02.首の紋様
「非科学的です。魔王復活など、子供を寝かしつけるための御伽話に過ぎません」
書類をめくる音に、タイプライターの乾いた打鍵音が重なる。
「では、第二王子の首筋に目撃された紋様はどう説明をつけるのでしょう。古文書が記す魔王の証を、目撃した者がいるのですぞ」
「それこそ迷信。耳目を集めたいだけの虚言か、はたまた光と影のいたずらか。あるいは王子による質の悪い戯れかもしれん」
感情を排した瞳はかち合わない。彼らの視線は手もとの資料と、奥に座す権威と、銀の懐中時計を忙しなく行き来するばかり。
「そもそも道理が立たぬ。仮初めにも王家に連なる者が、魔王の生まれ変わりであるなど」
「母君は楔の一族でしょう。血筋を洗う必要が……」
「不可能です。ご存知の通り、楔の一族は国家成立以前より、不可侵と定められている」
「ならば、どうすべきと……」
「危険因子は排除すべきです。陛下、どうかご決断を」
「処刑などもってのほか。何世紀も前に立ち返る、非倫理的所業ですぞ」
同じ言葉が装いを変えて、机の上を踊る。書記官のタイプライターが、事務的に堂々巡りを記録していく。オイルランプに火がくべられ、金縁眼鏡のフレームが光を弾いた。
「ラルゴよ」
威厳ある低い声。官僚たちの視線が、一斉に一人の精悍な青年に集まる。
青年はやおら席を立つ。丁寧に撫でつけられた白金色の髪。品のよい鼻の稜線。引き締まった顎。深い青色の瞳は、冬の湖底のように凍てついている。
「未来を見たと、申したな。それがどのようなものであったか、語るがよい」
「……恐れながら」
フロックコートの襟もとを窮屈そうに正し、ラルゴと呼ばれた青年は口を開いた。
官僚たちの顔色が変わる。神経質な紙ずれの音が止む。振り子時計が定時を告げて、インクリボンの跳ねる音と共に会議室を満たした。




