ブラチラエンド
1.マールマール鉱山-山中
だが俺とサトゥ氏の生活リズムはバラバラだった。
まぁ会えねー会えねー。待ち合わせしようにも野郎は暇があるとすぐに狩りに走る。今ドコでナニしてるってささやき入れると「野良パ」とか平気で答えやがる。ヤツに言わせてみればリチェットに追われている今の状況は経験値稼ぎにイイらしい。ボーナスタイム入ってるとか何とか。病気だよ。そんなに狩りが好きなら存分に狩らせてやろうと俺はMPKを仕掛けるのだが、小規模の群れでは殺しきれないことがままある。中規模の群れなら確実に殺れるだろうが、親権を得るにはどうしても時間が要る。結局、最後は俺とサトゥ氏の一騎討ちだ。
腹と背中から触手を生やした俺は舌を突き出して笑う。
「サトゥ氏〜! 今日という今日はオメェをブッ殺してやんよ〜!」
「……コタタマ氏。お前には無理だ」
無理? 強がるなよ。見れば分かンだろ。今の俺は人間を超えてる。かつてのお前のようにな〜。
「だから掲示板見ろって。俺とお前じゃエンフレのタイプが違う。お前はキリのいい数字が好きだろ。エンフレってのはそういうのがモロに出る。人型を外れるタイプによくある傾向だ。大雑把で判断が早い反面、細かい調整を苦手とする。コタタマ氏。お前には無理だ」
いいや違うね。俺は慎重なのさ。確かにこれ以上はヤバそうだっつー感覚はある。だがプルスウルトラ。限界は超えるためにあるッ。
おごごごっ……!
俺の手足がぎゅんと引っ込んで肉団子みたいになる。そして俺は考えることをやめた。
「殺シテクレ……」
「言わんこっちゃない」
クソのような廃人とカンカンやり合っている内に俺はレベル2になった。
さすがにレベル上がったらロストするのは惜しい。俺はサトゥ氏のツテで知らないクルセイダーとウィザードに封印術を施して貰った。【全身強打】でバラバラにしてから【心身燃焼】を腹にねじ込むアレだ。よく分からんが魔法使いだと難しいらしい。
無事に人間に戻った俺を、知らないクルセイダーとウィザードが診察してくれている。
「セブンの真似か? やめとけ。あれは異常だ」
「魔法生物タイプは特殊能力を持ってることが多い。そのぶんコントロールに難がある」
ありがとうございました。俺はぺこりと頭を下げた。
知らない人たちがサトゥ氏に文句を言う。
「サトゥ。俺らは便利屋じゃねーんだ。今回の件だってお前じゃなかったら断ってる。分かるな?」
「……リチェットに何か言われたのか?」
「いいや。だが俺は何度も言ったよな? 崖っぷちと必要以上に関わるのはヤメロ。お前らは生きてる世界が違うんだ」
サトゥ氏はガチ勢で俺はエンジョイ勢だ。歩調が違う。それは今回の件で痛感した。俺とサトゥ氏は、たまに会って一緒に遊ぶくらいの関係が丁度いいのだろう。身体だけの関係だ。
しかしサトゥ氏は首を縦に振らなかった。俺の頭を引っ叩き、
「いや、それは無理でしょ。この人、いつも事件の渦中に居るじゃん。押しも押されぬラスボス候補じゃん」
誰がラスボスだ。
「あ、居た」
おっとメガロッパさんに見つかった。目隠れキャラが樹上から飛び降りてきた。体操選手みたいに両足を揃えて着地する。
サトゥ氏が驚いている。
「俺のツテを張ってたのか……。ちょっとお前マジで凄いな。コタタマ氏のテーピングを見越して……? 先生並みの読みだ」
宰相ちゃんは着地の拍子に靴が脱げ掛かってケンケンしている。
「それはチョット先生を甘く見過ぎじゃないですか? サトゥさんとコタタマが合流してる瞬間を狙うならココしかないでしょ。ログイン時間がバラバラなんだから」
ケンケンしながら靴を履き直している宰相ちゃんが前屈みになってブラチラした。
俺とサトゥ氏と知らない人たちのカットインが入った。
ちょっ……。このカットイン、そういうアレなの?
やめろよな。なんかラッキースケベ時にただならぬ集中力を発揮したみたいになってるだろ……。まぁただならぬ集中力を発揮したことは確かなのだが。
ガン見している俺の視線に気が付いた宰相ちゃんがハッとして胸元を両腕で押さえる。恨みがましそうに俺を見て、
「……ケダモノ」
じゃあお前は俺がまっぱになったらちんこ見ねーのかよ?
