GunS Guilds Online!
1.【大伽藍】領域内
果ての見えない真っ青な海が広がっている。
大伽藍……。これがョ%レ氏の切り札、ワールドクラフトってやつなのか。これが、オリジナルのクラフト技能……。
サトゥ氏が俺の身体を掴む手にぐっと力を込めた。……なんだ? 何かを俺に伝えようとしてるのか? このタコ野郎を前にして俺たちは一個たりとてミスを犯せない。目線を交わしただけで何かあると警戒されかねない。
俺は目に力を込めた。ョ%レ氏の動きを一つも見落とすまいと視野を押し広げる。
クソ運営が作り出した大伽藍とやらはどこまでも浅瀬が続く不思議な空間だった。ゴミどもの墓標代わりに地から枯れ細った木が生えている。枝の先端に咲いた珊瑚の花は何を意味するのか。
……そういうことか。
サトゥ氏が何を言いたいのか分かった。俺は胸中で笑う。痛快だった。今にも笑い出したいくらいだ。
まさかゴミどもに出し抜かれる日がやって来るとは思わなかったよ。
だが、ここからが難問だ。どうやってョ%レ氏を嵌める? いや……嵌めるのは無理だろう。少しばかりあからさますぎる。どうやってその気にさせるかだ。
そんなことは考えるまでもなかった。
今も昔も変わらない。俺の武器はこのよく回る口だけだ。
俺は杭のような歯列の隙間から寒々しい呼気を漏らした。触手を操って手元で槍をくるりと回してョ%レ氏に差し出す。
【いい槍だな? 返すよ】
ョ%レ氏は凶悪な牙を上下して笑った。
【何を聞きたい?】
……何の話だ?
【交換条件だ。戦士メタタマ。君に寄生したギルドを差し出し給え。今の君がそうであるように、それはゲームバランスを崩しかねない存在でね。私たちはずっとそれを追っている。まぁ職務だ。つまらない仕事さ。何しろギルドは滅びない】
……俺を追い込んでウッディを剥がし取るつもりだったのか。何故わざわざそれを俺に言う?
【ギルドの力に頼ることはルール違反ではないからな。そして君は。戦士メタタマ。君は最高指揮官が興味を抱いた数少ない人間だ。泳がせてみるのも手だと考えている】
そうかい。悪いが断るよ。ウッディは意外と気のいいヤツでな。
【そうか。それもまたいいだろう。だがヒューマンめ。ならば言っておく。αテスターとギルドは共に歩めない。ジャムジェムかウッディか。いずれかを君は選ぶことになる】
嫌だね。俺は異常個体だ。自由にやらせて貰う。レ氏。あんたの指図には従わねえよ。
クソ運営は巨体を揺すって笑った。
【その時が来れば自ずと分かる。その気になったら公式サイトに要望を送るといい。ただし態度には気を付け給えよ? この私の提案を君は一度断ったのだからな。ヒューマンめ。身の程を知れ】
いちいちディスらないと気が済まねえのかよ。
くそっ、挑発しようと思ってたのに逆に挑発された。殴りたい。俺は煽り耐性が低いんだ。どうしてくれる。よし、殴ろう。
俺は【あー】と【うー】とも付かない奇声を発して槍を振り上げた。死ねぇ……。あっさりカウンターを取られて殺されるかと思ったのだが、ョ%レ氏は大きく後方に跳ねて俺の一撃を躱した。おや? おやおや? この槍……。なるほどな。よし、この槍をロンギヌスと名付けよう。俺は槍の穂先をベロリと舌で舐め上げた。
【素晴らしい槍だな。この鍛え上げた俺の身体をいともカンタンに貫くとは】
サトゥ氏が小さくうめき声を上げた。
【おい、大丈夫か。コルド大王みたいになってるぞ】
大丈夫ではなかった。
俺のロンギヌスが木っ端微塵に砕けた。
……ええ?
