大規模侵攻
1.ポポロンの森-女神像
おぎゃあ。
俺、再誕。
ちっ。いきなり予定が狂ったぜ。ゴミどもめ。街中で盛ってんじゃねーよ。つい参戦しちまったじゃねーか。くそっ、デスペナついた。デスペナつくと手抜きして戦ってるみたいな判定になるからな。獲得経験値が減る。今日はもう帰るか……?
おっとウチの小せえのを発見。何やら焦った様子でキョロキョロしている。せっかくだからセクハラしとくか。俺はゴミどもの隙間を縫って半端ロリに接近すると純真無垢な赤子のように抱きついた。ばぶー。
「あっ。こ、こらっ」
スズキは俺より頭一つ分は余裕で小さい。胸もコンパクトな仕上がりになっているが、腰から尻、尻から太ももにかけてのラインは侮れないものがある。
俺の首に腕を回したスズキが頬を赤らめて俺の目を間近でじっと見つめてくる。
「……私に甘えたいんだ? 家まで我慢できる?」
……俺を殺すのか?
「こ、殺さないよ。人前で何言ってるのっ」
ホントだよな。何の会話だよっつー。
そんなことよりスズキ。何か探してるようだったが、そっちはいいのか? ポチョとジャムは? はぐれたのか?
小せえのが「あっ」と声を上げた。
「そ、そうだった。コタタマ! 今、中国の人たちが攻め込んできてて……!」
ああ、そういえば居たな。当たり前のように山岳都市に。どうせいつもの小競り合いだろうと思ったのだが……。
小競り合いどころの話じゃなかったらしい。
女神像の手前に死出の門が耳障りな音を立てて出現した。デカい。まだ広がる。多数のゴミが同時に転移して来ようとしている。十人や二十人じゃない。
先頭を切って現れたのは三人組の男女だった。二人は知らないロリと男だ。そして、もう一人は……。
俺は吠えた。
「李信、馬准……!」
続々とゴミが転送されてくる。
多数の戦闘員を従えたマジュンくんが俺を見て少し意外そうな顔をした。
「思いがけず金の雛鳥か」
なんでワートリの台詞をパクった?
マジュンくんの傍らに立つ金髪碧眼のロリキャラがニヤッと笑って呟く。
「転送完了。戦闘開始だ」
もう一人の知らない男が前に出る。横目にロリキャラを見据え、
「オムスビコロリン。お前は動くな」
見た目は若い男だ。ラノベの主人公みたいに少女と見紛う細身の姿。かつてのメルメルメがそうだったように、キャラクリに大して興味がないプレイヤーは得てしてああいう姿になる。ゲーマーとしては異様な風貌と言える。
……オムスビコロリンだと? それは確かメイヨウに従わないβ組の一人だった筈。称号持ち、なのか?
中国人の戦闘員どもがマジュンくんたちを追い抜いていく。
たまたま現場に居合わせた日本産のゴミが動く。ネトゲーマーにとって突発的に勃発したイベントに遭遇するのはラッキーな出来事だ。奇声を上げ、明らかに偉そうな三人組に襲い掛かる。
「!? 変身、できねえ……!」
ラノベの主人公みたいな男がゴミどもを一蹴した。文字通り一蹴、だ。男の周囲に歯車のようなものが浮かび上がった。支えもないのに宙に浮いている。歯車がゴリリと重い音を立てて回る。次の瞬間にはゴミどもの四肢が刎ね飛ばされていた。
な、なんだ? 何をした? 俺とスズキは無事だ。射程外、か? いずれにせよ、ただごとじゃない。あいつ何モンだ? モブキャラがやっていい範囲を越えてる。ぼてっと地べたに転がったゴミどもが危機感も露わに吠える。
「黒トリガー……!」
トリガーではないが。
おそらくは単純に母体の力を引きずり出したのだろう。
ただ、俺たちの中では現在ワートリ祭りが進行中なのである。
マジュンくんはゴミどもを一蹴した男の発言を気にしていた。
「スィシー。オムスビコロリンに動くな、というのは、その穴をあなたが埋めると受け取っていいのかな?」
スィシーと呼ばれた男がマジュンくんを見る。
「マジュン殿。指揮官はあなただ。私はあなたの命に従おう。しかし私以外の者がどう思うかまでは保障しかねる。そこの忌まわしき【賢者】殿に我々はほとほと迷惑をしていてね」
マジュンくんの雰囲気が変わった。
「私を脅迫するのか」
やだっ、ギスってる。意思の統一ができてない。そういうのは事前にやっとけよ……。いや、できなかったのか。マジュンくんはその手のイージーミスを犯すほど無能じゃないだろう。何か事情がある。あいつ……。俺はスィシーをチラ見した。……本当に何モンだ?
金髪碧眼のロリキャラが場違いに朗らかな声を上げる。
「まぁまぁ。マジュン。動かなくていいっていうならいいじゃない、それで。俺は楽できる。でもスィシー……だっけ? そこまで言っておいて、もしも負けたらかなりダサいよ? 気を付けてね。マジュンに意見するってのはそういうことだ。あんたはこの戦争の勝敗に責任を負った。自ら望んでね」
スィシーは答えなかった。知ったことかとばかりに俺とスズキをじっと見つめている。
スズキは困ったように俺を見上げている。
「コタタマ……」
分かるよ。困るよな。中国の人たちって基本的にキャラが濃いんだよ。事なかれ主義の日本人と違って俺が俺がってトコがある。
その濃い人たちを率いるマジュンくんが俺に声を掛けてくる。
「チェンユウ。また会えたな」
また会えたなじゃないよ。ガムジェムと君主のジョブを差し出せば手出ししないっていう約束じゃなかったか?
