85話 決闘前日
急用が思ったより長引いてしまい更新遅くなりました。
今回は結花視点です。あと2、3話ほど結花視点が続きます。
鏑木君達がこの王都を旅立ってから瞬く間に日々が過ぎ、ついに獣人族との決闘前日となっていた……のだけど……
「イチヤ殿達が帰ってこん!」
玉座の間で声を大にして叫ぶ王様にだったが、私も同じように叫びたい。
なんで鏑木君達は決闘前日になっても帰ってきてないの!?
普通、決闘前日の前の日くらいに帰ってきて今日は体を休めるものじゃないの?
なんで帰ってこないのよ!
何かあったのか不安になるじゃない!
ここに集まっているのは、私、相模原結花とこの国の王様、姫様のレイシアことレーシャと騎士団長のジェルドさんの四人。
「向かったのはケーメアのダンジョンでしたわね……確かあのダンジョンは王国が管理しているとても危険なダンジョン……モンスターの強さもかなりのものだと聞いています。もしイチヤさん達の身に何かあったんだとしたら……」
沈痛な面持ちでそう語るレーシャに、周りの人間も不安そうな表情をしている。
っていうか鏑木君達ってそんな危ないところにレベル上げしに行ったの!?
確かに短い時間で強くなるには多少危険な場所に行くのは予想していたけど、レーシャの言い方だと本当に危険そうな場所みたいね……
もしも……もしも本当に鏑木君達に何かあったんだとしたら……
レーシャ達の話とその表情を見て、私まで不安になってきた。
「もし、イチヤ殿達が間に合わなかった場合は――」
「陛下! 不吉な事を言わないでください! 鏑木君達ならきっと大丈夫です! 彼なら絶対に間に合いますから」
それは王様にではなく、自分に言い聞かせる言葉……
鏑木君とはこの世界に来てから話す間柄になった。
最初は完璧に嫌われていたけど、何度も彼の下を訪れて最近になってようやくまともに話しをする仲にまでなった。
だから、彼の事をよく知っているかと聞かれれば、私はまだ彼をよく知っているとは答えられない。
それでも彼が間に合わないとは思えない。
絶対に彼なら間に合ってくれるはず、だってこの王都には鏑木君が大切に思っている人達がいるんだもの。
鏑木君がリアネさん達が不幸になるのがわかっていてこのまま来ないなんて事は絶対にない!
自分がその中に含まれないのは少し悔しいけどね……
「しかし……もし間に合わなかった場合は――」
「その時は私が出ます」
決意を秘めた目で王様を見ると、不安そうな顔をされるが、それでもここで引くわけにはいかない。
確かに私は鏑木君の実力と比べると圧倒的に弱い。
前に獣人族が襲撃して来た時も何も出来なかった……
今だって毎日リーディさんに特訓をしてもらっているけど……いや、特訓してもらっているからこそわかる……私は弱い。
それでも何かしたい。
せめて鏑木君達が間に合うくらいまでの時間は稼ぎたい。
「サガミハラ君の気持ちはわかった。もしもイチヤ殿達が来なかった場合は頼む」
良かった……断られるかもと思ったけど、どうやら大丈夫みたい。
もし鏑木君達が来なかった場合の補助要員は何名か選出しているとは聞いていた。
でもあの面子に比べたらどうあっても見劣りするだろう。
私だって同じだ。
レベルやステータス、戦闘経験に至るまで、全てにおいて鏑木君達には劣る。
これでも毎日リーディさんの特訓で扱かれてるのに、全然追いつく気配がない。
アルドルさん達なら仕方ないって思っちゃうんだけど、同じように転移してきた鏑木君にも追いつけないってどういう事よ。
まったくあのチート野郎……少しは追いつけるんだって思わせてほしいものね!
