コタタマと魔法の小部屋
1.山岳都市ニャンダム-ティナン姫の屋敷
娘たちよ。今まで寂しい思いをさせたな。この俺がお前らのママだ。
そう宣言した俺を、合法ロリ姉妹のマーマとメープルは胡乱な瞳で眺めた。
再建を終えた武家屋敷での出来事である。
長女マーマが次女メープルに目配せをして、メープルがこほんと咳払いをした。
「えーと……。コタタマ。あなたには申し訳ないことをしたと思っています」
あまり似てない姉妹だ。メープルは正統派のお姫様という感じの女子ティナンで、柔和な容貌にどこか高貴さがある。
「あなたの行いがお父様を助けるためのものであること。それは、あの場に居た誰もが理解しています」
まぁその件は仕方ねえだろ。俺は義理の娘に頭を下げさせまいと機先を制して言った。
お前ら王族は決まりを守れと言う側のティナンだ。いちいち例外を認めてたらキリがねえよ。だろ? ところで俺の部屋なんだが……。
武家屋敷に寝ぐらを構えようとする俺に、メープルは早口に言ってくる。
「ですから。あなたとお父様の結婚は飽くまでも形式上のこと。私たちはあなたにこれまで通り自由に生きて欲しいと願っています。それはあなたの希望とも合致する筈。ですね?」
それとこれとは話が別だな。俺の部屋はどこだよ? たまには泊まりに来てやるから。お前らは俺に甘えていいんだ。
そう言って俺は荒ぶる鷹のように両腕を広げた。来いよ。ぎゅってしてやるから。
長女が次女をひじで突付いて急かした。メープルがチラリとマーマを見て、すぐに俺へと目線を戻す。小さな唇をきゅっと引き結び、意を決したようにこう告げた。
「……む、無理。無理です」
ブサイクな母親でゴメンなさいね。でも俺はお前らを愛する自信があるから。お前らと本当の家族になれるって心から信じてる。さあ俺の部屋に案内しろ。俺の部屋だ!
「ヤだー! こんな災厄の権化と一緒に暮らしたくない〜!」
ワガママを言うんじゃありません! 災厄の権化にだって幸せになる権利はあるんですよっ!
それとマーマ! お姉ちゃんでしょ! さっきからあなたは妹にばっかり喋らせて何やってるの!
するとマーマはぷいっとそっぽを向いた。
「……部屋というのは? 希望はあるのか? 日当たりの良い部屋は避けたいとか、人目の多い場所はマズいとか」
俺を一体何だと思ってるんだ。だが、そうだな……。借金取りに対して優位に立てる地理環境……そこは押さえておきたい。
マーマは一つ頷いた。
「そうか。ならば……」
俺は住み慣れた地下牢獄に案内された。やったぁ。ここが俺だけのスウィートルームなのね? 暗くてじめっとしててとってもステキ!
ってンな訳あるかぁ! 俺は吠えた。
そりゃVIPっちゃVIPだけれども! お前らは新しい家族を牢屋にブチ込むんか!? どういう了見だオイ!
ええいっ、もういい! 俺が選ぶ。ウチのアットムが寝泊まりしてる部屋があンだろ! 俺もそこで暮らす! アットムくんと一緒に暮らすもんね!
そういうことになった。
なんて冷たい娘たちだ!
俺は肩を怒らせてドスドスと大股で武家屋敷の廊下を歩いていく。
あの合法ロリ姉妹は母親を何だと思っているのか。これはもうアットムくんに言いつけるしかない!
アットムくーん! 俺はアットムの部屋のふすまをすぱんと開いた。
2.GGO-ョレ支社-月面基地
「呼んだかね?」
お呼びじゃねーな……。
リア充の権化が偉そうに脚など組んで紅茶を嗜んでいる。気取った仕草でティーカップを口元に近付けて、
「ダージリンの新芽。いい葉だ」
いいご身分ですなァ。俺の皮肉をョ%レ氏は物ともしない。俺もリアクションに期待はしていない。そんなことよりも……。
ョ%レ氏とテーブルを挟んで向かい側に、褐色銀髪のロリキャラが退屈そうに座っていた。
ジュエルキュリ……。
銀髪ロリが紅茶をぐいぐいと飲み干して言う。
「ダージリンって……。どう違うの? これ」
ョ%レ氏が答える。
「ジュエルキュリ。紅茶は変化を楽しむものだ。季節の移ろいを舌で感じ、都会の喧騒を忘れてひと時を過ごす……。豊かな時間の過ごし方こそが肝要なのだよ」
呑気にお茶会してんじゃねえ!
