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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
387/990

GunS Guilds Online!

 1.曜日ダンジョン- B4F


 髪。髪だ。

 束ねられた髪は強靭な縄となり、最低限これだけという強度となる。

 頼りないとすら思えるほど美しく華奢な機体が突如として獰猛な捕食者へと変貌を遂げたかのようだった。

 四方に射出されたワイヤーが地面と天井から生える不気味なオブジェクトに絡み付く。


 表示された制限時間は一時間弱。ガムジェムの助けを借りてそれだ。本来はもっと短いのかもしれない。

 しかしADプフに焦る様子は見られない。余裕すら感じる緩慢な動きで、具合を確かめるように槍の石突きで地面をコツリと一度叩いた。


【私たちはこの広い宇宙に産まれ落ちた一匹の怪物だ。人ではない。殺戮人形ではない。何のために戦うのかは私たち自身が決める】


 自己暗示……?

 ……戦力の爆発的な向上。精神に何らかの変容が起きていても不思議ではない。

 プフさんが槍の穂先をプクリに突き付けて挑発する。


【プクリ。スキルのストックに不備はありませんか? 準備が不足しているのでは? いかに万古不尽のフレームを手にしようとも、私に討たれれば無事では済みませんよ。スキルの収奪と修練。それが私たちの戦いの在り方なのですから。敗北者は塵となるまで全てを奪われ、枯れ果て朽ちゆくのみ……】


 先ほどのアナウンスの表示。最終形態へと移行したことでプフのスキルコピーはスキルドレインへと昇華した。

 もしもレイド級がスキルを失ったなら弱体化は避けられない。弱った個体は他のレイド級に狩られる定めにある。縄張りを奪われ、ただの怪物として地上をうろつくだけの存在と化すだろう。

 この戦いにそれだけの賭け金を積むだけの覚悟はあるかと問われたプクリが、やれるものならやってみろと言わんばかりに長い舌をベロリと出してぶらりと左右に振る。

 変身したプフのレベルは2512。対するプクリのレベルは4002。敗北のリスクについて考えを巡らすには、あまりにも大きなレベルの開きがあった。

 プクリのレベルの高さは、ダメージディーラーとしてこの上ないと思わせるポポロンすら上回っている。

 騙し絵じみた擬態と広範囲に状態異常を撒き散らす固有スキル。使徒プクリは、ョ%レ氏の意に沿わないレイド級を抹殺してきた暗殺者なのではないか。


 俺はゴミだ。虫けらと変わりない。プクリの眼中にはない。倒れ伏している知らないゴミをこっちこっちと手招きする。逃げろ〜……!

 プクリに一発カマされた知らないゴミは瀕死の状態だ。さっさとコンフレに戻ればいいものを、意識が朦朧としているのかガクガクと震える腕で地面を手繰り寄せるように地べたを這う。片腕がなくなってることも分かってなかったらしい。ある筈の感触を喪失してガクリと大きく突っ伏す。俺は心の中で悲鳴を上げた。バカっ。

 目障りな粗大ゴミの背中をプクリが踏んづけた。ほんの少し体重を掛けただけで粗大ゴミの装甲がバキバキと砕けていく。


【ぐっ、あ……!】


 そうはさせじとプフさんがワイヤーを巻き上げた。鉤爪の生えた手で鷲掴みにしてプクリの四肢に絡み付いたワイヤーを引っ張る。

 顔を上げたプクリがビャッと舌を伸ばす。プフさんの槍に巻き付けて取り上げようとする。ワイヤーを張って堪えようとするプフさんであったが、プクリの膂力は容易くそれらを圧倒した。槍ごと持ち上げられたプフさんが壁に叩き付けられた。

 強すぎる……!

