韓国へ行こう!
1.ョレ宙域-深部
韓国サーバーは熱く燃えていた。
エッダ海岸の砂浜に着陸するなり強制召喚され、宇宙空間に放り出された。
【は!?】
ペヨンも関与していないらしく、苛立ち紛れにガラの悪い声を上げた。
【なんだこれ! もはや日常がトラブルかよ! ゴミが! 私が居ない間に何やった!?】
日頃の行いだな。俺の先生を巻き込みやがって。ド腐れがァ〜。
アナウンスが走る。
【バトルフェーズに移行します】
【戦列を組んでください!】
ハイハイ、バトルフェーズね。
稀によくあるパターンだ。
俺はパーティー申請を投げようとするが、先生とネフィリアから待ったが掛かった。
「パーティーはダメだ!」
「はぐれるぞ! このまま行く!」
ん? 逆じゃ? しかしネフィリアはともかく先生がそう言うならそうなんだろう。俺はパーティー申請を取り下げた。
俺たちを頭に乗っけたペヨンが宇宙空間を泳いでいく。
先生がホッと安堵の吐息を漏らした。
「みんな。時間がない。要点だけを伝える。パーティー申請はフェーズ2に移行する直前に私が行う。結果的には同じことだが、判定時間を過ぎている。フェーズ1は情報共有の時間とする。ペヨンさん。君は余裕があればでいい。生き残ることを優先してくれ」
……フェーズ1突入後にパーティーを組むとバラける?
先生の言葉から俺はそう推測したが、口に出しては言わなかった。過多の情報は混乱を招く。小娘どもの情報処理能力は個人によってバラつきがあり、余計なことを言えば思考停止する恐れがあった。
ネフィリアが補足する。
「緊急事態だ。Goatの指示に従え。コタタマ、お前は現状把握を続けろ。フリエア、お前は余計なことを考えるな。お前はコタタマよりも下だ。お前に指揮は無理だ。経験が足りない」
マジで余裕がないらしい。ネフィリアは指揮系統を絞った。
図らずも宇宙旅行と相成った訳だが、特に感動はないな。むしろ不安しかない。果てしなく続く真空の海に何故か窮屈さを感じる。身が竦む。本能的に来ては行けない場所だと感じているのかもしれない。
つーか生身で宇宙空間とか大丈夫なのか? イヤ息はできてる。体感温度は……やや蒸し暑いか。宇宙空間は真空なので、熱が伝わらない。放熱ができないということ。宇宙は凄く寒いというイメージがあるが、むしろ生物の体温は内にこもって上昇していくという説もある。いずれにせよ生身の人間が放り出されて生きていける環境ではない。何か不思議なパワーで俺たちは保護されていると見るべきだろう。
……ペヨンか? エンドフレーム効果が俺たちにも及んでいるのかもしれない。
検証している余裕はなさそうだ。立派に育ったクソ虫さんたちが宇宙空間を飛び回り、ぴゅんぴゅんと光線を撃ってきた。ペヨンが応戦する。
【ザコどもが! 私はエンフレだぞ! 究極の戦闘体エンドフレーム様だぞーッ!】
威嚇するなり太い触手をバラけて、絡めてイヤにグロテスクな弓を作った。デカい。本体のサイズと同じくらいはある。
プレイヤーの母体は【ギルド】のレプリカという出自によるものか、後衛職は光線銃を生やしているパターンが多い。しかしそうではないタイプも居る。それは個人の好みだったりキャラビルドによるところが大きいようだ。つまり弓矢を使うエンフレも居る。ペヨンもそのタイプであるらしかった。
魔石でクラフトしたのか何なのか、触手で矢を持てるだけ持って弓につがえ、一斉に放った。アホみたいな速度で飛んで行った矢に貫かれたクソ虫さんたちが活動を停止してぷかりと浮く。
先生がクソ虫さんたちの動向を観察しながら叫ぶ。
「コタタマ、ネフィリア! ボスの狙撃を警戒してくれ! ペヨンさん! 余裕がなければ無視してくれていい! フレンドにささやきで状況経過の確認を!」
【無理ィ!】
ペヨンは余裕がない。わらわらと湧いて出るクソ虫さんたちに集中砲火を浴びてバンバン被弾している。
俺とネフィリアは背中合わせに立ってボスの狙撃を警戒する。ボスキャラが狙撃兵と決まった訳ではないが、狙撃兵じゃないという保証もない。ボスキャラのレーザー砲を食らったらエンフレだろうと何だろうと一発で沈む。
ペヨンの巨体が邪魔で真下は見えないが、韓国娘とてボスキャラの狙撃がヤバいことくらいは知っている。回避行動のついでにくるくると旋回して俺とネフィリアの視界を確保してくれている。
ネフィリアが叫ぶ。
「Goat! 狙撃はない! 狙撃はないぞ!」
「引き続き警戒を! しかしボスは最終フェーズより浅い層に干渉できる! それが狙撃兵の特権であるとは考えにくい!」
先生の仰る通りだ。
クソ虫さんたちの頭は誰だ? ラム子か? だがラム子はクァトロくんを追っているハズ。この宙域にとどまっているとは思えない。なら一体誰が……。
しかし杞憂に終わった。
アナウンスが走る。
【ギルドが撤退していきます】
【バトルフェーズを終了します】
はぁ?
