GW〜イケメンホスト集団の戦い〜
1.山岳都市ニャンダム
サトゥ子ちゃあああああん!
「バンシーちゃあああああん!」
山岳都市でサトゥ氏と待ち合わせ。
ゴミどもの目を欺くことは半ば諦めているが、アホにチャンスを与える必要もないかと思って整形チケットで女キャラに化けている。
ぴょんと軽く飛び跳ねた俺とサトゥ氏はハイタッチしてきゃっきゃとハシャぐ。
ひとしきり旧交を温めたところで急にアホらしくなった俺たちは無理にきゃっきゃした代償として極限までテンションが下がった。
地べたにドカッとケツを落としたサトゥ氏が言葉少なに用件を尋ねてくる。
「で?」
俺とて別に好きでコイツを呼び出した訳じゃない。そうあからさまにレベル上げで忙しいんだ的な態度を取られるとムカつく。これは正式に遺憾の意を表明せねばなるまい。
お前、最近冷たいぞ。今回もそうだ。ささやきじゃダメなのか?とか……。
「レベル上げで疲れてるんだ」
俺とレベル上げのどっちが大事なんだよ。
「……用件がそれだけなら帰るぞ」
また新しい男か? 六人衆の新事業は順調らしいナ。新入りを連れ回して優しい先輩アピールしてるんだろ。どうせすぐに飽きて捨てるくせに。俺みたいに……!
「うるさい」
サッと立ち上がったサトゥ氏が壁ドンした。少し怯える俺をどんぐりまなこでじっと見つめて、
「そう言うお前はどうなんだよ? 知らないヤツと一緒に居るのを何度も見たぞ。もう俺のことなんてどうでもいいんだろ?」
なんとなく痴話喧嘩っぽい流れにしたらノッてきた。このまま話を進めるとノリで最終駅まで行ってしまいそうなので、俺は変な演技をやめた。
まぁ座れ。ほら、肩もんでやるから。忙しいところ悪かったな。ささやきで済ませても良かったんだが、俺のレベルじゃ三回が精々なんだよ。
サトゥ氏は大人しく座った。坂道に体育座りして、
「ホントだよ。いくらお前の頼みでも急な呼び出しは困る。俺はレベル上げが好きなんだ。前もってアポ取るとかさぁ……。でも、本当にどうした? 珍しいよな。お前はそういうの割とキチッとしてるのに。何かヤバい事態か? ジャムの件じゃないよな。俺に報告が上がってない。つい最近、割と大きな集会を俺たちで潰したし」
赤カブトの正体がバレてからこっち、俺の可愛いAI娘をドラゴンボールか何かと勘違いして詰め掛けるアホが絶えない。メタ視点で言うと完全にヒロインポジの赤カブトさんに優しくされて自分が主人公だと勘違いするモブの多いこと多いこと。
サトゥ氏は俺のくまさん国内脱出計画に乗っかる形でアホの粛清を実施してくれている。要するにゴミを処分してAI娘が暮らしやすいキレイな街作りを推進しているのだ。
まさしくそのことよ。俺はポンと手を打った。
サトゥ氏。お前にだけは言っとく。近々、ウチの子たちを海外旅行に連れて行く。お前の立場は分かるが、俺はやっぱりジャムジェムの避難先だけは確保しておきたい。こんな魔境サーバーに俺の可愛い娘たちを置いて行けない。
ニャンダム山脈の麓にある山岳都市は標高が高く、ポポロンの森の方角に目を向ければ今日も元気に人間の里をうろついているデカブツが嫌でも目に入る。今もまた円環状に放たれた黒い紋様が衝突してバリバリと黒い稲妻を発し、新たに完全変身を遂げたゴミがぐぐぐッと重たげに顔を上げて鈍い眼光を放った。顎部ジョイントを引き千切って咆哮を上げる。エヴァかよ。俺は内心でうめいた。
種族人間はゴミすぎて自分の最終形態すら他者の認識に依っている。そうなると、どうあっても有名なアニメや漫画の影響を逃れることはできない。つまり新規ユーザーならグリッドマンをグロくした感じになる可能性が高い。
人外魔境と化した人間の里を引き合いに出されてはサトゥ氏も強くは言えない。
「……あれはお前の所為だろ」