 ちっ、こうなったら俺がやるしか……! 意を決して変身しようとする俺だが、それよりも早くスッ飛んできた人間爆弾がプクリの顔面付近で炸裂した。

 人間爆弾を投げ付けたサトゥ氏が不気味なオブジェクトに足を掛けて言う。


「苦戦してるようだな。手を貸そうか?」


 サトゥ氏の背後からゴブリンと種族人間の混成部隊がわらわらと湧いてくる。じっと見つめてくるゴブリンナイトにサトゥ氏は弁解した。


「……なんだよ。プクリが来たら一時休戦するって約束だろ」


 ガムジェムを見ると理性を失ってしまうクソのような廃人はゴブリンたちの信頼を大きく損なっていた。

 ワイヤーの反動を利用してプクリに肉薄したプフさんが叫ぶ。


【ナイ! 加護を!】


 俺の視界の端っこでくるくると踊っていたちびナイが名指しされてぷくっと頬を膨らませた。


【なにさ、バイトの癖に張り切っちゃってさ。ハイハイ。NAiちゃんの加護をあげますよ〜っと】


 文句たらたらに命の火が燃え上がる。


【条件を満たしました】

【パッシブスキルが発動します】


【女神の加護】

【Death-Penalty-Cancel(強大な敵、頼れる仲間たち)】

【Stand-by-Me!(これまでの全て。あなたたちは何一つ間違っていない)】


 女神の鼓舞に後押しされてプフさんが咆哮を上げてプクリを押し込んでいく。壁に押さえつけたプクリに群がるゴブリンとゴミどもがチクチクと攻撃を加えていく。

 開戦して間もないのにゴミどものボルテージが異様に高い。俺と同じく飛蚊症じみたポンコツナビの所業にイラ付いているのだろう。

 当のポンコツナビはお構いなしにチュートリアルを始めた。視界を横切るという暴挙に出る。くるくると踊りながら、


【一生懸命レベル上げして〜。お金を稼いで装備を集めて〜。どんどん強くなって〜。でも!】


 お前、殺すぞ。

 ぴたっと止まったちびナイが内緒話をするように顔を寄せてくる。


【レベルはどんどん上がりにくくなるし、武器は急に強くなったりしないよね……。だったら……突破するしかないんじゃない? 限界】


 無視だ。無視しよう。俺っちもプクリと戦うぜ〜。

 ゴミどもに混ざってワーワーとプクリを追い掛ける。

 だが、プフさんとプクリの戦いは別次元だった。

 まったく付いていけない。なんだこれは。レイド級ってのはこんなに速く動けるのか? プフさんの刺突。ワイヤーを自在に操り反動を利用しオブジェクトを使い罠を張る。それら全てを同時にやっている。

 俺たちは不要な存在だった。何の戦力にもならない。これなら最初からプフさんが戦いやすい環境を作るだけで良かった。オブジェクトをもっと増やせば良かった。地面をもっとよく滑るようにすればプフさんはもっと速く動けたんじゃないか。彼女のプライベートルームのように。

 俺は。俺たちは……。

 ちびナイが囁く。


【あなたたちはね、弱い生き物なんだよ。楽して生きて来ちゃったんだね。でも、それはあなたたちの責任じゃないよね? あなたたちは悪くない。私はあなたたちの味方だよ?】


 その言葉に。俺は、視界の端に意識を奪われた。

 NAi……。【限界突破】ってのは、どうやればいい?

 ちびナイが、にっこりと笑って、視界の端からちょこちょこと真ん中に移動してきた。


【レベルを上げるよりも。装備を変えるよりも。もっと、もっともっと、簡単に強くなれるよ。あなたたちは、もう色んな場面でそれを見てきたよね。ずるいと思わない? 最初から強い人たちが努力しちゃったら、あなたたちはどうやっても追いつけない。そんなの反則だよね? だって、あなたたちは何も悪くないんだから。そんなのってないよね。卑怯な人たちに負けたくないよね】


 俺はかろうじて言った。

 ……強いやつには強いやつなりの苦労があるだろ。俺は、別に……。


【ギルドは無限に成長し続ける。でも、その成長を遅らせる技術はある。それがスキルドレイン。スキルドレインはギルドと戦うためのもの。そして、あなたたちが持っていないもの。あなたたちは弱いから。変身できないから。スキルをコピーすることはできても、それ以上の負担には身体と精神(ココロ)が耐えられない。コピーするだけじゃ誰も救えない。あなたたちは、先に進めば進むほど自分たちの生まれを呪うことになる。あなたは分かってるよね? だからあなたは、その目を鍛えた】


 NAiが俺の頬をさすり、俺の目をじっと覗き込んでくる。


【何か一つでもいい。他のプレイヤーにできないことができるようになれば、みんなの役に立てる。居場所を失わずに済む。それがあなた。どんなに虚勢を張っても、弱くて臆病で……愛しい人】


 それ誰の話?

 なに勝手に成長してんだ。戻れ、戻れ。


【チッ……。役に入り込みすぎたか】


 NAiがしゅるしゅると縮んで視界の端に戻った。ちょっとしたホラー体験だったぜ。

 で? どうやんだよ【限界突破】ってのはァ〜。戦力にならねえし暇なんだよ。なんか喋れ。


【ちょっと待って。今、キャラ作るから】


 キャラとか言うな。やりたい放題かオメー。俺は地べたに寝転がってプフさんとプクリのバトルを観戦する。

 ちびナイがキャラを作り終えた。チュートリアル再開。にぱっと笑って、


【人間の身体には限界があるよね! 100メートルを8秒じゃ走れないし、走ってジャンプしても10メートルは跳べない。その限界を越えるのが限界突破だよ!】


 そういうンじゃなくてさ〜。俺はダメ出しした。なんつーか……。ズバッと一言で言ってくれや。具体的にどうすりゃいい訳? ソシャゲーなんかだと、試しに一枚【限界突破】させてくれンぜ? サービスが足りてねんだよサービスがァ〜。お試しでこのアンコモンのコタタマさんを限界突破させてみろよオラぁ。てか前から思ってたんだが、ソシャゲーのアンコモンって存在価値ねーよな。ああ、レアもか。SSRとSRしか使わねーっつー。直でゲーム内通貨くれたほうが手っ取り早いんじゃねーの? ケラケラケラ。俺はケラケラと笑った。