見れば、少し離れたところで麦わら帽を被った女が珊瑚の花に腰掛けていた。
モョ%モ氏だ。
俺のロンギヌスを木っ端微塵にした金属片を指の動きで遠隔操作して手元に戻す。結集した金属片が大剣を構築した。
【律理の羽】を傍らに浮かべた%女が言う。
「ョレ。何をしている」
静かな声だった。海面を見つめる瞳の色は燃えるような赤。
ョ%レ氏は同僚の身体を心配した。
【モョモ。無理はしないことだ。いかな君といえど、会長の戒律を肩代わりすれば無事では済むまい。残念だよ。実にね。この私にとり……君は良きライバルだったが、大きなハンデを背負ったな】
モョ%モ氏が大剣の柄を握った。迸った稲妻が刀身を舐めるように走る。
「大伽藍を使ったのか。プレイヤーに。彼らを本気でロストさせるつもりだったのか。君は……このゲームの運営ディレクターなのだぞ」
%同士の会話は、真意を問い質すまでもなく答えを導き出せる能力を持つがゆえに、向かい合った武人が鯉口を切る作業と似ていた。
ョ%レ氏が触手を大きく広げて高らかに笑う。これほど愉快なことは他にないとばかりに。
【このョ%レ氏が勝負から逃げただと? 言ってくれたじゃないか。そうじゃないぞ。モョモ。その性格だ。私はね、君はいつかヘマをすると思っていたよ】
モョ%モ氏の服を突き破って触手が伸びる。変身の前兆だ。
変身をする前にモョ%モ氏はちらりとこちらを見た。瞳の色が一瞬だけ悲しげに揺れる。
「いつぞやはすまなかったな。私は父のようにはなるまいと思っていたのに……。だから……。ゴメンね、メタタマ。ジャムジェムさんにも謝っておいてくれると嬉しい」
そう言ってモョ%モ氏はトレードマークの麦わら帽を投げ捨てた。
急激に膨張した肉体が、その身に纏う涼しげな装いを内側から引き千切る。きっと全裸になった瞬間もあった筈だ。それなのに、つ、と俺の視界を横切った麦わら帽が決定的な瞬間を覆い隠してしまった。小賢しい真似を。
アナウンスが走る。
【警告!】
【レイド級ボスモンスター出現!】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【♯%】【モョモ】【Level-4526】
レベル4526? ョ%レ氏より300近く低い。ョ%レ氏の言うハンデってやつか。レベルがダウンしてる?
完全変身したモョ%モ氏を見るのは初めてだが、暫定エイリアンの外見に男女で差異はないようだ。心なし可愛く見えるのは俺の贔屓目だろう。ちゃんと謝ってくれたからな。
モョ%モ氏が分離、巨大化した【律理の羽】を水平に突き出して構える。
ョ%レ氏が海面を割るようにかつての同級生に迫る。近況報告を交えながら。
【モョモ。つい先日の出来事なのだが、久方ぶりにレベルが上がってね。やはり最高指揮官の経験値は桁が違うな。堪能したよ】
モョ%モ氏も前に出る。舌鋒も鋭く切り返した。
【それは良かった。正直、律理の羽を持ち出すのは少々アンフェアじゃないかと心配していたのだよ。ョレ。君は公平なのが好きなんだろ? 手加減しなくちゃいけないのかと、ずっと悩んでいたのさ】
天地を結んだ雷が四方八方に飛び散りモョ%モ氏を追い抜いていく。通常の海水とは組成が異なるのか、退屈しのぎに海水を掛け合ってきゃっきゃしている俺とサトゥ氏が感電することはなかった。
ョ%レ氏のタコ足が鋭く海面すれすれを走る。吸盤に張り付いたマールマールの魔石が一斉に孵化した。魔石を食い破って産まれたモグラさんの群れが雄叫びを上げてモョ%モ氏に迫る。およそ半数のモグラさんは電撃を浴びて魔石に還元されたが、残る半数のモグラさんはモョ%モ氏の巨体に取り付いて牙を突き立てていく。
