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幕間 獣人族

 獣神決闘も終わり、あーし達は連合へと帰還する為の馬車の中だ。

 人族は少し休んでからラズブリッタへと戻るみたいだったのだが、あーし達の方はこれからやる事が山積みなので、すぐに準備をして撤収作業を始めた次第だ。



「お疲れ様でした。御子様」


「確かに少し本気を出してつかれたかにゃ~。シィちゃんは?」


「疲れた。正直英雄候補以外であそこまで強い人間は想定外」


「だね~、でも思いがけない収穫でもあったでしょ~」


「うん。それは間違いない」


 

 気遣わしげにそう話し掛けてくるのは猿人族の族長であるエトルーだ。

 その言葉に疲れを滲ませた声で答え、シィちゃんの体調も聞いてみる。

 すると少し疲れた様子のシィちゃんが気だるげに答えが返ってくる。


 神獣化を使った影響だろう。

 あまり動きたくない様子で普段のしっかりした様子はどこへやら、みっともないくらいの体勢で椅子に上半身を預けている。


 ここでだらしないなぁなどとあーしはいうつもりはない。

 そんな事を言ってしまえばシィちゃんを不機嫌にしてしまい今夜の晩御飯はなしだ。

 ただでさえ疲れているのに晩御飯がなくなるなんてゾッとする!

 そういえばご飯かぁ……今日の晩御飯はなんだろうか?

 今日はがっつりお肉が食べたいなぁ……毎食でも食べたいんだけどね!


 想像したら口から涎が溢れてきた。

 それをじゅるりと啜り、手の甲でごしごしとこする。

 いけないいけない、淑女としての嗜みが……



「御子様方、本当にこれでよろしかったのですか?」



 私達の会話が中断したのを見計らい、エトルーがそう尋ねてくる。

 何を? とは聞かない。

 エトルーが何を聞きたいのかはよくわかっているので、あーしはその答えにはっきりと答える。



「よろしいよろしい~、英雄候補君もそこそこやるようだったからにゃ。まぁ……もう少し強かったらと思うけど、ギリギリ合格ラインだったにゃ」


「そうですか。御子様の御眼鏡に叶ったようで……後は同盟の件ですが連合についたらそのまま進めても?」


「お願い。その為に族長の中から他種族との平和を望んでいる穏健派のあなたを獣人族の代表として来てもらったんだから~」



 そう……今回の獣神決闘については御子の権力を最大限使い、かなりの無茶な根回しをした事は自分でも自覚している。


 獣人族にとって御子は絶対的な権力を持っている。

 神の代行者とも呼ばれている御子は獣人族の族長や獣人将よりも影響力があり、神格化されているのだ。

 その為連合のみんなからそれはもう大切にされてきた。


 大切にされるのは良いけどなかなか国から出してもらえないのが辛いとこだにゃ~。



「それにしても驚きましたぞ。まさかラズブリッタがワシ等と同じように和平の為に同盟を結ぼうとは」


「あーしも最初聞いた時はおどろいたにゃ~。でもそれがなかったらあーし達が獣神決闘に参加しようとは思わなかったし、したとしても今回のように手は抜かずに全力で捻りつぶしてたよ~」


「でしょうな。もしラズブリッタが奴隷にしようとしたならば獣人将も比較的温厚な者達ではなく、容赦のない者達に来てもらっていましたから」


「前もって聞いてたとはいえ、そうならなくて良かったよ~、ホント、エッテとミディのおかげだね~、ありがとう」



 前もって情報を教えてくれた二人がいたからこそ、こうやって上手く事が運んだので、あーしは二人にお礼を言う。

 すると二人は緩和な笑みを浮かべてこっちを見ていた。



「後は族長会議で同盟に反対する者達の説得ですか。獣神決闘でラズブリッタが勝利し、望みとして同盟を結びたいとの事ですので、多少揉めるでしょうが、どうにか出来そうですね」


「まぁみんな思うところはあると思うからね。なんなら私達が反対している子達を説得しようか?」


「いえ、これ以上御子様方の手を煩わせるわけにはいきません。ワシの方でなんとかいたしましょう」


「そう言ってくれると助かるよ~。みんな歳とって頭が固くなっちゃってるから私達が強制させたところで心情では納得しない者もいるだろうからね。それだったら同じ立場の人間同士で話し合った方が断然いいにゃ」


「確かに今まで人族には苦渋を舐めさせられてきましたので他の者の気持ちもわかります。正直な事をいえばワシとて何も思わないわけではありません……ですがそれ以上に同胞の血が流されるよりは出来れば平和の道を歩む方が断然良いと思いますからな」



