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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
293/983

GunS Guilds Online!


 1.チュートリアル空間


 翌日。

 うおぉーし! 俺は自分の頬をバンバンと叩いて気合を入れ直した。昨日はうっかり宴会モードに突入しちまったからな。今日はがんばって遅れを取り戻すのだ。

 エンフレ大量投下するのが一番早そうだが……。

 母体の力には頼れない。

 俺というキャラクターはまだ何者でもなく、それゆえに母体は揺りかごの中で微睡むばかり。……本当にそうだろうかという疑いはあるが……ここはサトゥ氏に判断を委ねたい。

 そう、サトゥ氏やリチェットといった大量ロスト事件の生き残りは母体を引きずり出せる。いや、リチェットに関しては怪しいか。

 プレイヤーに備わるエンドフレームへの換装は本来バトルフェーズ専用であり、それを通常マップに適用するには異常個体の資質を要する。つまりエンドフレームのマニュアル操作が前提となるというのが検証チームの見立てだ。

 豊かな才能と人間として真っ当な気質を持つリチェットは異常個体とは対極の存在だろう。良く言えば駒に徹しきれる、悪く言えば他人の意見に流されやすい。

 バトルフェーズの指揮を執るのは暫定エイリアンどもなので、プレイヤーは良質な兵であることを求められる。

 命令を聞かない、勝手なことをやり始める異常個体は多分別の役割を与えられるのだろう。例えば電池とかな。

 

 サトゥ氏は母体の力に頼ることを避けている。それは何故かと言えば、ロストするからだ。

 大量ロスト事件で大半のゴミどもは無駄死にした。残機を全弾発射するエンドフレームは効率が悪すぎる。何かあるたびにいちいちロストしていては、いつまで経ってもザコはザコのままだ。そして三次職以降のクラスチェンジにはレベルも絡むから、ちょっとしたことで完全変身してエネルギーが垂れ流しになるゴミどもに封印を施してやれるゴミの供給が追い付かなくなる。

 数は力だ。

 高レベルのプレイヤーが減れば四次職、五次職の発見は遅くなる。

 最悪、俺たちは諸外国から攻めてきたディープロウとペールロウの集団に無策で挑む羽目になる。

 レベルとは財産だ。

 躍起になってアビリティガチャしたところで、レベルが低ければ意味がない。サトゥ氏やセブンのようなAクラスのアビリティなら話は別なんだろうが……。もしも不特定多数のゴミどもが認識阻害を使えるような状況になったら俺たちは邪魔なゴミを殺すことすらできなくなる。

 何事も程々が一番ってことだな。


 ではサトゥ氏の様子を見てみよう。


「もるぁー!」


 ……おう。あれから不眠不休で戦ってやがるのか。そういうのはヤメロって言ってんのに。俺はドン引きした。

 リチェットがふらふらしてる。


「お風呂入りたいもる……」


 いや、むしろ入れよ。ばっちぃな。

 サトゥ氏がイラッとした。リチェットともるもる言い争いを始める。


「これだから女はダメもる! 意識が低いもるよ!」

「何をー!?もるっ。いつも言ってることと違うもる! 女が居たほうが間口が広がるから助かるとか言ってるのにもる!」

「時と場合によるもるよ! どうしてもと言うなら血圧計くっ付けたまま風呂入ってこいもる!」

「言われなくともそうするもる!」


 もるもるうるせーな。

 俺は二人に割って入った。

 やめろやめろ。このゲームにクランの人数制限なんざねーんだ。リチェット。お前の存在はデカいよ。わざわざ女人禁制にする意味はない。あと風呂には入りなさい。脂ぎった女はお呼びじゃねーよ。


「あ、脂ぎってないもる!」


 ハイハイ。いいから行ってきなさい。メガロッパ。お前もだぞ。


「私はもう済ませたもるよ」

「なっ……!もるっ。な、なに色気付いてるもる!?」


 リチェットが宰相ちゃんに食って掛かる。俺は割って入った。

 やめろやめろ。メガロッパは要領いいんだよ。前からそうだろ。今更なに言ってんだ。

 おい、セブン。死んでんじゃねえ。お前がバランス取れよ。こと集団戦に限ってはサトゥ氏とリチェットは似たモン同士だ。集中するとすぐに口出ししにくい雰囲気を作りやがる。お前くらいだろ。この二人をコントロールできるのは。