【それは自己否定なのでは……。ま、まぁソシャゲーは置いておくとして!】


 ちびナイはソシャゲーの話をあっちからそっちに置いた。腰に手を当てるなり二本指をびしっと立てて、


【大まかに言って限界突破は二種類! レベルとスキルの二種類ね! 本当はもうちょっと複雑なんだけど、あなたたちの場合はゲームっぽく言うと空きスロットが少ないから単純で分かりやすいよ! やったー!】


 それ喜ぶべきことなの? 空きスロットが少ないとか装備の厳選作業で割と最初の段階で切り捨てられる要因なんだけど……。

 ちびナイは俺のボヤきを無視した。


【ここでさっきそっちに置いたソシャゲーの話をこっちに持ってくるよ! ソシャゲーの場合、同じカードを重ねて限界突破するよね!】


 おお。レアがカブると損した気分になるからな。有効利用してやれっつー発想よ。むしろカブらねーと強くなれねーからカブってラッキーみたいな感じよ。


【そう! カブってラッキー! その気持ちが大事なの! あのね、人間ってチョット多すぎるよなって思ったことない?】


 あるある。


【でしょ? だから有効利用! 同じカードを重ねる! それが基本なの! 要らないカードと要らないカードを……】


 そう言ってちびナイが取り出したのは俺と知らないゴミの顔写真だった。おい、まさか。おい、やめろ。


【合体!】


 アッー!


【ちょっとガラの悪いコタタマが出来たよ!】


 失敗してるじゃねーか!

 ちびナイがしゅんと肩を落として、ふぃーと溜息を吐いた。


【そう、限界突破はとっても難しいの。いいところだけ混ぜるっていうのはできない……】


 つーかさ、俺、ジョンがカートリッジ使ってるの見たことあっから。代償を支払えばいいってのは知ってる。新情報をくれよ。あれだ、スキルのほうはどうなってんの? 俺らにもできんの?

 ポンコツナビは俺の質問を無視した。


【簡単に言うと、遺伝子ね。良い遺伝子をくっ付けようとしたら悪い遺伝子もくっ付いてくる。そういうイメージかな。スキルも基本は同じだよ】


 いや無視されてなかった。やればできるじゃねーか。偉いぞ。


【当たり前のことだけど、限界突破できるスキルは固有スキルだけだから気を付けてね。あなたたちの場合はアビリティっていうことになるかな】


 なにを当たり前で済ませようとしてんの? 未だかつてないガッカリ情報だよ。今、種族人間の可能性が一気に閉ざされたぞ。いや……え? お前、さっきなんか俺らを悪の道に引きずり込もうとしてたけど、どういうオチに持って行こうとしてたの? お前の話を総合すると、どれだけ限界突破しようがゴミはゴミじゃんね。

 ちびナイは【てへっ】と舌をぺろっと出した。


【雰囲気で、つい】


 帰れ! つーかアビリティの融合が【限界突破】だっつーなら俺ぁとっくのとうに実践してたじゃねーか! 格下探知ソナーが俺の【限界突破】なの!? しょぼっ……。

 ちびナイは言いたいことを全部言ったらしく元気にバイバーイと手を振った。


【限界突破はこのゲームのエンドコンテンツだよ! とっても奥が深いから色々と試してみて! 空きスロットが少なくても、世界で一つだけの素敵なオリジナルスキルが見つかるかも! 可能性めちゃんこ低いけど! がんば!】


 言うだけ言ってちびナイは舞台袖(視界の外)に消えて行った。

 ゴミはしょせんゴミ……! 上等だよ!

 俺含むゴミ一同が雄叫びを上げた。各々の武器を引っ掴んでプフさんとドンパチしてるプクリに突進する。

 ヤケクソであった。

 しかしプフさんは良いほうに解釈してくれたらしい。邪魔なゴミどもの参戦に喜色に弾んだ声を上げる。


【みんな……!】


 通常業務に戻ったNAiのアナウンスが走る。


【冒険者たちが曜日ダンジョンでBury-Creepと遭遇しました!】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】

【制限時間:00.34.56…55…54…】

【目標……】


【使徒】【Bury-Creep】【Level-4002】


 制限時間短すぎィ!

 ヤケクソになったゴミどもが次々と変身していく。

 日本サーバー名物エンフレ大量投下だぜ!

 がんばれ! 俺は応援した。

 ゴミどもには悪いが、俺は正常個体さんたちと一緒に行くぜ。ウッディが復活してることを悟られる訳にゃ行かないんでね。くくくっ……。精々派手に死ねッ、異常個体ども……!

 だがゴミのようなアビリティが円環状の黒い波となって俺の表皮を引き剥がして行ってしまった。……ええ? 呆然とする俺の肉体が俺の意思とは無関係にボコボコと膨張していく。おごぉっ……! こ、このクソのようなアビリティは……。


【コタタマ・ハードラック】


 俺はヤケクソになって咆哮を上げた。


 Pyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa




 これは、とあるVRMMOの物語。

 こち亀?



 GunS Guilds Online


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