モョ%モ氏は構わずに後退したョ%レ氏を追う。ョ%レ氏が曲芸じみた動きで水面を跳ねる。タコ足の遠心力を用いて踊るように側転した。モョ%モ氏の斬撃。稲妻を帯びた【律理の羽】がョ%レ氏のタコ足を一本断ち切った。ョ%レ氏があえて切らせたのか、それともモョ%モ氏の剣技が上回ったのか判別が付かなかった。
ただ、結果としてョ%レ氏がこの場で手にしうる最高品質の魔石を手札に加えたことは確かだ。
二人の%が咆哮を上げる。
ョ%レ氏がタコ足を振り上げてブースターを生成した。その数、実に48。
モョ%モ氏がタコ足を突き出して大剣を複製した。その数、実に45。
両者を隔てるように電撃が走る。一斉に打ち出された【律理の羽】が複雑な軌道を描いてランダムオブジェクトを捉え貫通した。轟音と共に水しぶきが散った。二人の姿が忽然と消失していた。
サトゥ氏が弾けるように空を仰ぎ適当なことを言う。
「空だ!」
でも当たっていた。
超加速したョ%レ氏がモョ%モ氏を蹴り上げたようだ。まったく見えなかった。ブースター使用時のョ%レ氏の動きは目で追うとかそういう次元にはない。俺たちとは別次元の交錯があったらしく、いつの間にか切り飛ばされたョ%レ氏のタコ足が宙を舞っている。
逆にモョ%モ氏のタコ足は増えていた。いや、電撃でタコ足を再現しているらしい。まったく意味が分からないが、モョ%モ氏の固有スキルは宇宙の成り立ちの根源に近い。
身体をくの字に曲げたモョ%モ氏が青い血を撒き散らしながら複製したタコ足に一本ずつ大剣を再構築する。
大半のブースターを失ったョ%レ氏は追撃を仕掛けることができなかった。苦しげにタコ足を屈して海面にうずくまる。
空中でビタッと静止したモョ%モ氏が身体を大きくひねる。一際強く放たれた雷光が大剣を伝い、まばゆく輝く刀身の輪郭を描く。そして何かを呼ぶように叫んだ。
【Spit-Durk! 力を!】
アナウンスが走る。
【限界突破!】
ョ%レ氏がチッと舌打ちした。尽きせぬ怨嗟の念を押し出すように低く呟く。
【Naive-Restore。これで終わりだ……】
【限界突破!】
二人の巨体から禍々しい光が立ち昇る。
ハイハイ。盛り上がってるところゴメンなさいね。俺はョ%レ氏にパーティー申請を飛ばした。もちろん無言申請だ。
悪いナ、モョ%モ氏。そのタコ野郎は俺らの獲物なんだワ。
決闘申請。ョ%レ氏は受諾した。なんか嫌そうにしてたからな。今なら断られないと思ったぜ。ヤツは当然のこと俺たちの企みを看破している。だから申請を受諾した。
俺とサトゥ氏はモョ%モ氏にバイバイと手を振った。前座ご苦労。じゃ。
俺とサトゥ氏はメニューを操作してトレーニングモードを起動した。
俺とパーティーを組んでるタコ野郎も一緒に連れていくことになる。
2.黒い星-ポポロンの森
粗大ゴミどもが殴り合いをしている。
ちょいとばかり待たせちまったからな。口論から殴り合いに発展したのだろう。
そう。コイツらはロストする直前にトレーニングモードを起動してしぶとく生き残っていたのだ。
妙だと思ったぜ。エンフレはお陀仏すると命の火を撒き散らして自壊するんだ。急に消滅したりしない。
そして、ここなら存分にやり合える。
お前ら楽しそうにしてンね?
俺は杭みたいな歯列を打ち鳴らして笑った。
【ゴミども〜。俺も混ぜろや】
これは、とあるVRMMOの物語。
運営ディレクターのョ%レ氏! ゴミ捨て場にようこそ! ゆっくりしていってね!
GunS Guilds Online




