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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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αテスター、カラーテリア

 1.クランハウス-マイルーム


 呪いで手足が重いのでウチの三人娘に看病して貰っている。

 病は気からという言葉もある。心を強く持つために添い寝して貰っている金髪を抱き枕にしつつ、俺の枕元に腰掛けた半端ロリの尻を眺め、その隣に座っているAI娘の太ももを鑑賞するという完璧な布陣だ。

 スズキはちんちくりんの癖してちゃんと女らしい身体をしている。俺の手首をよく見えるよう持ち上げて赤カブトに尋ねる。


「どう?」


 赤カブトの白い太もも。お前本当に日本人かよと尋ねたくなる肌の白さはフィクション特有の白人もどきっぷりだ。俺の手首に焼き付いている呪印をまじまじと見つめて、


「カラちゃん……」


 赤カブトの証言によれば、青髪の女はカラーテリアという名前らしい。特徴が合致した。リンリーのように別の名前を名乗っている可能性はあるが。

 赤カブトが俺の手首に指を這わせてうなる。


「むむむっ」


 αテスターならではの不思議なパワーで何とかしようとしているらしいが、これはダメっぽいな。俺はポチョを撫で回しながらそんなことを考えていた。

 やっぱりダメだった。がっくりと項垂れた赤カブトが意気消沈して言う。


「だ、ダメ。今の私じゃ……」

 

 そりゃ今のお前は俺を殺すくらいしか能がねえからな。俺は内心そんなことを思ったが口には出さなかった。代わりに慰めるように赤カブトの太ももを撫でてやる。

 まぁ気にすんなよ。俺が悪ぃんだ。ウッディが居るから何されても問題ねえと油断した。以前の俺なら多少は警戒したろう。なに、いざとなればワッフルに頼るさ。αテスターといえどプレイヤーの一人だ。俺らの少し先を行ってるだけで、レイド級を上回ることはないだろう。な? 元気出せって。すべすべの太ももを軽く摘んで撫でさする。

 赤カブトは頬を赤らめてもじもじした。恥ずかしそうに俯いてコクリと頷く。


「う、うん」


 でへへ……。

 俺はジョゼット爺さんの妻だが、別に結婚システムが実装した訳ではないので、お相手を特定する必要性はない。今まで通り好みの女キャラにはどんどんモーションを掛けていく。そうそうモーションと言えば……。

 俺はふと思い出して尋ねた。

 あのさぁ。俺、この前ロストした時に女キャラにとどめを刺されたんだよ。血ぃ流しすぎてて五感イカれてたから髪が長い女ってことしか分からなくて。お前ら何か心当たりは……。

 俺の腕の中でぴくっとポチョが反応した。まさか。俺は金髪をぐいっと抱き寄せて顔を覗き込む。ポチョは顔を真っ赤にしてぷいっと俺から目を逸らした。


「わ、私じゃない……よ?」


 ……怪しい。

 ハッ。俺の枕元に尻を乗っけてる劣化ティナンがもじもじして俺から目を逸らしている。な、なんだその反応は? 俺の腹を刺して現場を逃走したヤツは一人。単独犯だ。さすがに二人目が居て見落とすほど俺は間抜けじゃない。

 スズキは髪を指先でいじりつつチラチラと俺を見て、


「な、なに? わ、私じゃないよ。私だったら分かるでしょ。さすがにっ。だって私、ち、小さいし。そんなさ、すぐにバレるようなことしないしっ」


 ……いや、怪しい。あの時の俺は小さいとか大きいとかそんなことを気にする余裕がなかった。そもそも変装していたかもしれない。上げ底ブーツやらウイッグやらで変装して犯行に及ぶ……。それは犯人側からしてみたら当然の配慮だ。してみると髪が長い女ってのも怪しい、か?

 分からない。俺には何も分からない。噛ませナビゲーターのチュートリアルで無駄な時間を過ごしたのは痛かった。俺は真犯人をまんまと取り逃がしてしまった。

 一方、初体験をとうに済ませた赤カブトさんは余裕の態度だ。


「ペタさん。りんご食べる? 私が食べさせてあげるっ」


 俺は別に病人という訳じゃないんだが……。ただカラーテリアとかいう新キャラに呪いを打たれて手足がろくに動かないのでちやほやされたいだけだ。

 それなのにゴミどもはお構いなしにやって来る。


「崖っぷち〜! 俺を幼女にしてくれ〜! 将来を約束された美幼女に〜!」


 ゴミがっ! 不快なダミ声を耳にした瞬間に俺のコタタマメーターが沸騰した。布団を跳ね除けて壁に立て掛けてある斧を手にするや窓からバッと飛び降りる。自由落下に身を委ね、景色は上から下に。おっと丁度いいところにゴミの頭がオンドレぁ!

