広告合戦
1.スピンドック平原-6sTV局
なんだこれ。
整形チケットに釣られてのこのこと原っぱをうろついていると、世界観を無視した高層建築物を発見した。
こんなの、ちょっと前までなかったぞ……。
糸で繋がった整形チケットを巻き取って回収したネカマ六人衆が諸手を上げて俺を歓迎してくれた。
「毒舌MCゲットぉ!」
「6sTV局へようこそ!」
「ペタ氏は期待を裏切らないなぁ」
「簡単に引っ掛かるよね……」
「そんなにチケット欲しいのかな」
「言ってくれればあげるのに……。ていうか、あげてるし」
多いに越したことはねえだろ。
6sTV局だ? お前らがこれ建てたんか? いや、一夜城じゃあるまいし……。
……状態3か? お前ら、状態3のスマホで何か……。
「いや、そんなに察しがいいのになんでこんな簡単に釣られちゃうの?」
お前らは金銭感覚が麻痺してるんだよ。
課金アイテムはゴミの命よりも重い。実際にリアルマネーで100円やるからゴミを殺せと言われたら大抵のゴミはそんな簡単なことでいいのかと受諾するだろう。なんならターゲットのゴミに事情を話して自害して貰って山分けという手もある。その場合、少し強気に出て10回死ねば1000円貰えるのか依頼者と交渉することになるだろう。
俺はRMT業者の顔役を務めるスマイルの勧誘を蹴っているが、それはそれなのである。縛られるのがイヤなのであって、金くれるってんなら貰うさ。
スマイルと言えば六人衆の。お前らはRMT業者を嫌ってたよな。お前らが敵意を剥き出しにするのは珍しいと思ったんだ。聞きそびれちまったが、何かあったのか? 俺ぁ連中とちょっとした付き合いがあるからよー。何かあるなら聞いておきてえ。
おっと話は歩きながらでもできる。時間が惜しい。よく分からんが、俺に何か用があるんだろ? 行こうぜ。
俺は六人衆の肩にガッと腕を回して一緒に6sTV局とやらにずかずかと乗り込んでいく。
「ぐいぐい来る……」
「この人、俺らに興味ありすぎでしょ」
「すぐにくっ付いてくるし」
「貞操の危機を感じるよね……」
誰がホモだ。
で? どうなんだよ? お前らスマイルの旦那に匿われてたよな。ヤツとはドコまで行ったんだよ?
「ドコにも行ってないから!」
「ホモトーク禁止!」
「あのね、ペタ氏。これ言ったら何様だって思われるからあんまり言いたくないんだけど」
「そうそう。ここだけの話ね? 俺ら、リアルで金稼ぎはコンプリートしちゃった感あるのね」
「だよね。だからぁ、あいつらと一緒に居てもつまんないんだよ。ぶっちゃけRMTなんて大した稼ぎにならないでしょ」
おお、なるほどな。そりゃ確かによそじゃ言わんほうがいいな。お前ら意外と頭いいのか。
「意外と頭いいってナニ!?」
賢いふりしてんじゃねえよ〜。俺は六人衆にデコピンを浴びせてやった。デコピンっ、デコピンっ。
くっちゃべってる内にスタジオに着いた。バラエティ番組の収録現場みたいな設備だ。
あん? 見慣れたゴミがタレントぶってそこら辺に座っている。
そういやMCがどうこうと言ってたな。
俺は一段高くなってるステージによっこらせと登った。立ったまま肘を置くには丁度良さそうな高さの台に乗ってる指揮棒みたいなのを手に取る。指揮棒の先端には人差し指を伸ばした形の手を模したスポンジがくっ付いていた。
俺は指揮棒でモッニカ女史を指差し、
「さあ、ここで問題です。お前らは雁首揃えてこんなトコで何してるんですか?」
「一番何も分かってなさそうな司会者が来ましたわ!?」
ダンと台を叩いて絶叫したモッニカ女史だが、律儀に説明してくれた。
なんでもスキル投票に向けて、生放送で徹底討論することなったらしい。
参加メンバーは【敗残兵】と【目抜き梟】合同だ。タレントぶった幹部連中がひな壇芸人みたいになっていて、平メンバーが観客になって賑やかしを担当している。
で、俺が司会者と。
いや、なんでだよ。俺は関係ねぇ〜だろ。お前らで勝手にやれよ。俺は台に両肘を置いて指揮棒でぴこぴことサトゥ氏を指差した。
