第46話 アイディアを見つけに
(アイディアを探すためのお出掛けかぁ~)
先日、咲月からメッセージが届いた。
常陸院咲月:『小説の展開のアイディアを見つけるお出掛けがしたいのですが、一緒に行ってもらえないでしょうか?』
(まぁ、元はといえば俺が言ったことだし、常陸院さんと出掛けるのは別にいいんだけど……)
陽介は今、常陸院邸の応接室でソファーに座りながら咲月が来るのを待っていた。
(何度もお邪魔してるけど、午前中に来るのって何気に初めてなんだよなぁ)
そんなことを思っていると、応接室に咲月が入ってくる。
「お待たせしました、星崎さん」
「いや、全然待ってないから大丈夫だよ」
白い襟付きのワンピースに赤いサマーニットを羽織り、首周りのアクセントには細い黒いリボンをつけていた。
「今日の格好も清楚な感じで、よく似合ってると思うぞ」
「あ、ありがとうございます」
サラサラの銀髪を手でいじりながら、咲月が頬をほんのりとピンクに染める。
「っていうか、常陸院さんはいつもオシャレだよなぁ」
「そう、でしょうか?」
控えめにワンピースの裾を摘んで、ゆらゆらとスカート部分を揺らした。
黒いストッキングがチラチラと見えてしまい、陽介は目のやり場に困ってしまう。
「コホンッ……とりあえず、今日はショッピングモールに出掛けるんだよな?」
「はいっ♪ 小説の展開のアイディアを見つけるためのお出掛けですっ♪」
弾んだ声でニコニコと笑みを浮かべる咲月。
スカートの裾から手を放し、陽介の隣に座った。
「瀬戸が車を出してくれるので、少し遠出してみようかな、と思っています」
「そうだなぁ、モールは電車で行くにはちょっと遠いからな」
陽介たちが普段よく利用するショッピングセンターは駅から近いのだが、ショッピングモールは郊外にあるので、車を持っていないと行きづらい。
その分、敷地が広大で入っている店の数も段違いに多い。
「色んな店もあるから、回り甲斐がありそうだな」
「そうですねっ♪ ふふっ、楽しみですっ」
「ははっ、せっかくの機会だし目一杯見て回ろうぜ」
「はいっ♪」
屈託のない笑顔の咲月を見て、陽介も自然と口元が緩んだ。
二人は執事の瀬戸の運転で、郊外のショッピングモールにやって来た。
「せっかくだし、入り口で写真撮っておくか」
ボディバッグからデジイチを取り出す陽介。
すかさず瀬戸が二人を撮ってくれた。
「瀬戸さん、ありがとうございます」
「いえいえ。こうしてお二人の思い出を形として残すことも大切でしょう」
「はは、そうですね」
「これからも撮影の機会があれば、私が撮りますのでお気軽に仰ってください」
瀬戸に見送られて、陽介と咲月はショッピングモールに入る。
「わぁっ……やはり広くて賑やかですねっ」
「だな。それに、なんとなく派手でオシャレな気がする」
ショッピングセンターが地味なわけでは決してない。
ただショッピングモールの方が新しい施設なので、どうしてもモダンな印象を受けるのだ。
(ゲームでもショッピングセンターは最初から選べたけど、ショッピングモールを選ぶにはヒロインの好感度がある程度以上高い必要があったもんなぁ)
そんなことを考えながら、陽介が左右に並ぶ店を見ていると右腕が掴まれる。
「人が多いですから……」
「おう、はぐれないようにしないとな。それに、スパダリなら主人公をエスコートしてそうだし、それっぽい雰囲気にもなっていいんじゃないか?」
「確かにそうかもしれませんねっ」
嬉しそうに咲月が頷く。
「そういえば、常陸院さん的には主人公とスパダリが買い物行く場面のイメージってどんな感じなんだ?」
「そうですね……両方とも貴族ですから基本的には相手が屋敷に来ますよね」
「あ~確かにそういうシーン、読んだことあるな。ドレスとか宝石とか、商人とかが持ってくるんだよな」
「はい。なので、お忍びで……みたいなものをイメージしています」
「おぉ~庶民の様子を見ながらお店を回る、みたいな?」
「はいっ♪ ……といっても今、考えたのですが」
「いいじゃん、こういう話するのも楽しいじゃん」
咲月を連れてモールの店を見て回る。
そして女性向けの洋服屋の前を通った時、マネキンが着ている服が目に入った。
「お?」
「なにか気になるもの、ありましたか?」
立ち止まった陽介を咲月が見る。
「ああ、ほら……あのマネキンが着てる服。常陸院さんに似合うかもな、って思ってさ」
「あれですか?」
「おう。普段は着なさそうなジャンルだからこそ、って感じかな」
陽介が指さしたのは、いわゆるゴスロリ系の服。
黒を基調にして、差し色に白が使われているワンピースタイプのものだ。
「確かに私は持っていない系統のお洋服ですね。……あの、星崎さん。試着してみてもいいでしょうか?」
「お、全然いいぞ。他にも気になる服があったら、それも試着してみたらどうだ?」
「いえ。星崎さんが選んでくださった服だけでいいですっ」
「そ、そうか……」
フンスッと気合が入っている咲月を連れて店内に入る。
そして店員にお願いして試着させてもらう。
(あ~……女性向けの店で一人になるのって、こんなに気まずいのかぁ……)
フィッティングルームの前で、陽介は落ち着かない気持ちになっていた。
(それに今、常陸院さんが着替えてるって思うと……なんか緊張してきた)