 命の火を燃やして立ち上がったセミ野郎が俺の首元にぴたりとナイフを突き付けてきた。


「ザコは黙ってろもる。ウチのことに偉そうに口出しするんじゃねえよもる」


 もるもるうるせーな。

 ふらふらしてるじゃねーか。休憩取れって言ってんだろ。モニターの前でマウスをポチってた頃とは違うんだよ。もっと身体を大切にしやがれ。俺を見習え。風呂、メシ、睡眠バッチリで完全リフレッシュだぜ。

 しかもスマホをいじってポポロンが弱ってきた頃合を見計らって戦線に復帰したからオイシイどこ取りできるっつー寸法よ。

 俺と同じことを考えたゴミは多いらしく、続々とゴミどもがチュートリアル空間に復帰してくる。

 俺はそこら辺に転がってた斧を拾い上げて肩に担いだ。ポポロンを指差して傲然と告げる。


「廃人を相手によく粘ったようだが……。年貢の納め時だな。もうお前に勝ち目はねえよ。大人しくスキルを差し出しな」


「ミダシナミー!」


 遠巻きに見守るムキダシメイトたちが勝利を目前とした俺たちに勇気を与えてくれる。

 この戦いが終われば……コイツらともお別れか。へっ、ちょっと寂しいぜ。

 だが、勝利宣言するには少しばかり早かったらしい。

 ポポロンの外皮がボコボコと泡立ち、一本、二本と触手が生えていく。

 俺はキョドッた。や、約束が違うじゃねーか……。こ、コイツ、ネトゲーマーの習性を把握してやがる。奥の手を、温存してやがったのか……。


 ポポロンの触手が35本揃った。

 変化は劇的だった。

 戸愚呂弟と一緒だ。数値の上ではたったの20%の違いでも全力を出すのとそうでないのは大きな隔たりがある。

 ポポロンの核にトゲが生えて触手に芯が通る。核に生えた眼球は健在だ。びくびくと蠕動した触手が絡み合って手足を形成した。変化は止まらない。

 オシャレな雨ガッパのようなパーツが形成され、胴体から伸びる。見覚えのあるフォルムだった。

 ……ペペロンの兄貴……。

 ポポロン。お前は一体……。

 俺は斧を構えた。身体に隈なく緊張を命じて叫ぶ。


「き、貴様は一体何なんだよ……!?」


 ゆっくりと踏み出した巨人が手のひらをこちらに向ける。

 手のひらから生えた無数の細い触手が俺を串刺しにした。俺は吠えた。命の火を激しく燃やし、跳ね上げた斧で身体に刺さった触手を断ち切る。細くなったぶん強度は落ちているようだった。何の慰めにもならないが……。


 アナウンスが走る。


【GunS Guilds Online】


【Photo-Rotonは深い眠りから目を覚ました……】

【赤い部屋】

【ゲームは終わってなどいなかった。そう悟る】

【足元をひしめく忌まわしき虫けらを駆逐せねばならない……。戦いに彩られた戦士の記憶が、血塗られし使命を疑うことを許さない】

 


 2.決戦


 余計なことを考えている暇はない。

 ポポロンの核は胸の上に収まっている。ウルトラマンで言うところのカラータイマーの位置だ。それに関しても嫌な符号を感じたが、無理やり思考を中断して頭を切り替える。

 やはり気の所為ではなかった。外皮が薄くなっている。ここまで来たら断言してもいいだろう。ポポロンの弱点はどくどくと脈打っている核だ。

 巨人が動く。両手を軽く持ち上げ、手のひらから無数の細い触手を放ってくる。回避できる性質の攻撃じゃない。串刺しにされたゴミどもが罪人のように巨人の歩みに引きずられる。サトゥ氏が叫んだ。


「Dotダメージだ! 自力で脱出できないプレイヤーを救出しろ!」


 ポポロンがわずかに口を開けた。口の先に小さなブラックホールみたいなのが形成されていく。

 見るからにヤバそうなアレだ。

 おコアラ様は……【全身強打】というスキルの本質が【戒律】の腐敗なのだと言った。それは体制の崩壊によるものなのだと。

 ……俺は目に力を込めた。

 俺をチラリと見たポポロンが、ふうとブラックホールみたいなのを呼気で押し出す。複雑な紋様が円環状に浮かび上がってブラックホールを取り囲む。前進速度がとても遅い。のろのろとこちらへ飛んでくる。嫌な予感しかしねえ……。

