入り口に身を潜めて、じっと連中の遣り取りを見守る。
アイドル気取りどもが見つめる中、ツヅラが床におっ立っているカカシを指差す。
ツヅラの周囲に小さな歯車が何個も浮かび上がってガッチリと歯が噛み合う。
無数の赤い針が射出され、カカシに突き刺さっていく。猛攻に耐えかねたカカシの足がへし折れて吹っ飛んだ。
アイドル気取りどもが喝采を上げた。
「ツヅラちゃんスゴーい!」
ツヅラは偉そうに腕組みなどしてふんすと鼻を鳴らした。
「ま、こんなのは大したことじゃない」
……俺はスッと身を引いて、来た道を戻っていく。
エンジョイしているようで何より。マジュンくんに会わせるのはナシだ。腑抜けやがって。
ツヅラよ。お前はここでずっとぬるま湯に浸っているといい。そのほうが幸せだろう。牙を失った猟犬に価値などないのだ。
2.クランハウス-居間
ロリキャラの手ひどい裏切りに深く傷付いた俺は、ウチの丸太小屋に戻るなり半端ロリに癒しを求めた。
劣化ティナンことスズキである。
スズキの細い腰に腕を回して抱き寄せながら報告を聞く。
で、リュウリュウはどうだった。やっぱり強ぇのか?
スズキはされるがままに俺の肩に頭を預けた。
「うん。コタタマ。あの人は……やっぱり白龍だよ。生き残る能力が凄く高い。ガンツの玄野みたいな感じ。でも、ちょっと違うの。土壇場で動けるって言うより……リアル軍人さんかも。指揮を執ること、命令するのに慣れてる。慣れすぎてる」
……このゲームの本質はキャラ育てゲーだ。
地獄のレイド戦を何度も経験することで指揮能力が向上することはある。
しかし新規プレイヤーが最初から指揮を執れるというなら、それはリアルで身に付けたプレイヤースキルに他ならない。
そうか。白龍か。
俺はスズキの身体を撫で回しながら天井を仰いだ。
……リュウリュウが前世のことでとやかく言われるのを嫌っているのは見ていて明らかだ。
だが突出した能力を持っており、しかもサトゥ氏はリュウリュウの正体に勘付いている。
白龍の引退に涙したリンリー嬢はどう思うだろうか……。
リュウリュウはいいヤツだ。俺みたいなザコを先輩として慕ってくれる。できることならそっとしておいてやりたいが……。
クソ運営のョ%レ氏はそれを許すまい。リュウリュウにしても子ティナンを気に掛けているような素振りを見せたことがある。
リュウリュウは。
あいつは俺と似ている。
好むと好まずとに関わらず、戦いの渦中に身を置く宿命を持っているように思える。
本人がどれほど否定しても、譲れない一線を踏み越えた敵には一切容赦しないだろう。
俺は、先生とパイセンらに世話になった。ゴミどもの底のない悪意から守って貰った。
今度は俺はそうする番なのだと強く感じた。
リュウリュウは俺の後輩なのだから。
サトゥ氏と話をつける。
意を決して席を立った俺に、スズキが「あ……」と頼りなげな声を上げて俺の裾を摘んだ。
ん? 俺が振り返ると、スズキはすぐにパッと手を引っ込めた。ニコッと笑う。
「ううん、ごめん。何でもない」
……ああ。俺は察した。
韓国旅行やら何やらでここしばらくゴブサタだったからな。
俺は手を伸ばすと、スズキの耳に掛かっている髪を指で払って耳元で囁いた。
今夜、部屋に遊びに行っていいか?