 俺のダイナミックカウンターにゴミはなすすべなく地に沈んだ。俺はすかさずゴミの腹をガッと蹴り上げる。

 カスぅ! 見れば分かンだろ! こちとら手足がろくに動かんのじゃ! 幼女になりてーだ!? 勝手にしろやッ! 俺の知ったことかッ!

 ったく……。思うさまにゴミを踏み付けてから俺は手足を引きずってウチの丸太小屋に戻った。居間のソファにドカッと座って経験値稼ぎを始める。


 マジュンくんが幼女化してからというもの、幼女にしてくれと俺を訪ねてくるゴミが後を絶たない。当時の状況から見て、マジュンくんを幼女化したのはNAiだろう。俺はやってない。だのに面白がってるのか何なのか、ゴミどもは俺の犯行だと決め付けて掛かってきやがる。

 第一このゲームには整形チケットがあるのだから、どうしても幼女になりたければ勝手にやればいいのだ。……まぁ不可抗力で幼女となり、戻ろうにも戻れないというのがイイんだろうが。

 世間は女子供に優しい。可愛いからだ。ロリはその二つを兼ね備える無敵の存在である。人間という種の頂点に居る。

 

 ちっ、イラつくぜ。

 俺は居間に降りてきた三人娘に山岳都市をブラブラしてくる旨を告げた。スズキさんからお小遣いを貰って丸太小屋を出る。



 2.山岳都市ニャンダム


 新事業のエンドフレーム航空会社は順調だ。すでに前例があるならそこに学ばないのはアホのやることだ。まずは情報を集める。何事もバランスだが、まだ焦る段階じゃない。俺が立ち上げる航空会社は、何度でもロストできる俺という他のゴミには真似できないセールスポイントがある。つまりフライト直前になって命が惜しくなって逃げ出した飛行機役の穴を俺が埋めることができる。俺の航空会社に欠航という事態はないのだ。

 そのためには、このうざったい呪いを何とかせにゃならん。ウッディに頼ろうとしなければ症状が徐々に緩和されるとはいえ、ウッディの無事を願う気持ちを完全になくすことはできない。手足が痺れるような感覚がずっとある。

 あァ〜うざったいのう。俺は覇気使いをうざったく感じる赤犬の気持ちが分かるような気がした。ワンピースね。

 カラーテリアめ。やるだけやって逃げやがって。まぁ仕方ねェか……! αテスターはしょせん……先の時代の敗北者じゃけェ……!

 なぁ! そうだろう、カラーテリアさんよ……!


「フフフ……! 私の名を? 名乗った覚えはないが……。そうか、ジャムか。こっちに居るんだったな」


 青髪の女が俺の行く手を阻んだ。

 カラーテリア。韓国サーバーのαテスター。そして赤カブトの姉妹……。

 俺は赤カブトの能天気な笑顔を思い浮かべて怒りを抑えた。逸る足を動かないよう意識せねばならなかった。口元がひくつき、自然と好戦的に吊り上がっていくのを感じた。

 立ち話もなんだな……! 偶然ここに居たって訳じゃねえんだろ? イイ店を知ってる。付いて来いッ!

 カラーテリアはニヤニヤと笑っている。


「いや、ここでいい。サトゥ、だったか。あのレベルのプレイヤーと付き合いがあるお前を侮るほど私は間抜けじゃないつもりだ。何しろ敵地だからな。慎重にもなる」


 なるほどな。もっともな言い分だ。だが、そいつは俺にも同じことが言えるよな? ハイそうですかと従うのは間抜けがやることだ。お前が罠を警戒しているように……俺もこの場にとどまることに何らメリットを感じない訳だ。意見が割れたな。さあ、どうするね?


「コタタマだったな。お前は私に何か聞きたいことがあるんじゃないか?」


 お前がのこのこと顔を見せたのは何でだ? 俺はこう考えたぜ。どうやらお前さんは俺から問答無用でウッディを奪うことはできないらしい。やれるならとうにやってるだろうからな。この呪い。嫌がらせじみた性質……。大体話が見えてきたな? お前が俺からウッディを引き剥がすには俺の同意が要る。そんなところだろう。


「なるほど……。奇跡片の所持者というだけのことはある。悪意の塊のようだ。プレイヤーを代表する弱者の一人、か」


 俺が何者かなんてのはどうでもいいんだよ。用がないなら俺ぁ行くぜ。お前の助けなんざ俺には必要ねえ。

 歩き出した俺の横に青髪が並ぶ。付いてくんなよ。どうなっても知らねえぞ。


「私はジャムジェムの姉だ」


 嘘つけ。アイツはお前のことカラちゃんって呼んでたぞ。ジャムはリンリーのことをルビィ姉さんって呼んでたしジュエルキュリのことをキュリ姉さんって呼んでた。しかし……それは何のための嘘だ?