俺はズカズカとクソ運営に近付いていく。
さっと席を立った銀髪ロリが俺の行く手に立ちふさがった。
俺が踏ん反り返って見下ろすと、銀髪ロリは俺の視線を真っ向から受け止めた。
俺は目を逸らした。
……今日のところはこれくらいにしておいてやるよ。
勝てる気がまったくしなかった。ペスさんと相対した時と似た絶望的な戦力差を感じた。
俺はジュエルキュリさんと目を合わせないようにしつつ、片手を上げてョ%レ氏に手首を見せる。
運営さんよ。あんたのトコの社長が余計な手出しをしてくれたみたいでね。お陰で善良なプレイヤーのゲームプレイに支障が出てるようなんだが? この不手際を運営さんはどうしてくれるんかのう? おん?
運営さんは俺を一顧だにしない。
「コタタマ。君はウッディと共に歩むことを選んだ。このョ%レ氏の提案を跳ね除けてね。その結果、君が不利益を被ろうともそれは自己責任というものだ」
ョ%レ氏はカップをテーブルに置いて、ぴんと人差し指を立てた。
「とはいえ」
あんだよ。
「とはいえ、だ。コタタマ。クァレュュの干渉は私にとって面白いことではない。彼が代表取締役である以上は多少のことには目を瞑るが、今回の件はいささか私の領分に足を踏み入れすぎではないか、とも感じている……」
で?
「よって君にチャンスを与える。ただし、この私が直接手を貸すことはしない。それは不公平だからね。そこでジュエルキュリだ。知っての通り彼女はαテスターの長姉であり、このョ%レ氏に師事している。今となってはルインルビィよりもスキルの核心に迫っているだろう」
……ジュエルキュリから話を聞き出せってか。
「ジュエルキュリ。聞いての通りだ。ヒントを与えるも良し、与えないも良し。ただ、このョ%レ氏に気に入られようなどとは思ってくれるなよ? 君には言うまでもないことだがね。私と共に過ごした日々で、君には君の目的が生まれつつある筈だ。それは少しずつ私とはズレていく。そうあるべきだ。そうでなくてはならない。私は人形を作ったつもりはないのでね」
よく言うぜ。αテスターはあんたの使徒だろ。絶対尊守の命令権を持つヤツに逆らえるもんかよ。
「どうかな。少なくとも……ジャムジェムは私とは道を違えた。彼女は自身を君の傍らに置いても私に操られることはないと判断を下したようだ。あるいはそこまで深く考えていないだけなのか。いずれにせよ、コタタマ。彼女は君を強く信頼しているようだ。ヒューマンめ。上手くやったな」
ジャム……。ちっ、分ぁーったよ。俺はあんたを信用しちゃいないが、ジュエルキュリのことは信用してもいい。ジャムジェムの家族だからな。
てな訳だ。ジュエルキュリ。俺もシャーリーと呼んでも? お前が居ない間にジョンがヤバいことになってるぞ……。ステイシーとは会ったことある?
「ない。でも、なんかそれらしいことは言ってたかなー。あれでしょ。アクションゲームが好きな女」
そうそう。そのステイシーがこっちのゲームを始めたんだけどさぁ。この前初めて会ったらジョンの背中から生えた棒になってんの。人間増幅器だってよ。ひでぇ話だ。
「ジョンはそういうヤツだよ。あんたらと話す時は色んな言語を混ぜてるから胡散臭い外国人みたいになってるけど、英語だと全然印象が違うから」
シャーリー。たまにはジョンのところに顔出してやれよ。あいつが焦ってる理由はお前だ。レ氏はお前らの固有スキルをプレイヤーに解放させるつもりなんじゃないか? 俺は、多分ジョンもな、それを心配してる。
「だとしてもさ。私はあんたらがョ%レ氏に勝てるとは思えないんだよ。実際あんたは今こうしてョ%レ氏の手のひらの上で踊ってるだけじゃん」
そりゃ知恵比べじゃ勝てねえかもしんねーけどよぉ。お前がその気になればジョンやカレンちゃんと会わせることくらいは許してくれるんじゃねーの? ちょっとくらい良いじゃねーか。ちょっとだけよ。ちょっとだけだから。コタタママのお願い。ね?