苦しい言い訳だな。サトゥ氏、そうじゃないだろ? 選択するのはアイツらゴミだ。いつも。あるいはお前の言う通りかもしれない。俺やお前は強い影響力を持ってるかもしれない。だから何だ? お前らにはお前らの考えに従わない連中を殺す力がある。でも、死んだらそれでおしまいか? そうじゃないよな。これはゲームだ。リアルじゃない。本当に嫌なら逆らえる。戦う力を持たない純生産職だってそうだ。サトゥ氏。お前は反旗を翻した生産職連合を力で押さえ付けようとはしなかったよな? 逆効果になると分かってたからだろ。かつて先生はこう言ってたぜ。オンラインゲームってのは天国を作る試みなんだってな。俺もそう思う。誰だって楽しく遊びたいだろう……。先生みたいな人ばっかりだったらいいさ。でも、そうじゃない。俺たちは気に入らない奴が居たらブッ殺したいし、そいつがのたうち回ってドブ底を無様に逃げ惑う姿を見て幸せを感じるんだ。それは、例えば幻覚とかチャチなもんじゃ満足できない。最低でも欺瞞を自覚できないくらい完璧に騙しきってくれないとダメだ。
そう、お前の言う……。
俺はサトゥ氏の耳元でボソリと呟いた。
ユートピア計画みたいにな。
「……何の話だ?」
俺はニヤリと笑った。確証はないさ。だが、お前は俺と似たような考え方をする。
戦争を起こすつもりなんだろ? 大きな戦争だ。しかし……。いつからだ? 一体いつから企んでた?
サトゥ氏は肩越しに俺をじっと見つめてから、諦めたように溜息を吐いた。観念したように言う。
「最初のGMマレ戦からだよ。どんなにMOBが強くても、結局のところプレイヤーが本気で敵視できるのは同じプレイヤーなんだ。……コタタマ氏。お前はこう考えたことはないか? PvPってのは不完全なコンテンツだ。特に日本は遅れてる。PKアレルギーだからな。ネフィリアも俺と似たようなことを考えているだろう……」
そうだな。前にMMORPGは間違った方向に進化したとか言ってたぜ。
「俺はそうは思わないけどな。なるべくしてなった、って感じだ。だが、プレイヤーが最高のMOBたり得るという見方は一致してるだろう。俺たちはどんどん強くなる。このゲームのMOBは強いが、それだけだ。俺たちはモンスターとの戦いに負けてプライドが傷付くことはない。MMORPGの時代から……VRでなくとも……俺たちがこっちの世界に唯一持ち込めたのがそれだ。ソフトと言うか、まぁ心ってヤツだな。プライド……マナー……。同じプレイヤーだけがそいつに攻撃できる」
だからPKは廃れた。プレイヤー同士が戦えば、必然的に負けたプレイヤーが生まれるという致命的な構図によるものだ。
「このゲームがそうなんだよ。レベルが上がっても大して強くならないデザイン。最高級の装備で身を固めても殴られればノーダメってことはない。魔法を撃てば味方も巻き添えになる。それら全てがPKを助長する造りになってる。俺だって街中でいきなり人間爆弾を投げ付けられたら対処できない。レベル差に関係なく反撃を許容するシステム……」
プレイヤーはどんどん強くなる。同じプレイヤーだけが、プレイヤーの成長に完璧に追随できる。それをコンテンツとして昇華できたなら、インフレという現象を切り離すことができる。そのためには一振りでMOBがまとめて消滅するような武器があってはならなかった。無条件でダメージを通さないような防具があってはならなかった。特定の個人を遠くから撃ち殺せるような都合のいい魔法がないのもそうだ。
曜日ダンジョンは分かりやすい例だった。
このゲームの全ての要素はPKに収束していく。
サトゥ氏が未練を断ち切るように顔を上げた。道行くティナンの未成熟な肢体を物欲しそうに見つめて言う。
「いつまでもモンスターと楽しく戦っていたかった……。でも、もう潮時だ。ジョン・スミスのレベルが39で止まった。生半可なことではレベル40にはなれない。先行していたプレイヤーが足踏みすることになる。他のサーバーが追いついてくる前に、ヤツらは侵攻を始めるだろう」
そう言ってサトゥ氏は振り返って俺を見た。
「コタタマ氏。お前はジャムを連れて逃げろ。お前の中の【工兵】は特別な存在だ。【ギルド】でありながらプレイヤーと心を通い合わせることができる。レ氏たちがそいつを追っている理由がそれだ」
サトゥ氏……。
ひとまず露店巡りしないか?