「私とジャムの間に明確な上下関係はないのさ。キュリとルビィは少し特別なんだ。集団をまとめるものが要るからな。あの二人は私たちよりも少し早く生まれている。言ってみればテストタイプだ」


 ……ウチのジャムのこと下に見てる?


「見てない。でも、なんか、お姉さんぶられると、えー?っていう。うん」


 あ、うん。

 なんだか気まずくなった。俺と青髪はてくてくと露店バザーに向かう。

 俺の隣を歩くカラーテリアがぽつりと言う。


「歩きながら話す。これは妥協案だ。もちろん私にも行き先を決める権利はあるんだろうな?」


 ……いいだろう。俺は認めた。

 まずは武器屋だ。行くぞ。


「嫌だ。お腹が空いた。何か食べたい」


 だから最初にそうしようって言ったじゃねーか。


「そうやって私を油断させるつもりか。その手には乗らない」


 ちっ、面倒臭ぇ女だな。じゃあお前が店を選べよ。


「そうする。あ。あそこは何の店だ? 美味しそうな匂いがする」


 ラーメン屋だ。中華そばが美味い。昔ながらの味でな。サイドメニューも豊富だぞ。


「うーん。あそこは?」


 あれはうどん屋。天ぷらが美味い。店の回転が早いから並ばなくても食べれるのが魅力だ。


 カラーテリアは優柔不断な女だった。あちこちに目移りしてずるずると決断を後回しにする。俺も段々腹が減ってきた。

 おい。もうこの際どこでもいい。次に目に付いた店にするぞ。いいな?


「うーん。うーん……。いや、最初のラーメン屋にしよう。あそこがいい」


 あ? もう大分歩いてきたぞ。今から戻れってか。

 すると青髪はニヤッと笑った。


「言った筈だ。その手には乗らない、とな」


 それっぽいこと言えば許される訳じゃねーんだよ。ポンコツAI娘が。ウチの赤カブトとどっこいどっこいじゃねーか。

 俺は内心そう呆れながらもハイハイと適当に頷いて青髪と一緒に来た道を戻った。


 食後。

 俺と青髪は二人で露店を見て回る。

 カラーテリアは露店バザーが物珍しいらしく、いちいち立ち止まってはあれは何これは何だのと俺を引き止めてくる。

 おい、勘弁してくれよ。この調子じゃ日が暮れちまうよ。

 すると青髪は感心したように頷き、


「お前は便利な男だ。聞けば何でも答えてくれる」


 俺は露店バザーの顔役だった頃もあるからな。昔取った杵柄ってやつだ。例えばこの辺りの区画は露店の入れ替わりが激しいが、長い目で見ると品揃えがループしてることに気が付く。盗品を扱ってる店だ。PKerと店主がグルなのさ。買ったものが分かれば買ったやつのおおよそのレベルが分かる。このゲームの武器は高品質なものほどコストが掛かるからな。あの店主はいかにも気難しそうな職人を装ってるが、そうじゃない。さも客を選ぶふりをして客の情報を探るんだ。くくくっ、よくやるよ。おっと、こっちを見たぞ。嫌そうな顔しちゃってまぁ。よーし、ちょっくら冷やかして来るか。

 俺は冷やかしに行った。

 よーぉ。儲かってるかね?

 ドワーフに似た店主はとても嫌そうな顔をした。


「崖っぷち。何しに来た。帰れ」


 そう邪険にしなさんなよ。一応客だぜ?


「お前は客じゃない。……また新しい女を連れてるな。このことはポチョさんに報告するからな」


 それは勘弁して貰えませんかね?


「必要なのは……」


 この前、客を紹介してやったろ。大分荒稼ぎしたんじゃないか? お前らは。


「ふん。行け。お前と話してるだけであらぬ噂が立つ。商売の邪魔だ」


 店主がさり気なく俺に金を渡してくる。俺はそそくさと金を懐に仕舞った。毎度。へへ。

 俺は露店を離れて青髪の元に戻った。

 てな具合よ。


「一味じゃないか」


 一味じゃない。いい武器を安く買える店はないかと聞かれたら自然とこうなるんだ。ガイアが俺に囁いたんだよ。

 さて次だ。露店巡りはスピードが命。うだうだやってる暇はない。

 買いたいものは幾らでもある。

 カラーテリアは信用ならないが、荷物持ちくらいにはなるだろう。


 ウッディは俺の中でまだ生きてる。感じるんだ。取り戻してみせるぜ。楽しかったあの日々を。


 俺は屋台でクレープを二つ買って一つをカラーテリアに手渡した。クレープにパクつく俺たちの視線が交錯して火花を散らした……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 デートですか?



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