 サトゥ氏がギョッとして俺を見る。


「コタタマ氏!?」

 

 うるせえ。俺しか居ねえだろ。種族人間ってのは賢いふりをしちゃいるが実はアホなんだ。効果は分かんねえけどヤバそうだから避けろなんて言って全員が従う訳ねえ。

 ……ウッディ。ぼ、防御頼む。お前、不滅の存在なんだよな?


(……そう、らしいな。実感は……ないが)


 頼もしい返事だ。

 俺は奇声を上げて黒い球に突進した。斧を叩き付ける。


 俺はロストした。


 まぁそんなこったろうと思ったぜ。

 シュバババッとキャラクリを済ませてチュートリアル空間に戻る。ウッディを頭の上に乗せて、あらん限りの声で叫ぶ。


「黒いのはキャラクターロスト攻撃だ! ジャム! ジャム! 居るか!? お前は戻れ! 戦うな!」


 俺は目に力を込めた。ジャムジェムの姿を探して叫ぶ。


「ジャムジェム! どこだ!? まさか、もう……。ジャムジェムぅー! 返事をしろぉー!」


 ジャムジェム。アイツだけは取り返しが付かない。アイツにとってキャラクターロストは死そのものだ。

 キャラクターを構成する【戒律】を崩壊させる黒い球。あれがあるから、αテスターはポポロンの森に近付けなかった。だからスピンドック平原に家を建てるしかなかった。俺らはバカだ。虎の尾を踏んづけちまった。新スキルが何だってんだ! ジャムジェム……! 俺は……。俺は……!


「コタタマ!」


 ポチョ! ジャムジェムは!


「先生が帰したよ!」


 ああ、そう。ですよね。もしかして俺は無駄死にでしたかね?

 スズキが俺に抱きついてくる。


「ばか! 無茶ばっかりして!」


 俺は強がった。ふん、あんなノロい攻撃、誰も食らっちゃくれねえだろ。それじゃあんまりだからな。ポポロンに華を持たせてやったのさ。

 俺は手の震えを隠した。……どんなにノロい攻撃だろうが、当てる方法は幾らでもある。やはり俺は間違ってなかった。

 サトゥ氏は呆然としている。


「ロスト攻撃……? そんなことが、できるヤツを……どうして。レ氏は、野放しにしてるんだ……?」


 前代未聞の特殊攻撃だ。サトゥ氏は強い衝撃を受けているようだった。

 俺はサトゥ氏の肩を強く揺さぶった。

 しっかりしろ! ポポロンの述懐を見たろ! ヤツはもう使徒じゃない! 俺たちを【ギルド】と見なしてる! 異常個体……アイツが【クランマスター】だ!

 サトゥ氏は激しく動揺している。小さくかぶりを振り、


「む、無理だ。あんなのと戦えなんて言えない。他にどんな手札を持ってるか分からない。撤退するしか、ない……」


 俺はサトゥ氏の胸ぐらを掴んで乱暴に揺さぶった。


「俺たちを見くびるな! ロストが怖くてゲーマーが務まるモンかよ! 俺らは何も残らねえと分かってるモンを金出して買ってンだ!」


 サトゥ氏が俺の手を振り払った。


「お前とは違う! お前はッ、【狙撃兵】と組んだ! だからロストしても記憶が残った!」


 そうだ! だからヤバくなったら俺を盾にしろ!