おい、そこの廃人。俺ぁ新規ユーザー様だぞ。その俺がなんでお前の面倒を見てやらにゃならんのだ。立場が逆だろ。お前らが俺の面倒を見ろよ。
「ンなこと言っても仕方ないだろ。ヤマダシリーズの結束力は侮れないんだよ。ヤマダさんを放っておくとマジで新スキルを持ってかれそうで怖い」
ヤマダさんというのはお犬様のキャラネだ。
お犬様に新スキルを持ってかれそうだからって何で俺よ? 答えになってねーし。第一、イキナリ司会者やれって言われても困るぜ。これリハか? 違うだろ。揃いも揃っておめかししやがって。俺ぁ着の身着のままだってのによ。よりによって本日のメタタマさんはド派手な柄シャツだよ。ダラけたチノパンにサンダル履きだ。なんかジャラジャラしたチェーン首に巻いてっしよぉ。こりゃひでえ。どこのチンピラだよっつー。これから渋谷にでも繰り出して怖いお兄さんに絡まれにでも行くんですかァ? いいえ違います。チャッピーの散歩中です。
「ミダシナミー!」
おぉ、よしよし。お前だけだよ。俺の味方は。家に居っとジャムジェムさんに何されるか分かったモンじゃねーしよぉ。先生が機転を利かしてくれて俺がまたぞろロスト食らったのまだバレてないっぽいけど、どう考えても時間の問題なんだよなぁ〜。
チャッピー健在である。俺たちは無事にポポロンをやっつけたが、コラボ期間はまだ終わっていない。よってスキル投票に関しても今のところクソ運営側に動きはない。
おや、ADの真似事をしているモブ廃人が手振りで何かを伝えようとしている。
あっ、本番? 本番始まるの? マジかよ。くそがっ、四の五の言ってる場合じゃねえ。だったらせめてアシ寄越せよ! お犬様がいい〜! お犬様がいいの〜!
俺はこの場に居ないお犬様をアシスタントに付けるよう要求して駄々をこねた。
スタジオに設置されているメインモニターがパッと点灯した。
むむっ。お犬様だ。お犬様が利発そうなメイトちゃんを抱きかかえてモニターの中で演説をしている。新スキルにムキダシ召喚を強力プッシュなされているご様子。俺は駄々をこねるのをやめて拝聴した。
演説、終了。
要点をまとめると、お犬様は種族人間の戦力向上を危険視しているようだ。自爆技の【重撃連打】に加え、エッダの【八ツ墓】。一時は停滞していた種族人間はここしばらく駆け足で立て続けに新スキルを解放してきた。今は既存スキルの地盤を固める時期。うかつな戦力向上は致命傷になりかねないと仰る。
またムキダシ召喚はコラボ期間限定のスキルであり、この機を逃せば二度と手に入らない公算が高いことにも触れ、種族人間のレア欲を巧みに刺激なされた。
あと経緯は不明だがお犬様の後ろでジョンが知らない女に襲われていた。黒髪の女だ。背はあまり高くない。ゴツい槍を手にしている。槍と言うよりは矛に近い。女は舌打ちし、
「お前、人間なんだよな……?」
ジョンは答えずにすり足でにじり寄る。背筋に一本芯が入ったような立ち姿。高い集中状態にある。
その集中が……。
女の表情に怯えを見た瞬間に綻んだ。
ジョンの片腕が跳ね飛ばされた。矛を振った女にしても意外な結果だったらしい。呆気に取られ、すぐに怒りの形相を浮かべる。
「なぜ気を緩めた!」
ジョンは答えなかった。何を言っても言い訳にしかならないからだろう。
……黒髪の女は、どこかジュエルキュリと似ていた。
「ジョーン!」
お犬様が壁の竹刀を掴み取って黒髪の女と対峙する。
そこでモニターの映像が途絶えた。
えーと……。
素晴らしい演説でしたね。
俺はカメラに向かってぺらぺらと口を回した。
お犬様はお優しいのでハッキリとは言いませんでしたが、つまりお前らはザコなのでレイド級のクソ強力なスキルを使いこなせないし足の引っ張り合いが白熱するだけだろってコトですね。
正直ぐうの音も出ませんねぇ。
特に……マールマールの【四ツ落下】でしたか? 蘇生潰しの。あれはどうなんでしょうねぇ。リリララさん。あなたはどう思います? リリララさんは国内サーバー屈指の魔法使いですから。もちろん手札が増えるのは喜ばしいことなんでしょうが、それ以上に危機感を覚えているのでは?
