魔法使いコタタマ
1.クランハウス-居間
平和だ。
赤カブトさん手製のサンドイッチをパクついていると、スズキとポチョがログインしてきた。俺の両隣に赤カブトとスズキが座り、ポチョがソファの裏から俺の肩に手を置いてぴょんぴょんと軽く飛び跳ねている。
俺、モテてる。度重なるセクハラ行為とスキンシップの賜物だな。
ポチョが後ろからひょいと俺の顔を覗き込んでくる。
「コタタマ、魔法使いになったの?」
ああ。さっさとレベル上げたいからな。戦闘寄りのキャラになりそうだから戦闘職になるのは避けてきたけど……。俺はやろうと思えばいつでも目を使える。今の内にガッツリとレベルを上げたい。
そう言って俺はレベル上げの手順を紙にガリガリと書いて整理した。
現状、魔法使いの手札は五枚。【全身強打】と【重撃連打】と【四ツ落下】。あとはゴミの如しスキル【風速零下】と【迅速発破】だ。
ゴミを殺しても大して経験値は入らないので、狩るならモンスターということになる。常設ダンジョンのモンスターは通常マップをうろついてるモンスターよりも一枚か二枚落ちる印象だ。経験値もそれに準じたものになっているだろう。よって、まずは通常マップにチャレンジしてダメなら常設ダンジョンに行くという考えで間違いない。
一体ずつちまちまと狩るのは性に合わない。やるなら範囲狩りだ。 となるとモグラさんは厳しい。マールマール鉱山は勾配があって視界が悪いから、敵がどこに潜んでいるか分からない。ブーンは論外。狩ろうと思って都合良く見つかる相手じゃない。ノンアクティブモンスターという点は魅力的だが……。同じノンアクティブのプクリの眷属はどうだ?……いったん保留。残る候補はウサギさんとタコさんか。タコさんは陸上だと動きがトロいから範囲狩りに適してそうだが、今の俺には強化された目がない。見落として頭上から強襲される恐れがある。やはりスピンということになるのか。魔法使いが多数所属している【目抜き梟】のクランハウスがスピンドック平原に建ってるくらいだからな。
……遺跡マップ行ってみるか? 擬態さえどうにかできれば、カメレオンはオイシイMOBのような気がする。ヤツらを最深部から誘き出すことができれば……。
まぁ大体こんなところか。まずは調査だな。俺はポチョを手招きして抱っこした。コイツめ。エロい身体つきしやがって。
ウチの金髪を撫で回していると劣化ティナンのスズキが俺に声を掛けてくる。
「レベル上げするなら私たちも手伝おうか? 一緒に遊べるならポチョとジャムも喜ぶし」
いや、ひとまずソロでやってみるよ。パワーレベリングは楽だけど、レベル上がりやすい低レベルん時は一人のほうが楽しいからな。お前らと一緒に遊ぶのが嫌って訳じゃないぞ。おんぶ抱っこのパーティー戦はつまらん。その代わりと言っちゃ何だが俺のセクハラに協力してくれ。
スズキは内股に手を挟んで何やらもじもじしている。擦り寄ってきて俺の耳元で小声で言う。
「……今度、また二人きりになったら殺してあげるね」
パッと離れた半端ロリが照れ臭そうに「えへへ」とはにかんだ。
ロストしたての俺の残機は満タンだ。今や殺害予告の一つや二つで動じたりしない。鼻を鳴らして挑戦的に言った。
ふん。返り討ちに遭わないよう精々気を付けるがいい。俺は魔法使いコタタマ。非力な生産職だった頃の俺とは違うのさ。
一方、赤カブトさんはニコニコとしていた。テーブルの下で俺と脚を絡めてくる。
「ペタさん。今日は何時頃に帰ってくるの? 今日はトクベツ。不意打ちしてあげてもいいよ……」
俺が殺されると喜ぶ前提で話を進めるのやめよう? 不意打ちされてヤッターって何だよ。史上類を見ないド変態じゃねーか。今から出て帰りは五時頃かな。
「ん、分かった。用意しておくね」
……ポチョとスズキには俺が中国サーバーでやんちゃしてロストしたと話してある。
