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86話 獣神決闘 道中

 鏑木君達が帰ってこないまま獣神決闘当日を向かえた私達。


「では行きましょうか」


 レーシャの言葉にレーシャと私は三台準備されている馬車のうちの一台に乗り込む。

 これから向かうのは、獣人連合とラズブリッタが隣接している国境沿いにあるミゲル平原という場所だ。


 ミゲル平原……そこで、獣人連合との獣神決闘が行われる……昨日はリーディさんに言われて、夕食を食べた後にすぐ寝たから体調は万全だ……けれど実力は……


 この獣神決闘に参加するのは第一騎士団長兼騎士団総隊長のジェルドさん、第二騎士団長のリーディさん、あとは鏑木君達の代わりに私と、他に実力のある騎士さんが二人。


 他の騎士団長さん達は、他国が攻めてくるかもしれないという事で残るという事らしい。


「ユカ、最初からそんな不安そうな顔をしていては最後まで持ちませんよ」

「ごめんなさい……ちょっとこれからの獣神決闘の事を考えると緊張と……本音を言えばやっぱり不安があるわ。自分の実力不足のせいでね……」


 馬車での移動の際にレーシャがそう話しかけてくる。


 なぜレーシャが私達と一緒に獣神決闘が行われる場所に向かっているのかというと、王都から離れられない王様の代わりに、この国の代表として、また見届け人として同行してくれている。


 他の同行者は姫の警護としてこの馬車を囲むように第一、第二騎士団の騎士が十数名ほど守ってくれていた。


 この人数は少し多い気がするけど、これならよほどのモンスターが出てこない限りはきっと大丈夫ね。


「気持ちはわかりますけど、きっと大丈夫ですよ」


 安心させようと笑みを浮かべるレーシャに昨日のリーディさんの事が思い浮かぶ。

 昨日リーディさんとの別れ際に見せた彼女の笑顔もこんな感じだった。


 やっぱダメだなぁ……私……みんなに気遣いさせちゃってる。本当なら勇者召喚された私がみんなの希望にならなきゃいけないのに、逆に励まされちゃって……私ももっとしっかりしないと!


「そうね、レーシャが言うようにきっと大丈夫。この獣神決闘に勝ってみんなで笑って帰りましょう!」

「えぇ、それに彼等は絶対に来てくれる。だからまだ希望は残っています」


 彼等とは鏑木君達の事だろう。

 鏑木君達に思いを馳せるように話すレーシャの頬はどこか熱を帯びている。


「あの……こんな時に聞くのもなんなのだけど、レーシャは……その……鏑木君の事をどう思ってるの?」


 丁度いい機会だと思いレーシャに彼をどう思っているのか聞いてみる。

 今この馬車に乗っているのは私達だけだ。

 他の獣神決闘に参加するリーディさん。ジェルドさんと二人の騎士は残った二台に二名ずつ分かれており、今この場には私達しかいない。

 御者台にはこの馬車を運転している御者さんもいるが、さすがにこの場所での会話などは聞こえていないだろう。

 なので、レーシャに何気ない風を装って質問してみると、彼女は目に見えて動揺したように視線を彷徨わせている。


「どどどどう思ってるって何がですか?!」

「レーシャ動揺しすぎ……それだけで答えがわかっちゃうわよ」

「うぅ……」


 呆れたように彼女の動揺を指摘すると、顔を真っ赤にしながら顔をうつむける。


 本当に純朴というか……女の私でもかわいいと思えるわね……それにしても他の人がいる前で質問しなくて良かった。この反応を誰かに見られたら一発でレーシャがどう思っているか知られちゃうもの。


 でも……


「レーシャの気持ちはその反応を見て確信したけど……たぶん鏑木君は絶対にレーシャの好意に気付いていないわよ」

「バレたら恥ずかしくてイチヤさんとまともに顔を合わせられませんっ!」

「普通だったらバレてもおかしくないんだけどねぇ……」


 私が彼女の好意に気付いたのは、二人で一緒に鏑木君が住みついた牢屋に行った時だ。

 一緒に行く前に、なぜかそわそわしていたレーシャが気になって理由を聞いたが、今のような動揺した反応が返ってきた。

 最初はそれで済ませたのだが、牢屋についてしばらくすると何故か鏑木君に向ける視線に熱が篭っていて、まるで恋する乙女のような顔をして確信した。


 その他にもリアネさんと張り合ったりと嫉妬する素振りを見せたりとわかりやすい反応を見せてたんだけど、どうして鏑木君は気付かないのかしら?

