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【コミカライズ開始記念SS】趣味というもの

ご無沙汰しております。

ゼロサムオンラインにてコミカライズの掲載が開始いたしました!一日遅れですが記念SSです。お楽しみいただけますように!


 チェルシーは案外趣味が多い。長年引きこもっていたためにほとんどがインドアな趣味だが、読書や刺繍はもちろん、植物を育てることも好きだし、最近聞いた話によると、実家では絵を描いたりピアノを弾いたりもしていたらしい。聞けば聞くほどに、のびのび育てられていたことがわかる。


 本人が得意とまで言うことはないけれど、お菓子作りも上手だし、こつこつ努力する性格から、絵やピアノの腕も人並み以上である気がする。実際の腕前がどうであれ、楽しんでいたのならここでもやるといいと思って、今度の休みに絵具や筆を見に行こうかと提案したときだった。


「そういえばオズワルド様には、なにかご趣味はないんですか?」

「俺?」

「いつもわたしの趣味に付き合っていただいてばかりな気がして……」


 だからたまにはオズワルド様の好きなことをしましょうと言われ、首を捻る。すぐには出てこなかったし、考えれば考えるほど、余計に出てこなくなる。


 仕事も魔法も、趣味とは呼べないだろう。しいていうなら読書だろうかと思ったが、買ったきり読まないままの本も多い自分が、はたして読書が趣味などと言ってもいいものか。考え込む俺と、俺をじっと見つめたまま返事を待つチェルシー。その後ろから、くすくすと笑う声がした。


「これと言ってないんでしょう」


 マリアがおかしそうに言った言葉に、チェルシーが目をぱちくりさせる。


「ないんですか?」

「……まあ……、思い付いてはないな」


 付き合いの長いマリアがいる前で誤魔化しても仕方がないので素直に答えた。


「しいていうなら読書だが、魔導書以外は買っただけで満足して読まないことも多い。療養に入る前は、そもそも趣味に使える時間も少なかったから」


 仕事を休むことはなかったし、猫を被っていたので人付き合いも多かった。せっかくの休日でも呼ばれればお茶会やパーティーに顔を出し、人が足りなければ休日出勤も進んで引き受けていた。「そうですか」と答えたチェルシーはがっかりしたふうでもなく、なぜかふにゃりと笑った。


「そういうところも、お姉様に似ています」

「え?」

「お姉様も、あんまり趣味がないって言うんです」


 そういえば、趣味の話なんて聞いたことがない。チェルシーいわく刺繍は得意ではないらしいし、お菓子作りはチェルシーにねだってばかりだったそうだし。


 素の彼女を知った今になって考えると、リリーは本来、不器用な方なのだろうと思う。威力は強いけれど案外大雑把な魔法を使うことも、大切な妹の守り方もそうだ。ちまちまなにかを作ったり、楽器を奏でたりはしなさそうだし、かといってスポーツのようなアクティブな趣味を持っているイメージもない。


 なんとなく納得していると、チェルシーが「あっ、でも」と言った。


「ひとつはあるらしいんです」

「らしい?」


 ふわっとした言い方に首を傾げれば、チェルシーも同じように首を傾けて不思議そうな顔をした。


「ひとつはある、って言うんですけど……なにかは教えてくれないんです」

「へえ?」

「実家にいたころは、わたしがお菓子を作ったり絵を描いたりしているのを見ているばっかりで……お姉様も忙しかったので、あんまり趣味に使える時間もなかったとは思うんですが」


 結局なんだったのかわからなくて、とチェルシーが首を捻ったままでいる一方、俺はそのたったひとつがなんなのかを理解して、大いに納得する。同時に、それを趣味だと呼ぶのなら自分にも当てはまるだろうと思った。


「ふ……、ああ、俺にもあるな。そういえば」

「え! 思い付いたんですか?」

「うん。最近できたものだが」

「なんですか?」


 チェルシーはぱっと顔を上げ、興味津々といった様子で目を輝かせた。


「秘密」

「ええっ?」

「だがたぶん、リリーと同じだよ」


 俺と彼女はよく似ているから。答えればチェルシーの眉が下がって、なにがなんだかわからない、と言いたげな顔になる。


 君だよと、俺から言うのは野暮な気がした。


コミカライズ、本当にとってもかわいく描いていただいております!

後ほど活動報告にも書こうかと思いますが、ひとまずゼロサムオンラインを見に行っていただけるとうれしいです。

毎月第一金曜日更新予定です。よろしくお願いします!

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