目の前のカーテンにチラチラと視線を向けてしまいそうになる。
陽介が煩悩と戦っていると――
「あ、あの……着てみました」
「お、おうっ……」
カーテン越しに声が掛かった。
少し間が空いて、カーテンが開かれる。
「お、おおっ……!」
「どうでしょうか……?」
黒色をメインにしたゴシックワンピースが、咲月の艷やかな銀髪やきめ細かな白い肌を際立たせていた。
「すげぇ似合ってると思うぞ。いつもと雰囲気が違って……こう、小悪魔っぽい感じがするな」
(美少女はなんでも似合うと思ってたけど、ゴスロリ系もバッチリだなっ)
即答する陽介を見て、咲月が少し考える素振りをする。
「わかりました。このお洋服、買うことにしますねっ」
そしてすぐに購入を決めてしまった。
「え!? そんなすぐに決めちゃっていいのか?」
「はいっ、せっかくですしっ♪」
ニコッと笑みを浮かべて、咲月はフィッティングルームのカーテンを閉める。
(……もっと色々着てもらえばよかったなぁ)
陽介はカーテンを眺めながら、そんなことを思った。
「持ってくださって、ありがとうございますっ」
「いんや、これくらいどうってことないぞ」
先程買った服の入った紙袋を持つ陽介。
咲月は陽介の右腕を掴み、上機嫌な様子だ。
「次は私が星崎さんのお洋服を選んでもいいでしょうか?」
「ああ、いいぞ。さっきは俺が気になったのを常陸院さんに着てもらったんだしな」
「ありがとうございますっ♪」
少し歩いていると、
「あ、星崎さん」
咲月が立ち止まる。
そして一体のマネキンを見て、口を開いた。
「あの服などはどうでしょうか?」
咲月が見ていたのは、カーキの半袖シャツと黒のスキニーパンツ。
「色合いも落ち着いてるし、よさそうだな」
早速、店内に入り試着させてもらった。
「似合ってますよっ♪」
「そ、そうか。じゃあ俺もこれ、買うわ」
試着した陽介を見た咲月がアメジスト色の瞳をキラキラと輝かせていたので、陽介も即決で服を買うことにしたのだった。
「ふふっ、また星崎さんのお洋服を選びたいですっ」
「……そんなに楽しかったか?」
「はいっ。次はもっとじっくりと時間を掛けて、数着選びたいですっ♪」
咲月に満面の笑顔を向けられ、陽介は照れ隠しで頬を掻いた。
その後、いい時間になったので二人はモール内のフードコートに移動する。
陽介はラーメンを。咲月は天ぷら蕎麦を食べた。
「このあとはどうする?」
「そうですね……星崎さんさえよければ、もう少し見て回りませんか?」
「俺は全然大丈夫だぞ。それじゃあ、午前中とは逆方向のエリアを見てみるか」
空いた食器を片付け、再びモール内を歩く。
インテリアショップを覗いたり、アクセサリーショップを見たりしながら、二人はウインドウショッピングを楽しんだ。
「あ、ここは雑貨屋さんですね」
「ちょっと見てみるか~」
「はいっ♪」
そして目についた雑貨屋に入ってみることにする。
店内を見て回っていると、栞が売っていた。
「常陸院さん、ちょっとここ見てみないか?」
「わぁっ、栞です。柄もたくさんありますねっ」
「……せっかくだし、買っていかないか?」
「いいですねっ♪ それでしたらお互いに買って交換する、というのはいかがでしょうか?」
「わかった。じゃあ、常陸院さんに似合いそうなのを探すよ」
「私も星崎さんに頑張って選びますねっ」
陽介と咲月はそれぞれ、栞が置かれた棚を見ていく。
(和風の柄もオシャレだけど……なんとなく常陸院さんって洋風なイメージなんだよなぁ。それに常陸院邸はもろに洋風の豪邸だし。ん~……ベタだけどやっぱり花柄とかかなぁ…………お?)
そんなことを考えていると、金属で出来た『三日月と猫』の栞が陽介の目に入った。
(色合いもマットな金色だから落ち着いてるし……これいいかも)
陽介はその栞を手に取る。
咲月も丁度、一枚の栞を選んだようだった。
「……見せ合った方がいいかな?」
「ふふっ、家に帰ってからのお楽しみでもいいですよ?」
「……いや、やっぱり常陸院さんの反応が気になるから、見せ合いたいかな」
「くすっ♪ わかりましたっ」
弱腰になった陽介に、咲月は上品に笑顔を向ける。
「コホンッ。それじゃあ……せーのっ」
互いに手に持った栞を見せ合う。
「わぁ……猫さんと月ですっ♪」
「安易かと思ったけど、常陸院さんの名前に月が入ってるからな」
「素敵ですっ♪」
「そっか、ホッとしたよ……。常陸院さんが選んでくれた『銀色の羽根』、オシャレでいいな」
「気に入ってもらえたみたいでよかったですっ」
「おう、それじゃあレジ行くか」
二人はそれぞれ栞を買った。
「それじゃあ……はい、これ」
「ありがとうございますっ♪」
栞が入った紙袋を咲月に渡す。
「私からも……どうぞ、受け取ってください」
「うぃ。ありがとう」
陽介も咲月から紙袋を受け取った。
(ちょっと……いや、かなり照れくさいな……)
ついクセで頬を掻く陽介。
「ふふっ、嬉しいですっ……」
そんな陽介に朗らかな笑顔を向け、咲月は栞の入った小さな紙袋を胸に抱く。
(これも形のある思い出になってくれたらいいな……)
少しして、咲月がそっと陽介の右腕を掴む。
それを合図に二人はゆっくりと歩き始め、ショッピングモールから出るのだった。




