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102話 獣神決闘 終結 後編

「私達、ラズブリッタ王国は獣人族の奴隷化など望んでいません! 私達がこの獣神決闘の勝者として望む願いとはあなた方獣人連合とラズブリッタの同盟締結です!」


 レーシャの高らかな宣言がこの場にいる全員の耳に届く。

 この話を予めここに来るまでに聞かされていたのだろう人族に動揺の色は見られなかったが、反対に獣人族達の大半が静かになった場で再びざわめきの声を上げる。


 予想もしてなかった勝利した時のラズブリッタからの望みに動揺するのも当然だろう。

 なんせ向こうは負ける事など微塵も思ってなかっただろうし、もしも負けた場合は奴隷になれと望まれると思っていたのだから。



「それが貴様らラズブリッタの望みというわけか?」



 辺りにどよめきが起こる中、自分も動揺しているだろうに獣人族の爺さんが、冷静さを装いながらもレーシャにそう尋ねると彼女は力強く頷く。



「はい。私達が願うのは従属ではなく共存です。もちろん人族があなた方獣人族にしてきた行為を思えばここで同盟を結んだからといってすぐに私達を信じるのは難しいでしょう……もし私達が逆の立場であったならきっとすぐに信じる事など出来ないでしょう。だから獣神決闘での勝利した願いとして同盟を結んで頂き、私達を信じるか否かの機会を頂きたいのです。今までしてきた事を思えば身勝手な事を言っているのは重々承知しておりますが――――どうか……よろしくお願いします」



 両手を前で組み、爺さん――――いや、この場にいる獣人族全員に向かい深々と頭を下げて、望みを告げるというよりも頼み事をしているという形のレーシャに獣人族達が息を呑む。


 とりあえず獣神決闘で勝利する事が出来、こうしてラズブリッタが獣人族に何を望むかという事も伝える事が出来た。もう出来る事は、彼等の反応を見守る事だけだろう。



「ラズブリッタ王国がワシ等獣人連合に望む事はわかった。獣人族にとって神事ともいえる獣神決闘での勝利者の願いを断る事は出来ないし、したくないとも思っている。しかしまた、今この場で同盟の件を快諾する事も出来ん……」

 


 爺さんがレーシャからのラズブリッタの望みを聞き、神妙な顔をしながらもこの場では同盟を結ぶ事は出来ないとはっきりと答える。

 その答えに、せっかく全力を尽くして勝利したにもかかわらず願いを聞けないとはどういう事だと声を大にして抗議したい気持ちを抱くが……その気持ちをぐっと堪える。


 今は話し合いの場で俺が抗議の声を上げたところで場が悪くなるだけだろう。

 ここは姫であるレーシャに任せるしかないよな。


 レーシャを信じて見守る事にする。

 たぶん彼女なら大丈夫だろうと思い、彼女に視線を送ると俺の視線に気付いたのか、レーシャがこちらを一瞥する。

 一瞬レーシャと目が合った時に感じた力強さ。

 その目に宿った力強さにきっと彼女ならなんとかするだろうと思わせてくれた。



「連合の方でも戻ってから話し合いをしなければいけないでしょうから、この場での同盟締結が無理だという事は残念ではありますが仕方ありませんね。こちらも一度戻り獣神決闘の結果と願いを伝えた事を陛下に伝えねばなりません。ですから、余裕を見て一週間後に同盟締結の話し合いがどう行われたのか。使者をこちらに送っていただいてよろしいですか?」

「一週間か……わかった。ではそのようにこちらでも話し合いを済ませよう」

「ありがとうございます」



 どうやら同盟締結は一旦保留という事になり、結果がわかるのは一週間後か。

 確かに同盟締結なんて個人で決めて良いモノではないので仕方ないだろう。


 ……よかった。さっき頭に血が上って抗議の声を上げなくて。


 自分の浅はかな考えで話し合いの場を乱さなくて良かったと思う。

 同時にやっぱり政治的な話し合いなど日本から来た高校生が首を突っ込んではいけないのだと再確認した。


 それにしても普段気さくに接してくれているので忘れがちだが、さすがレーシャは王族だなと思う。

 今のところ獣人族とは同盟を結んでいないので敵同士、しかも身体能力だけでいうならば圧倒的に向こうの方が強い。

 なのにレーシャは爺さんとはいえ獣人族に臆する事なくこちらの要求を伝え、本人に自覚があるのかないのかわからないが、獣神決闘での勝利の願いを反故にされないようにしっかりと一週間という期限をつけた。