俺の提案にサトゥ氏はぐッと頷いた。
「最近セブンが投げれれば何でもいいみたいになってきた。土産に何か買って行ってやろう。俺はセブンの可能性をだな。追求してやりたい」
エッダ戦辺りからボルトやら何やら投げ始めたもんな。逆にウケるわ。
「逆にな」
俺とサトゥ氏は肩を並べて露店巡りに繰り出した。
女キャラ二人で攻略話などしながら出歩いていると、チャラチャラしたイケメンホスト集団が下手くそなナンパなどしてくる。
しなを作ったサトゥ氏が素早くメシ代をたかる。
「えー? どうしよっかなー?」
トップクラスのプレイヤーは何でもできる。ネカマプレイなど初歩の初歩だ。技術とすら言えない。
サトゥ氏がその気なら今日はコイツらの金で豪遊するとしますかね。姫プレイってのはヌルすぎて俺の流儀じゃないんだが、お師匠様のネフィリアたんが変てこな姫クランなど結成したものだから俺の敷居もドンドン下がっていく。
イケメンホスト集団にしてもリアルの顔面コンプレックスを克服したような気になってチャラチャラしているような連中だ。イイ店を知ってると誘っておいて買い物は自腹でなどという言い分は通らない。コイツらも承知の上だろう。目的はフレンド登録だな。初心なネンネを装ってもゴネるヤツはゴネる。
「いやいや、別にケチってる訳じゃなくてさ。ぶっちゃけ俺らイイ金づるっしょ? 一緒に居て楽しいっしょ? だからフレンド登録しよ?って話よ。二人ともスッゲー可愛いし。タイプなんだよね。俺らとしてもこのチャンスは逃せないなって感じてるワケよ。俺らチャラチャラしてっけどぉ。それだけ出会いにマジってことだから。真剣なんでヨロシク」
ほう。なかなか堂に入ってるじゃねーか。俺は感心した。本心を明かすってのは重要なナンパテクの一つだ。
あんまりにもしつこいようなら怖いお兄さんに出張って貰って事務所に案内しようかと思っていたが、イケメンホスト集団の進化は目覚ましいものがあるな。プレイヤーは成長する、か……。
俺がしみじみと感じ入っていると、俺と手を繋いでいるサトゥ子が頬を赤らめてもじもじし始めた。
「えー? でもぉ。私たち、クランメからフレンドになるのは本当に仲良くなってからって言われてるからぁ」
コイツ本当にキショいわぁ。演技の質が高すぎる。
サトゥ子が食いつきやすいよう提示した話題にイケメンホスト集団は飢えたサメのように食いついてきた。君に興味があるよアピールだ。
「クランに所属してるんだ? なんてクランなの? 有名なトコ?」
サトゥ子がパチンと指を鳴らした。
ささっと早足で近寄ってきた黒子がそっと地面に丸椅子を置く。
脇に控えた黒子衆を軽く労ったサトゥ子が丸椅子に腰掛けた。脚組みなどして、一転して妖艶な笑みを浮かべる。
「クラン【大黒屋】へようこそ。そして、まずはおめでとう。お前たちは俺の試験に合格した。では、これより戦闘訓練に移る」
悪質なクラン勧誘だった。
しかしイケメンホスト集団も負けちゃいない。人ゴミから進み出た黒子衆に包囲されるなり円陣を組んだ。
「ちっ、やはりネカマか。そうじゃないかと思ってたぜ? 可愛こちゃん」
「男に媚びてくるのはいいネカマだ。男に媚びないのは訓練されたいいネカマだ」
俺たちはゲームをやっている。
女キャラにコナを掛けるならば、まずはネカマでもいいやと割り切らねば先へは進めない。
ニヤッと口元を歪めたサトゥ子が黒子衆に命じた。
「鳳天下」
陣形の名称だろう。
渦を巻くように黒子衆がイケメンホスト集団に迫る。
イケメンホスト集団が一斉に武器を抜いて構えた。
開戦……。
俺たちの大型連休はこうして幕を開けたのだ。
これは、とあるVRMMOの物語。
卑劣なクラン勧誘に屈さないで……!
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