 エトルーが言うように人族に思うところがあるのはあーし達も同じだ。

 同胞を奴隷にされ住んでいた場所を蹂躙された事はあーしにとっては記憶に新しい。


 でもエトルーが言ったようにこれ以上憎み合い、戦争が泥沼化すれば更に多くの同胞の命が失われる。

 憎しみの連鎖はどこかで断ち切らなければいけない。


 今回の同盟の話はそれには丁度良いと思う。

 相手がラズブリッタ王国というのも良かった。

 ラズブリッタも含め、あの国が最弱国家というのは共通の認識だ。


 弱小国家である認識と同じくしてあの国の王は人が良い。

 100パーセント信じる事は難しいが、数年前の種族間会議での毒殺に関してはあの国が関わっている可能性は低い。


 最弱であるが故に戦争を回避したいという思いが強いラズブリッタ。


 そう思っているのはあーしだけではなく他の獣人族も同じように思っている事だろう。


 同じく弱小であるからこそあの国は取るに足らないという考えを持っている者も多い。

 帝国の腰巾着国家と揶揄する者もいる。


 連合でもラズブリッタが帝国に同盟破棄されたとの情報は掴んでいた。

 その後ろ盾をなくしたあの国が民を守る事すら出来ない名実共にどの国から見てもラズブリッタは格好の標的となった。


 もちろん連合でもその認識が強まり、他国に先駆けて戦争をしかけた。

 過激派の考えでは一挙に領地と奴隷を手にするチャンスだと思った事だろう。


 そしてラズブリッタが考えたのが、どこで知ったのか獣人族の伝統的な決闘、獣神決闘だった。


 この申し出に連合の族長達は申し出を受ける事なく戦争を仕掛ければ良いという意見もあった。


 確かに仕掛ければ確実にこちらの勝利は間違いない。


 だが、それによりどれだけの犠牲が出るかわからない。

 それは今日の試合を見せた若き獣人達でも十分に感じてくれた事だろう。


 今回の目的の一つである血気盛んで暴走しがちな若者にラズブリッタにも強い者がいる事を理解してもらう。

 その目的は達成され、これならば無茶をして無駄に血を流す者も減るだろう。


 ――――二十年前のように同胞が無残に散る姿を見るなんて二度とごめんだからね~。

 

 今回の獣神決闘は負けたとは言え成果は上々だ。

 かなり手加減したとはいえ、最低限の力をラズブリッタが見せてくれたのだから。


 もちろんあれ以上弱ければ同盟など結ぶ価値もないので倒していたけどね。

 今回はまだ英雄候補君の成長途中という事で、そこも加味してのギリギリ合格で良いだろう。

 シィちゃんもそういう感じで納得してそうだ。


 連合のみんなはまさかラズブリッタに負けるなどとは微塵も思っていなかっただろう。

 だからこそ、今回の獣神決闘でのあの国の勝利はみんな驚いているはずだ。


 中には私が本気で戦っていなかったと気付く者もいるはずだがそれで良い。

 私やシィちゃんに対して面と向かって「手加減していましたか?」などと言える者などいない。

 この事実は闇に葬る事が出来る。



「とりあえずあの姫様が言ったように一週間いないに同盟締結の為の話し合いを終わらせないとにゃ」


「ですね。しかしラズブリッタの姫も無茶を言ってくれる。本来であればもう少し猶予があっても良いでしょうに。せめて一ヶ月は欲しかった」


「確かにね~、同盟に反対する族長や他のみんなへの根回しだとか色々とあるからそのくらいの期間は欲しかったけど、勝利した国の言葉だから無碍にも出来ないよにゃ」



 もちろん一週間と言った姫の言葉に強制力などない。

 ラズブリッタが望んだのは同盟締結であって、いつまでに同盟を締結しなければならないなどの期間は設けていないのだ。


 その辺があの国の王族は甘いとも思うし、個人的には嫌いではない。

 奴隷ではなく同盟。

 どこまでも非情になりきれないラズブリッタは同盟国にするには信用できる。


 正直エルフや魔族の国は同盟を結ぶのにはまだ信用出来る要素が少ない。

 帝国に関しては持っての外だ。


 あそこはたぶん同盟など受け入れないだろうし、そうなった場合戦う事になるだろうが、それまでに他の国と同盟を結べればと思う。


 でも今は他の国の事を考えるよりもラズブリッタとの同盟について色々と動かなければいけないね。



「一週間という短い期間だけど、頼んだよエトルー」


「はっ! お任せ下さい。御子様」


「何か不都合が生じればあーし達に言ってくれて良いから。それと……」


「?」


「同盟締結後からあーし達も頻繁に連合とラズブリッタを行き来すると思うからよろしくにゃ」


「なんですとっ!?」



 すっごく驚いてるな~エトルー。

 思いっきり目を見開いてる姿に思わず笑い転げそうになるよ。

 まぁ私達の立場と族長であるエトルーの立場を考えれば仕方ない事だけどね。

 しかしこれは決定事項、譲る事は出来ない。



「エトルーが驚くのも無理はない。けどこれは決定事項」



 おや? 私が言葉を紡ごうとしたらそれより前にシィちゃんが答えてくれた。

 シィちゃんはまだ体を横たえながら耳をピコピコ動かしながら私達を見ている。



「決定事項と言われましても……御子様方はワシ等にとって大切な存在。今回の獣神決闘ですら例外中の例外ですのに、それが頻繁にとなると……承服しかねます」

「今はそれで良い。私達の件は同盟締結後に説得する。でもこの件については絶対に承諾してもらわなければならないというのは覚えておいて」



 シィちゃんがピシャリと言い放つとエトルーが閉口する。

 それを見届け、シィちゃんがそのまま目を瞑り、しばらくすると静かな寝息が聞こえてくる。


 シィちゃんが言った件に関しては今言わなくてもいいのににゃと内心で苦笑し、あーしもシィちゃんに習って到着までの間仮眠を取る事にした。


 こうでもしないとあーしがエトルーの質問攻めにあいそうだからね。

 神獣化を使って疲れてるので、今詰問されるのは勘弁して欲しい。


 とりあえず一週間。

 たぶんエトルーに任せておけば同盟の話は上手くいくだろう。

 その間にあーし達も色々と準備をしなければ。


 自分達のするべき事を見据えながら次第に思考が霞んでいく。

 眠りの誘いだという事はわかっているのでそのままあーしは眠気に身を任せ、まどろみの中に落ちていった。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

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