スズキは耳まで真っ赤にしてコクリと頷いた。
「う、うん……。待ってる」
珍しく長生きしていた俺だが、それも今夜までのようだ。
俺は儚く微笑んでウチの丸太小屋をあとにした。
3.マールマール鉱山-山中
俺はリュウリュウの件で話があるとサトゥ氏を呼び出した。
待ち合わせの場所はマールマール鉱山の山中。
俺とサトゥ氏の長きに渡る因縁、その始まりの場所だ。
俺はスコップを木に立てかけて、なんとなく地べたを撫でる。土のぬくもりが手のひらに伝わる。
思えば、ここから全てが始まったのだ。
クソのような廃人に目を付けられて、色々なことがあった。楽しいことも、悲しいことも。本当に色々なことがあった……。
……来たか。
メルメルメを引きずって現れたサトゥ氏が、片手でメルメルメを放り投げて言う。
「よう。コタタマ氏」
今はメルメルメはどうでもいい。
俺は単刀直入に言った。
「サトゥ氏。リュウリュウにちょっかいを出すのはやめてくれねえか。俺の可愛い後輩なんだよ。あいつを俺のようにはしたくねえ」
俺とサトゥ氏の視線が交錯する。
俺たちの間に立つメルメルメが左右の手を振って言った。
「振り付け精彩予測です」
俺とサトゥ氏は無視した。
サトゥ氏が言う。
「俺の考え方は前に話したよな? そりゃ無理だ、コタタマ氏。無理なんだよ。サトウさんがアメリカサーバーの刺客に殺られた。君主のジョブを奪われた。李信馬准も。アメリカの連中は本気だ。覇権を狙ってる。白龍を遊ばせておく余裕はない」
白龍じゃない。あいつはリュウリュウだ。そっとしておいてやってくれよ。お前ならできるだろ? 頼むよ。なぁ。
「新ジョブのブライトは」
サトゥ氏はポケットに両手を突っ込んで出し抜けに言った。
「ネフィリアが継ぐそうだな。そうなったら白龍が先生の身辺警護につく必要はなくなる……」
強くてニューゲームは楽しいよな。俺やお前も経験してる。目に映るものが何もかも新鮮でよ……。野良パに参加してさ、新人離れしてるって褒められて。まぁズルみたいなもんだけど。あれは気分がいいよな。
俺は、その時間をリュウリュウに与えてやりたい。少しでも長く。
「もうロストですら万全じゃない。いくつかの条件を満たせば記憶を取り戻すことはできる。核になってるのはお前のアビリティだ。なんで開放しちまったんだ……」
俺は、そんなつもりじゃなかった。
「お前が最初にロストした時、ナイがお前の記憶を戻したよな? 一度はロストした俺の記憶を呼び戻したのもお前だ。お前は……コタタマ氏。お前のアビリティは、引退したフレンドと再会したいというネトゲーマーの願いそのものだ。目覚めたきっかけはGMマレ戦でのロストだったんだろう」
……俺が悪いのか。俺がイチからやり直したいなんて甘ったれたことを願ったから……。
メルメルメが俺とサトゥ氏の間で踊っている。
「振り付け精彩予測です」
サトゥ氏は無視した。言う。
「もしも白龍の記憶が戻ったら、あいつは中国に戻るかもしれない。俺たちの敵に回るかもしれない。そのリスクを無視するには、あいつは強すぎる。素質だけで言ったらセブン以上かもしれない」
俺がリュウリュウの面倒を見る。日本でずっと一緒にやって行くよう説得する。それじゃダメか?
サトゥ氏は項垂れた。
「どうやってだよ……。お前は記憶が戻った時、真っ先にネフィリアんトコに転がり込んだじゃねえか……」
サトゥ氏が顔を上げた。
「……もう分かってるよな? この俺が居る限り、お前の願いは叶わない」
……分かってたよ。
メルメルメが俺とサトゥ氏を交互に見て言う。
「振り付け精彩予測です」
俺のフレンドリストからサトゥ氏のキャラネが消えた。
どうやったのかは分からない。
しかし俺たちの対立は決定的なものとなり……。
俺とサトゥ氏の足元から放たれた赤い輝きが地を伝い波打つ。
死出の門が咲き、吹き上がった命の火が俺たちの身体を蝕んでいく。
それは間違った選択なのだと、這い上がってきた無数の手が俺たちの肩や背をさすってくる。小さな子供を宥めるように頭を撫でてくる。
だが、俺たちは自分が正しいことをやっていると思ったことなど一度もない。
たとえ間違っていても、謝っても済まないほど多くの罪を重ねてきたから、今更になって自分を曲げることなどできやしない。
贖罪の手を振り払って膨張した俺たちの肉体が木々をなぎ倒していく。
赤く燃え上がった怪物の輪郭が固有のパーソナルを描いていく。
それらが臨界を迎え、現世に定まるよりも早く、俺の斧とサトゥ氏の剣が交錯した。
激しく散った火花が、俺たちの身体に命の火を吹き込むかのようだった。
遅れて巨大な質量が衝突し、大気が押しのけられて土砂が巻き上がる。
俺とサトゥ氏が咆哮を上げる。
吹き飛ばされて上空を舞ったメルメルメが言った。
「振り付け精彩予測です」
これは、とあるVRMMOの物語。
譲れない戦いがここにある……。
GunS Guilds Online




