世界で一番の君
1.ポポロンの森
全然大丈夫じゃなかった。
俺の腹を槍でブッ刺したポチョが興奮した様子で俺の傷口にぐりぐりと指を突っ込んでくる。
「コタタマ。私たちに殺されて嬉しい?」
嬉しくはない。
嬉しくはないが、ウチの三人娘が妙にヤラシイ目で俺を見てくるから、実は何か凄いことをしているのかという気になってくる。
どうと倒れた俺に赤カブトが頬を赤らめて尋ねてくる。
「ぺ、ペタさん。……私とポチョさん、どっちが気持ちいい?」
どっちが気持ちいいとかはないが、色んな武器を使って攻めてくる金髪と剣と魔法で俺を追い詰めてくる赤カブト。戦力としてどちらが上かは甲乙付け難い。赤カブトが強くなったと見るべきなのか、それとも魔法使いに匹敵する戦果を上げるポチョが凄いのか。
ポチョがお姉さんぶった。
「ジャムは殺し方にまだ照れがある。コタタマは激しいほうが好きだから」
俺にそんな好みがあるとは知らなかったぜ。本当に人生ってやつはナニがあるか分からない。
だが、激しさで言えば赤カブトだって二人きりの時はもっと大胆だ。
赤カブトさんは恥ずかしそうに身をよじると俺の血で濡れた剣をぎゅっと抱きしめて、
「や、やっぱりポチョさんとスズキさんの前でこういうことするの恥ずかしくて……」
そうね。仲間である俺を三人掛かりで殺すのは恥ずべき行いだ。いくら訓練だからって秒で割り切られては困る。
するすると木から降りて来たスズキが勝利を無邪気に喜ぶ。
「二人とも凄く良かったよ。ね、コタタマ。次はどういうコトしたいとかある?」
次は俺が勝つ。
パワーレベリングは順調だ。俺はウチの子たちを甘く見ていたのかもしれない。連携が取れてる。特に対人戦に限って言えば攻略組と比べても何ら遜色がない。クソ強力な攻撃魔法を持つ赤カブトの距離の置き方が上手くて、どうにかして同士討ちを狙ってもスズキの狙撃が俺の選択肢を削ぎ落としてくる。攻撃オプションの豊富さがいいな。前線でタメを作れるポチョが効いてる。
さすがにスライムさんを10体ぶつければ全滅するだろうが、5体くらいなら撤退を視野に入れつつ対応できるかもしれない。
お前ら強くなったなぁ。
俺はしみじみと呟いて、コテリと死んだ。
そして順調だったのはここまでだった。
か弱いコタタマくんをイキナリ殺してはいけないというルールなのに、回を重ねるごとに三人娘はルールを無視し始めた。
ちゃんとルールを守るんだゾと言い聞かせたら元気に返事してくれたのに、スライムさんたちのヘイトを稼いでる段階で樹上から飛び降りてきたポチョさんが俺の喉を掻っ切った。ふわっと幽体離脱した俺を尻目に、金髪と赤毛が言い争いを始める。
「抜け駆けは禁止って言ったじゃん! なんでそういうことするの!?」
「このルールだと私が不利だよ! コタタマは私の髪が綺麗だって誉めてくれるモン! 私はコタタマの好みのタイプだから一番多く殺してあげるの!」
「むっ。ペタさんは私のことが一番大事なんだよ! お前が一番可愛いってよく言われるモン!」
「それはジャムがAIだからでしょ! 私だってジャムのこと一番大事だよ! それとこれは別なの! コタタマは白人女が大好き! モノにした白人女を見せびらかしたくて仕方ないんだよ!」
「それ言ってるのポチョさんだけじゃん! ペタさんは私ならおっきくてもちっさくてもOKって言ってくれるモン! 俺の理想に近いって言ってたし!」
大声で俺の性癖を暴露し合う二人に半端ロリが割って入る。
「ちょっと二人とも。やめて。ポチョ、ルールは守ろうよ。私のぶん多めにコタタマ殺してもいいから」
赤カブトがスズキに噛み付いた。
「スズキさんが一番多くペタさんとしてるの知ってるんだから! 私のこと下に見るのやめてよ! わ、私! 私が本気になったら二人とも勝てないんだからね!」
スズキが怒鳴った。
「またそんなこと言って! ダメでしょ! AIとかそんなの関係ないっていつも言ってるじゃん! 小さくなってとか絶対にダメだから!」
「ダメじゃないよ! ペタさんは全部の性癖は俺の中にあるって言ってるモン! 普段はカッコ付けてるだけなんだって!」
やめたげてよぉ!
俺のライフはとっくにゼロだ。
……言い訳をさせて貰うと、俺は決してロリコンではない。ただ、惚れた女の色んな姿を見れるなら見てみたいと思うのが人情だろう。俺は間違ってない。背を縮めた女が不安そうに「どう?」だの何だのと言ってきたら黙って抱きしめて愛を囁いてやるのが正解だろう。それ以外に一体どうしろと言うのか。突き放してやれば満足なのか。金輪際二度とその姿になるなと言えとでも? そんなやつは頭がおかしい。永遠の美女に別れ話を切り出すようなものだ。人生でまず二度と手に入らない特別なチャンネーを振ってから清々したぜと悦に浸るのか? どんなアホだ、そいつは。ある日、急にホモになったとしか解釈できない。
だから……俺は間違ってない!