ロストしたことは隠せない。相手のフレンドリストから消えるからだ。
だが下手人が赤カブトであることは内緒だ。何か面倒臭いことになる気がするからな。
クランハウスを出る俺を三人娘が見送ってくれた。赤カブトは二人に見えないようコッソリと手を振ってニコッと笑った。……何なんだ。
2.山岳都市ニャンダム
出掛けるついでに露店バザーでも冷やかしに行くかと思い立ち山岳都市に寄る。掘り出し物の杖とかあれば買って行こう。
俺が斧を使ってるのはゴミの首を刈るのに便利だからだ。杖で殴り殺すのは手間取る。それは拘りと言うほどのものじゃない。いい杖があれば斧は売り払うつもりだ。
単純に荷物になるから二刀流は避けたほうがいい。両手が常に塞がっていると動きにくくなる。ウサギさんに足払いとか食らうと勇次郎にブッ叩かれた刃牙キャラみたいに信じられないほど空中でブンブン回るからな。
露店バザーに向かってトコトコと歩いていると、街中で日本産のゴミと中国産のゴミが殺し合いをしている現場に出食わした。
中国人は拳法っぽい動きをするからすぐに分かる。チーム戦だ。口汚く罵り合いながら一進一退の攻防を繰り広げている。国は違えど胴長短足族の同士だろうに。もう少し仲良くできないもんかね。
俺は予定を変更して中国チームに加勢することにした。
非戦闘員を装って日本産のゴミの首を刎ねる。まずは一人。ゴミどもがハッとして目を見開く。
「てめぇ、崖っぷち……!」
へへっ。PKってのはこうやるんだ。勉強になったろ?
俺は後退して中国チームと合流した。チャイニーズは戸惑っている。
「お、お前は日本人だろ? どうして私たちを助ける?」
知らない中国人のおっぱいがたゆんと揺れる。対する日本チームは野郎しか居ない。俺はおっぱいから視線を切って前に出た。
「……俺がそうするべきだと思っているからだ!」
細い電撃を四方八方に撒き散らしてゴミどもの足止めを狙う。だが【迅速発破】は来ると分かっていればまったく怖くないゴミスキルだ。突進してきた日本ゴミが小規模な爆発を突っ切る。
「ワートリが連載再開したぞ!」
近接職と真っ向勝負するつもりはない。俺がゴミスキルを使ったのは、俺が魔法使いであることをチームメイトに知って貰うためだ。素早く後退した俺に日本ゴミが叫ぶ。
「深追いするな! ワートリ作者の葦原先生は首を痛めて長期休載していた!」
頸椎症性神経根症。つまり腰痛の首バージョンだ。
後退した俺を中国の人がよっこらしょと担ぐ。魔法使いの最も効率的な運用法が人間爆弾であることは日本でも中国でも変わりない。
俺は叫んだ。
「ワールドトリガーは少年ジャンプで五週連載してからジャンプSQ.への移籍が決定している!」
俺を抱えた中国の人が突進する。
日本ゴミが吠えた。
「下がれ! 俺がやる! 崖っぷちィ〜! 葦原先生お帰りなさい! 待ってました! うおおおおおおっ!」
葦原先生お帰りなさい! 死ねやゴミどもォー!
日本ゴミと中国ゴミが【スライドリード(速い)】を発動した。残像の尾を引いて左右に激しくステップを踏む。日本ゴミは犠牲を最小限に押さえて切り抜けようとしているようだが、甘い。飛び掛かってきた日本ゴミの顎を中国ゴミが蹴り上げた。拳法を修めている中国ゴミは柔軟性に優れる。日本ゴミはその辺を軽視しがちだ。
日本ゴミのマークを振り切った中国ゴミが高々と跳躍して俺をブン投げた。
俺は身体を丸めて嬌声を上げた。
「イクぞ! ふあっ、らめえっ!」
俺を中心に落ちた雷撃が四方に飛び散る。
自爆技の【重撃連打】だ。
俺は日本産のゴミどもを道連れに消し炭になって死んだ。
ワールドトリガー連載再開おめでとうございます!
これは、とあるVRMMOの物語。
修が感じている不安の正体とは……?
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