 おっとハッスルする俺らに対してゴミどもがイヤに冷静だ。


「いや、あんなの当たんねーって」

「キミたち、どんだけ俺らを見下してんの……?」

「当たる前提で話を進めるのはやめて欲しい……」

「遠回しにバカにしてるの? ねえ?」


 俺はゴミどもが心配だった。

 随分と強気だが、コイツらはゴミ同士の足の引っ張り合いを計算に入れてない。

 敵がロスト攻撃を放ってくる。それは、つまり邪魔なゴミを永遠に葬り去るチャンスということに他ならない。こんな機会は二度と訪れないかもしれない。空前絶後のボーナスタイムであることを俺は熱弁せねばならなかった。

 サトゥ氏とゴミどもはドン引きしていた。


「マジか、コイツ……」


 イマイチうまく伝わらなかったようだ。

 いや、別に俺ならそうするって話じゃなくてだな……。そういう可能性があるってコトで……。ね、ネトゲーにあり得ないなんてことはあり得ないっていう……。

 しどろもどろに自己弁護する俺を放ったらかしにしてサトゥ氏は一人で勝手に立ち直った。ゴミどもに俺の拘束を命じて、暴れ回っているポポロンに剣先を突き付ける。


「ロスト攻撃に最大限の警戒を! うかつに飛び込むなよ! 無理に核を狙わなくともいい!」


 すうと大きく息を吸って叫ぶ。


「ポポロンを打倒する! 目標は弱っている! あと一息だ! 行くぞーッ!」


 うぇーいとゴミどもが鬨の声を上げる。

 手足を縛られて地べたに転がされた俺はジタバタと暴れて怨嗟の声を上げる。


「分かってるんだぜ……? お前らに団結の二字はねえ。すぐに分かるさ。俺の言ってることが正しかったとな。さて、真っ先にロストするのはどいつかな? 楽しみだ。くくくっ……」


 だが、ゴミどもはしぶとかった。

 俺の思い通りにはならないとばかりに声を掛け合ってロスト攻撃を警戒、危なげなく回避していく。

 おいおい、意地を張るなよ。俺に言われたことを気にしてるのかい? ああ、そうだな。先に言われちまったら、そりゃあ遣りにくくもなるか。こいつは俺のミスだ。申し訳ないことをした。くくくっ……。

 だが、例えばの話だが……。うっかり手が滑るってことはあるよな? そう、事故だ。事故なら仕方ねえ。心優しい俺は理解を示してやれると思う……。どうだ? 悪い条件じゃねえだろ?

 俺はベロリと舌舐めずりした。目に力を込めて機を窺う。どうしてもって言うなら、この俺が手を貸してやるさァ……。

 俺は目隠しされた。あっ、何する! 誰だ! 邪魔するな!


「コタタマ」


 ハッ。この声は先生。先生なんですね? 先生っ、ゴミどもが俺にあらぬ罪を着せようと……!

 先生はそっと俺を抱き寄せた。


「ご覧。プレイヤーたちが一つの目的に向かって団結しているよ。コタタマ。君が成し遂げたんだ。誰よりも弱い君だからこそ、君の言葉に人は無自覚に抱えた己の闇を見る。君とは違うのだと証明するために戦える」


 ……はい。ひと芝居打った甲斐がありましたね。俺は心にもないことを口にした。

 先生の声はひどく優しく俺の胸を打つ。


「だが、私は諦めないぞ。ネフィリアの思い通りにはさせない。いつの日か……。きっと君を、彼女の呪縛から解放してみせる」


 俺はニコッと笑った。

 それは今すぐでも構わないんでしょう?

 少し間が空いた。

 先生はコクリと頷き、


「うん……」


 と、言った。

 俺は目隠しされたまま、ポポロンの断末魔の叫びを聞いた。

 地響きを立てて、ゆっくりと巨人が倒れていく。


 かくして復刻版チュートリアルは終結した……。


【Misson-Clear!】

【チュートリアル】

【スキル-全身強打の解放】

【達成条件:Photo-Rotonの討伐】


【戦績発表】

【早期討伐:評価C】

【完全体討伐:評価B+】


【ムキダシメイトたちが喜んでいます!】

【攻略ボーナス:+1】


【総合評価……】

【B】


【おめでとうございます!】

【スキル-全身強打の3rd.ステージが解放されました!】


 俺たちはサトゥ氏を公開処刑した。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 最高評価じゃなかったので、ひとまず責任者を処刑していくスタイル。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
クソおもろい。なぜこうも邪悪一直線なのか
[一言] 実際整形した上で実行に移せば顔バレしない溜飲下がる相手は恨みの記憶ごとロストする、で一石三鳥なんだよな 見咎めた第三者にやり返されるリスクがあるくらいで 触手刺したままロスト砲直打ちしたり…
[一言] ほんとコタタマ君さぁ……
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