それから少し王様たちと話をして、私は玉座の間を後にした。
向かう先は騎士団の訓練場、最近の日課になっている特訓だ。
「おぉ、今日も来ましたか」
「はい! 今日もよろしくお願いします!」
私が騎士団の訓練場にやってくると、私が入ってきたのを見つけて、リーディさんが声をかけてきたので挨拶をする。
「それで、今日もですか?」
「もちろんです! お相手、お願いしてもよろしいですか?」
「大丈夫ですよ、それにしても結花さんも熱心ですね」
こうしてリーディさんが模擬戦をしてくれる事になった。
リーディさんはこうしてほぼ毎日渡しの模擬戦や特訓に付き合ってくれている。
彼女も明日の獣神決闘のメンバーであるにも関わらず、嫌な顔一つせずにだ。
その事に少し申し訳なくなる。
「なんかすみません……リーディさんも獣神決闘の特訓もあるのにこうして付き合ってもらっちゃって」
「? 獣神決闘の特訓なら結花さんとの模擬戦も十分それにあたりますが?」
「え?」
リーディさんの意外な言葉に私は驚く。
私との模擬戦がリーディさんの獣神決闘の特訓に当たるなんてそんな馬鹿な……
そう思ってリーディさんを見ると、冗談やお世辞じゃないというように私の目を見返してきた。
「確かに最初は他の勇者様達と同様、武器もまともに使えない女の子だなって思ってましたけど、それでもユカさんは他の子達よりも努力していたと思います。それにユカさんからは人一倍強くなろうって意思も感じます。確かに実力はまだまだですけど、あなたは確実に強くなっていっていますよ。そんなあなたとの模擬戦を時間の無駄だなんて思いません」
リーディさんのその言葉に私は目頭が熱くなるのを感じる。
模擬戦やる前から、この人反則だよ……そんな風に言われたら泣いちゃうに決まってるじゃない……
袖で目元を拭い、キッとリーディさんを睨み付けるように見つめる。
「いい目をしていますね。戦う準備が出来たという事でよろしいですか?」
「はい! 模擬戦の相手、よろしくお願いします!」
「わかりました。では始めましょうか!」
それを合図に、私とリーディさんはお互いに武器を構える。
「いきます!」
私は声と同時にリーディさんに向かって駆け出した。
▼
「はぁはぁ……もう一度お願いします!」
リーディさんと模擬戦を始めてから、何試合したのかわからないくらい、私は時間も忘れて挑み続けた。
それでもリーディさんに一度も膝をつかせる事が出来なかった……
本当にこの世界にいる人間は規格外過ぎる……勇者として召喚された私だけど、全然その称号に見合うだけの強さを手に入れられていない。
もう一度リーディさんと剣を交えたのだが、結局彼女に一本を取る事は出来なかった。
「も……もう一度……」
「ユカさん、今日はもう終わりにしましょう。これ以上は強くなる前に体を壊してしまいます」
「でも……」
「あなたはまだまだ強くなれます。これから少しずつ強くなっていけば良いではありませんか」
「それじゃダメなんです!」
リーディさんの言葉に私は息切れしながらも声を荒げてその言葉を否定する。
私の放った言葉に驚きの表情を浮かべるリーディさん。
「……鏑木君達がまだ帰ってきてないんです」
「それは……知っていますが……」
「だから私が……鏑木君達の代わりに獣神決闘への参加を願い出ました」
「!」
さっきの王様とのやり取りをリーディさんに話すと、その事に目を見開き、私の言葉に耳を傾ける。
「これから少しずつ強くなってもダメなんです……私には今、力が必要なんですよ……せめて鏑木君達が戻ってくるまでの力が……だからもう少しだけ、私の特訓に付き合ってもらえないでしょうか?」
私の願いを聞き終えたリーディさんは深刻な表情をして思案顔で何かを考えている。
きっと私が獣神決闘に参加する事について考えているのだろう。
獣神戦争への参加はさっき私が願い出て、了承を得たばかりだ。
だからリーディさんは私が言うまで知らなかったはずだ。
リーディさんも私が参加する事に不安を覚えているわよね……でもだからこそ少しでも強く――――
「でしたら尚更これ以上特訓を続けるわけには行きません」
「どうしてですかっ?!」
「決闘前日に無茶をして明日に響いたらどうするつもりですか?強くなる為に特訓するのは良い事ですが、その力を十全に使えなければ本末転倒ですよ」
ピシャリと私の提案は跳ね除けられ、リーディさんの言った事が正論である事も理解出来る為、私は何も言えなくなった。
「不安に思うのは当然です。私だって明日の決闘には不安を覚えてるんですから。でも、だからこそ、自分の全力を出せるように今日は休んでください」
「……」
「大丈夫ですよ、私もジェルドさんも強いんですから!」
そういって力こぶを作りながら明るく振舞うリーディさん。
リーディさんだって、獣人族がいかに強いか知っているのに私の事を気遣ってくれる。
そんなリーディさんにこれ以上お願いするのはさすがに気が引ける。
「わかりました。今日はゆっくり休ませてもらいます。無理を言ってすみませんでした」
「いえいえ、それじゃあ明日はお互いがんばりましょう」
私が一礼して、訓練場を出るまで、リーディさんは笑顔で手を振って見送ってくれた。
その後、私は夕食を食べ終え自室に戻ると、ベットに体を横たえる。
不安な気持ちをごまかすように、ぎゅっと目を閉じるとしばらくして眠気が襲ってくる。
眠れないかなと思ってたんだが、リーディさんとの激しい特訓のおかげか体が睡眠を欲してくれて私は意識を手放せた。
明日は私ががんばらなきゃ……
結局この日……鏑木君が帰ってくることはなかった――――。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価よろしくお願いします。