 獣人族にとって獣神決闘がどのくらい大事なのかはわからないが、さっき爺さんが神事とまで言っていた事から察するにこの約束が反故にされる事はないとは思う。


――――後は一週間後を待つだけか。


 これで一週間後に獣人連合との同盟が決まり、ようやくこの世界にきて初めての種族間同士の対立が終わるのかと思うと安堵の息が漏れる。


 だが同盟が締結されたからといってすぐにお互いが友好的に接する事は出来ないだろう。

 特に獣人族にとって最初に争いの火種を作ったのは人族で、永年苦しめられてきた事を思えば仕方がないと思う。

 それに俺達がこの世界に来て最初にあった獣人族の襲撃の事も考えれば、人族にとっても獣人族に対して負の感情が芽生えているはずだ。

 きっとしばらくは小競り合いが続くだろう……


――――まぁその件については俺が関与する事ではないよな。後はラズブリッタの王様や貴族達、獣人連合の

お偉いさんで頑張ってくれ。


 これから起こるであろう問題を思いを馳せ、後は国の問題なので王様達に頑張ってもらおうと思う。


 レーシャの願いである種族間同士での和解について、彼女に出来る限り手伝うと約束した。


 まだ確定という訳ではないが、まずは獣人族と同盟を結べそうで良かった。


 しばらくはお互いに内政を安定させる為と同盟についての話し合いも進めていく為にしばらくは俺の出番はないだろう。


 最近結構忙しかったから、しばらくは……そうだなぁ。出来れば一年くらいのんびりしたいな! 


 そんな淡い期待を内心で抱いていると、ようやくレーシャと爺さんの話がまとまったのか彼女がこちらへと歩いてくる。


 それをこの場にいる全員で出迎えてから、休憩所にしているテントで休む。


 獣人族の方はさっそく撤収作業を始めており、それが終わり次第すぐに連合へと戻るのだとレーシャに聞かされた。


 ちなみに余談だが、さっきこちらへと抗議の声を上げ周りを先導していた成年はラライーナにしばらく踏みつけにされてたら最終的に顔が土気色になっており、ぴくぴくと痙攣するだけで全く動く気配がなかったので、話し合いが終わるとそのまま首根っこをつかまれ引きずられていった。


 あれは本当に大丈夫だったのだろうかと敵ながら心配になるレベルだったがまぁ自業自得だろう。


 結構慌しい行軍だなと思いつつ、俺達はどうするのかとレーシャに尋ねると「私達も少ししたら撤収の準備をして、王国へと帰還します」との事。


 俺も戦いで疲れているから少し休ませてもらってからの帰還は素直にありがたい。

 とりあえず帰ったらリアネ達との再会を喜んで、久しぶりにリアネの飯を堪能しよう。


 そして惰眠の限りを貪ろう! これは決定事項だ。異論は認めない!


 先に帰る獣人族を見送り俺達も帰る支度を始める。

 といっても決闘に出ていた俺達は準備が終わるのを待つだけで、撤収作業はここにやってきていた騎士や治療士が頑張ってくれていた。


 撤収作業も終わり、帰りに使う馬車に乗り込む際に色々な人から感謝の言葉をもらう。

 その言葉にむず痒さを感じつつも、悪い気分ではないと感じる。


 こうして獣人族との争いは終わり、俺達はラズブリッタ王国へと帰還したのだった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。


これにて獣人族編は終わります。

後は幕間を挟んでようやく二章へと入ります。


色々と感想などでご指摘頂き結城も色々と思うところがあるので、二章を執筆しつつ一章を改稿していこうと思ってますので、同時並行になり更新が少し遅くなるかもしれませんので今の内に謝罪させて頂きます。

出来れば二章からも応援していただけたら幸いです。


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