エンドフレーム航空会社
1.クランハウス-マイルーム
ログインした。
さて、経験値稼ぎでもするか。
手をぐっぱぐっぱしながら部屋を出て階段をトントンと降りる。
居間でホモがテーブルをダンッと叩いた。
「くそっ! コタタマさんを寝取られたッ!」
寝取られちゃいねーよ。そしてそれ以前に俺はお前と交際関係じゃねえ。
スズキシリーズの代表格の一人だった。
俺は手首をぶらぶらと揺らしつつホモの対面に座る。ソファの背もたれに腕を引っ掛けて言う。
何しに来た。帰れ。
「? コタタマさん。その手……どうかしたのか? いや、足もか。そんな、最短距離を行くような歩き方をあなたはしない」
その観察力が怖ぇーよ。
まぁ隠す理由もない。俺は手をひらひらと振って言った。
αテスターに呪いを打たれた。ジャムじゃねーぞ。韓国サーバーのヤツだ。多分な。
十中八九そうだと思うが、確認は取れていない。念のために俺は憶測を述べるにとどめた。
「呪いだと……。代償は?」
いや、そういうスキルらしい。限界突破したんだとよ。
「……母体に直接か。対策はあるのか?」
それなんだが、ダークプリーストかワッフルの二通りを考えてる。お前はどう思う?
「ダークプリーストは無理だ。【心身燃焼】の扱いはクルセイダーとヴァルキリーのほうが上のようだからな。ダークプリーストは生産職の系列らしい。召喚術師のほうがまだ可能性はあるかもしれない。彼らはテイマーの上位職で生体クラフトを使える」
お前らはそういう情報をどこから仕入れてんの?
「Wikiに載ってる」
Wikiか〜。俺は頭を抱えようとして失敗した。手足の動きが鈍い。気を取り直して続ける。
あのさ、Wikiってコメント欄あるじゃん? そんで俺、デサントとカーディナルのジョブを発見した感じになってるじゃん? それについてはどういう扱いになってんの?
「運営の手先だと言われてる。レ氏と裏取引を……」
あ、やっぱり? だよなぁ〜。
「デサントはともかく、カーディナルの転職条件は多数決だろう。右へならえの日本人と相性の良いジョブだ。気にすることはない」
かもな。でも気にするなってのは無理だぜ。俺はどうやらネフィリアに嵌められた。考えてみれば、上級職の転職条件が多数決ってのは当たり前だ。アイツは前にこう言ってたぜ。このゲームは雑魚キャラが有名になってもおかしくない構造になってるってな。ネフィリアのアビリティは追跡だ。本人が認めた。アイツは先生を監視していた時期がある。その頃にはアビリティを習得してたんだろう。もっと早いかもしれない……。サトゥ氏にしたって今になって思えば【スライドリード】事件の頃には妙なことを言っていた。
(俺には分かるんだよ……先生は近くに居るって。この感覚だよ)
つまりだ。俺はネフィリアに作られた人造攻略マシーンなんじゃないか。穿ちすぎだと思うか? でも簡単なことなんだ。俺はサトゥ氏の不足を補うキャラクターだ。レベルが低くて弱く、自由に動ける。共通点もあるが……。例えば指揮経験があるとかな。けど、それはモブキャラじゃ満たせない条件なんだ。モブキャラが満たせる条件は無視していい……そんなことをネフィリアは考えたんじゃないか。
しかしホモは首を横に振った。
「コタタマさん。それは考えすぎだ。あなたはレ氏と関わりすぎた。疑うなら魔女よりもそちらだ。あなたは魔女を過大評価する嫌いがある」
根拠は?
「そうだな……。まず第一に、魔女はあなたをコントロールし切れていないように見える。彼女が先生の直弟子であることは知っている。が、おそらく人を育てることに興味がなかったんじゃないか? 無関心な事柄に対して人間は鈍感だ。彼女を教育者として見た時、先生ほどの適性を感じない」
なるほど。それはそうかもしれねえな。
俺は感心した。スズキシリーズという大所帯を率いるだけのことはある。この男はホモの一言で終わらせるには惜しいヤツだ。
俺がそんなことを考えていると、ログインしたスズキがトントンと階段を降りてきて、俺と話し込んでいるスズキ何某にはにかんでぺこりと会釈した。
ウチの劣化ティナンは典型的な内弁慶だ。身内に対してはポンポンと言葉が出るが、初対面の人間に面と向かうと急に無口キャラになる。その癖、目下の人間には強気だ。
そのちんちくりんが、自らを盟主と崇めるスズキシリーズに対しては心なし壁が薄くなる。
台所に入っていったスズキのちんまい背中を見送って、ホモがテーブルをダンッと叩いて吠えた。
「お、俺は何をやってるんだッ! あの子のために幸せな家庭を築くと誓ったのにッ! ティナンごときに妻を寝取られてッ……!」
……やっぱりウチの丸太小屋の玄関には鍵を掛けるべきだよな。実際問題、難しいんだけどよ。リアル夜中に気が向いて狩りに出たりもするからな。
まぁいいや。
で、お前は何しに来たの? お前らはウチのスズキとあんまり接触しないようにしてるんだろ? 何か用事があったんじゃないか?