 たぶん鏑木君以外の全員がレーシャの好意に気付いてる――あ、アルドルさんは微妙かな。

 そう考えると、女性陣が鋭いだけなのかしら。


 まぁ鏑木君に関しては仕方ないのかなって思う部分もあるのよね。

 これは私の予想だけど、召喚当初にレーシャをビッチ呼ばわりした過去があり、今は友人として接する事が出来ているけど、普通に考えれば一度暴言を吐かれた女の子が恋愛感情を持つなど考えないだろう。


 私がレーシャの立場であんな風に言われたらビンタの二、三発は覚悟してもらいたい。

 まったく……こんな子をビッチ呼ばわりなんて……なんか私の方が腹が立ってきた。

 今度鏑木君にあったらレーシャの代わりに私が一発かましてやろうかしら。


 とまぁ……その事は後で考えるとして……


「でも良いの? たぶん鏑木君が好きなのってリアネさんってメイドさんだと思うわよ?」

「たぶんそうでしょうね。お二方のやりとりを見てればそれはわかります。だけど良いんです」

「そう……」


 叶わぬ恋だってわかってるのに……本当にレーシャって健気――――


「最初は第二夫人でも……いずれイチヤさんの一番を勝ち取ってみせますわ」


 ……はい? この子は何を言っているのかしら? 第二夫人? いずれ一番を勝ち取る? 意味がわからない……


「レーシャが何を言っているのかわからないんだけど……」

「え? イチヤさんが好きなんだったらいずれ結婚の話になりますよね?」

「まぁ好き同士ならいずれ結婚はするでしょうね……」

「ですから最初は第二夫人でも良いと――――」

「ちょっと待って! 今考え中!」

「はい」


 私はそう言ってこめかみに人差し指を当てると、体を考える人と同じような格好にし、頭を整理する。


 確かに好き同士なんだったらいずれは結婚もする。

 でもそれは好き同士……つまりこの場合、例を挙げるなら鏑木君とリアネさんだ。

 私が見た感じ、言いたくはないけどレーシャに逆転の目は今のところないだろう。

 それでもレーシャ諦めない、それは本人の自由だし、出来れば応援したいと思っているが、それは恋愛においてまでだ。

 あの二人が結婚した後まで鏑木君に好意を示すのは不道徳すぎる……


 でもレーシャの言い方だと、仮に鏑木君達が結婚したとしてもアタックしようと思っているんでしょうね……第二夫人とかなんとか言っちゃってるし……


 ん? 待てよ……結婚……第二夫人……結婚……第二夫人……


「ねぇレーシャ、ひとつ聞きたいんだけど、この世界って一夫一妻制じゃないの?」

「イップイッサイセイ?」

「一夫一妻制もわからないのね……結婚において、一人の男性は一人の女性を生涯愛し続けるっていう制度の事よ」


 まぁ離婚とかもあるから一概には言えないんだけど、説明としては合ってるだろう。


「初めて聞きました。ユカの世界での結婚はそういうものなのですね」

「まぁ一夫多妻制の国もあるみたいだけど、それは少数ね。あ、一夫多妻っていうのは、一人の男性が複数の女性と婚姻関係を結ぶ制度の事よ」

「あ! それです! そのイップタサイセイというものがわが国……というかこの世界での結婚観です」


 どうりでさっきまで話が微妙にかみ合わないと思った……なるほど、この世界は一夫多妻が常識なのか……さすがは異世界というかなんというか……


「それならまだレーシャにも芽があるかな。鏑木君がこの世界に残るかどうかと、鏑木君の結婚観次第だけど……」

「そうですね……イチヤさん、この世界に残っては頂けないでしょうか……?」


 レーシャが憂いを帯びたような瞳で鏑木君の名を口にする。

 おそらく鏑木君がこの世界に残るのか……それとも日本に帰ってしまうのか考えているのだろう。


 ただそればっかりは私もよくわからない。

 鏑木君からは帰れる場合は帰っても良いし、帰れないんだったらこの世界を満喫するみたいな感じの事を聞いたけど……

 実際どう思っているのかしら?

 その時になってみないとなんとも言えないわね。


「私も鏑木君と知り合ってそんなに経ってないからはっきりとは言えないけど、鏑木君は帰れても帰れなくてもどっちでも良いと思ってるからあとはレーシャの頑張り次第かしら」

「私の頑張り次第?」


 正確にはレーシャとリアネさんの頑張り次第。だけどね。

 そこは応援する側として言わないでおいておこう。


「レーシャが鏑木君に強い影響力を持つくらいの存在になれば、きっとこの世界に残ってくれると思うわよ。後はこの世界を好きになってもらう必要もあるわね」

「そうなのですね……だったら私、頑張ります! 頑張ってイチヤさんに好かれるように努力します!」


 まずはその好意に気付いてもらえるように頑張らないとね。

 それにしても胸の前で手を握りながら意気込んでるレーシャって本当に可愛いわね……新たに何かが目覚めそう……っとといけない!

 せっかく出来た異世界の友人との仲に亀裂が入るような事はさけないと!

 いくら可愛くても同性よ! しっかりしなさい相模原結花!


 変な思考に入っちゃったけど、本当に応援してるから頑張んなさい、レーシャ。


 鏑木君の話をしつつ、心の中でレーシャの応援をしていたら馬車が止まった。


 どうやら目的地に到着したようだ。


 レーシャと話をしていたらなんだかんだで緊張がほぐれた。


「ありがとね。レーシャ」

「? どういたしまして?」


 不思議そうな顔をしている彼女に笑顔を向けた私は馬車を降りる。


 さて、いよいよ獣神決闘だ。

 どうなるかはわからないけど、全力を尽くそう! 絶対に時間は稼ぐから必ず間に合ってよね! 鏑木君!

ここまで読んでくださりありがとうございます。

次の更新は明日のAM10:00を予定しております。


ブクマ、評価、出来たらよろしくお願いします。



2月1日 誤字報告があり修正しました。ありがとうございます!

5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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