「バンシーちゃん、バンシーちゃん。私ね、バンシーちゃんのカレシさんと会いたいなっ」
カットー!
おいおい、イキナリ放送事故かよ。勘弁してくれよ。誰だよ、この天然さん呼んだの。上の許可取ってんの?
俺のカレシってウッディのことか? いやカレシじゃねーよ。ベムトロン、ああ【狙撃兵】のことだ。アイツに押し付けられたんだよ。俺は嘘を吐いた。公衆の面前で服を剥ぎ取ったの恨みに思ってるらしくてなぁ〜。これは本当。虚実を織り交ぜて煙に巻く。よくある手口だ。
ウッディに会いたいって? また後でな。これ生放送だから。カットしたくてもできないのね。尺も限られてっし。俺としてもツライところよ。分かってくれる? モッニカさん、そこの天然さんの管理をお願いね。俺の手には負えないから。
でも〜……あえて行く! よう、リリララ。お前はどのスキル推しなんだよ?
「ウッディって言うんだ〜。色々大変だろうけど負けちゃダメだよっ」
サンキュー。
リリララはこう言ってるけど、モッニカはどう思う? 別メン推し?
「私たちは【心身燃焼】の段階解放を推薦致しますわ」
へえ。そりゃまたなんで? 正直意外だね。お前ら【目抜き梟】のクランメンバーは魔法使いが多いよな。攻撃魔法じゃなくていいのか?
「VTRをご用意致しましたわ。皆様でご覧になって?」
スタッフー。こう言ってるけど、Vあるの? ある。なるほど。打ち合わせとか全然やってねーから分かんねんだけど、V流してる余裕あるの? 無理なら俺が口割らせるけど、どうする? V流せる。OK。
メインモニターがパッと点灯した。
ハッ。おコアラ様。おコアラ様がインタビュー形式でVTRに出演なさっている。
なんのツテがあっておコアラ様が【目抜き梟】の味方を……。いや、そうか。メルメルメだ。今は【目抜き梟】に身を寄せているが、あの野郎は元検証チームのリーダー。おコアラ様とは浅からぬ付き合いがある。
ワッフルの着ぐるみをかぶったおコアラ様がVTRで【心身燃焼】の段階解放を強力プッシュなされている。
さらっとVTRとか流してるけど、これスゲーな。どうやら状態3のスマホは課金アイテムのバリエーションが増えるらしい。言ってみれば課金の2nd.ステージ解放ってトコか。あこぎな商売しやがる。
さて、おコアラ様の主張はこうだ。
種族人間はちょっと本気を出したポポロンを打ち倒し【全身強打】の三段階目を解放した。しかしワッフルに関してはそのような奇跡は期待できない。
ワッフルは最強のレイド級だ。まともに戦っても勝ち目はない。
とはいえ、【心身燃焼】段階解放の恩恵は計り知れない。今や種族人間にはロスト覚悟のエンフレ大量投下という奥の手がある。【心身燃焼】の三段階目を解放できればロスト被害を抑えられるかもしれない。
つまり回復手段を充実させることで実質的には複数の新スキルを手に入れるに等しい。
そこでインタビューは意外な方向に進んだ。
おコアラ様に質問をしていた女キャラが室内の内装に興味を抱いたのである。
とても素敵なお部屋ですね、と。
おコアラ様の部屋は、ガラスで仕切られた動物園の一室のようだった。森の一部を切り取って箱の中に詰めたような部屋である。
おコアラ様は木の幹をカリリと爪で引っ掻き、
「分かるかね?」
おコアラ様は少し嬉しそうに部屋トークを始めた。
トークも佳境というところで、ふとおコアラ様が顔を上げる。
「誰だ?」
木の幹から、ひょっこりと知らない女が顔を出した。青髪の女だ。ニコリと笑って、ダッと地を蹴っておコアラ様に急迫する。
おコアラ様が木から木へと飛び移る。二度目の跳躍で女の背後を取り、剣を抜いた。くるりと振り返った女とおコアラ様が交錯する。
腕に裂傷を負ったおコアラ様が振り返る。
「君は……」
そこでVTRは途切れた。
俺はコホンと咳払いした。
ワッフルには勝てない。実に為になるお話でしたねぇ。
これは、とあるVRMMOの物語。
各地で何かが起きているようだ。
GunS Guilds Online