俺は涙と鼻水を垂らしながら旅に出た。
どんなに言い繕っても無駄なのだと分かっていた。
スズキは黙ってたら中学生くらいにしか見えないし、赤カブトの基本フォームは精々が高校生くらいだ。ポチョにしたって大人びて見えるが、口を開くと一気に幼げな印象になる。
そいつらがメインヒロインだというなら、俺はやっぱりロリコンなんだ。
そうじゃないんだと慰めの言葉を掛けて欲しくて、俺はアイドル気取りどもの巣に駆け込んだ。
2.スピンドック平原-【目抜き梟】クランハウス
おいおいと泣きじゃくる俺を、ツヅラはよしよしと頭を撫でて慰めてくれた。
いっぺんロストしてからというもの、このロリキャラは妙に俺に対して優しくなった。俺が記憶を失っていると勘違いしているのだ。その勘違いを正す必要性を俺は感じなかった。いずれはバレるだろうが、その時はその時よ。
ツヅラが言う。
「お前んトコのクランメンバーはちょっと頭おかしいからな。……でも、ロストしたお前も悪いんだぞ。あんなふうに急に居なくなられても困る。今のお前に言っても仕方ないけど」
……俺がロストしても記憶を維持できることを知ってるやつは多い。どう考えても隠し通すのは無理だ。ちょっとした世間話から露見してもおかしくない。だからこそ、まだバレてない今の内に駒を先に進めておくべき。
俺は涙を引っ込めると、目尻に残った水滴を指でぬぐった。
ツヅラちゃんは優しいなぁ。スマホにメモってあったんだけど、中国のマジュンくん?に会わせるって約束したんだよな? 約束は守るよ。もうちょっと待ってくれな。
「いや、いい。自力で何とかする。お前は私を守ってくれた。Goatのついでだろうけど、私は……嬉しかったよ」
……思ったよりもマトモな感性してるのか? 俺はツヅラの様子を見て方針を少し変えることにした。不必要に好感度を損なうのは悪手だ。コイツには今後も働いて貰わねば。何しろ貴重なサンプルだからな。
俺は儚げに笑って自己申告した。
ツヅラちゃん。俺はね、君のことをまったく覚えてない訳じゃないんだよ。俺の中には【ギルド】が居て、そいつがバックアップデータみたいな働きをしてくれる。完全じゃないけど、記憶の断片らしきものはあるんだ。何かのきっかけで記憶を取り戻すこともある。
ツヅラは意外そうな顔をした。
「そうなのか?」
そうなんだよ。
「……バックアップデータ? その理屈だと、お前は【ギルド】の一部ということになるぞ。お前に残っているのは【ギルド】の記憶だ」
同じことだよ。何も不都合はない。だろ? ウッディ。
俺の腕からにょきっと生えたウッディが俺の口をパクパクと動かす。
「そうとも、シンイチ。何も不都合はない」
いいぞ、ウッディ。それでいい……。まずはツヅラを信用させることだ。
ここまで来れば、あとは……。
おっとモッニカ女史。モッニカ女史がじっとこちらを見ている。いつからそこに? 最初から。なるほど。
トコトコと歩いてきたモッニカ女史が、しゃがみ込んでツヅラの耳元でボソボソと内緒話をした。
人の夢と書いて儚いと読む、か。
俺はダッと地を蹴って逃げ出した。
ツヅラに捕まって説教された。
ガチ説教だった。
世の中には吐いていい嘘と悪い嘘があるらしい。
ンなこと言っても仕方ねーじゃん。記憶失ってるフリしてっとツヅラさん俺に優しくしてくれっしー。
ぽかっと頭を叩かれた。
ツヅラさんは呆れ顔だ。
「お前、本当にバカなんだなぁ」
へいへい。バカですよ。すみませんねぇ。ご迷惑お掛けしますぅー。
俺は開き直った。
まぁ約束は守るさ。マジュンくんはもう中国に居るだろう。生憎とロストで俺の女神像登録はリセットされちまったが、そのためのエンドフレーム航空会社だ。そう長くは掛からない……と言いたいところだが。
……少し待たせることになりそうだ。
【目抜き梟】に客だ。
カレンちゃんが「ハーイ」とにこやかに手を振った。
米国サーバーでトップクラスの女性プレイヤーだ。
……一人か? いや、そんな筈ないよな。
俺は軽く手を上げて探りを入れた。
よう、カレン。ジョンとアンドレは? こんな素敵な女性を放ったらかしにしてアイツらは何やってるんだい?
「人民共和国に。あっちには李信馬准が居るし、仙人会は厄介だから」
そう言ってカレンちゃんはニコッと笑った。
「あなたたちは私と遊びましょ?」
米国サーバーの侵攻だ。
「まずはスシね! それからキモノ!」
いや、観光だった。
これは、とあるVRMMOの物語。
世界最強、ついに動く……!
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