俺たちを乗せているペヨンの巨体がくるりと反転して帰還を始めた。
韓国娘がイキる。
【私に恐れをなしたか。口ほどにもない】
俺もイキった。
日頃の行いだな。やはり天は俺を見捨てなかった。
おや、何やら小娘どもが頬を膨らませて真っ赤な顔をしている。……宇宙だからと息を止めていたらしい。
身内の恥にフリエアがカッと赤くなって両手をぶんぶんと振った。
「み、みんな! もう息をして大丈夫だよ!」
最初から大丈夫だったけどな。つーか宇宙で喋れる時点で普通じゃない。気付けよ。
ネフィリアたんが手のひらに額を当てて深々と溜息を吐いた。
先生はニコニコと笑って奮闘したペヨンを労っていた。
「よくがんばったね。ありがとう。さあ、帰ろう」
【あなたが神か……】
「神じゃないです」
神ィー!
2.韓国-エッダ海岸
結局何だったんだ。
しゅるしゅると縮んだペヨンが「さあ?」と軽く首を傾げる。
「攻略組が何かやったんでしょ。珍しいことじゃないよ。強制召喚されると訳分かんない内に駆り出されて訳分かんない内に終わるんだ。それがこのゲームでしょ。多分、先行した誰かが最終フェーズのボスを撃破したんだと思う」
そうか。俺たちはレイド戦の終盤に飛び入り参加したようなもんか。
……これまで俺は何やかんやでイベントに巻き込まれて最初から最後まで何らかの形で関わることが多かった。それは日本サーバーがサトゥ氏を中心に回っているからだ。俺はサトゥ氏に身体を狙われている。
しかし平穏な暮らしを送るプレイヤーからしてみるとペヨンの言うようにログインすると同時に強制召喚されて訳分からん内に戦わされるのが普通なんだろう。
貴重な体験だった。悪くない。
さて、ここが韓国サーバーか。
なんか不恰好な海の家みたいなのが点々とあるな。よう、ガイドさんよ。あれは何だ?
ペヨンが俺に話し掛けられて嫌そうな顔をした。
「あれはタコさんの家だよ。プレイヤーが面白がって建てたら住み着かれた」
お前ら何やってんの?
「このゲームのMOBは強い。だったらMPKに走るのは当たり前のことでしょ。人間がどんなにがんばったって上位個体には敵わないんだから」
ほら、と言ってペヨンが遠くを指差した。
少し大きめのモグラさんが砂浜に降り立ったところだった。
咆哮を上げたモグラさんに海の家からタコさんたちがわらわらと出てきて迎撃に当たる。
腕組みなどして見学しているペヨンがチッと舌打ちした。
「また誰かが上位個体を育てた。やるなって言ってンのに」
韓国サーバーはモンスターの上位個体が当たり前のようにうろつく魔境だったのである……。
タコさんの上位個体が出てきた。
モグラさんの上位個体とがっぷり四つ組み合って力比べを始める。
あまりにも桁外れの力がぶつかり合い、足場が崩れ沈んでいく。たまたま近くを通ったゴミのような種族人間が砂に溺れて死んだ。
何これ。ひどい。日本のほうがよっぽどマシじゃね?
これは、とあるVRMMOの物語。
どっちもどっち。
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