ロリキャラが横から口を挟んでくる。
「事情が変わったんだよ。チェンユウ。あんたの所為でな」
事情が変わった。またそれかよ。いつもそうだ。
「そう言うなよ。俺らはあんたを迎えに来たんだ」
あ?
マジュンくんがロリキャラを諌める。
「コロリン」
「マジュン。急いだほうがいい。日本サーバーの戦力はなかなかのモンだ。こっちの内情はある程度知られてると見ていい。俺ならコイツ、チェンユウを見張る」
俺が一体何をしたってんだ。
マジュンくんが一つ頷いた。真っ直ぐな眼差しで俺を見つめてくる。
「チェンユウ。君は命を賭して海上都市を守ってくれた。君には君なりの考えあってのことかもしれないが、君が【指揮官】を撃破したことは事実だ。私は君に敬意を表するぞ。だから……。チェンユウ。私と共に来い」
スカウトかい? そういえば金の雛鳥がどうこうと言ってたな。……え? 俺、千佳ちゃんポジなの? トリオン怪獣なの?
まぁせっかくの申し出だ。待遇次第では考えないこともないが……。
だが過去の男は俺を手放そうとしない。
「コタタマ氏。乗るなよ。近界民は敵だ」
近界民ではないが。
サトゥ氏の中でもワートリ祭りが開催されているようだった。
「動くな」
女神像にスライディング土下座して肉体を再構築したセブンがマジュンくんの背後を取る。
首筋にナイフを突き付けられたマジュンくんは動じない。
「セブンか。女神像が近すぎる。この場で争うのは不毛だな?」
今セブンがやったように女神像の付近で殺し合いをしてもプレイヤーはすぐに復帰できる。先ほどスィシーがゴミどもの手足を狙ったのも即死を避けるためだろう。
スィシーが振り返ってセブンを見る。
「!」
危機を察知したか、セブンが後方に大きく跳んで距離を空けた。
「……おい。何かヤバいのが居るぞ。誰だコイツ?」
答えるサトゥ氏の声は苦々しい。
「データにない。多分、仙人だ」
仙人? 何のことかは分からないが、スィシーさんの古強者感がヤバい。
スィシーさんがマジュンくんに短く問う。
「彼らは?」
「サトゥとセブン。こちらでは最高峰のツートップだ。それに……リチェットも居るな」
サトゥ氏が叫んだ。
「リチェット! コタタマ氏を!」
女神像は例外なく地下の怪しい祭壇に安置されている。地下に飛び降りてきたリチェットが俺を担いだ。
スィシーが青い波を放つ。無詠唱。いや、それよりも。
【声なく、枯れて、あの海……青く……遠く……】
スキルの完全停止だと?
【スライドリード(速い)】で離脱しようとしていたリチェットの残像が霧散した。すっ転んだリチェットの腕から俺がすっぽ抜ける。
「仙人……! これほどのものか……!」
スィシーがずいっと前に出る。歯車がゴリリと回る。
地下の岩盤が切り裂かれる。崩落が始まった。何コレ!? マジ黒トリガーじゃん!
スズキが俺に覆い被さってくる。
「コタタマ……!」
人間大の岩石が落ちてくる。
スキルは封じられている。俺には何もできない。せっかく魔法使いになったのに。仕方ねえ。俺は片手を突き出して叫んだ。
「ウッディ!」
にょきっと俺の腕からウッディが生えた。しかも一体じゃない。三体だ。増えてるぅ……。ウッディーズの腹から伸びた銃身からビッとレーザー光線が放たれる。俺とスズキを押し潰さんと迫る岩石に光線を引っ掛けてウッディが生えてる腕を大きく真横に引く。バラバラに切り裂かれた岩石が俺とスズキの頭の横に落ちる。ちっ、これでウッディのレーザーはしばらく打ち止めだ。
リチェットが俺とスズキを引っ掴んで地下祭壇の入り口に向かって放り投げる。
「メガロッパ! 二人を連れて逃げろ!」
俺とスズキをキャッチしたメガロッパがコクリと頷いた。頷き返したリチェットが、岩盤の崩落を意に介さず歩み寄ってくるスィシーと対峙する。
「頼んだ。私たちは……コイツを仕留める」
スィシーが無感動に言い放つ。
「国内最強か。お前たちが強さを競うならそれでいい。我々は数に入れないでくれ。誰が誰より強いだの、弱いだの……興味がない」
地下に残った廃人三連星の姿が遠ざかっていく。
余裕綽々に小さな手を振っているロリキャラがニコリと笑った。
「すぐに追いつく。またな、チェンユウ。あとでペロペロしてやるよ」
これは、とあるVRMMOの物語。
金髪碧眼のロリキャラで称号持ちの消極的ネカマな自称日本人。その名はオムスビコロリン。
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