するとホモは偉そうに腕組みなどして、
「緊急と言うほどではないが……。一応な。韓国勢が上陸した。現在リチェットさんが指揮を執って迎撃に当たっている。サトゥさんとセブンはダメだ。残機が少なすぎる。リチェットさんに追い払われて狩りに。……韓国勢の指揮を執っているのはメイヨウだ」
ふうん。俺には関係ねえな。メイヨウにゃ悪いけどよ。女神像の登録は自力でやるもんだ。とはいえ、まぁ事情は分かった。ありがとよ。
このホモはやはり使える。俺はそう再認識した。人間という生き物は知らなかったことは仕方ないと開き直るが、知る手段はあるのだ。有能な人間と無能な人間を仕分ける違いはそこにある。聞けば答える人間が重用されるのは当たり前のことだ。
この際、性癖の一つや二つは目を瞑ってもいい。俺は新事業に思いを馳せた。
エンドフレーム航空会社だ。
こちらで用意したエンフレに人を乗っけて海を渡る。飛行機役のプレイヤーは残機がゴリゴリ削れるが、だからこそ金になる。
この新事業のキモは飛行機役をどうやって集めるかだ。俺一人じゃどうにもならない。人手が要る。それも優秀なスタッフが。
俺はホモ野郎をじっと見つめてベロリと舌舐めずりした。話を切り出す。
お前よぉ。ウチの事情は知ってるよな?
俺ぁどうあってもジャムジェムを優先するぜ。アイツにゃ俺らと違ってリアルっつー逃げ場がないからな。スズキもそれを望んでるだろう。スズキは……何だかんだ言ってジャムに甘いからな。
「……海外に拠点を?」
ひゅう。俺は口笛を吹いた。話が早い。早すぎるくらいだ。スズキシリーズの代表格ってことは初日組か。なるほどな。そんじょそこらのゴミとは格が違う。地獄を潜り抜けてきた男だ。
俺はぐっと身を乗り出して続ける。
そうよ。俺はここンところスズキやポチョに構ってやれてねえ。それは俺が海外展開を重視してるからだ。お前らは察してるだろう。ウチの子たちは正常個体だ。エンフレに変身できねえ正常個体を海外に運ぶ仕組みを作れたなら……面白いことになるとは思わねえか?
「……少し待ってくれ。考えたい」
待とう。俺は待った。
「……ロスト寸前のプレイヤーに取引を持ち掛ける、で合ってるか?」
俺はホモ野郎を指差した。ビンゴ。そういうことだ。具体的にはロストしたあと、強くてニューゲームを補佐する。更に言うなら保険だな。残機が満タンのヤツでもいいんだ。飛行機役を買って出てくれたヤツにはロスト保険を掛ける。これは、もう多分どっかでやってる。大した思い付きじゃないからな。ただ、おそらくは口約束の域を出るものじゃないだろう。契約ってのは互いの利益が絡んで初めて信用に値するんだ。例えば宗教の勧誘は胡散臭いだろう? それはな、損益が見えないからだよ。だから俺は裏切りが損益に結び付く仕組みを作る。プレイヤーはロストしたら残機が満タンになるよな? そこで強くてニューゲームを補佐してやったらどうなる? そいつはこう思うんじゃないか? 残機を無駄に貯め込んでも仕方ないとな。
ホモ野郎が人差し指を立てた。
「コタタマさん。あなたは口が上手いな。しかし問題点もある。残機が著しく減少したプレイヤーはレベルアップが遅くなる」
そうなのか? いや、そうだったな。俺もそうなんじゃないかと考えたことがある。あれは……キルペナがレッドゾーンに突入した時か。どういう仕組みになってる?
「コンフレームのレベルを、エンフレ時と区別してベースレベルと言う。このベースレベルが上昇することで残機の上限が増していく。これは確かな情報だ。高レベルのプレイヤーは明らかにロストまでの猶予が長い」
続けろ。
「つまりレベルアップしてるのは母体であってコンフレームではない。同じことのようで実は違う。このゲームのレベルがイヤに上がりにくいのは、プレイヤーのレベルが1001からスタートしているからだ……という説だな。残機が減少した母体は経験値の幾ばくかを自機の回復に当てる。コタタマさん。あなたはMPKの名手だ。心当たりがあるんじゃないか?」
巣作りか。確かにモンスターのレベルは簡単に上がる。
……計画の修正が必要だな。補償を手厚くするべきか。しかし儲けが出るかどうか……。
ホモ野郎が二本目の指を立てた。
「そして、問題点はもう一点」
言ってくれ。
「エンドフレーム航空会社は既にある。コタタマさん。あなたと同じことを、あなたよりも早く思い付いたプレイヤーが居る。韓国サーバーのペヨンだ」
俺は驚き、そして喜んだ。
成功例があるのか!?
「だから気に入った」
ジョジョ?
ホモ野郎がサッと手を差し出してくる。
「協力しよう。二番煎じほど確実な商売はない」
俺はホモ野郎とガッと握手を交わした。
エンドフレーム航空会社を立ち上げ、ウチの子たちを海外に連れて行く。
我らが【ふれあい牧場】が世界に羽ばたく時が来たのだ。
これは、とあるVRMMOの物語。
複雑怪奇な男のカンケイ。
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