俺は強気に出た。
見るだろ。そりゃ見る。俺だってまっぱのヤツが居たら見るもんよ。まずチェック入れるよ。これに関しては男女の垣根を越えてると俺は思うね。女だって他の女が胸チラしたら見るよ。それはもう確信してる。ケダモノだ? 違うね。勝ち負けの問題なんだよ。
知らない人たちが大きく頷いて同意した。
「分かる」
宰相ちゃんはジトッとした目で俺たちを見つめている。
「変態が四人……」
サトゥ氏が慌てて否定した。
「お、俺まで一緒くたにするなよ。……メガロッパ。俺とコタタマ氏を連れ戻しに来たのか?」
「……問題が発生しました。ええ、戻って貰いますよ」
問題ねぇ……。俺は関係ないよな? お前らで勝手にやれよ。
しかし宰相ちゃんは首を横に振った。
「関係大アリです。ついにアットムさんのフォロワーが誕生しました」
……セブンか? ヤツは以前からウチのアットムに興味を持ってた。
「セブンさんは関与してません。だから問題なんです」
そうか? アットムの拳法はモンスターに有効だ。真似するやつが居ても不思議じゃない。むしろ遅すぎたくらいだ。
しかしサトゥ氏はそうは考えていないようだ。
「……いや。アットム氏の真似は無理だ。アットム氏のあれは……人間を超えると資格を失う。そういう技術だ」
詳しく。ことアットムくんのこととなると俺は黙ってられない。俺は情報開示を要求した。
サトゥ氏は言うか言うまいか迷っているようだった。しばし沈黙してから、仕方ないとばかりに大きく溜息を吐いて言う。
「俺のアビリティ。スキルチェインは、対象の死をトリガーにスキルをコピーする。アットム氏の拳法は強力だ。当然コピーを試したことがある」
……コピーできなかったのか?
「そういうことだ。俺は、コタタマ氏。お前の霊感をコピーしたこともある。つまりアットム氏のあれは霊感じゃない。単純に努力の賜物なんだ。そして……一度はコピーを試みたから分かる。アットム氏にはアビリティがない」
そんなことがあるのか。
そのアットムに、ついにフォロワーが現れた……。
嫌な予感がする。アットムが危ない。
俺はダッと地を蹴って駆け出した。
2.月の洞窟
でもアットムくんはいつも通りだった。
いつも通り一人だけ別ゲーだ。
ギフターズの機械化した指がアットムの肩を深々とえぐる。
アットムが目を見張る。苦しげにうめき、
「人型の【ギルド】……!?」
ギフターズがあざ笑う。
「カーディナルは私のものだ」
「カーディナル……? コタタマのことか?」
ギフターズの俺への執着心が怖い。
俺を渡したくないからアットムに挑むの? それどんな因果関係?
しかしアットムくんにとっては特に驚くようなことではないらしい。ふっと微笑み、
「そうか。じゃあ、まずは僕を倒さないとダメだね」
そうなの? いや、まぁそうか。俺に群がるゴミどもをアットムが一蹴するのは珍しくもない話だ。
アットムが小バカにするように指をちょいちょいと前後する。
「おいで。君がどの程度のものか。見てあげるよ」
ギフターズの闘争心に火がついた。アットムの肩から指を引き抜くと、半身になって拳を腰だめに構える。アットムと同じ構えだ。
「私はギフターズで最も学習能力に優れる。お前の動きを模倣することなど簡単なのだぞ」
「それは弱ったな。力比べじゃ分が悪そうだ」
しかし口ぶりとは裏腹にアットムに困った様子はない。楽しげですらあった。
小細工は無用。
アットムの構えや足運びは全て一撃必倒の拳を敵に叩き込むためにある。意思すらそれを成すために絞り込まれて細く削り研がれていく。
場所は月の洞窟。
洞窟とは名ばかりの墓地マップだ。
倒した魔物が魔石に還元されるのはプレイヤーのクラフト技能が何らかの作用を及ぼしたものである。
ティナンが倒した魔物は、しばらく原型をとどめる。ティナンの埋葬文化はそこから来ている。魔石を埋めて隠すという発想が元にある。
そしてプレイヤーの存在が何らかの悪影響を及ぼしたらしく、埋めて隠された魔石が不完全な形で蘇生し、辺りをうろつくようになった。
生死の境すらあいまいな墓標群の只中にあって、ロリコンとストーカーが対峙する。
足を止めて見学しているゴミどもが訳知り顔でひそひそと解説などしている。
「アットムさんは強ぇ……。殴り合いで勝負になるかよ」
「いや、分からねえぞ。アイツ……見覚えがある。冒険者ギルドのトップランカーの一人だ」
「……崖っぷちの負の遺産か」
負の遺産ってどういうこと?
そういうのやめてくれる?
なんか俺が悪いことしたみたいじゃんね。
宰相ちゃんがぼそりと言った。
「この男は本当にろくなことをしない……」
そんなことねーよ。な? ウッディ。
ウッディが俺の口を勝手にパクパクと動かして応答してくれた。
「ああ、シンイチ……。私は……お前の味方だとも……」
やっぱり? ウッディ。お前は気のいいヤツだぜ。
一人で会話する俺をゴミどもは気味悪そうに眺めるばかりであった。
これは、とあるVRMMOの物語。
順調に乗っ取られてる……。
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