「うるさいなぁ。分かったよ。今度気が向いたらね。ジョンの恋人ってのにチョット興味あるし。じゃ、話はこれでおしまいってことで」
まぁまぁまぁまぁ。俺は銀髪ロリの手を引いて椅子に座らせた。この手の女は見下されるのが嫌いなんだ。銀髪ロリの手前にしゃがみ込んで話を続ける。
ほら、これ見て。この手首んトコ。分かる? 足首にも同じのがあるのね。お前さんの妹さんにやられちゃってさぁ。誰か分かる?
「カラでしょ。カラーテリア。あいつ、スキルの使い方が上手くなってる。生意気〜」
でしょ? これどうしたらいいと思う? 困ってんのよ。
「……あんたはどうするつもりなの?」
ワッフルに診て貰おうかなって。前に学校マップで母体を封印してくれたことあるんだよ。
「ワッフルぅ?」
ジュエルキュリはチラッとョ%レ氏を見た。
リア充の権化は我関さずの態度で本など読んでいる。
銀髪ロリは少し考えてから、
「……まぁいいや。あのね、考え方がズレてるんだよ。攻略が遅れてンね。寄り道ばっかしてっからそんなことになるの」
と言うと?
「【限界突破】だろ。スキルの根本的な部分は変わらないんだよ。私たちのスキルは告解室の作成だ。あんたの手足を縛ってるそれもそう。ワッフルは関係ないね」
告解室……。結界みたいなもんか?
「みたいなって言われても分かんないけど……。呪いを解くって考え方じゃダメ。はい終わりー。ヒント終わりー」
待ってくれよ〜。何かやって無駄足に終わるの嫌なんだよ〜。もう一個。もう一個だけヒントちょうだい。一個だけよ。一個だけでいいから。
「だーめ。……私もさぁ、ちょっと考え変えるよ。あんたらがもしもョ%レ氏に勝てるなら、勝てるかもしれないなら、味方してやってもいいかもね。ゲームだもん。あんたらが主役じゃなくてもいいんだ」
そりゃそうだな。特に男キャラはダメだ。近頃のゲームじゃ男キャラは存在価値がないとばかりに女キャラが前衛中衛後衛を全部こなすんだぜ。さすがに女だけに戦争させるのはどうなの?って感じで申し訳程度にたまーに男キャラが混ざるんだ。これがまたガチャで当たっても嬉しくねんだな。壊れ性能のキャラだったら仕方ねえから使ってやんよってな具合よ。
ョ%レ氏が横から口を挟んできた。
「諸君らヒューマンの男は余計なことを気にしすぎる。αテスターを女性のみとし、多少の無茶を押して衣服類の所有権を強めざるを得なかった私の気持ちが君たちに分かるか。このョ%レ氏に下らない作業をさせおって。ヒューマンめ」
させーん。さっせーん。
俺は舌を突き出してピロロロロロと怪音波を発した。世の男キャラを代表してほんの少しでも申し訳なく思ってる気持ちが伝われば良いと思った。
ョ%レ氏が俺の頭を掴んで首をねじ切った。
俺は死んだ。
3.山岳都市ニャンダム-ティナン姫の屋敷-アットムの部屋
相変わらず煽り耐性の低い暫定エイリアンだぜ。
ねじ切られた俺の頭がコロコロと部屋を転がる。ふわっと幽体離脱した俺は、びっくりして俺の死体を見つめているアットムくんに軽く手を上げてニコッと微笑んだ。
よう。部屋を汚しちまって悪ぃな。
アットムは俺の頭を大事そうに抱えて苦笑した。
「また死んでる。コタタマは懲りないなぁ」
ははははははは。
「ふふふ」
懲りずに死んだ俺だが、ヒントは得たぜ。
俺の中のウッディを縛り付けているのは、プライベートルームの変形。
それは俺が考えていたよりも物質的なものらしい。
つまり鍵を握っているのはマールマールだ。
もう二度と戦うことはあるまいと、縁は切れたものだとばかり思っていた。しかしそうではなかった。
マールマール。俺たちの好敵手。
一度は諦めたヤツとの勝負を……決する時がついにやって来たのだ。
これは、とあるVRMMOの物語。
無理じゃないですかね?
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